Home / BL / 血と束縛と / Chapter 21 - Chapter 30

All Chapters of 血と束縛と: Chapter 21 - Chapter 30

242 Chapters

第1話(21)

「手術するにしても、道具はどうする気だ」 「ふん。それで逃げ道を作ったつもりかもしれないが、心配するな。立派な設備は無理だが、人間の体を切って縫うぐらいの道具は用意してある。あと、点滴セットも。必要な輸液があれば持ってこさせる。血液は、ここに活きのいいのが何人も揃っているしな」  完全に逃げ場を断たれた。和彦は大きく息を吐き出して目を閉じると、動揺のため速くなっている自分の鼓動の音を聞く。頭に血が上り、頭痛すらしている。  近くにいる男たちの視線を痛いほど感じながら和彦は、懸命に思考を働かせる。少しでも、自分の立場を安全なものにするために。 「――条件がある」  和彦は覚悟を決めて目を開けると、前を見据えたまま切り出す。賢吾は低く笑い声を洩らした。 「本当に、見た目は優男のくせして、度胸があるな。この状況でヤクザに取引を持ちかけるなんて、開き直りにしても大したものだ」  いいだろう、と言った賢吾にまた腕を掴まれて、別の部屋へと押し込まれた。脱衣所も兼ねた洗面室で、洗濯機の横に置かれたカゴには洗濯物が山積みとなっており、浴室に通じる扉の前にはマットが敷いてある。  ヤクザが何人も待機しているという、和彦にとっては非日常的な場所の中で、ここは妙に生活感が溢れている。人が住んでいるのであれば当然の風景だが、なんだか妙な感覚だ。 「それで、条件は」  賢吾に声をかけられ、和彦は我に返る。いつの間にか、白い壁を背にする形で追い詰められ、威圧するかのように賢吾が傍らに片手を突く形で和彦の顔を覗き込んでいた。  むせ返るような雄の匂いを賢吾から嗅ぎ取り、半ば本能的に顔を背ける。 「……ビデオで録ったものを消してほしい……」 「それだけか?」 「それと、ぼくを脅すな。千尋にはもう関わらないんだから、必要ないはずだ」  スッとあごを賢吾に撫でられ、和彦は体を硬直させる。耳元に熱い息遣いがかかり、卑猥な言葉を囁かれた。 「〈あれ〉を消すのは、惜しい気もするな。おもちゃをケツに突っ込まれて、お前みたいな色男がよがり狂う様は、なかなかの見ものだった。お前にとっても、新たな刺激に目覚めるいい経験だっただろ」  和彦は屈
last updateLast Updated : 2025-10-17
Read more

第1話(22)

 たっぷりと賢吾に唇を吸われ、口腔に差し込まれた舌にぎこちなく自分の舌を絡める。妙な気分だった。  ほんの何日か前まで十歳年下の青年と関係を持っていて、その青年の父親の逆鱗に触れた。ここまでは理解できる。そこから先の展開が、あまりに和彦の想像を超越していた。ヤクザに拉致された挙げ句に辱められ、それをネタに青年との関係を絶つよう言われて従うつもりだったはずが――なぜか今、青年の父親と唇と舌を貪り合っている。  体の奥でじわりと情欲の種火が点る。和彦を威嚇する気満々の、粗野で乱暴な口づけだが、舌に歯を立てられる痛みすら、厄介な疼きを伴う。  賢吾の舌をきつく吸うと、後頭部に大きな手がかかり、後ろ髪を撫でられてからうなじをゆっくりと揉まれる。この瞬間、和彦は腰が砕けそうになった。咄嗟に賢吾の肩を強く押すと、和彦の異変に気づいたのか賢吾がゆっくりと唇を離す。 「約束は守ってやる。録画したものは消すし、お前を脅すようなこともしない。ただし、うちの人間を助けたら、の話だ」 「……医者として、できることはやる」 「いいだろう。交渉は成立だ」  和彦がほっとした瞬間を見計らったように、賢吾にもう一度唇を吸われてから、なんの余韻もなく体が離れた。 「――さっそく、患者の命を救ってもらおうか、先生」  そう言って、賢吾がニッと笑いかけてくる。年齢よりずっと若々しい笑みは、当然のことなのかもしれないが、千尋にそっくりだった。**  組員たちに必要なものを揃えるよう指示を出しながら、ワイシャツの袖を捲り上げた和彦は丁寧に石けんで手を洗う。さすがに病院のようになんでも揃っているわけではないため、足りないものについては、代用となりそうなものを急いで買いに行かせて、揃える側からアルコールで消毒していく。  急場ながらなんとか手術の準備を調えると、柔らかなベッドの上では下手に患者の体に触るのもためらわれ、どこかの部屋から外してきた引き戸を担架代わりにして、ダイニングのテーブルの上に運んでもらうと、傷口を検分してから、局所麻酔をする。麻酔薬などどうやって入手したのか、面倒なのであえて考えないことにしていた。  部屋は汚してもかまわないと言われて
last updateLast Updated : 2025-10-18
Read more

