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Lahat ng Kabanata ng 血と束縛と: Kabanata 541 - Kabanata 550

952 Kabanata

第14話(36)

 聞きようによっては甘い賢吾の言葉に対して、和彦はどんな顔をすればいいのかわからない。困惑して、うかがうように見つめると、獰猛な笑みを向けられた。「――この俺に気をつかわせるなんざ、大したオンナだ」 賢吾のその言葉と、貪るような激しい口づけに、和彦は陥落する。体だけでなく心まで、賢吾の〈オンナ〉として求められることを望んでいた。「いい顔だ、先生。俺が欲しくなっただろ?」 傲慢な物言いにすら、官能を刺激される。唇を軽く吸い上げられた和彦は、小さく頷いた。次の瞬間、手荒な動作で腕を掴まれ、ソファに連れて行かれる。ただし、座ったのは賢吾だけだった。 鷹揚に両足を開いた賢吾の意図を察し、和彦は羞恥と屈辱に全身を熱くしながら、反面、身悶えしたくなるような興奮を覚える。 命令される前に賢吾の足元に膝をつくと、ベルトを外し、スラックスの前を寛げる。 引き出した賢吾のものは、すでに熱く高ぶっていた。息を呑む和彦の髪を優しい手つきで梳き上げながら、賢吾が言った。「さあ、たっぷり愛してくれ」 さほど抵抗を覚えることなく、和彦は賢吾の両足の間に顔を伏せると、まずは欲望に丹念に舌を這わせる。根元から舐め上げ、括れを舌先でくすぐり、先端をたっぷり舐め回す。そうしながら、指の輪で根元から扱き上げてやる。 心の内をなかなか読ませない賢吾だが、欲望の高ぶりだけは明け透けなほど晒してくれる。和彦の手の中で賢吾のものは逞しく脈打ち、熱くなっていた。 賢吾のものを愛撫しながら、和彦自身も官能が高まる。熱を帯びた吐息をこぼすと、賢吾の手が後頭部にかかり、力を込められる。「んうっ……」 口腔に賢吾のものを含むが、それだけでは満足できないらしく、さらに賢吾に頭を押さえつけられていた。 口腔を、賢吾のもので犯される。苦しさに息を詰めた和彦だが、喉につくほど押し込まれた熱い塊を吐き出すことは許されない。「――先生の尻と同じだな。奥がヌルヌルと蠢いて、よく締まってる」 頭上から降ってきた賢吾の言葉に、和彦は上目遣いで睨みつける。そんな和彦のあごの下を賢吾が指先でくすぐってきた。「そ
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第14話(37)

 和彦は視線を伏せると、賢吾の欲望に忠実に仕える。促されるままに頭を上下に動かし、唇で締め付けるようにして欲望を扱く。ときおり、口腔深くまで呑み込み、しっとりと粘膜で包んでやると、後頭部にかかった賢吾の手に髪を掻き乱された。 快感を素直に示す男は、大蛇だろうがなんであろうが、愛しい。 時間をかけての口淫の果てに、賢吾は、和彦の奉仕に褒美を与えてくれた。 頭を押さえつけられながら、口腔でドクッ、ドクッと脈打つ賢吾の欲望を吸引する。迸り出た精をすべて受け止め、喉に流し込んだ。 精を放っても、逞しさを失わない欲望を口腔に含んだまま、賢吾の荒い息遣いが鎮まるのを待ってから、和彦は愛撫を再開する。愉悦を含んだ声で、賢吾が洩らした。「やっぱりお前は、可愛いオンナだ」 その言葉は、強烈な快感となって、和彦の体を貫いた。ようやく賢吾のものを口腔から出して顔を上げると、濡れた唇を指で拭われる。和彦は、今度はその指を口腔に含んだ。** 紅潮し、汗に濡れた和彦の肌を、賢吾がいとおしむように両手で撫でてくる。その肌にはすでに、賢吾の激しい愛撫の痕跡が散らされていた。強く肌を吸われるたびに、所有の証を刻みつけられるようなもので、和彦は、獣に自分の体を食われているような錯覚にすら陥った。 内奥に指を含まされ、無意識に腰が揺れる。賢吾の執拗な愛撫は内奥にも施され、熱く熟れた肉が、賢吾の指を嬉々として締め付ける。「クリスマスだが――」 突然賢吾に切り出され、愛撫に酔っていた和彦は、すぐに意識を切り替えることができなかった。「えっ……」 内奥の浅い部分を指でぐっと押され、腰が痺れる。嫌でも意識を引き戻された。 唇を引き結んだ和彦の顔を、賢吾は楽しげな様子で覗き込んできた。「クリスマスは、イブも含めて、三田村と過ごせ。ひどく先生のことを心配していたが、仕事の都合で、つきっきりで側にいることができなかったからな。俺から三田村への、クリスマスプレゼントだ。先生には、さっきの要望通り、何かいいものを買ってやる」「……いまごろ三田村は、
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第14話(38)

