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第6話 ドラァグクイーンと新たな火種

last update Date de publication: 2025-10-21 20:00:00

 オンボロの装甲バギーで荒野を走ること半日。俺たちは、無法都市「ジャンクション・セブン」の巨大な、錆びついたゲートの前にたどり着いた。軌道戦争時代の高速道路の第7ジャンクション跡地に、難民やならず者たちが勝手に寄り集まってできた、連邦の法の光も届かない巨大なスラム街。だが、ここにはモノも、情報も、そして欲望も、世界中のあらゆるものが流れ着く。

「……ひどい場所ね」

 後部座席から、イリス・ソーンが吐き捨てるように言った。彼女のようなエリート様には、この街の混沌と活気、そして腐臭は我慢ならないだろう。

「アンタみたいな『お上』の人間にはな。だが、ここじゃ誰も身分なんて聞きやしない。重要なのは、腕っぷしか、金か、あるいは使える『情報』を持ってるかどうかだ」俺はそう言うと、ゲートの自警団に慣れた様子で少額のチップを渡し、バギーを街の中へと進めた。

 途端に、様々な言語の喧騒と、どこかの店から大音量で流れる音楽、そしてスパイスと機械油と得体の知れない何かが混じり合った独特の匂いが、俺たちを包み込んだ。空には無数のネオンサインが瞬き、そのけばけばしい光が、薄汚れた路地や、サイバネティクス化された体で闊歩する人々、そして路肩で怪しげな商品を広げる露天商たちを、まだらに照らし出している。助手席のエイダは、その混沌とした街の景色を、相変わらず無表情なまま、その蒼い瞳に映していた。

 俺たちが向かったのは、街の中心部でひときわ派手なネオンを輝かせている店、「パレス・プラム」だ。表向きは高級クラブだが、その実態は、このジャンクション・セブンを裏で牛耳る情報屋兼、違法な高利貸し、マダム・プラムの城だった。俺の借金の債権者でもある。

 店の中に一歩足を踏み入れると、外の喧騒が嘘のような、甘ったるい香水の匂いと、紫煙が漂う退廃的な空間が広がっていた。薄暗い照明の中、あちこちでけばけばしいドレスを着た女たちが、金のありそうな商人や、明らかに裏社会の人間と見える男たちに媚を売っている。その周囲を、体格の良い屈強な用心棒たちが鋭い目つきで監視していた。ジャズのような、しかしどこか気怠い音楽が低く流れている。俺は、その中をイリスとエイダを連れて、まるでモーゼが海を割るかのように、堂々と進んでいく。

「あら、ザッキーじゃない。久しぶりね、可愛い坊や」

 店の奥、VIP席に鎮座する、ひときわ巨大な影が、ねっとりとした声で俺を呼んだ。マダム・プラムだ。身長は二メートルを超え、ど派手なスパンコールのドレスと、完璧だが分厚い化粧に身を包んだ、この街の女王。その性別が男か女かなんて、この街じゃ誰も気にしない。

「プラム……」

「アタシのことはマダムとお呼びなさい」彼女は長い煙管をくゆらせながら、俺たちのことを見下ろしている。「で? 借金の返済に来てくれたのかしら? それとも、また新しい借金の相談?」

「どっちも、だ」俺は、意を決して言った。「アンタに、とびきりの『お宝』を持ってきた。こいつをさばく手伝いをしてくれれば、アンタへの借金なんざ、お釣りが出るぜ」

 俺は、隣に立つエイダを顎で示した。

 マダム・プラムの目が、初めて俺から逸れ、エイダへと注がれた。その目は、獲物を見つけた猛禽類のように、ギラリと欲に輝いた。彼女はその巨体でゆっくりと立ち上がると、エイダの周りを、まるで最高級の美術品を品定めするかのように、ぬらりぬらりと歩き始めた。その鋭い視線は、エイダの寸分の狂いもない顔立ちから、滑らかなボディライン、そして首筋に刻まれた「AIDA」という小さな刻印まで、まるでレントゲン写真でも撮るかのように、じっくりと舐め回すように観察していた。やがて、プラムはエイダの腕にそっと触れ、感嘆のため息を漏らした。

