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Lahat ng Kabanata ng 血と束縛と: Kabanata 531 - Kabanata 540

952 Kabanata

第14話(26)

 軽く息を吐き出して、千尋の頬を優しくてのひらで撫でる。「ああ、落ち着いた。……意外な人間に、意外な場所で会ったりしたものだから、混乱した。トラウマ、ってやつだな。ヤクザに囲まれて、予想外に大事にされているから、精神が柔になっていたのかもしれない」「俺としては、もっと先生を大事にしたいけど。クリニックの開業なんて、本当はしてもらいたくないんだ。もっと言うなら、外に出したくない」「……そうなったら、本格的にヤクザの囲い者らしい生活だな」「先生のためにも、それはよくないし、組の運営のためにも、先生の力が必要だとわかってるんだ。長嶺組の後継者として、先生を最大限利用する――ぐらいの大口は叩きたい。だけどさ、今回のことで、やっぱり思うんだ。先生を外に出したくないって」 誰にも聞かせられない、とことん甘い千尋の言葉だった。こんなことを言わせてしまうぐらい、千尋に心配をかけたのだと思い、和彦は口中で小さく謝る。面と向かって頭を下げるのは、やはり気恥ずかしいのだ。 千尋は、そんな和彦の気持ちを汲み取ってくれたのか、単に自分の欲求を満たすためか、にんまりと笑って顔を突き出してきた。唇の端に、またドーナツの砂糖をつけている。「長嶺組の後継者が、なんて甘ったるい顔してるんだ」「玄関を一歩出たら、ピシッと決めるよ」 本当かと思いながら、和彦はもう一度千尋の頬を撫で、唇の端を舌先でペロリと舐めた。舌先に砂糖の微かな甘さを感じたとき、千尋の片手が後頭部にかかり、ぐっと力が込められる。 あるだけの情熱をぶつけてくるような、激しい口づけだった。噛み付く勢いで唇を吸われ、ねじ込むように侵入してきた舌に口腔をまさぐられる。 千尋の熱さが愛しかった。和彦は、まずは千尋に好きなように自分を貪らせてから、改めて千尋の唇を舐めて、柔らかく吸い上げる。今度は和彦が千尋の口腔に舌を差し込み、たっぷり舐め回す。我慢できなくなったように、千尋が舌を吸ってきた。 互いを味わうような口づけを交わしてから、唇を離す。すかさず千尋にきつく抱き締められた。「ほら、千尋、早く行け。待ってもらってるんだろ」
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第14話(27)

 千尋の頬を軽く叩いてから、送り出す。見事なもので、甘ったれの子供のようだった雰囲気はその瞬間には払拭され、背筋を伸ばし、きびきびと歩く千尋の姿に、思わず和彦は目を細める。 しかし、せっかくの颯爽とした姿も長続きはしない。エレベーターホールに消える寸前、こちらに目配せしてきた千尋が、ニッと笑いかけてくる。まるで、悪ガキのような表情だ。「――凄みのあるイイ男まで、あと一歩……二歩ってところだな、千尋」 笑いを堪えて和彦は呟くと、待合室に戻る。ここで、テーブルの上に置いたままの、ドーナツの箱に気づく。千尋もがんばって食べてはいたが、ドーナツはまだ半分もなくなってはいない。 買ってきてくれた千尋には申し訳ないが、護衛の組員たちに持って帰ってもらうしかないようだった。** 今日もひどく冷え込み、厚手のカーディガンを羽織っている和彦は、ブルリと肩を震わせる。エアコンを利かせた書斎から出ると、特にそれを思い知らされる。 広い部屋に一人で生活しているため、和彦がいる場所以外は、どうしても空気がひんやりしてしまう。だからといって、常にどの部屋も暖めておこうとは思わない。誰かが来る予定もないのに、なんだか空しい行為のように思えるのだ。 和彦はキッチンカウンターにもたれかかり、湯が沸くのを待ちながら、薄暗いダイニングを眺める。今夜に限って、一人きりの静寂が耳に痛くて、気に障る。 まだ、精神的に完全に落ち着いたとは言いがたいらしい。こうしていると、一人の世界に溶け込んで、自分がなくなってしまいそうだ。 いや、そうなりたいと願ってしまうのか――。 子供の頃の悪い妄想癖がぶり返したようで、もう一度肩を震わせた和彦は、カーディガンの前を掻き合わせる。 気持ちを切り替えるため、何か楽しいことを考えようと思ったとき、まっさきに蘇ったのは、今日の昼間の、千尋とのやり取りだった。 砂糖味の甘い口づけの余韻に浸っている間に湯が沸き、ペーパーフィルターを取り出そうとする。そのとき突然、インターホンの音が鳴り響き、飛び上がりそうなほど驚いた。 連絡なしの夜の訪問者ともなると、必然的に人
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第14話(28)

