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All Chapters of 血と束縛と: Chapter 41 - Chapter 50

242 Chapters

第2話(9)

**** 段ボールに本を詰め込んでいた和彦は、インターホンが鳴って手を止める。一瞬ドキリとしたのは、賢吾が迎えにきたからではないかと思ったせいだが、次の瞬間には、それはないと否定する。  自分の都合で和彦を連れ回す男だが、身の安全を考えてか、朝のうちに絶対に連絡を入れてきて、三田村とともに部屋まで迎えにやってくる。知り合って間もないとはいえ、賢吾が一人になったところはまだ見たことがなく、必ず組の人間を一人は連れていた。あらかじめ決めたスケジュールの中で、賢吾は和彦を振り回しているのだ。  今朝、賢吾から電話はなかったので、つまり会う予定はないということになる。  組関係しか人づき合いがなくなってしまった自分に自嘲気味な笑みを洩らしつつ、和彦はインターホンに出る。画面に映った人物を見て、会話もそこそこに慌てて玄関に向かった。 「澤村っ」  ドアを開けた和彦は、段ボールを抱えた澤村の姿を改めて認めて、声を上げる。クリニックを辞めてから、もう澤村と顔を合わせることはないと思っていたのだ。  困惑する和彦に対して、澤村はこれまでと変わらない笑みを向けてくる。無駄に爽やかなその表情を見ていると、なんだか嬉しくなった。 「……どうかしたのか」 「クリニックに残っていたお前の荷物を持ってきた。お前は、適当に処分してくれと言っていたけど、専門書はなかなか手に入らないものもあるし、何より高いしな」  クリニックに写真が送られてきた日のうちに和彦は、辞める旨を電話で事務局に伝え、デスクの片付けなどもすべて任せてしまった。あれから一度もクリニックに顔を出さず――出せるはずもなく、必要な書類などのやり取りを終えたあとは、それで居心地のいい職場との縁は切れたと思っていた。  だが、今日こそが本当に最後らしい。澤村から段ボールを受け取ってから、和彦はほろ苦い感情を噛み締める。 「わざわざすまない。……住所がわかってるんだから、送ってくれたらよかったのに」 「アホ。俺がお前の顔を見たかったんだよ。ああいう別れ方のままだったから、気になってたんだ。本当はすぐにでも来たかったが、お前なりに落ち着く時間も必要かと思
last updateLast Updated : 2025-10-21
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第2話(10)

「心配するな。本当だ。――……澤村先生が、ぼくにそんなに友情を感じてくれていたなんて、意外だな」 「茶化すなよ。俺は、お前とくだらないことを言い合うのが、けっこう気に入ってたんだ。俺と張り合うレベルぐらいにはイイ男だと、認めてたんだぜ」  なんとも澤村らしい言葉に、久しぶりに和彦は屈託なく笑うことができた。そしてふっと現実に戻る。  何事もなかったように話してくれる澤村も、和彦が辱めを受けながら感じている写真を見ているのだ。あんな目に遭った和彦がどんな選択をしたのか知ったら、軽薄そうに見えて人のいい元同僚は、どんな顔をするだろうか――。  こんなことを想像して胸が痛むのは、和彦が抱えた未練を如実に表しているといえる。平気なふりをしているが、普通の生活に未練がないわけがないのだ。いや、未練だらけだ。本当は、どこかに逃げ出したい。  だがそれを実行する勇気も行動力も、あいにく和彦は持ち合わせていない。何より、毒のように刺激的で甘い日々がじわじわと、和彦の爪先から侵食してきている。素直には認めがたいが、誰かにすべてを強引に決められる生活は、楽だった。賢吾は和彦を拘束はしておらず、ある程度の自由も与えてくれている。  こんなふうに骨抜きにされ、飼い殺されていくのだろうかと考えながら、和彦は淹れたコーヒーをカップに注ぎ、テーブルに運ぶ。 「それで、新しい住所はどこなんだ? 仕事が休みの日だったら、引っ越しを手伝うぞ」 「あー、手伝いは大丈夫。人手だけは嫌というほどあるから」  自嘲気味な和彦の言葉に、不思議そうに澤村が首を傾げたが、すぐに気を取り直したように、辺りを見回した。 「なんか書くもの貸してくれ。お前の新しい住所をメモしておく」  和彦は軽く目を見開いてから、唇を歪めた。 「――……澤村」 「んっ?」 「お前もあんな写真を見たら、薄々何かは感じているだろう。……ぼくは厄介事に巻き込まれている。下手したら、お前にも迷惑をかけるかもしれない。だからもう、ぼくに関わるな」 「おい――」  澤村が腰を浮かせて何か言いかけたが、それを制して和彦は首を横に振る。 「あんなおぞましいものを見ても、こうして来て
last updateLast Updated : 2025-10-22
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第2話(11)