「……まあ。これは……とんでもない『遺物』を拾ってきたわね、ザッキー。ただのアンドロイドじゃない。軌道戦争時代の、それも最高機密レベルの……」

 彼女の目が、ギラリと欲に輝いた。

「いいわ。この話、乗った。アンタたちには部屋を用意させるから、アタシが最高の買い手を見つけてくるまで、そこで大人しくしてるのよ。いいわね?」

 その言葉には、逆らうことを許さない響きがあった。

 プラムが用意した部屋は、店の最上階にある、無駄に豪華なスイートルームだった。俺とイリスは、部屋の隅で静かに座っているエイダを挟んで、互いに警戒しながら向かい合っていた。

「……信用できる相手なの? あの人」イリスが、低い声で尋ねてきた。

「信用? ハッ、この街で一番しちゃいけねえ言葉だ。だが、腕は確かだよ。金になることならなんだってやる。今はそれに賭けるしかねえだろ」

「はぁ……、ただで済みそうもないわね。ダメ元で、私も応援を頼んでみるわ」と言って、イリスはため息をついた。

 俺たちの間に、重い沈黙が流れる。

 その頃、マダム・プラムは、自室の黄金の通信機で、二つの異なる暗号化回線に、立て続けに連絡を取っていた。

「……ええ、そうよ。間違いなく『本物』。軌道戦争時代の、極上のアンドロイドよ。興味あるでしょ、オムニテックさん? ……もちろん、お値段は勉強させてもらうわ。ただし、他にも欲しがってる方々がいるから、お早めにね」

 そして、もう一方の回線へ。

「……もしもし? そちら、イージス・セキュリティでよろしいかしら? あなたたちが血眼で探してる『遺物』、今、アタシが預かってるわよ。ええ、女性型のアンドロイド……。アタシの情報はいつでも確かよ。もちろん、情報料はそれなりにいただくけどね」

 プラムは、受話器を置くと、グラスの中のワインを満足げに一気に飲み干した。

「さあ、ショーの始まりよ……!」

 彼女の妖艶な笑みが、部屋の薄暗い照明に不気味に照らし出されていた。

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  • AIDA:残響のオービット   エピローグ

    ――数年後。「とうちゃん! とうちゃん! おはなし、きかせて!」  小さな手が、俺の服の裾をくいくいと引っ張る。ベッドに入る時間だというのに、息子のアレックスは、キラキラした目で俺を見上げていた。今日はたっぷり昼寝をしたらしく、夜だというのに元気いっぱいだ。「……アレックス、悪いけど今日は父ちゃん、疲れてるんだよ」  俺、ザック・グラナードは、苦笑しながら息子の頭を撫でた。  あの軌道エレベーターでの事件から、色々あった。イリスからの強い推薦もあり、俺はかつて敵対した地球再生局の、今ではその一員……査察官《エージェント》として世界中を飛び回っている。昨日までアフリカでとある「遺物」絡みの事件を追っていて、今日、二週間ぶりに我が家に帰ってきたばかりなのだ。身体の節々が、休息を求めて悲鳴を上げていた。「アレックス、お父さんは帰ってきたばかりなんだから、お話は明日にしなさい」  キッチンから、妻になったイリスの声がした。彼女にそう言われ、アレックスは少しだけ不満そうに唇を尖らせたが、すぐに何かを思いついたように顔を輝かせた。 「じゃあ、あしたね! あした、また、えいだのおはなし、きかせて!」 「……ああ、分かったよ」その無邪気な言葉に、俺は胸の奥が少しだけチクリと痛むのを感じながら、それでも笑顔で頷いた。アレックスは、俺が時折話して聞かせる、銀色の髪と蒼い瞳を持つ、勇敢で心優しいアンドロイドのお話が大好きなのだ。「明日、必ずお話を聞かせてやるから、今日はもう寝なさい」 「やったぁ!」  アレックスは満足そうに笑うと、自分の部屋へと駆けていった。 静かになったリビングで、俺は使い慣れた革張りのソファに深く身を沈めた。床には、アレックスが遊びっぱなしにしたのだろう、ブロックの玩具がいくつか転がっている。イリスが、温かいコーヒーの香りと共にマグカップを二つ持ってきて、俺の隣にそっと腰を下ろした。 「お疲れ様、ザック」 「ああ、ただいま」  俺たちは、多くを語らず、ただ静かにコーヒーを飲んだ。大きな窓の外には、ジャンクション・セブンのようなけばけばしいネオンはない、穏やかで温かい街