 胸元に顔を伏せた賢吾の頭を抱き締めながら、和彦は疑問をぶつける。「あんたの名代で、ぼくを結婚披露宴に行かせたのは、もっともらしいことを言っていたが、本当は計算があったからか? ぼくが、父の知人と遭遇するかもしれない、という計算が」「鷹津に何か吹き込まれたか」 上目遣いに賢吾がニヤリと笑いかけてくる。和彦が即答できずに黙り込むと、賢吾はベロリと胸の突起を舐め上げ、激しく吸い始める。同時に、内奥に収まっている指に、敏感になっている襞と粘膜を擦り上げられた。 喉を反らして吐息をこぼした和彦は、賢吾の腹を探ることはやめた。知りたいことは、直接ぶつけるしかないのだ。「――……なんで、ぼくの実家を刺激するようなことをした」「刺激はしていない。普通の家ってのは、子供と連絡が取れなくなったら、何かしら行動を起こすものだ。警察に捜索願を出したり、自分たちで捜し回ったりな。だが、先生の家族は……ずいぶんのんびりしているな」 巧みに蠢く賢吾の指によって、内奥が蕩けていく。和彦はベッドの上で身をくねらせながらも懸命に、賢吾の言葉を頭に留めようとする。「佐伯家が先生を見捨てているというなら、それでよかったんだ。先生を俺たちの身内どころか――家族にできる。ただ、佐伯家が先生に執着しているなら、知らん顔もできん。先生を連れ戻されないよう、守ってやらないとな」 表の世界から和彦を連れ去った側が言うには、変な理屈だと思いながら、賢吾の頬を撫でる。誘われたように賢吾に唇を塞がれそうになったが、和彦は顔を背ける。「どうした、先生?」「……さっき、あんたのものを――……」 あごを掴まれ、有無を言わせず唇を塞がれる。口腔を舌で犯されながら、内奥を指で犯されていた。だが和彦の内奥は、もっと熱く、逞しいものを欲している。それを感じ取ったのか、賢吾はやっと指を引き抜いてくれた。 体を起こした賢吾に両足を大きく左右に開かれる。物欲しげにひくつく部分だけでなく、中途半端に与えられた快感によって身を起こし、先端を濡らしているものも、すべて賢吾に晒し
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第14話(39)

「呆れた。そんなことまで調べたのか」「大事なオンナのことは、なんでも知りたい性質なんだ」 そう言いながら賢吾の手が柔らかな膨らみにかかり、残酷なほど優しい手つきで揉みしだかれる。たまらず甲高い嬌声を上げた和彦は、両足を開いたまま仰け反る。腰が震えるほどの強烈な快感だった。「捜さないでくれと先生が言い張ったら、佐伯家は引き下がると思うか?」「あの家の人間は……、ぼくの意見になんて耳を貸さない。ぼくを、好きに扱える人形ぐらいに、思っている……」「憎まれ口を叩くくせに、いやらしくて、男をたっぷり甘えさせてくれる人形か。こんな人形なら、俺はいくらでも可愛がって、大事にしてやる。――今みたいに」 思わず和彦が笑みをこぼすと、賢吾に唇を軽く吸われた。このとき、右手首に結びつけられたリボンを解かれる。そのリボンをどうするのかと尋ねようとしたが、先に賢吾に言われた。「先生の言葉を聞いて、安心した。これで長嶺組は、心置きなく先生を保護できる。もし仮に、佐伯家が先生の身柄を要求してきても、突っぱねる根拠ができたというわけだ」「……ぼくを、守ってくれるのか?」「守ってほしいなら」 もう一度唇を吸われたあと、和彦は囁くような声で応じた。「守ってくれ……」 次に賢吾の唇が押し当てられたのは、和彦の欲望の濡れた先端だった。「はっ、あぁっ――」 熱い舌が這わされたかと思うと、優しく先端を吸われる。このまま賢吾の口腔に呑み込んでもらえるのかと思ったが、突然、和彦のものの根元がきつく縛められた。「あっ」 声を洩らした和彦は、自分の下肢に視線を向け、気が遠くなりかけた。 反り返って震える和彦のものの根元に、しっかりとリボンが結びつけられていた。少しごわついた感触のリボンが根元にきつく食い込み、痛いほどだ。「何、して、るんだ……、あんたは」「先生に似合うかと思ってな。思った通りだ。いやらしさが増して、実にいい。何より、可愛い」
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第14話(40)