 和彦は口元に手をやり、眉をひそめる。千尋はもう、和彦と自分の父親の関係を察している。そのことが、千尋になんらかの行動を起こさせるきっかけになったのだとしたら、和彦は無視するわけにはいかなかった。 「どうかしたのか、佐伯」 「……いや、クリニックを辞める前に、もう一度あの店に顔を出せばよかったなと思って。そうしたら、長嶺くんに挨拶ぐらいできたかもしれない」 「そうだなー。こうも突然だと、寂しいよな」  澤村の口調には、わずかな苦さが込められていた。昼休みによく通っていたカフェから馴染みのウェイターがいなくなっただけでなく、クリニックからは和彦もいなくなったのだ。寂しいというのは、澤村の本音なのかもしれない。 「今のクリニックが居心地悪くなったら、お前の新しい勤務先を紹介してもらおうかな」 「そうだな……。ハンサムで腕のいい医者が足りないようだったら、お前の名前を出しておいてやるよ」  そう和彦が応じると、満足そうに笑って澤村は頷いた。**  澤村を見送った和彦は、部屋に戻るとすぐに携帯電話を取り上げ、ある番号にかけた。 『先生っ?』  すぐにコール音は途切れ、勢い込んだ千尋の声が鼓膜に突き刺さる。 『どうかした? あっ、これから一緒に昼メシ食おうよ。俺、美味い店見つけたんだ』  パタパタと尻尾を振る音が聞こえてきそうなほど、千尋は上機嫌だった。何も知らない頃なら、可愛い奴だとのん気に思いながら笑えたのだろうが――。  和彦はため息をついてから切り出した。 「お前、カフェでのバイトを辞めたそうだな」 『……なんで知ってるの――ああ、澤村先生か』 「澤村が教えてくれなかったら、ぼくはずっと知らないままだった。お前は教えてくれなかったしな」  黙り込んだ千尋だが、やっと気まずそうに話し始める。 『あそこのバイトは、本当はさっさと辞めるつもりだったんだ。だけど、先生と仲良くなりたかったし、仲良くなったあとも、仕事中にちょっとでも会えるメリットがあったから続けてたんだ』  こうもはっきりと、和彦が目当てでバイトを続けていたと言われると、さすがになんと言
last updateLast Updated : 2025-10-22
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第2話(12)

