「まだ退院できないのか?」「先生はもう大丈夫だと言っていたが、行き場がなくて……どうしようかと悩んでいたところなんだ」「行き場がない?君の犬じゃないのか?」音は力なく首を横に振った。「宗也は犬が嫌いだし、息子も嫌がっている」「なるほど」雅人は、まるの頭を優しく撫でた。「じゃあ、俺に預けてくれないか?とりあえず俺が預かるよ」「立花さんが?大丈夫?」「もちろん。うちは庭が広いから、犬の一匹くらい全く問題ない」「本当?嫌じゃないの?」音の沈んでいた瞳に、瞬く間に光が宿った。ついに、まるの行き先が見つかったのだ!「まさか。こんなに可愛いのに、嫌がるわけないだろう」雅人は冗談を言っているようには見えなかった。「春村先生に退院手続きを頼んでくるといい。このまま俺が連れて帰るよ」「ありがとう」音はすぐに退院の手続きを済ませた。二人は並んで動物病院を出た。そして一緒に、まるを車のトランクに乗せ、落ち着けるように整えた。雅人はトランクドアを閉めると、振り返って音を見た。「これから帰るのか?送っていくよ」「ううん、大丈夫。あんまり良くないと思うから」彼女の懸念は明白だった。家庭を持つ身として、あまり彼と親しくするのは良くないという判断だ。雅人は彼女を見つめた。その漆黒の瞳に、わずかな寂しさが滲む。「じゃあ、タクシーを拾いやすい場所まで送るよ。ここじゃタクシーがつかまらないから」音は周囲を見渡した。確かに、ここは流しのタクシーなど通りそうもない場所だ。彼女はそれ以上固辞せず、雅人の車に乗り込んだ。車が走り出す。先に沈黙を破ったのは音だった。「立花さん、今回は本当にありがとう。あなたがいなかったら、まるをどこへ送ればいいか分らなかった」雅人は長い指でハンドルを軽く叩きながら、リラックスした口調で言った。「礼なんていいよ。友達なんだし」「それでも、お礼は言わせてください」「音は本当に、借りは作りたくないタイプなんだな」雅人は薄く笑って彼女を一瞥した。「もし本当に感謝しているなら、一つ頼みを聞いてくれないか」「頼み?」音は身を乗り出した。恩返しができるなら、もちろん喜んで引き受けるつもりだ。「最近、時間はあるかな?パーティースーツをデザ
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