「――リボンを解いて、俺にほったらかしにされるほうがいいか、このまま、先生の好きなものを咥えさせてもらうほうがいいか。どっちだ?」「誰の、好きなものだ。自惚れるな……」「どっちだ、先生?」 聞かれるまでもなく、答えは決まっていた。和彦がシーツを握り締めると、賢吾はゆっくりと腰を進め、内奥を肉の凶器で押し開いてくる。狂おしいほどの愉悦が生まれ、和彦は堪えきれない声を上げる。「ああっ……、あっ、あっ、あんっ――」「尻だけでイきそうな感じ方だな、先生。俺のものが食い千切られそうなほど、締まってるぞ。そんなにいいか?」 和彦は押し寄せてくる快感に抗うように、必死に深呼吸を繰り返す。このままでは、快感の奔流に呑み込まれそうだった。 それぐらい、賢吾との交わりに感じている。 逞しいものをしっかりと根元まで埋め込んできた賢吾が、緩慢に腰を動かす。動きは緩やかだが、感じやすい襞と粘膜は簡単に蹂躙され、熱い蜜のような快感を滴らせる。「ひっ……ぁ、はあっ、あっ、んくうぅっ」 ふいに、内奥深くを重々しく突き上げられ、和彦はビクビクと体を震わせる。全身に快美さが響き渡り、普段であれば、精を迸らせているところだ。だが、しっかりと根元を縛められているため、それができない。 悶える和彦にさらに責め苦を与えるように、賢吾が震える和彦のものを根元から擦り上げてくる。愛撫のようだが、実はリボンの縛めがしっかり食い込んでいるのか、確かめたのだ。「はあっ、あっ、い、や……、賢吾さんっ」 内奥を擦り上げられるたびに和彦は悦びの声を上げ、絞り上げるように賢吾のものをきつく締め付ける。 感嘆したように声を洩らした賢吾が腰を使う。和彦は夢中で両腕を伸ばし、覆い被さってきた賢吾の背にしがみつく。汗で濡れた大蛇が、内奥深くで蠢く欲望のように、熱かった。 大蛇に激しく求められ、愛されているのだと実感できる瞬間だった。「リボンを解いてやろうか?」 律動の合間に囁かれ、賢吾の引き締まった下腹部で、反り返った
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第14話(41)

 顔を綻ばせた賢吾に唇を塞がれ、舌を絡め合う。その間も、賢吾は内奥を丹念に擦り上げ、掻き回してくれる。 快感の波が次第に大きくなってくるようで、厚みのある体の下でのたうちながら和彦は、切羽詰った声を上げる。そんな和彦を見下ろしながら、賢吾は満足そうだった。「いやらしいオンナだ。こんなに愛してやってるのに、まだ俺が欲しいか? さすがの俺も、そのうち力加減を忘れて、抱き殺しちまいそうだな。俺の、大事で可愛いオンナを」 物騒な言葉を囁かれた瞬間、和彦の体を、いままでにない強烈な感覚が駆け抜けた。それが、深い快感のせいだとわかったときには、意識が飛んでいた。** レアのステーキを淡々と口に運ぶ賢吾を見ているだけで、和彦は胸焼けを起こしそうだった。 今日はやけに重く感じるフォークで、ミディアムに焼いてもらったステーキを突く。手どころか、口を動かすことすら億劫で、フォークを置こうとしたが、目敏く気づいた賢吾にすかさず言われた。「しっかり食えよ、先生。塞ぎ込んでいる間に落とした体重を、きちんと元に戻せ」「……だからといって、何も今晩、ステーキを食べなくていいだろ」「今日はもう、〈肉〉は腹いっぱいか?」 長嶺組組長という凄みのある肩書きを持っている男が、そう言ってニヤニヤと笑う。芝居がかった品のない笑い方に、和彦は顔を熱くする。賢吾が暗に言おうとしていることを、すぐに理解してしまったのだ。「こんな場所で、下品なことを言うなっ」 声を潜めて窘めてはみたのだが、ますます賢吾をおもしろがらせただけらしい。今度は澄ました顔で言い返された。「なんのことだ? 俺は、ステーキの話をしているんだが――」「……あんまりぼくをからかうと、あんたが何者か、この場で叫ぶぞ」「それは怖いな」 大げさに肩をすくめた賢吾が、美味そうにステーキを一切れ食べる。自分が子供扱いされていることを嫌というほど実感し、無駄な抗議を早々に諦めた和彦は、仕方なく自分のステーキを切り分ける。 一切れの肉を苦労して口に押し込む間に、賢吾はグラスの
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第14話(42)