第1話(23)

** 縫合した傷口を消毒してから、滅菌ガーゼを当ててしっかりテープで押さえる。これで、一通りの手当ては終えた。無事に弾を取り除き、傷ついた腸を縫ったのだ。  患者の脈拍は少し落ちてはいるが、許容範囲だ。話しかけても意識の混濁も見られず、ひとまず手術は無事に終わったといってもいい。怖いのは、こんな場所で手術したことによる感染症だ。  そのときはそのときだと自分に言い聞かせ、和彦は大きく息を吐き出す。どれだけ緊張していたのか自覚はなかったが、ワイシャツは汗でぐっしょりと濡れている。それだけでなくテーブルや床も、消毒でさんざん使った生理食塩水で水浸しだ。  すっかり嫌な記憶が染み付いてしまった血塗れのラテックス手袋を外すと、傍らのバケツに放り込む。 「患者の傷が開くから、慎重にベッドに運んでくれ。裸のままでもいいが、傷の周囲は清潔な布で覆っておくこと。それともちろん、シーツもきれいなものに。準備できたら、点滴をする」  そう指示を与えると、ふらつく足取りで和彦はキッチンに行き、手を洗う。ワイシャツもところどころ血で汚れているため、帰ったら処分しないといけない。  和彦が手を洗い終えて振り返ると、怪我人が運ばれたあとのダイニングは組員たちによって原状回復が行われている最中だった。  準備ができたと呼ばれ、最後の一仕事のため和彦はベッドに運ばれた患者の元に行き、点滴をする。そして、患者についている組員に、どの輸液パックを、どのタイミングで取り替えるか説明し、麻酔が切れたあとに痛みを訴えるのは目に見えているため、鎮痛剤の服用についても注意を与えておく。 「――終わったか」  突然、背後から声をかけられて和彦はビクリと体を震わせる。存在を忘れていたわけではないが、患者に意識を集中していたため、不意を衝かれた。  振り返った和彦は、いつの間にか背後に立っていた賢吾を見上げる。 「ああ……。ぼくの用は済んだから、これで帰らせてもらう。……明日の夜、ぼくが様子を見にくるまで点滴を――」 「帰る必要はない。今夜はここにいろ」  無慈悲に告げられ、大きく目を見開く。和彦の反応を見て、賢吾は唇を歪めるようにして笑った。
last updateLast Updated : 2025-10-18
Read more

第1話(24)