「ぼくのせいで、生活を変えるようなことはするな。お前は、いままで通りに生活していればいい。ぼくのほうも、まあとりあえず、医者として必要とされているみたいだから、すぐにはひどいことにはならないと思うし」 『先生、俺を雇ってよ。なんでもするから。俺が側にいたら、組の連中も先生相手に下手なことできないはずだよ』  千尋からの思いがけない申し出に、和彦は目を丸くする。次に、笑みをこぼしていた。賢吾が、人任せであれ、どんな子育てをしていたのかは知らないが、とにかく千尋の精神が荒んでも病んでもいないことは確かだった。肉食獣の子供だとしても、子供は子供だ。やはり純粋で可愛いのだ。 「そこは安心しろ。ぼくは、組の人間に丁寧に扱われているから」 『先生が、俺の大事な人だから?』 「そう言ってもらえて光栄だな」  電話の向こうで千尋が微かな笑い声を洩らし、続いてヒヤリとするようなことを言った。 『――それとも先生が、オヤジの特別な相手になったからかな』  無邪気で素直で、頭を撫でられるのを待つ犬っころのような言動を取りながら、千尋はふいに、意図したように鋭い牙を覗かせる。和彦が何も知らないときは、そんな一面を隠していたのだろうが、今は違う。効果的に、怖い一面を見せてくる。純粋さから出る怖さだ。  携帯電話を持つ和彦の手は汗ばみ、心なしか心臓の鼓動も速くなっていた。千尋には、賢吾との関係について話したくなかった。たとえ千尋が察しているとしても。 「千尋、今のぼくは考えることが多すぎて、お前との関係をどうしたらいいのか、よくわからない」 『考えなくていいよ。いままで通りなんだから。俺と先生の関係は変わらない』 「……ぼくは、そう簡単には割り切れない。お前には悪いが、男と寝る以外では、ぼくはいままで普通に生きてきたんだ」  電話を切った瞬間に、激しい自己嫌悪に陥った。平穏な日常を奪われてから、いままで誰にもぶつけられなかった鬱屈した感情を、千尋にぶつけたと自覚したからだ。十歳も年下の青年に対して、八つ当たりしたのだ。  千尋と関わったから今の状況があるのだが、だからといって千尋が悪いわけではないのに。  和彦は携帯電話を折り畳むと、テーブ
last updateLast Updated : 2025-10-22
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第2話(13)

「選んだのは俺じゃない。あらかじめカタログを見て、組長が選んだ」  サングラスを外した和彦は、皮肉っぽい笑みを浮かべて言い放つ。 「あの組長、ベッドの上でもことに及ぶ気があるのか? 一人暮らしの男の部屋には、普通はキングサイズのベッドなんて必要ない」 「――だとしたら、先生の部屋には必要だと思ったということだろう。組長が」  三田村に冷静に切り返され、自分で言い出したことだが和彦の頬は知らず知らずのうちに熱くなってくる。 「ベッドの他に、サイドテーブルと、寝室に合うライトも買うように言われている。ソファセットやカーテンとカーペットの類は、もう新居に送るよう手配は済んでいる」 「……ああ、そう」  引っ越しが間近に迫ると、急に準備が慌ただしくなってきた。和彦は一人でのんびりと部屋の片付けを進めていたのだが、昨日になって突然、女性数人が送り込まれてきて、和彦の見ている前で見事な勢いで荷物をまとめてしまった。おかげで和彦はホテルに移動することになり、挙げ句に、今朝早くに電話があって和彦の予定は勝手に決められ、三田村が迎えにきた。  引っ越し祝いに家具を買ってやる、という賢吾の言葉を言付かって。  そして連れてこられたのがこの家具店だが、買ってやるといいながら、当然のように和彦の意見は必要とされていなかった。 「千尋さんから、昨日か今日、連絡はあったか?」  唐突に三田村に問われ、和彦は眉をひそめる。それが返事となったらしく、一人納得したように三田村が頷く。 「なかったんだな」 「質問の意図するところがわからない。千尋、何かあったのか?」 「いや。ただ、昨日の夜、先生をメシに誘いたいから、明日は先生を連れ回す予定はあるのかと聞かれた」 「仲良くベッドを買いに行くと、正直に言ったんじゃないだろうな……」 「近いことは」  和彦が目を剥くと、三田村がほんの一瞬だが顔を綻ばせた。この男が笑ったところを見たのは、これが初めてだった。少々笑ったところで強面の印象は変わらないが、ただ、いつも和彦の生々しい姿を見ながら眉一つ動かさないこの男も、決して無感情な生き物ではないのだと強く印象付けられた。 「先生
last updateLast Updated : 2025-10-22
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第2話(14)