 ここがホテル内のレストランであろうが、賢吾が一緒にいる限り、護衛が離れることはありえない。「――まだ、熱っぽい目をしてるな、先生」 笑いを含んだ声でそんなことを言われ、反射的に背筋を伸ばした和彦は、前に向き直る。賢吾が、じっとこちらを見つめていた。テーブル上のライトの明かりを受け、大蛇を潜ませた男の目は、ドキリとするような輝きを放っていた。 もし仮に、賢吾の素性を知らないまま出会っていれば、間違いなく和彦は、初対面で見惚れていただろう。賢吾は、忌々しいほど魅力的な男だ。「当たり前だ……。こっちはふらふらだっていうのに、強引に外に連れ出したのは、あんただろ」「俺の艶っぽいオンナを見せびらかしたくてな」 ここでうろたえてはいけないと自分に言い聞かせ、和彦は露骨に顔をしかめて見せる。賢吾は低く声を洩らして笑った。「そう、可愛げのない顔をするな。俺は本気で言ってるんだぞ」「……はいはい」 生ビールのお代わりが運ばれてきて、すぐに賢吾はグラスに口をつける。一方の和彦は、まだ賢吾との激しい行為の余韻も冷めていないため、これでアルコールなど飲んで悪酔いしたくはない。無難に水を飲んでいた。 なんとかステーキを胃に押し込み、食後のデザートまでたどり着いたとき、突然、まるで世間話でもするような口調で賢吾が切り出した。「先生、クリスマスが終わったら、うちの組の忙しさにつき合ってもらうぞ」「えっ?」 シャーベットを掬っていた和彦は顔を上げる。何がおかしかったのか、賢吾は口元を緩めた。「年末年始は行事が目白押しだ。組の盃事に義理事、身内を労うための集まりもある。さらに、総和会からお呼びがかかる。普通、ヤクザといえども年明けは休むもんなんだが、総和会の連中は働き者だからな」 賢吾の口調は、皮肉っぽい響きを帯びていた。 かつて総和会の藤倉から説明を受けたが、総和会を構成する組は、十一枚の葉に例えられた。その中で、一番大きな葉を持つのが長嶺組だ。大きな葉は、発言力と勢力を示しているのだ。 それだけのものを与えられながら、今の賢吾の口ぶ
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第15話(1)

 十二月も中旬を過ぎると、本当に慌しいなと思いながら、和彦はふっと息を吐き出す。それでも、差し出された伝票にサインをして、大きな花束を受け取ったときには、意識しないまま笑みがこぼれた。 華やかなイベントとは無縁の人生を歩んできただけに、豪華な花束が次々に届くと、贈り手の思惑はともかく、やはり嬉しいものだ。 配達人を見送ってドアを閉めた和彦は、花の間に差し込まれたカードを取り上げる。そこには、ただK・Nというイニシャルだけが記されていた。開業日には大きな花輪を贈ってやると言っていた男だけに、今日は花束で勘弁してくれたらしい。 カードはジャケットのポケットに滑り込ませて、和彦は待合室に戻る。 今日の待合室は、いつもとは様子が一変していた。まるで、小規模なパーティー会場だ。堅苦しいスーツ姿の男性たちや、華やかな服装の女性たちが、思い思いに過ごしている。待合室だけではない。今日はクリニックのほとんどを開放しており、自由に見学できるようにしている。 レントゲンの設置工事が完了したのを機に、クリニックの完成パーティーも兼ねて内覧会を催したのだが、もちろん、和彦から提案したわけではない。 関係各所への届けも問題なく終え、あとは年が明けての開業を待つばかりだと、和彦は少し余裕を持って構えていた。だが、和彦の知らないところで、長嶺組は粛然と準備を進めていたのだ。 和彦はさりげなく待合室を通り抜けると、仮眠室に向かう。ここだけは鍵をかけており、和彦以外の人間は出入りできないようにしてある。 見られて困る秘密が――あるわけではなく、ただ、倉庫代わりにあれこれと荷物を押し込んでいるので、招待客たちの目に晒すのははばかられるのだ。 デスクの上にはすでに花束の山ができており、新たな花束が加わることで、さらに華やかさが増す。仮眠室内には花の香りが満ちていた。 少しここで休憩したいところだが、〈主役〉が身を隠すわけにもいかない。和彦はすぐに部屋を出ると、また鍵をかけてから、今度は給湯室を覗く。 こちらでは、飲み物が準備されているところだった。ホテルのケータリングサービスを頼んだのだが、サービススタッフの手際もよく、料理も飲み物も一括して管理してもらっているため、
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第15話(2)

