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第3話 それぞれの理由

last update 最終更新日: 2025-10-18 20:00:34

 オンボロの装甲バギーは、軌道戦争が残した広大な傷跡──見渡す限り赤茶けた大地が広がる荒野をひた走っていた。かつてここにあったであろう街や森は跡形もなく、時折、奇妙にねじれた植物や、3本足のビッグホーンシープ、風化してねじ曲がった金属の残骸が、墓標のように突き出しているだけだ。さきほどの戦闘と脱出劇の興奮が冷め、車内には気まずい沈黙が流れている。

 俺は運転に集中し、後部座席の女エージェント──イリス・ソーンは、リストバンド型のスマホで何やらメッセージをやり取りしていた後、唐突に「また応援は出せないって? ……いい加減にしてほしいわね」と悪態をついた後、コホンと咳払いをした後何もなかったように、俺と助手席に座るアンドロイドを監視するように、鋭い視線を向けていた。

 当のアンドロイドは、ただ静かに、窓の外を流れる荒涼とした景色を眺めている。その美しい横顔からは、何の感情も読み取れない。

 数時間、そんな状態が続いた後、不意に彼女が口を開いた。その声は、相変わらず感情の起伏がない、澄んだ声だった。

「……ココは私の知る北米とは異なります。……現在位置を教えてください」

「現在位置、ねぇ」俺はバックミラーで彼女を見ながら、自嘲気味に笑った。「地獄のど真ん中、とでも言っておくか。北米グレートプレーンズ放射線地帯の、まだマシな方の外れだよ」

 すると、後部座席のイリスが、俺の言葉を補足するように、冷静な声で説明を始めた。

「正確には、統一歴64年現在の、旧カンザス州セクター4。軌道戦争によって、この一帯は広範囲に汚染されました」

「軌道戦争……? 私の記録には、その戦争のデータがありません」

「だろうな。お前さん自身が、その戦争の真っ只中に作られた『遺物』なんだからな」俺は、少し皮肉を込めて言った。

「軌道戦争ってのは、要するに超大国と呼ばれた国々が、十年も続けたクソみてえな世界大戦だよ。おかげで地球の十分の一は汚染されて、俺たちみてえなジャンク屋が、あんたみたいな『遺物』を漁って暮らす羽目になったのさ」

 俺の乱暴な説明に、イリスが眉をひそめながら、さらに公式な見解を付け加える。

「軌道戦争によって、それまでの国家体制は事実上崩壊したわ。北米――アメリカは国ではなく、連邦政府の北米管区に属する一地域になったわ」

 アンドロイドは、それらの情報をインプットし、整理するかのように、再び沈黙に戻った。

「……情報を受理。理解しました」

 彼女は短く告げると、今度は俺とイリスに交互に視線を向け、続けた。

「では次の質問を。識別名ザック・グラナード、識別名イリス・ソーン。あなた方の目的は何ですか? なぜ私は、あなた方と行動を共にしているのですか?」

 イリスが、すっと息をのんだのが分かった。彼女は答えようとして、しかし言葉に詰まっているようだ。任務内容は機密だろうし、俺のような男に話すわけにもいかないのだろう。俺は、ハンドルを握り直し、バックミラー越しにイリスを一瞥した。

「あんたは地球再生局のエージェントだろ?」

 俺の言葉に、イリスの肩がわずかに揺れた。

 アンドロイドが、俺の言葉に反応して尋ねる。「地球再生局……? 私の記録には、そのデータもありません」

「さっきも言ったが、軌道戦争で地球のあちこちが汚染された地域ができたんだが、そういった場所はたいてい過去の基地や研究所なんかがあってな。汚染地域の再生管理をやってるのが、地球再生局さ。そんでイリスは、俺みたいな『遺物』を探して汚染地域に入ってくる連中を取り締まったり、危険な『遺物』を回収するのが仕事ってわけだ」

 俺の、あまりに的確で、そして皮肉の込められた説明に、イリスは苦虫を噛み潰したような顔をして黙り込んだ。

 俺は、ふんと鼻を鳴らして続けた。「で、俺の目的は、単純明快さ。金だよ、金。それも、山ほどのな」

「金……」

「ああ。俺には、とんでもない額の借金があるんでな。あんたは、その借金を一発でチャラにしてくれる、最高のお宝ってわけだ。だから俺は、あんたを一番高く買ってくれる奴に売り飛ばす。ただそれだけのことさ。一週間以内に利子だけでも払わないと、マダム・プラムにどんな目に遭わされるか……分かったもんじゃないんでな」