 インターホンに出た和彦は、予想通りの人物が画面に映っているのを見て、眉をひそめる。「……こんな時間になんの用だ」 素っ気なく和彦が応対すると、画面を通して鷹津がニヤリと笑いかけてくる。ただし、その笑みにはいつもより、悪辣さと鋭さが足りない。鷹津は首をすくめ、大げさに身震いした。『寒いんだ。早く中に入れろ』 何様だと追い返したいところだが、鷹津は和彦の〈番犬〉で、欲しいと言われれば〈餌〉を与えなければならない立場だ。インターホン越しにあしらうこともできるが、寒い中、こんな時間になんのためにやってきたのか、理由が気になる。 それに、すべての部屋に明かりをつけ、暖める理由もほしかった。 和彦はエントランスのロックを解除してやり、数分後、部屋の玄関に鷹津を迎え入れた。「――雪が降ってるぞ」 開口一番の鷹津の言葉に、和彦は目を丸くする。まさかこの男に限って、天気の話から切り出すとは思っていなかった。 和彦の反応がおもしろかったのか、鷹津は唇を歪めるようにして笑った。「その様子だと、知らなかったみたいだな」「暗くなってからすぐにカーテンを引いたから、気づかなかった」「けっこうな降りだ。辺りが白くなる程度には、積もっている」 鷹津を玄関に残し、和彦はさっさとリビングの窓のカーテンを開く。すでに外は暗いため、白く染まっているという景色をはっきりと見ることはできないが、バルコニーにも雪が積もっていた。「寒いはずだ……」 和彦は小さく呟き、ガラスに反射して映る鷹津に視線を向ける。図々しい男らしく、当然のように部屋に上がり込んできたのだ。「……それで、なんの用だ。雪が積もっていると、知らせに来たわけじゃないだろ」「この何日か、寝込んでいたらしいな。秦が言っていたぞ」 反射的に振り返った和彦は、鷹津を睨みつけながら、口中では秦に対して毒づいた。「秦とずいぶん、仲よくなったみたいだな」「その言い方はやめろ。仕事上、やむをえず、あいつと連絡を取り合っているだけだ。今日
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第14話(29)

「そのつもりだったが、元気そうだな。少し痩せたようには見えるが」「食欲は戻った。それに……安定剤を飲んででも、眠るようにしているしな」 鷹津から探るような眼差しを向けられ、和彦は逃げるようにキッチンに向かう。和彦に何があったのか、明らかに鷹津は知りたがっていた。 和彦の身近にいる男たちは、必要があれば情報を共有する。その中で、今回は鷹津がつま弾きにされたらしい。ここでいい気味だと思えないのは、自分自身のことだからだ。 二人分のコーヒーを淹れながら、仕方なく端的に事情を説明する。賢吾なら、先生は甘いなと、薄い笑みを浮かべながら言うだろう。「――……佐伯英俊といえば、父親譲りの切れ者官僚らしいな」 鷹津が洩らした言葉に、和彦はきつい視線を向ける。「兄のことまで調べたのか」「佐伯家のことをざっと調べただけで、それぐらいの情報はすぐに手に入る。ただ、どうしてお前が実家に寄り付かないのか、その理由は知らない」「当然だな。佐伯の家は、外面のよさは完璧だ。外部の人間が調べた程度で、家庭の内情なんてわかるはずがない」「お前自身が話す気は?」 どこか揶揄するような鷹津の表情が、気に障る。こういうときに見せる表情ではないと思うのだが、この男の場合、人を不愉快にさせる言動が身についているのかもしれない。 ない、と即答した和彦は、コーヒーを注いだカップを鷹津に押し付け、自分もカップを手に、再び窓際に歩み寄る。 外の闇の中から、降り続く雪だけが白い姿を浮かび上がらせている。雪を一心に目で追う和彦に、傍らに立った鷹津が話しかけてきた。「お前が兄貴と会ったというのはわかったが、一つわからないことがある」「なんだ」「家族の中で半ば放置状態にあって、滅多に連絡も取らないお前を、手の込んだ方法で捜していた理由だ。友人経由で、お前に用件を伝えたら済む話だろ」「それは――」 部屋に閉じこもっている間、和彦もそのことを考えていた。 おそらくきっかけは、賢吾の代理で出席した披露宴での出来事だ。父親の同僚の言葉から、あの時点で
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第14話(30)