「……なんの、つもりだ……」「血を見て、体がざわつかないか?」「ぼくは医者だ。毎日見ている」「そうか。だが、俺は違う。案外ヤクザは、そうそう血は見ないものなんだ」 ワイシャツの襟首に賢吾の手がかかり、あっという間に引き裂かれる、ボタンが千切れ飛び、フローリングの床の上に落ちた音がする。和彦は愕然としながら、まばたきも忘れて賢吾を見上げる。「あんた……、息子が男とつき合っていることを、嫌がってたんじゃないのか……」「つき合う相手によるな。手塩にかけて育てた大事な息子が、性質の悪い男に弄ばれて、バカに拍車がかかったら困る。うちの組絡みで、千尋を利用しようとしているのかもしれないしな。だが実際は、千尋がつき合っていたのは悪い男なんかじゃなく、遊び好きの美容外科医だった。しかも、俺たちに協力的な」 それが、今のこの状況にどう繋がるのかと言いたかったが、どんなとんでもないことを言われるのかと思い、和彦はこう言っていた。「……バカだ、バカだと言っているが、千尋は頭が切れる。勘がいいというのかもしれないが」「俺の息子だからな。――俺に似て、男を見る目がある」 引き裂かれたワイシャツの前を大きく開かれて、賢吾が覆い被さってくる。首筋に唇が押し当てられ、怖気立った和彦が顔を背けた先には、二人の様子を無表情で見守っている三田村の姿があった。 一瞬、助けを求めたくなったが、この部屋に来るまでの三田村の説明を思い出して諦めた。三田村が、賢吾の意に沿わないことをするはずがないのだ。「息子とつき合って、その父親とも関係を持つなんて、滅多にできない経験だろ」「……稀有な経験なんて求めてない。特に、ヤクザと関わりがあることは」 すかさず髪を鷲掴まれ、和彦が痛みに呻いたときには、賢吾に唇を塞がれていた。口腔深くを舌で犯されながらベルトに手がかかり、乱暴に緩められる。スラックスと下着をまとめて引き下ろされる頃には、和彦は抵抗をやめていた。 辱めてきたとき
last updateLast Updated : 2025-10-18
Read more

第1話(25)

 思わず賢吾を睨みつけると、唇を塞がれて両足の間をまさぐられる。ラテックス手袋越しではない、ごつごつとした大きな手に直に敏感なものを握られ、和彦は賢吾の下で身を捩っていた。両足を開かされ、腰が割り込まされる。その状態で手早く和彦のものは扱かれていた。 「うっ、ああっ……」 「うちの息子を骨抜きにした体がどんなものか、たっぷり味わわせてもらうぞ。お前も、初めての相手に愛想よくしろ。――可愛がってやるから」  もう片方の手が胸に這わされると、突起を指で挟まれて強く抓り上げられる。痛みとも疼きともつかない感覚が胸に生まれ、その感覚が消える前に賢吾の口腔に含まれて、歯を立てられていた。  男二人が横になっているため、いくら大きいとはいえ窮屈に感じるソファの上で自由に動くこともできず、和彦は片手を伸ばして背もたれに掴まる。そうしないと床に転げ落ちそうだった。  賢吾に唇を吸われながら、否応なく反応することを要求された和彦のものは集中的に先端を責められる。ビクビクと腰を震わせると、腿から尻にかけて撫で回された。 「俺は前戯にあまり時間をかけない性質だ」  唐突な賢吾の言葉に、息を喘がせながらも和彦は軽く鼻を鳴らす。 「……最初からそんなものを期待していると思ったのか」 「不満なら、今度じっくり堪能させてやる」  意味深な言葉に目を見開いたが、薄く笑った賢吾が指を舐めている姿を見て体が熱くなり、真意を問うどころではなくなった。 「あっ、ううっ」  濡れた指に内奥の入り口をまさぐられ、容赦なく挿入される。痛みと異物感に呻かされながら和彦は、性急に内奥を湿らされて、広げられる。重量のある賢吾の体の重みによって、ソファに埋まりそうになり、たまらず賢吾の肩に片手をかけた。  ねっとりと内奥を指で撫で回され、腰から背筋にかけて痺れるような感覚が這い上がってくる。長い指が出し入れされると、思わず腰が揺れていた。異常な状況に、確実に自分の理性はおかしくなっているとわかってはいるが、どうにもならない。  いっそのこと考えることをやめてしまえば楽になれると、和彦は前回辱められたときに学習してしまっていた。考えることをやめ、与えられる感覚だけに従順になって
last updateLast Updated : 2025-10-18
Read more