 アンドロイドは、その蒼い瞳でじっと俺を見つめていた。

「『借金』……。その目的を達成することは、あなたにとって、私の機能や存在そのものよりも優先される事項なのですか?」

「……当たり前だろ」俺は吐き捨てた。「これは、死んだ妹との……いや、何でもない」

 口が滑った。妹のことなど、話すつもりはなかった。

「……妹?」イリスが、少しだけ声のトーンを変えて尋ねてきた。

「……あんたには関係ない」

「関係なくはないわ」彼女は、静かだが強い口調で言った。「あなたの借金の理由……それが、あなたがあのアンドロイドをどう扱うかに関わるのなら、それは私の任務にも関わることよ」

 車内に、重い沈黙が落ちる。俺はしばらく前方の荒野を見つめたまま黙っていたが、やがて諦めたように、ふっと息を吐き、バックミラーに映る自分のやつれた顔から目をそらしながら、ぽつりぽつりと語り始めた。

「……妹がいたんだ。軌道戦争後の汚染が原因で、難病に罹ってな。治療には、目の玉が飛び出るような金が必要だった。俺は、マダム・プラム……高利貸しから金を借りて、治療に望みを繋いだけど……結局、ダメだった。妹は死んで、俺の手元には、どうやったって返せねえ額の借金だけが残ったってわけさ」

 言い終えると、車内は再び静寂に包まれた。バックミラーに映るイリスの顔から、先ほどまでの厳しい表情が消えているのが見えた。その瞳には、軽蔑ではなく、何か別の、理解と……そして、わずかな同情のような色が浮かんでいた。彼女もまた、この世界の理不尽さの中で、何かを失ってきたのかもしれない。

 そんな重い空気を破ったのは、またしても、アンドロイドの静かな声だった。

「……マスターユーザー、ザック・グラナード。あなたの目的と背景情報をインプットしました。私は、あなたの命令に従い、あなたの安全を最優先します。」

 彼女は俺を真っ直ぐに見つめると、続けた。

「それで、マスターユーザー。私はなんと呼称されるべきですか? 型番は……」

「……」俺は、彼女の問いに、何と答えていいか分からなかった。「首の『AIDA』ってのは何だ?」

 俺がそう尋ねると、アンドロイドはゆっくりとこちらを向いた。その蒼い瞳が、俺を真っ直ぐに見つめる。彼女はしばらく何かを思考するように数回瞬きを繰り返し、そして、それまでの無機質な音声合成とは明らかに違う、ほんの少しだけ揺らぎのある、柔らかな響きで、こう言った。

「……私の識別名称は、AIDA。……ですが、エイダと、呼んでください」

 その言葉に、俺は少しだけ驚いた。それは、プログラムされた応答ではない、彼女自身の「願い」のように聞こえたからだ。

「……エイダ、か」俺は小さくその名を呟いた。

 後部座席で、イリスが息をのむ気配がした。彼女もまた、このアンドロイドが初めて見せた「人間らしさ」の片鱗に、何かを感じ取ったのかもしれない。

 車内には、再び走行音だけが響く。だが、先ほどまでの気まずい沈黙とは、明らかに何かが変わっていた。助手席にいるのは、もはや単なる「お宝」や「遺物」ではない。エイダという「名前」を持つ、謎めいた存在だった。

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最新チャプター

  • AIDA:残響のオービット   エピローグ

    ――数年後。「とうちゃん! とうちゃん! おはなし、きかせて!」  小さな手が、俺の服の裾をくいくいと引っ張る。ベッドに入る時間だというのに、息子のアレックスは、キラキラした目で俺を見上げていた。今日はたっぷり昼寝をしたらしく、夜だというのに元気いっぱいだ。「……アレックス、悪いけど今日は父ちゃん、疲れてるんだよ」  俺、ザック・グラナードは、苦笑しながら息子の頭を撫でた。  あの軌道エレベーターでの事件から、色々あった。イリスからの強い推薦もあり、俺はかつて敵対した地球再生局の、今ではその一員……査察官《エージェント》として世界中を飛び回っている。昨日までアフリカでとある「遺物」絡みの事件を追っていて、今日、二週間ぶりに我が家に帰ってきたばかりなのだ。身体の節々が、休息を求めて悲鳴を上げていた。「アレックス、お父さんは帰ってきたばかりなんだから、お話は明日にしなさい」  キッチンから、妻になったイリスの声がした。彼女にそう言われ、アレックスは少しだけ不満そうに唇を尖らせたが、すぐに何かを思いついたように顔を輝かせた。 「じゃあ、あしたね! あした、また、えいだのおはなし、きかせて!」 「……ああ、分かったよ」その無邪気な言葉に、俺は胸の奥が少しだけチクリと痛むのを感じながら、それでも笑顔で頷いた。アレックスは、俺が時折話して聞かせる、銀色の髪と蒼い瞳を持つ、勇敢で心優しいアンドロイドのお話が大好きなのだ。「明日、必ずお話を聞かせてやるから、今日はもう寝なさい」 「やったぁ!」  アレックスは満足そうに笑うと、自分の部屋へと駆けていった。 静かになったリビングで、俺は使い慣れた革張りのソファに深く身を沈めた。床には、アレックスが遊びっぱなしにしたのだろう、ブロックの玩具がいくつか転がっている。イリスが、温かいコーヒーの香りと共にマグカップを二つ持ってきて、俺の隣にそっと腰を下ろした。 「お疲れ様、ザック」 「ああ、ただいま」  俺たちは、多くを語らず、ただ静かにコーヒーを飲んだ。大きな窓の外には、ジャンクション・セブンのようなけばけばしいネオンはない、穏やかで温かい街