 サービススタッフと言葉を交わしてから、診察室と手術室を覗き、見学している招待客と、彼らに設備の説明をしている業者の人間の様子を見守る。 内覧会の間、先生は優雅に座っていればいいと言われているが、そういうわけにもいかない。 代表者は別の人間の名になってはいても、実質的にクリニックを切り盛りすることになるのは、和彦なのだ。訪れる招待客への挨拶や、運営方針の説明は、和彦でなければできない。 とにかく、目が回るほど忙しい。一応、研修も兼ねて、先日雇い入れたばかりのスタッフも呼んではいるのだが、案内や受付の仕事を任せるのがせいぜいだ。結局和彦が、個別に招待客の応対をしている。 それでも、大半の招待客がブッフェ形式となっている料理を取り分け、飲食しつつ談笑を始める頃には、ようやく和彦も一息つける状況となる。 それを待っていたように、声をかけられた。「――佐伯先生」 聞き覚えのある声に、和彦はパッと振り返る。いつからそこにいたのか、窓際に置いたイスに由香が座っていた。 ロングブーツにミニスカート、丈の短いジャケットという服装は、防寒よりもオシャレを優先するという、若い女の子らしい気概がうかがえる。実際、若くて可愛い顔立ちがさらに溌剌として見えるのだ。 和彦は足早に由香に歩み寄った。「ありがとう。来てくれたんだね」 医者と患者として知り合った二人だが、今では互いの特殊な立場もあって通じ合うものがあり、限りなく友人に近い関係だ。 男の身で、長嶺組組長の〈オンナ〉である和彦も他人のことは言えないが、由香は、二十歳という若さで、昭政組組長の愛人なのだ。しかも、その立場を無邪気に楽しんでいる節すらある。「もちろん。なんといってもわたし、先生のクリニックの顧客第一号になるって決めてたんだから。だから、内覧会に招待してもらえて、嬉しかったんだよ」 由香に隣のイスを勧められ、和彦はやっと座ることができる。内覧会が始まってから、ずっと立ちっぱなしだったのだ。 思わず安堵の吐息を洩らすと、すかさずスタッフが、グラスに入ったオレンジジュースを持ってきてくれた。「正直、君を招待したいと言ったら、難波組長が気
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第15話(3)

「大丈夫よ。難波組長、もう先生のこと警戒してないから。バカ息子の鼻を治してあげたんでしょ?」 思いがけない由香の発言に、聞いていた和彦のほうがぎょっとしてしまう。由香は、やけに赤い舌をチロッと覗かせて笑った。「ナイショね、今言ったこと」「……ぼくだって命が惜しいからね」「わたしだって惜しいよ。だってここ、怖い人もけっこう来てるし」 由香の言葉の意味をすぐに理解し、和彦は小さく声を洩らす。由香は楽しそうに目を輝かせ、周囲を見回す。「難波組長と、ときどき一緒に飲んでいる人も、何人か来てるみたい。女の人たちのほうは、なんとなく水商売っぽいよね。奥さんを連れて来てる人もいるのかな」 内覧会の招待客は、大半が長嶺組の人脈によるもので、和彦はリストを見せられて頷いただけだ。美容外科クリニックを経営するとなれば、派手な広告は必要なくても、やはり患者を呼び込まなくてはならない。昼間の営業がカムフラージュだからこそ、健全で良心的なクリニックをアピールする必要があるのだ。 患者を選ぶなんてことはしたくないが――。和彦は、由香を倣って周囲を見回し、軽く息を吐き出す。 堅気でない患者であったとしても、堅気を装うことは簡単だ。昼間のクリニックに出入りしても怪しまれない程度の気遣いは、この場にいる人間たちはしてくれるだろう。 今日の内覧会は、それを和彦が知るためにも必要だったのかもしれない。意外に、ヤクザと堅気の境界線は曖昧で、不確定だ。「……クラブをいくつか経営している知り合いがいるんだ。彼に頼んで、うちのクリニックの営業活動をしてもらおうかな」「頼んじゃえ、頼んじゃえ。水商売の人たちの口コミってバカにできないよ。でも、佐伯先生ががんばらなくても、患者さんには不自由しないんじゃない?」 和彦が首を傾げると、由香はわずかに目を細めた。年相応の可愛い女の子の顔が、このときだけは年齢不詳の妖しい女の顔となる。「難波組長が言ってたの。このクリニックに期待してる人間は多いって。何かと物騒な世界だから、大きな組織がバックについていて、口が堅くて、しっかりした設備を自由に使えるお
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