第1話(26)

 同性と体を重ねる以外で、特殊な性癖は持ち合わせていないつもりの和彦だが、このときから自信がなくなる。見られることが、もう一つの愛撫になっているようだった。「こっちを見ろ」 賢吾に言われ、反射的に従ってしまう。すかさず唇を塞がれた和彦は、賢吾と舌を絡め合いながら、内奥から指を出し入れされる。 体を起こした賢吾がベルトを外し始め、さすがにじっくりと観察する気にもなれず、和彦は片手で両目を覆う。「……一応、恥らっているのか?」 からかうような言葉を賢吾からかけられ、力なく応じる。「うるさい……」 低い笑い声に続いて、ベルトの金属音とファスナーを下ろす音が聞こえた。 両足を抱えられて胸に押し付けられるようになって、やむなく和彦は両目を覆った手を外す。目の前の光景の何もかもが生々しくて、圧倒される。 両足を開いた自分の姿も、高められるだけ高められて放置された自分のものも、腰を密着させ、今まさに自分の中に押し入ってこようとしている男の姿も、その男の凶器も。「うっ」 片足だけを抱え直されてから賢吾のものが擦りつけられ、ぐっと内奥に押し込まれてくる。 征服されていると、頭ではなく、体で実感した。熱く硬いものにゆっくりと内奥を埋め尽くされ、犯されていきながら、和彦は賢吾の圧倒的な存在感を味わわされていた。「あっ、あっ、あぁっ――」 一番太い部分を呑み込まされ、苦しさに喘ぐ。そんな和彦を、賢吾は唇に笑みを湛えて見下ろしていた。「喘いでるな、先生」 そう言って賢吾の指先に唇を擦られてから、懸命に太いものを呑み込んでひくついている内奥の入り口をなぞられた。和彦は小さく悲鳴を上げて腰を揺する。「上の口も、下の口も」 腰を突き上げられて侵入が深くなる。被虐的な悦びが、内奥を犯される苦しみをあっという間に上回っていた。 賢吾がさらに腰を進めたとき、和彦の体に異変が起こる。ソファの上で背を反らし、強く背もたれを掴んだまま、絶頂に達していた。賢吾が見ている前で噴き上げた白濁とした精が、下腹部から胸にかけて飛び散る
last updateLast Updated : 2025-10-18
Read more

第1話(27)

 思わず賢吾を睨みつけると、唇を塞がれて両足の間をまさぐられる。ラテックス手袋越しではない、ごつごつとした大きな手に直に敏感なものを握られ、和彦は賢吾の下で身を捩っていた。両足を開かされ、腰が割り込まされる。その状態で手早く和彦のものは扱かれていた。 「うっ、ああっ……」 「うちの息子を骨抜きにした体がどんなものか、たっぷり味わわせてもらうぞ。お前も、初めての相手に愛想よくしろ。――可愛がってやるから」  もう片方の手が胸に這わされると、突起を指で挟まれて強く抓り上げられる。痛みとも疼きともつかない感覚が胸に生まれ、その感覚が消える前に賢吾の口腔に含まれて、歯を立てられていた。  男二人が横になっているため、いくら大きいとはいえ窮屈に感じるソファの上で自由に動くこともできず、和彦は片手を伸ばして背もたれに掴まる。そうしないと床に転げ落ちそうだった。  賢吾に唇を吸われながら、否応なく反応することを要求された和彦のものは集中的に先端を責められる。ビクビクと腰を震わせると、腿から尻にかけて撫で回された。 「俺は前戯にあまり時間をかけない性質だ」  唐突な賢吾の言葉に、息を喘がせながらも和彦は軽く鼻を鳴らす。 「……最初からそんなものを期待していると思ったのか」 「不満なら、今度じっくり堪能させてやる」  意味深な言葉に目を見開いたが、薄く笑った賢吾が指を舐めている姿を見て体が熱くなり、真意を問うどころではなくなった。 「あっ、ううっ」  濡れた指に内奥の入り口をまさぐられ、容赦なく挿入される。痛みと異物感に呻かされながら和彦は、性急に内奥を湿らされて、広げられる。重量のある賢吾の体の重みによって、ソファに埋まりそうになり、たまらず賢吾の肩に片手をかけた。  ねっとりと内奥を指で撫で回され、腰から背筋にかけて痺れるような感覚が這い上がってくる。長い指が出し入れされると、思わず腰が揺れていた。異常な状況に、確実に自分の理性はおかしくなっているとわかってはいるが、どうにもならない。  いっそのこと考えることをやめてしまえば楽になれると、和彦は前回辱められたときに学習してしまっていた。考えることをやめ、与えられる感覚だけに従順になって
last updateLast Updated : 2025-10-19
Read more

