「組からの仕事は、組同士で話を通してくれればいい。だけど君個人が相手なら、ぼくは喜んで相談に乗るよ。これでも美容外科医だから、専門的なアドバイスをしてあげられる」「愛される愛人でいるために?」 見た目は砂糖菓子のように甘い由香だが、言うことはなかなか辛辣だ。和彦が返事に困ると、由香は楽しそうに声を上げて笑った。 だがすぐに、ふと思い出したように傍らに置いた紙を取り上げた。受付で渡している、このクリニックのパンフレットだ。「ところで佐伯先生」「何?」「クリニックの名前、ちょっと地味すぎると思う。『池田クリニック』って……。池田って、ここの住所の池田町から取ったんでしょう?」 由香の指摘に、和彦は頷く。クリニックの名については、実はさほど悩まなかった。 和彦も、名義貸しに加担しているだけのクリニックの代表者も、表に堂々と名が出ることは望んでおらず、だからこそ無難に地名を使ったのだ。「わかりやすいだろ?」「えー、もっと派手なのにすればよかったのに。なんか横文字で、カッコイイの」「漠然としたイメージだな」 なんだか千尋と話しているみたいだなと思うと、つい由香との会話――というより、おしゃべりに引き込まれてしまう。 コロコロとよく笑う由香につられて、和彦も顔を綻ばせて話していたが、ふと、視線を感じる。何げなく視線を向けた先に、見知った人物が立っていた。 同様に由香も気づき、その人物に手を振った。「中嶋さーん、こっち、こっち」 由香が気軽に呼びかけると、中嶋は好青年そのものの笑顔を浮かべ、こちらにやってくる。 この場にいる男性たちの大半は、年齢も立場も中嶋より上のはずだが、それでも臆した様子はない。平均を上回るハンサムな顔立ちをした青年が、スーツ姿で颯爽と歩く様は、待合室に新鮮な風を運び込んでくれたようにも感じる。 和彦は隣のテーブルにグラスを置くと、立って中嶋を迎えた。「わざわざ来てくれてありがとう」 そう言って笑いかけようとした和彦だが、このとき心の中では、チクチクとした痛みを感じていた。棘が、良心に刺さ
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