 和彦が自らの意思で所在を告げず、行方をくらましていると知れば、佐伯家ならどうするか――。 コーヒーを一口啜った和彦は、ガラス越しに鷹津を見据える。「……ぼくの知っている〈家族〉は、ぼくが行方不明になったところで、必死に捜すような人たちじゃない」「お優しい家族だな」 せせら笑うように鷹津が皮肉を口にしたが、腹は立たなかった。実のところ、和彦ももっと手酷い皮肉を口にしたいところなのだ。 ぐっと唇を噛み締め、思いきって窓を開ける。サンダルを引っ掛けてバルコニーに出ると、鷹津は靴下のまま追いかけてきた。「あー、くそっ、冷てーな」 忌々しげに呟く鷹津を横目で一瞥して、和彦はバルコニーの端まで行く。角部屋だけあって、ここからの眺望は特別だ。何より、吹き付けてくる風が強い。 雪が頬に当たり、凍えるほど寒い。睫毛にも雪が触れて目を細めたところで、鷹津が隣に立つ。壁になって、風と雪を一身に受けてくれるつもりらしい。訝しむ和彦に、鷹津はこう言った。「〈番犬〉としては、ご主人に風邪を引かせるわけにはいかないからな。……おい、寒いから中に入ろうぜ」「部屋の中だと、盗聴器が気になるんだ」 一瞬、無表情となった鷹津だが、次の瞬間には、蛇蝎の片割れであるサソリらしい、毒を含んだ鋭い笑みを唇に刻んだ。「仕掛けられてるのか?」「さあ。もう外したとは言っていたが、どこまで信用していいかわからない。だったら、まだ仕掛けられていると考えたほうが楽だ」 話している間に唇が冷たくなり、和彦はカップに口をつける。鷹津もコーヒーを飲んでから、自然な口調で切り出した。「――俺に、何か言いたいことがあるんだろ。寒いんだから、早く言え」 和彦はじっとカップの中を覗き込む。逡巡はあったが、吹っ切るのは早かった。「佐伯家……ぼくの実家の動向を探ってほしい」「それを言いたかったんなら、わざわざバルコニーに出る必要はなかったな」「どういう意味だ」「俺の考えでは、とっくに長嶺は、お前の実家の動向を探って
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第14話(31)

「自分の兄貴に会って不安になっているお前が、実家の件で俺に頼みごとをすることも、予想しているだろ。――お前は、自分が蛇みたいな男のオンナだってことをよく自覚するべきだな。蛇の執念深さは、凄まじいぞ」 このとき和彦の脳裏を過ったのは、賢吾の代理で結婚披露宴に出席したとき、父親の同僚と出会ったのは、本当に偶然だったのだろうかということだった。 佐伯家が和彦になんの関心を持っていないのであれば、父親の同僚とは、あの場で他愛なく挨拶を交わして、穏便に別れられたはずだ。しかし現実は、そうならなかった。 佐伯家は、和彦を捜している。しかも、父親に近しい存在とはいえ、他人までもがそのことを把握しているのだ。父親が話したにしても、外聞にこだわる人間がそこまでする理由が気にかかる。 そしてもう一つ気にかかるのは、賢吾の思惑だ。どうしてもこう考えてしまう。 賢吾は、佐伯家の反応を知るために、和彦そのものを餌に使ったのではないか、と。 緩やかに動いていた思考が、ここで一気に苛烈さを増し、頭の芯が不快に疼く。「大丈夫か」 ふいに鷹津に声をかけられ、和彦は我に返る。無防備に見つめ返すと、鷹津は相変わらずの嫌な笑みを浮かべ、顔を覗き込んできた。和彦も、ドロドロとした感情の澱が透けて見える目を覗き込む。 ふと、こんな問いかけをぶつけていた。「……今夜ここに来たのは、ぼくを心配してくれたからか」 意表をつかれたように目を見開いた鷹津だが、すぐに皮肉っぽい表情となり、和彦の頬にてのひらを擦りつけるように触れてきた。「いや。餌をもらいに来ただけだ」 鷹津の顔が近づいてきて、強く唇を吸われる。この瞬間、嫌悪感が体を駆け抜けるが、それは強烈な肉の疼きにも似ていると、初めて和彦は気づいた。 密かにうろたえる和彦にかまわず、鷹津は何度となく唇を吸い上げ、熱い舌で歯列をまさぐってくる。粗野で強引な求めに、和彦は呆気なく屈した。 鷹津の舌を柔らかく吸い返し、唇に軽く噛み付いたところで、余裕のない鷹津はすぐに和彦を貪ってくる。和彦を感じさせようとは思っていない、自分の欲望をぶつけてくるだけの口づけだ。
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第14話(32)