  • AIDA:残響のオービット   第20話 夜明け

     ――エクアドル地球連邦軍本部  深夜を過ぎた時間にも関わらず、エクアドル地球連邦軍本部の司令室は、怒号と耳障りな警告音が絶え間なく飛び交い、戦場さながらの混乱に陥っていた。オペレーターたちは青ざめた顔でモニターを睨みつけ、懸命にキーボードを叩いている。「ゼータ・プライムからの違法な信号を追跡しろ! 発信源はどこだ!」 「太平洋上の無人環礁が消滅! 衝撃波による津波が発生、周辺航路に警報を!」 「緊急会議のメンバーはまだそろわないのか!」 「こんな時に、悠長なことを言っている場合か!」 制服を着た士官たちが、怒鳴り合うように報告を交わしていた。  世界中のモニターが、ローウェル・ケインと名乗る男によってジャックされ、彼が軌道上から行った「デモンストレーション」という名の破壊行為を見せつけられたのだ。世界は、たった一人の男によって、再び軌道戦争時代の恐怖へと引きずり込まれようとしていた。 そんなパニックの最中、一人のレーダー監視員が、信じられないといった声で叫んだ。 「ゼータ・プライムからの信号が……途絶! 発信が停止しました!」  さらに、量子インターネット回線を監視していた職員も、驚きの声を上げる。 「旧時代の兵器ネットワークへの、ゼータ・プライムからの不正なアクセスも、全て停止しました!」 「……何が起きたんだ? ……まさか、奇跡でも起きたというのか……?」  司令室の誰もが、何が起こったのか理解できず、ただ沈黙したモニターを見つめるしかなかった。 ――同時刻、低層ステーション・宇宙港  俺とイリスは、管制室の巨大な窓から、静かに浮かぶ青い地球を、ただ黙って眺めていた。 「ザック……。これで、うまく行ったのかしら?」イリスが、不安そうに俺の横顔を見上げた。 「さあな、でも地球を見る限り、まだ派手な戦争は起きてないようだ」  俺は、蒼く美しい地球を見ていると、なぜか、エイダのあの蒼い瞳を思い出し、ふと涙がこぼれそうになった。  どれだけそうしていただろう。大した時間ではないのかもしれない。しかし、ふと気づくと、地球の縁

  • AIDA:残響のオービット   第19話 別れ

     光学迷彩をまとったローウェルの影が、銃弾を受けて崩れ落ちる。静まり返った宇宙港に、俺の荒い息遣いだけが響いていた。 俺は、床に倒れているイリスに駆け寄った。 「……ザック。やったのね。……また、助けられたわね」 「お互い様だろ。それより大丈夫か? 良かったら肩を貸すぜ」 「ええ、なんとか。さっき薬も飲んだから大丈夫よ。……ところで、プラムは? 大丈夫なの?」  イリスの視線の先では、マダム・プラムが肩を撃たれたらしく、傷の痛みに顔をしかめ、呻いていた。 「まぁ、呻けるくらいの体力はあるってか」 「……あんた……ここで私が死んだら……借金は……チャラには……ならないわよ!」 「こんな時にも金かよ」俺は、その執念に苦笑いを浮かべながら、イリスに聞いた。「イリス、何か持ってないか?」  イリスは、ポケットから銀色のチューブを取り出した。「ほら、これを飲んで。リペア・ジェルよ」  プラムは、リペア・ジェルの味に顔をしかめつつも、そのジェルを飲み干した。 「……ありが……とう」 「少しここで休んでいれば、直に起き上がれるくらいには回復するわ」 「プラム、全部片付けてくるから、そこで待っててくれ」  プラムが頷いたのを確認すると、俺とイリスは、明かりの漏れている部屋──管制室へと向かった。管制室は一つ上の階にあり、俺たちは階段を駆け上がり、そのドアを開けた。 管制室は壁面に大きな窓があり、外──漆黒の宇宙や、眼下の青い地球──を見渡すことができた。部屋には複数のモニターやキーボードが並べられた机があり、大型の通信設備らしき装置も置かれている。しかし、エイダの胴体はここにはない。俺たちは、管制室の入り口とは別の、奥へと続く扉を開けて進んだ。 その部屋の中央。アームレスト付きの椅子に、エイダの胴体は座らされていた。そして、その首の上には、無機質なカメラレンズがいくつもついた、機械的な頭部のような物が乗せられている。これが、本来のエイダの頭部の代わりをしているであろうことが察せられた。 俺は、嫌悪感を隠しもせず、吐き捨てた。 「悪趣味な事をしやがる