 一人残された和彦は、周囲を見回してからまたサングラスをかけると、他の家具を見て回ることにする。気に入ったものがあれば、〈自分の金〉で買うつもりだった。  寝室に置くチェストを、ベッドの色と合わせるべきだろうかと、忌々しく感じながらも思案していると、ふいに傍らから声をかけられた。 「――先生のサングラス姿、初めて見た」  ハッとした和彦は、素早く隣を見る。ブルゾンを羽織った千尋が立っていた。 「千尋っ……」 「そうやってると、先生本当にカッコイイよね」  サングラスをずらしてまじまじと千尋を見つめた和彦は、片手を伸ばして軽く千尋の髪を撫でてやる。 「若くてもっとハンサムなお前に言われると、なんだか嫌味に聞こえる」 「素直に受け止めてよ」  そう言って屈託なく笑った千尋だが、次の瞬間には、凄みを帯びた眼差しを向けてきた。強い輝きを持つ目が、いつになく残酷なものを湛えているように感じ、和彦は警戒する。 「……お前、どうしてここにいる? 三田村さんに聞いたのか」 「オヤジが、気に入ったオンナに家具を買ってやるときは、この店を使うんだよ。それで、先生の家具を買いに行くと聞いて、もしかして、と思った」  和彦が睨みつけると、悪びれた様子もなく千尋は肩をすくめて笑う。 「睨まないでよ。だって先生、オヤジのオンナじゃないって、断言できる?」 「ぼくは、男だ……」 「知ってるよ。何度先生と寝たと思ってるんだよ」  こんな場所で明け透けなことを言うなと、ブルゾンの裾を掴んで引っ張る。すると、憎たらしいほどふてぶてしい表情を浮かべていた千尋が、今度は子供のように頼りない顔となる。不安定な千尋の様子に和彦は、怒りを覚えるよりも、心配になってきた。 「……千尋、お前どうかしたのか?」 「どうかしてるよ。先生が、電話であんなこと言うから……」  千尋との関係をどうしたらいいのかわからないと、数日前に電話で言った和彦だが、実は言われた千尋のほうが、和彦以上に思い悩んでいたのだ。 「千尋――」  和彦が話しかけようとした瞬間、千尋にいきなり腕を掴まれ引っ張られた。 「行こう
last updateLast Updated : 2025-10-22
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第2話(15)

** タクシーに乗っている間、二人はまったく会話を交わさなかった。携帯電話に三田村から連絡が入って和彦が出ようとしたときも、無言のまま素早く取り上げられて、電源を切られたぐらいだ。  張り詰めた車中の空気は覚えがあった。長嶺組の人間に拉致されて、わけもわからないまま車に乗せられたときと同じだ。一緒にいるのが千尋とはいえ、和彦はひどく緊張していた。  千尋に限って、手荒なことをするとは思えないが――。  タクシーは、千尋が住むワンルームマンションの前で停まり、支払いを済ませた千尋に促されるまま和彦はタクシーを降りる。 「そんな怖い顔しないでよ」  エレベーターを待っていると、ようやく千尋がぽつりと言う。足元に視線を落としていた和彦がハッとして顔を上げると、千尋は困ったように笑っていた。 「俺、ヤクザじゃないんだから、先生を脅したり、痛めつけたりしないよ。ただ、オヤジや組の人間がいない場所で、先生と二人きりになりたいんだ。ちょっと前までみたいに」  千尋がエントランスを見回してから、照れた仕種で片手を差し出してくる。その手を見つめてから、和彦は小さくため息をついた。 「……行動が突飛すぎるんだ、お前は」 「あのオヤジの息子だからね」  千尋が冗談で言ったのか、本気で言ったのかはわからないが、笑えないことだけは確かだ。  着いたエレベーターに人が乗っていないのを確認してから、和彦は気恥ずかしさを押し殺しつつ、千尋の手を握る。二人は手を繋いでエレベーターに乗り込んだ。  案の定というべきか、千尋の部屋の玄関に足を踏み入れると、鉄製のドアがゆっくりと閉まるのも待てない様子で余裕なく千尋に抱き寄せられた。 「千尋っ……」 「ダメ。俺もう、我慢できないっ」  有無をいわさず唇を塞がれ、痛いほど強く唇を吸われる。むしゃぶりついてくるような必死のキスに、和彦の脳裏にあることが蘇る。初めて千尋と交わしたキスだ。  数回一緒に食事して、デートらしきものも経験して、千尋の元気の有り余りっぷりに呆れつつも、いままでつき合ってきた相手にはなかった圧倒されるほどの生気を感じた。千尋と初めて交わしたキス
last updateLast Updated : 2025-10-23
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第2話(16)