第1話(28)

「おもちゃで遊ばれている姿を見ながら感じていたが、お前がつき合ってきた男は、きちんとここを開発してくれていたようだな」  喉を反らして感じる和彦に対して、賢吾は容赦なく内奥の浅い部分を攻め立てながら、汗ばんだ胸元を舐め上げてくる。生理的な反応から涙を滲ませながら、和彦は緩く首を左右に振る。このときまた、三田村と目が合っていた。  同性と体を重ねる以外で、特殊な性癖は持ち合わせていないつもりの和彦だが、このときから自信がなくなる。見られることが、もう一つの愛撫になっているようだった。 「こっちを見ろ」  賢吾に言われ、反射的に従ってしまう。すかさず唇を塞がれた和彦は、賢吾と舌を絡め合いながら、内奥から指を出し入れされる。  体を起こした賢吾がベルトを外し始め、さすがにじっくりと観察する気にもなれず、和彦は片手で両目を覆う。 「……一応、恥らっているのか?」  からかうような言葉を賢吾からかけられ、力なく応じる。 「うるさい……」  低い笑い声に続いて、ベルトの金属音とファスナーを下ろす音が聞こえた。  両足を抱えられて胸に押し付けられるようになって、やむなく和彦は両目を覆った手を外す。目の前の光景の何もかもが生々しくて、圧倒される。  両足を開いた自分の姿も、高められるだけ高められて放置された自分のものも、腰を密着させ、今まさに自分の中に押し入ってこようとしている男の姿も、その男の凶器も。 「うっ」  片足だけを抱え直されてから賢吾のものが擦りつけられ、ぐっと内奥に押し込まれてくる。  征服されていると、頭ではなく、体で実感した。熱く硬いものにゆっくりと内奥を埋め尽くされ、犯されていきながら、和彦は賢吾の圧倒的な存在感を味わわされていた。 「あっ、あっ、あぁっ――」  一番太い部分を呑み込まされ、苦しさに喘ぐ。そんな和彦を、賢吾は唇に笑みを湛えて見下ろしていた。 「喘いでるな、先生」  そう言って賢吾の指先に唇を擦られてから、懸命に太いものを呑み込んでひくついている内奥の入り口をなぞられた。和彦は小さく悲鳴を上げて腰を揺する。 「上の口も
last updateLast Updated : 2025-10-19
Read more

第1話(29)