 気を抜くと、手に持ったカップを落としてしまいそうだ。必死に一欠片の理性を保ちながら、差し出した舌を鷹津と絡め合う。一方で鷹津は、片手で痛いほど和彦の尻を揉んでくる。 餌をもっとくれと、この男は言いたいのだ。 和彦は口づけの合間に、しっかりと言い含める。「――……餌は、キスだけだ。仕事をしていない番犬に、これ以上、何もやらないからな」「まあ、仕方ないな」 不遜に応じた鷹津が口腔に舌を押し込んできて、和彦は拒むどころか、きつく吸い上げてやる。 雪に吹きつけられながらの鷹津との口づけは、激しく、長かった。** デパートで買ったフルーツの詰め合わせを差し出した和彦に対して、柔らかく艶やかな雰囲気をまとった秦は、優しい笑みを向けてきた。 先日、この男の前でさんざん痴態を晒した身としては、女性客を魅了するであろうその笑みを直視できず、やや視線を逸らしてしまう。「……世話になっておきながら、ぼくから礼を言わないのも、落ち着かないから……、よかったら食べてくれ」 今日の午前中、和彦は一つの大きな仕事を片付けた。クリニックに雇い入れるスタッフの面接だ。賢吾からは、落ち着くまで延期していいと言われてはいたのだが、和彦一人の事情で、他人を振り回すのは本意ではない。それに、精神的にもう大丈夫だと確認するためにも、なるべく人に会いたかった。 午後からこうして秦と会っているのも、そのためだ。 朝のうちに、今日会いたいと連絡を取ったところ、夕方までなら時間が取れると言われたため、すっかり馴染みとなったホストクラブにこうして出向いてきた。 店にはすでに数人の従業員が出勤しており、ホールの掃除をしていた。そんな彼らの、まるで女性客に対するような甘い挨拶を受けて、和彦はVIPルームに通されたのだが、居心地が悪いことこのうえなかった。「先生をお世話したどころか、わたしとしては、かなりいい思いをさせてもらったと思っています。むしろこちらが、お礼をしないと」 秦の言葉の意味が、嫌になるほどわかっている和彦
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第14話(33)

「わたしの一風変わった出生と、捻くれた欲情について。わたしが元は日本人じゃないということは、長嶺組の組長と数人の幹部の方は知っていますが、あとは鷹津さんぐらいです。それと、先生。……ただ、わたしにとって大事な秘密は、欲情のほうです。この秘密だけは、先生が所有してください」 上品で端麗な美貌を持つ秦は、腹の内に倒錯した欲情を抱えている。その欲情を向けている相手は、中嶋だ。 何を考えているのか読めない男なりの冗談――というには、秦が和彦に施した愛撫は丹念で執拗だった。執念のようなものすら感じた。 秦のそんな一面を知って、果たして中嶋は喜ぶのか、失望するのか。 和彦は短く息を吐き出すと、乱雑に髪を掻き上げ、秦を見据える。「ぼくは一応、中嶋く――……彼の友人のつもりなんだ。利害で結びついているのは否定しないが、だからといって彼の事情に踏み込むつもりはない。生々しい話は、君と彼とでケリをつけてくれ」「でも、まったく知らん顔もできないでしょう?」 和彦が持つ甘さを、秦はよく把握していた。ムッと顔をしかめた和彦は、横を向きつつぼそぼそと応じる。「中嶋くんには、君がぼくの〈遊び相手〉だなんてこと、知られたくないんだ。……その秘密を守るためなら……、協力はする。君のためじゃない。あくまで自分の保身のためだ」「自分でそういうことを言うあたり、やはり先生は甘い。だから、ヤクザになんて付け込まれる。いや、ヤクザだけじゃないですね。悪徳刑事や、元ホストにも付け込まれるんです」「……甘い、甘いと言っていると、意外なしっぺ返しを食らうかもしれないぞ。案外ぼくは、悪辣な人間なんだ」 和彦が芝居がかった爽やかな笑顔を見せると、さすがの秦も毒気を抜かれたように目を丸くした。「それは、怖いですね」「もっと感情を込めて言ってくれ」 和彦の抗議に破顔した秦は、突然立ち上がり、キャビネットの上に置かれた三十センチほどの箱を手にした。その箱を、和彦に差し出してくる。「――少し早いですが、先生
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第14話(34)