「ちひ、ろっ……、ここじゃ――」 「待てないよ、先生」  和彦のスラックスと下着を引き下ろした千尋が、続いて自分のジーンズの前を寛げる。顔を上げた千尋とまた貪るようなキスを交わしながら、和彦は片手を取られて千尋の熱く滾ったものを握らされる。当然のように千尋も、和彦のものを握り締めてきた。 「はうっ……」  熱い吐息をこぼしながら、千尋と欲望を高め合う。腰を寄せてきた千尋と高ぶり同士を擦りつけ、もどかしさに思わず和彦が腰を揺らすと、小さく笑い声を洩らした千尋に突然、体の向きを変えさせられた。  ドアにすがりついた和彦は、スラックスと下着を足首まで下ろされ、腰を突き出す姿勢を取らされる。すぐに千尋の手が前方に回され、高ぶったものを再び握られた。性急に扱かれながら、千尋のもう片方の手に尻を撫でられ、秘裂をまさぐられる。 「あっ」  唾液で湿らせた指を、強引に内奥に挿入されていた。 「――今日はまだ、オヤジとヤってないんだね」  耳を唇を押し当てて、千尋に囁かれる。ビクリと体を震わせた和彦は、千尋の愛撫が実は、父親の痕跡を探すためのものだとわかり、なんとか行為をやめさせようと身を捩る。だが、千尋は強引だった。  ぐいっと内奥で指が曲げられ、浅い部分を強く刺激される。 「ひっ……」  足から力が抜け、和彦はその場に座り込みそうになったが、今度は高ぶったものをぎゅっと力を込めて握られ、体を強張らせる。 「ダメだよ、先生。しっかり立ってて」  そう囁いてきた千尋に首筋を舐め上げられてから、もう一度内奥で指が曲げられた。 「すげ……、ぎゅうぎゅう締め付けてくる」  荒い呼吸を繰り返しながら和彦は、まるで子供のようなひたむきさで繰り返される千尋の淫らな攻めに耐える。なんとか踏ん張ってはいるものの、両足はガクガクと震えていた。  指が奥深くまで潜り込み、感じやすい粘膜を手荒に擦り上げられる。和彦はドアに体を預けながら息を喘がせる。ここのところ与えられていた賢吾の愛撫とはまったく違う、余裕のない愛撫が、ひどく新鮮に感じられた。 「先生、気持ちいいんだよね? ここもう、涎垂らしてる」  和彦のうな
last updateLast Updated : 2025-10-23
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第2話(17)