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  • AIDA:残響のオービット   第19話 別れ

     光学迷彩をまとったローウェルの影が、銃弾を受けて崩れ落ちる。静まり返った宇宙港に、俺の荒い息遣いだけが響いていた。 俺は、床に倒れているイリスに駆け寄った。 「……ザック。やったのね。……また、助けられたわね」 「お互い様だろ。それより大丈夫か? 良かったら肩を貸すぜ」 「ええ、なんとか。さっき薬も飲んだから大丈夫よ。……ところで、プラムは? 大丈夫なの?」  イリスの視線の先では、マダム・プラムが肩を撃たれたらしく、傷の痛みに顔をしかめ、呻いていた。 「まぁ、呻けるくらいの体力はあるってか」 「……あんた……ここで私が死んだら……借金は……チャラには……ならないわよ!」 「こんな時にも金かよ」俺は、その執念に苦笑いを浮かべながら、イリスに聞いた。「イリス、何か持ってないか?」  イリスは、ポケットから銀色のチューブを取り出した。「ほら、これを飲んで。リペア・ジェルよ」  プラムは、リペア・ジェルの味に顔をしかめつつも、そのジェルを飲み干した。 「……ありが……とう」 「少しここで休んでいれば、直に起き上がれるくらいには回復するわ」 「プラム、全部片付けてくるから、そこで待っててくれ」  プラムが頷いたのを確認すると、俺とイリスは、明かりの漏れている部屋──管制室へと向かった。管制室は一つ上の階にあり、俺たちは階段を駆け上がり、そのドアを開けた。 管制室は壁面に大きな窓があり、外──漆黒の宇宙や、眼下の青い地球──を見渡すことができた。部屋には複数のモニターやキーボードが並べられた机があり、大型の通信設備らしき装置も置かれている。しかし、エイダの胴体はここにはない。俺たちは、管制室の入り口とは別の、奥へと続く扉を開けて進んだ。 その部屋の中央。アームレスト付きの椅子に、エイダの胴体は座らされていた。そして、その首の上には、無機質なカメラレンズがいくつもついた、機械的な頭部のような物が乗せられている。これが、本来のエイダの頭部の代わりをしているであろうことが察せられた。 俺は、嫌悪感を隠しもせず、吐き捨てた。 「悪趣味な事をしやがる

  • AIDA:残響のオービット   第18話 決戦

    「イリス!!!」 俺の絶叫が、静まり返った宇宙港に響き渡った。後ろから聞こえた銃声。俺を庇うように覆いかぶさったイリスが、ゆっくりと俺の横に崩れ落ちる。彼女のアッシュカラーの髪の間から、赤い血が流れているのが見えた。「くそっ!」  俺は、彼女を抱えながら、銃撃があった方向──通路の入り口──を睨みつけた。だが、敵の姿は見えない。  その間にも、マダム・プラムはアサルトライフルを構え、銃撃のあった方向に向かって、牽制射撃を繰り返していた。 「くそっ! どこにいやがる! プラム! やつの姿を見たか?」俺はイライラしつつ、プラムに尋ねた。 「いいえ! アタシにも見えなかったわ!」(まさか、光学迷彩か?) 「プラム! ヤツは光学迷彩で姿を消しているかもしれん! 気をつけろ!」 「気をつけろって、どうすりゃいいってのよ?!」 このままでは、なぶり殺しにされるだけだ。俺は、気を失ったイリスの脈があることを確認すると、そっと彼女を壁際に寝かせた。そして、覚悟を決める。 (今ヤツを倒せなければ、妹の時のように、イリスまで死ぬ! 集中しろ! ザック!)  俺は自分の頬を両手で強く叩き、気合を入れた。「プラム、頼む! 牽制射撃をしてくれ!」 「って、どっちによ!?」  俺は目をつむった。  ……プラムの荒い息遣いも、遠くで響く電子音も、全てが遠ざかっていく……。意識の奥底で、神経が一本の研ぎ澄まされた針のようになっていくのを感じる……。  ほんの一瞬、闇の中に、人の形をした、熱の揺らぎのような「何か」の気配を感じ取れた気がした。「あっちだ!」俺は、銃撃が来た方向とは正反対の通路を指さした。「牽制射撃をしたら、その方向に走り出してくれ。その都度、俺が牽制射撃の指示を出す!」 「もう訳分かんないわね。まぁいいわ。このままじゃなぶり殺しにされるだけだしね。女は度胸よ!」 「それを言うなら、男は度胸だろ?」俺が呆れて言う。 「いちいちウルサイわね! やるの? やらないの!?」 「やるぞ……今だ!」  俺の声を