**** リビングに入ってきた賢吾は、床の上に座り込んでいる和彦を見るなり、驚いたように目を丸くした。しかし、数秒の間に状況を理解したらしく、すぐに喉を鳴らして笑う。「ずいぶんはりきってるな、先生」「今の生活に彩りがないことに気づいたから、生まれて初めて、自分で買った。――クリスマスツリーを」 朝から苦労してライトを飾り、今はオーナメントを取り付けているところだ。和彦が手にしている、凝った細工が施されたボールを目にして、賢吾が傍らにやってくる。「俺に言えば、もっとでかいツリーを買ってやったのに。それこそ、ここの天井に届きそうな、天然の立派なやつを」 和彦が買ってきたのは組み立て式のものだが、安物というわけではない。ヨーロッパからの輸入品で、本物と見紛うほど精巧な作りをしている。立ち寄った店に一つだけ残っており、高さも、和彦の身長より少し低いぐらいでちょうどよかったため、急いで買い求めた。「これで十分だ。手入れも簡単だし、来年も使える」 モールを取り上げた賢吾が、器用な手つきでツリーに飾りつけていく。「その口ぶりだと、来年も今のような生活を送る気があるということか」 思いがけない指摘に和彦は、持っていたボールのオーナメントを膝の上に落とし、慌てて拾い上げる。「……そんなことまで考えなかった。天然もののツリーだと、後の処分が面倒だと思っただけだ」「まあ、そういうことにしておこう」 なんだか含みのある言い方だと、和彦は賢吾を見上げる。賢吾は機嫌よさそうな顔で、片手を出してきた。「それも俺がつけてやる」 言われるまま、持っていたボールを賢吾に手渡す。「この飾りも買ったのか? これは俺でも、物がいいとわかる」「それはもらったんだ。……秦から。少し早いクリスマスプレゼントだそうだ」「モテると、貢ぎ物も多いな」「ああっ。あんたからも、さぞかし高価なクリスマスプレゼントがもらえると、期待しているからなっ」 半ば自棄になって和彦がそう応
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第14話(35)

「やっと笑ってくれたな。どうだ、もう立ち直ったか?」「……こんな状況で、うかうか落ち込んでいられない。ぼくの周囲にいる男は、どいつもこいつも、油断ならない連中ばかりだからな」「俺も含めて?」「あんたは、筆頭だ」 和彦がせっかく枝に結んだリボンを解きながら、賢吾はまた楽しそうに笑う。解いたリボンをどうするのかと思っていると、和彦の右手首に結んでしまった。意味がわからず首を傾げたとき、賢吾にあごを掴まれた。 官能的なバリトンが、官能的な言葉を紡ぐ。「――元気になったところで、さあ先生、キスをさせてくれ」 次の瞬間、大蛇がちろりと舌を覗かせるように、軽く唇を舐められた。たったそれだけのことなのに、和彦の背筋には、腰が砕けそうな疼きが駆け抜ける。 もう一度唇を舐められたところで、和彦は小さく呻き声を洩らした。柔らかく唇を吸われながら、合間に賢吾に問われる。「どの男に元気にしてもらったんだ。秦には、先生の気分転換を手伝ってくれと俺から頼んだが、もちろん、弱った先生を放っておけない男は、他にいただろ?」 残酷な大蛇の性質がちらりと顔を覗かせた気がした。賢吾は、嫉妬からこんな問いかけをしているわけではない。この男は、和彦が他の男と絡み合っている姿を見て、愉悦を覚えられる。ただし、自分が許した男に限って、だが。 セーターをたくし上げた賢吾の手に、腰を撫で上げられる。和彦は戯れるように賢吾と唇を啄み合いながら、名を挙げた。「千尋と……、鷹津だ。わざわざ、会いに来てくれて、キスもした」「千尋はともかく、蛇蝎の片割れとして嫌われている男も、もう先生に骨抜きだな。完全に、堕ちた」 答えようがなくて和彦は顔を背けようとしたが、賢吾に軽く唇に噛みつかれ、そのまま舌先を触れ合わせる。賢吾の力強い両腕に強く抱き締められ、苦しさからではなく、心地よさに吐息が洩れた。 和彦の顔をじっくり覗き込みながら、賢吾が目を細める。「俺の名前は挙げてくれないのか?」「……わざわざ挙げなくても、あんたは自分で主張するだろ。――
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