「あっ、あっ、ああっ……、うっ、うあっ」  乱暴に内奥を突き上げられるたびに腰が弾み、卑猥な音が室内に響く。もちろん、獣じみた息遣いも。  両足を押し広げられ、賢吾のものが内奥の奥深くを抉ってくる。 「うっ、くうぅっ、んんっ」 「――中に出すぞ」  当然のように賢吾が言い、完全に屈服させられた和彦は小さく頷く。数度突き上げられてから、熱い精がたっぷり注ぎ込まれた。  ビクビクと脈打つ賢吾のものを、まるで媚びるように和彦は締め付けてしまう。このとき和彦の体は、気持ちはともかく、賢吾に犯されて歓喜していた。それだけでなく、絶頂の証を体内に残されたことも。  荒い息を吐き出した賢吾に、唇と舌を貪られる。 「……お前は、俺の〈オンナ〉になった」  キスの合間の賢吾の言葉に、和彦は軽く眉をひそめる。 「ぼくは男だ」 「体や気持ちのことじゃない。お前の立場が、そうなったという意味だ」 「ヤクザのオンナなんて、悪趣味にも程がある」 「そう言うな。けっこうなメリットがあるぞ」  まだ繋がったままの部分を揺すられて、和彦は熱い吐息をこぼして締め付けてしまう。 「どんなメリットがあるにせよ、ヤクザと関わりがあるというデメリットは、帳消しにはならない。……ぼくは、ご免だ」 「強情だな。下の口はすぐに蕩けたのに」  思わず和彦が睨みつけると、体を起こした賢吾がゆっくりと内奥から自分のものを引き抜いた。賢吾が放ったものが内奥から溢れ出し、ソファを汚す。唇を噛む和彦を見下ろして、すでに冷徹な顔となった賢吾が言った。 「三田村、先生の後始末を手伝ってやれ。それと、風呂を使わせてから、着替えも用意しろ。あと、寝床も。先生は、今晩はここに泊まってくれるそうだ」  何かを言い返す気力もなく、和彦はソファに仰向けになったまま前髪に指を差し込む。こうなってしまっては、賢吾に従うしかなかった。  自分の格好を手早く整えた賢吾が立ち上がり、リビングを出て組員たちに何か指示を出している。入れ違いのようにソファに寄ってきた三田村に濡れタオルを手渡され、和彦は体を起こす。  三田村は、和彦の後始末を手伝
last updateLast Updated : 2025-10-19
Read more

第1話(30)

**** 数日ほど和彦は、撃たれた組員がいるマンションの部屋に朝と夜の二回、顔を出すようにしていた。傷口の癒着と感染症の兆候を確かめるためで、ガーゼや包帯の交換に関しては、元看護師だという組員の妻が手伝ってくれている。  一刻も早くヤクザと関わりを絶ちたい和彦だったが、医者としての義務感から、手術を施しただけで放っておくことができなかったのだ。やることはやったと、堂々と主張する根拠が欲しかったというのもある。  とにかく患者の容態は急変することもなく、あとは安静にして順調に傷口が塞がれば、抜糸すればいいだけだ。それまでの間、和彦はヤクザの巣窟に顔を出さなくて済む。  部屋に通っているうちに、普通に会話が交わせる程度の仲になった組員の一人に、もう来ないからなと言い置いた和彦だが、実は患者以外のことで気がかりがあった。賢吾のことだ。  強引に体を繋がれた日以来、まだ賢吾とは会っていない。気負って部屋に出かけていた和彦としては、肩透かしを食らわされ続けた格好だ。  最後にもう一度だけ賢吾に会いたかった。別れを惜しむために――というわけではなく、念を押すためだ。  できることなら、ビデオで録られたものが消去されるのを、目の前で確認したかった。コピーされていれば意味のないことだが、約束の履行がなされたという事実は大事だ。和彦自身の精神の安寧のために。  組員から賢吾に連絡を取ってもらったのだが、忙しくて会うことはできないと、素っ気なく言われてしまった。こちらから連絡するということだが、それはいつだと問いかける間もなく、電話は切られた。  ヤクザとの約束には、やはり最低限、念書を取っておくべきだったと後悔しながら、和彦は表面上は何事もなく、いつも通りクリニックに出勤した。  異変は、すぐに感じた。  ロビーで顔を合わせた看護師たちからじろじろと見られ、嫌な感じのする笑い声が小さく上がったりもする。何事だろうかと思いながらも、和彦はあえて理由を問うたりはしなかった。  だが、医局のあるフロアに上がると、自分がなんらかの騒動の渦中にあると実感した。騒然とした空気が場を支配し、和彦の姿を見るなり、同僚である
last updateLast Updated : 2025-10-19
Read more
PREV
123456
...
25
SCAN CODE TO READ ON APP
DMCA.com Protection Status