  • AIDA:残響のオービット   第17話 低層ステーション

     メンテナンス用エレベーターのドアが閉まると、俺たちを乗せた箱は静かに、しかし確かな速度で上昇を始めた。ガシュレーとジン、そしてイージス・セキュリティの仲間たちを残し、向かう先は軌道エレベーターの低層階層。そこには、ローウェル・ケインと、奪われたエイダの胴体が待っているはずだ。 エレベータの中は、駆動音以外は静かだった。俺は、リュックサックに入れたエイダの頭部を胸に抱き、壁に寄りかかる。イリスは、その隣にそっと腰を下ろした。「ザック、さっきはありがとう」彼女は、少し顔を赤らめつつ、礼を言った。「あなたの勘には、助けてもらってばっかりだわ」 その心からの言葉に、俺も照れくさくなった。「いやぁ、昔から勘は良い方でさ。ジャンク屋なんてヤクザな商売で生き残ってこれたのも、この勘あってのものだよ」「そういえば……」俺は、ずっと気になっていたことを尋ねた。「なんでイリスは地球再生局に入ったんだ? 何か事情があったみたいだが」 俺の問いに、イリスは少しだけ遠い目をして、静かな駆動音だけが響くエレベーターの中で、ぽつりぽつりと語り始めた。その声は、いつもより少しだけ低く、抑揚がなかった。「……私は古い鉱山町、レッドウォーター・クリークというところに生まれたの。少し汚染の影響が強いところで、原因不明の病に苦しんでいる人が多かったわ。十五歳だったかな、親友が『遺物』に触れて、それが爆発したの。それも、私の眼の前で……」 彼女の視線は、エレベーターの冷たい壁の、何もない一点を見つめていた。「親友はそれで亡くなって、私はしばらく塞ぎこんでいたわ。それから一ヵ月くらいして、この事故のために地球再生局の調査チームが来たの。私はできる限りその調査に協力したわ。それで、そのリーダーに言われたの。『君、このままこんな町で埋もれていていいのか? 君のその知識と覚悟があれば、もっと多くの人を救えるかもしれんぞ』って……。それで、地球再生局のエージェントになることを決意したの」「そうか……。イリスも、大切な人をなくしてたんだな&he

  • AIDA:残響のオービット   第16話 軌道エレベータの攻防

     不本意ながらプラムをチームに再び加えた俺たちは、息つく暇もなく、巨大な塔の入り口へと向かった。  内部は、空港のターミナルのように広大だった。だが、その静寂を破るように、警報と共に無数の戦闘ドローンが姿を現した! 犬型や、電磁リフトファンで浮遊する球状のドローンが、通路の奥から波のように押し寄せてくる!「くそっ! やはり待ち伏せか!」ガシュレーが叫ぶ。 「隊長、ここは俺たちに任せて先に進んでください! 奴らを食い止めます!」 「そうです! 早くメンテナンス用エレベータに向かってください!」  ガシュレーの部下であるライカーとソーニャが、ドローンの群れとの間に立ちはだかった。「こっちよ、ザッキー!」プラムが叫ぶ。彼女のガイドで俺たちはドローンの攻撃を掻い潜り、メンテナンス用エレベータへと走った。  エレベータを待つ間もドローンは執拗に襲いかかってくる。だが、ジン、イリス、そしてガシュレーの三人が、的確な射撃でそれらを次々と撃ち落としていく。 「早くエレベータに入れ!」ジンは最後まで俺たちを庇うようにドローンを迎撃し、最後に自身もエレベータに飛び込んだ。 上昇を始めたエレベータの中で、ガシュレーが悔しそうに呟いた。 「やはり、待ち伏せられていたか」 「そうだな。くそっ!」俺は悪態をついた。 「ザック、焦っても今は何もできないわ」イリスが、俺の肩にそっと手を置いた。「乗り換え地点まで、まだ40分以上ある。今は体を休めましょう」  彼女はそう言うと、壁を背に座り込んだ。 「……取り乱してすまない。俺も少し休む」俺は壁を背に座り、目を閉じた。 やがてエレベータが終点に着く。俺たちは待ち伏せを警戒し、扉が開くタイミングで銃を構えていたが、そこには誰もいなかった。静かな乗り換え用のステーションだ。 「で? どっちなんだ?」俺がプラムに聞くと、 「さぁ? 最初のエレベータでローウェルの野郎が裏切って私を撃ってきたから、私が知ってるルートはもう終わりよ」  その言葉に、俺たちは呆れるしかなかった。ガシュレーが、プラムの顎に銃口を突きつける。