 バカで純粋で厄介なガキだと思いつつも、和彦はそんな千尋が嫌いではなかった。尻尾を振って頭を撫でてくれるのを待つような犬っころぶりが、愛しくすらある。 「――……先生、入れるよ」  内奥から指が引き抜かれ、我慢できないように千尋の高ぶりが擦りつけられてくる。ビクリと背をしならせた和彦は、慌てて制止する。 「バカっ……、こんなところでやめろっ」 「オヤジとなら、車の中でもいいのに?」  和彦が言葉に詰まると、すかさず千尋のものが内奥に侵入してくる。 「うあっ……」 「先生、正直だね。俺、鎌をかけただけなのに」  悔しくて唇を噛んだ和彦だが、すぐに堪え切れない声を上げることになる。千尋に腰を掴まれ、生気を漲らせた猛々しい欲望を内奥に突き込まれたからだ。 「ああっ、あっ、あっ、んああっ」  鉄製のドアとはいえ、こんなに声を上げてしまっては通路にまで響いてしまうとわかってはいるが、あえて和彦に声を上げさせるように、千尋は腰を突き上げてくる。  痛みと異物感が嵐のように和彦の中を駆け巡り、吐き気すら催しかけたが、欲望を和彦の内奥深くにしっかり埋め込んで吐息を洩らした千尋は、すかさず今度は快感を与えてくる。  和彦のものを片手で握って素早く扱きながら、胸の突起を弄り始めた千尋が、舌先で耳朶を舐めてきた。 「千尋……」 「先生はペットと遊ぶ感覚だったかもしれないけどさ、俺、けっこう本気で、先生にハマってたんだよ。医者なんてしてる先生みたいにカッコイイ人がさ、年下の俺の下で喘いで、甘やかしてくれて、話をきちんと聞いてくれて。この人には、絶対に俺の家のことは知られたくないと思ったんだ。ずっと先生に相手してほしかったから。組のことを知ったうえで、俺とつき合ってくれるなんて都合いいこと、あるわけないしね」  内奥に収まった千尋のものがゆっくりと動かされ、粘膜を擦られる。途端に腰から背筋にかけて、ゾクゾクするような疼きが駆け上がってきた。 「あっ……、うぅっ」 「なのに、この状況だろ? 俺の大事な人が、オヤジに取られたんだ。あのオヤジのことだから、どうせ汚い手を使ったんだろうけど、俺と先生を引き離したいだけなら、オヤ
last updateLast Updated : 2025-10-23
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第2話(18)

 強引なところは父親そっくりだと思った。こちらの意見も求めず、自分のやりたいように振る舞い、それを強要してくる。ただ、千尋のやり方はあまりに子供だ。だから和彦も、本気で抵抗できないのだ。  本気で抵抗したら、きっと千尋を傷つけてしまう――。  千尋の動きが速くなり、ただ内奥から熱いものを出し入れされるだけの単調な律動なのに、次第に和彦は快感から、思考がまとまらなくなってくる。 「ああっ、千、尋……、千尋っ」  和彦がドアに片頬を押し当て、突き上げられる衝撃に耐えていると、通路を走ってくる足音に気づいた。千尋の耳にも届いたらしく、ふと動きが止まる。次の瞬間、千尋は素早くドアチェーンをかけてしまった。 「千尋……?」 「――クリニックを持たせるから、オヤジが先生を気に入ってるってわかったんじゃないんだ。もっと簡単だ。オヤジの、先生に対する執着を知るのは」  そう言って、千尋が突然、ドアチェーンをした状態でドアを開けた。ドアに体を預けていた和彦はわずかにバランスを崩しかけたが、腰にしっかりと千尋の片腕が巻きついていることもあり、足元が乱れることもなかった。 「お前、何してるっ? 人に見られたら――」  ドアチェーンの長さの分だけドアが開いてしまい、外の様子が和彦には見える。同時にそれは、通路を走ってきた人間からも、和彦の姿がわずかとはいえ見えるということだ。  このまま通り過ぎてくれと願ったが、それは最悪な形で裏切られた。 「見つけたっ」  怒ったような声でそう一言を発した三田村が、ガッと乱暴にドアの端に手をかけ、さらに革靴の先まで突っ込んで、ドアを閉められないようにしてしまう。それからやっと、和彦の状況に気づいたようだった。いつも和彦と賢吾の行為を見守るときのように、顔からスッと感情が消えうせた。  和彦は激しく動揺しながらも、三田村が立ち去ることを願ったが、三田村の配慮は別の部分に働いた。わずかに開いたドアに体を寄せ、通路から和彦の姿が見えないよう隠してしまう。もし通路を通りかかる人間がいても、ドアチェーンをかけたドア越しに話しているようにしか見えないだろう。  三田村の視線を感じ、和彦は羞恥で身を焼かれそうになる。している
last updateLast Updated : 2025-10-23
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