軽く息を吐き出して、千尋の頬を優しくてのひらで撫でる。「ああ、落ち着いた。……意外な人間に、意外な場所で会ったりしたものだから、混乱した。トラウマ、ってやつだな。ヤクザに囲まれて、予想外に大事にされているから、精神が柔になっていたのかもしれない」「俺としては、もっと先生を大事にしたいけど。クリニックの開業なんて、本当はしてもらいたくないんだ。もっと言うなら、外に出したくない」「……そうなったら、本格的にヤクザの囲い者らしい生活だな」「先生のためにも、それはよくないし、組の運営のためにも、先生の力が必要だとわかってるんだ。長嶺組の後継者として、先生を最大限利用する――ぐらいの大口は叩きたい。だけどさ、今回のことで、やっぱり思うんだ。先生を外に出したくないって」 誰にも聞かせられない、とことん甘い千尋の言葉だった。こんなことを言わせてしまうぐらい、千尋に心配をかけたのだと思い、和彦は口中で小さく謝る。面と向かって頭を下げるのは、やはり気恥ずかしいのだ。 千尋は、そんな和彦の気持ちを汲み取ってくれたのか、単に自分の欲求を満たすためか、にんまりと笑って顔を突き出してきた。唇の端に、またドーナツの砂糖をつけている。「長嶺組の後継者が、なんて甘ったるい顔してるんだ」「玄関を一歩出たら、ピシッと決めるよ」 本当かと思いながら、和彦はもう一度千尋の頬を撫で、唇の端を舌先でペロリと舐めた。舌先に砂糖の微かな甘さを感じたとき、千尋の片手が後頭部にかかり、ぐっと力が込められる。 あるだけの情熱をぶつけてくるような、激しい口づけだった。噛み付く勢いで唇を吸われ、ねじ込むように侵入してきた舌に口腔をまさぐられる。 千尋の熱さが愛しかった。和彦は、まずは千尋に好きなように自分を貪らせてから、改めて千尋の唇を舐めて、柔らかく吸い上げる。今度は和彦が千尋の口腔に舌を差し込み、たっぷり舐め回す。我慢できなくなったように、千尋が舌を吸ってきた。 互いを味わうような口づけを交わしてから、唇を離す。すかさず千尋にきつく抱き締められた。「ほら、千尋、早く行け。待ってもらってるんだろ」
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