「手術するにしても、道具はどうする気だ」 「ふん。それで逃げ道を作ったつもりかもしれないが、心配するな。立派な設備は無理だが、人間の体を切って縫うぐらいの道具は用意してある。あと、点滴セットも。必要な輸液があれば持ってこさせる。血液は、ここに活きのいいのが何人も揃っているしな」 完全に逃げ場を断たれた。和彦は大きく息を吐き出して目を閉じると、動揺のため速くなっている自分の鼓動の音を聞く。頭に血が上り、頭痛すらしている。 近くにいる男たちの視線を痛いほど感じながら和彦は、懸命に思考を働かせる。少しでも、自分の立場を安全なものにするために。 「――条件がある」 和彦は覚悟を決めて目を開けると、前を見据えたまま切り出す。賢吾は低く笑い声を洩らした。 「本当に、見た目は優男のくせして、度胸があるな。この状況でヤクザに取引を持ちかけるなんて、開き直りにしても大したものだ」 いいだろう、と言った賢吾にまた腕を掴まれて、別の部屋へと押し込まれた。脱衣所も兼ねた洗面室で、洗濯機の横に置かれたカゴには洗濯物が山積みとなっており、浴室に通じる扉の前にはマットが敷いてある。 ヤクザが何人も待機しているという、和彦にとっては非日常的な場所の中で、ここは妙に生活感が溢れている。人が住んでいるのであれば当然の風景だが、なんだか妙な感覚だ。 「それで、条件は」 賢吾に声をかけられ、和彦は我に返る。いつの間にか、白い壁を背にする形で追い詰められ、威圧するかのように賢吾が傍らに片手を突く形で和彦の顔を覗き込んでいた。 むせ返るような雄の匂いを賢吾から嗅ぎ取り、半ば本能的に顔を背ける。 「……ビデオで録ったものを消してほしい……」 「それだけか?」 「それと、ぼくを脅すな。千尋にはもう関わらないんだから、必要ないはずだ」 スッとあごを賢吾に撫でられ、和彦は体を硬直させる。耳元に熱い息遣いがかかり、卑猥な言葉を囁かれた。 「〈あれ〉を消すのは、惜しい気もするな。おもちゃをケツに突っ込まれて、お前みたいな色男がよがり狂う様は、なかなかの見ものだった。お前にとっても、新たな刺激に目覚めるいい経験だっただろ」 和彦は屈
Last Updated : 2025-10-17 Read more