三田村は、英俊の姿を見ていない。もし一目でも見ていれば、和彦の血縁者だとわかったはずだ。それほど和彦と英俊はよく似ている。「……強面のヤクザ相手より、ヘラヘラしているわたしのほうが、少しは話しやすいだろうということで、今日はこうして先生を外に連れ出しました。あとは、気分転換も兼ねて。少なくともドーナツを食べてもらえたので、わたしの任務の一つは遂行できたようなものです。長嶺組のみなさんに怒られることもないでしょう」 よくこんなに淀みなく話せるものだと、和彦は純粋に感心する。ついでにドーナツも、あっという間に一つを食べ終えた。 数日ぶりに固形物を胃に流し込んだせいか、体の奥からじわじわと活力のようなものが湧き出してくるようだった。それとも秦と話したせいかもしれない。自覚のないところで人恋しさが芽生えていたとしても不思議ではなかった。 秦の柔らかく艶やかな存在感は、疲弊した今の和彦にはちょうどよかった。それに、今食べているドーナツのように甘い。 コーヒーを飲みながら、何から話すべきだろうかと考えた和彦は、まず秦にこう問いかけた。「――〈秦静馬〉に、親兄弟はいるのか?」 驚いたように秦は目を丸くしたあと、口元に微苦笑を刻んだ。「そういえば先生は、鷹津さんと仲がいいんですよね。刑事のくせに、口が軽い人だ」「仲はよくないぞ。……つき合いはあるが」 秦はソファに深くもたれて足を組み、天井を見上げた。「わたしは一人っ子です。それはもう、大事に育てられましたよ。中国で生まれたのに、将来を思う裕福な両親によって、香港国籍を取らせてもらうほどに」「中国……」「いわゆる上流階級というやつです。ですが、父親が権力闘争に敗れ、家族はバラバラに。このあたりの話は、血生臭い話なので割愛させてもらいます。結果として、わたしは親族がいる日本に移り住み、日本人になった。母親はヨーロッパに渡って再婚したそうです。一方の父親は、香港で復権を目指しています。……権力への執念に関しては、化け物ですよ、わたしの父親は」 最後の言葉
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