  • AIDA:残響のオービット   第7話 傷跡と、重なる面影

     マダム・プラムが用意したスイートルームは、無駄に豪華で、そして息が詰まるほど静かだった。けばけばしい趣味のベルベットのソファ、壁にかかった出所不明の絵画、そして分厚いカーペットが、部屋の主の悪趣味と権力を同時に示しているようだった。窓の外からは、ジャンクション・セブンの喧騒とネオンの光が、防音ガラス越しにぼんやりと届いている。だが、この金色の鳥かごの中で、俺たちの間には重い沈黙が流れていた。「……じっとしてなさいよ」  イリスが、俺の左肩の傷口を消毒しながら、呆れたような、しかしどこか優しい声で言った。俺はシャツを脱ぎ、部屋のソファに腰掛けている。彼女は、手

  • AIDA:残響のオービット   第5話 荒野の戦い

    「断る。こいつは俺の獲物だ。誰にも渡す気はねえよ」  俺の言葉が、乾いた荒野の引き金になった。「……確保しろ」  イージス・セキュリティのリーダー格の男が短く命じると、傭兵たちが一斉にアサルトライフルを発射してきた!  ──ダダダダッ!「伏せろ!」  イリスの叫び声と同時に、俺はエイダを助手席の床に押し込み、自分も運転席のドアを盾にして身をかがめた。バギーの装甲に、弾丸がカンカンと甲高い音を立てて弾かれる! 「クソっ! やる気か、あいつら!」 「最初から交渉する気なんてなかったのよ!」

  • AIDA:残響のオービット   第4話 荒野の口論と囁く遺物

     オンボロの装甲バギーは、どこまでも続くかのような荒野をひた走っていた。昨夜の戦闘と脱出劇の興奮が冷め、車内には気まずい沈黙が流れている。俺は運転に集中し、後部座席の女エージェント──イリス・ソーンは、時折俺と、助手席に座るエイダを監視するように、鋭い視線を向けていた。「あなたのやっていることは無謀よ」  沈黙を破ったのは、イリスだった。その声は、冷静だが明確な非難を含んでいた。「あなたにも分かるはずよ。このアンドロイドは、いかにも機械的なデザインのものとは違う、明らかに高い技術を投入されて作られているわ。何ができるのか、分かったもんじゃないわ。それに、これを

  • AIDA:残響のオービット   第3話 それぞれの理由

     オンボロの装甲バギーは、軌道戦争が残した広大な傷跡──見渡す限り赤茶けた大地が広がる荒野をひた走っていた。かつてここにあったであろう街や森は跡形もなく、時折、奇妙にねじれた植物や、3本足のビッグホーンシープ、風化してねじ曲がった金属の残骸が、墓標のように突き出しているだけだ。さきほどの戦闘と脱出劇の興奮が冷め、車内には気まずい沈黙が流れている。  俺は運転に集中し、後部座席の女エージェント──イリス・ソーンは、リストバンド型のスマホで何やらメッセージをやり取りしていた後、唐突に「また応援は出せないって? ……いい加減にしてほしいわね」と悪態をついた後、コホンと咳払いをした後

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