  • AIDA:残響のオービット   第18話 決戦

    「イリス!!!」 俺の絶叫が、静まり返った宇宙港に響き渡った。後ろから聞こえた銃声。俺を庇うように覆いかぶさったイリスが、ゆっくりと俺の横に崩れ落ちる。彼女のアッシュカラーの髪の間から、赤い血が流れているのが見えた。「くそっ!」  俺は、彼女を抱えながら、銃撃があった方向──通路の入り口──を睨みつけた。だが、敵の姿は見えない。  その間にも、マダム・プラムはアサルトライフルを構え、銃撃のあった方向に向かって、牽制射撃を繰り返していた。 「くそっ! どこにいやがる! プラム! やつの姿を見たか?」俺はイライラしつつ、プラムに尋ねた。 「いいえ! アタシにも見えなかったわ!」(まさか、光学迷彩か?) 「プラム! ヤツは光学迷彩で姿を消しているかもしれん! 気をつけろ!」 「気をつけろって、どうすりゃいいってのよ?!」 このままでは、なぶり殺しにされるだけだ。俺は、気を失ったイリスの脈があることを確認すると、そっと彼女を壁際に寝かせた。そして、覚悟を決める。 (今ヤツを倒せなければ、妹の時のように、イリスまで死ぬ! 集中しろ! ザック!)  俺は自分の頬を両手で強く叩き、気合を入れた。「プラム、頼む! 牽制射撃をしてくれ!」 「って、どっちによ!?」  俺は目をつむった。  ……プラムの荒い息遣いも、遠くで響く電子音も、全てが遠ざかっていく……。意識の奥底で、神経が一本の研ぎ澄まされた針のようになっていくのを感じる……。  ほんの一瞬、闇の中に、人の形をした、熱の揺らぎのような「何か」の気配を感じ取れた気がした。「あっちだ!」俺は、銃撃が来た方向とは正反対の通路を指さした。「牽制射撃をしたら、その方向に走り出してくれ。その都度、俺が牽制射撃の指示を出す!」 「もう訳分かんないわね。まぁいいわ。このままじゃなぶり殺しにされるだけだしね。女は度胸よ!」 「それを言うなら、男は度胸だろ?」俺が呆れて言う。 「いちいちウルサイわね! やるの? やらないの!?」 「やるぞ……今だ!」  俺の声を

  • AIDA:残響のオービット   第17話 低層ステーション

     メンテナンス用エレベーターのドアが閉まると、俺たちを乗せた箱は静かに、しかし確かな速度で上昇を始めた。ガシュレーとジン、そしてイージス・セキュリティの仲間たちを残し、向かう先は軌道エレベーターの低層階層。そこには、ローウェル・ケインと、奪われたエイダの胴体が待っているはずだ。 エレベータの中は、駆動音以外は静かだった。俺は、リュックサックに入れたエイダの頭部を胸に抱き、壁に寄りかかる。イリスは、その隣にそっと腰を下ろした。「ザック、さっきはありがとう」彼女は、少し顔を赤らめつつ、礼を言った。「あなたの勘には、助けてもらってばっかりだわ」 その心からの言葉に、俺も照れくさくなった。「いやぁ、昔から勘は良い方でさ。ジャンク屋なんてヤクザな商売で生き残ってこれたのも、この勘あってのものだよ」「そういえば……」俺は、ずっと気になっていたことを尋ねた。「なんでイリスは地球再生局に入ったんだ? 何か事情があったみたいだが」 俺の問いに、イリスは少しだけ遠い目をして、静かな駆動音だけが響くエレベーターの中で、ぽつりぽつりと語り始めた。その声は、いつもより少しだけ低く、抑揚がなかった。「……私は古い鉱山町、レッドウォーター・クリークというところに生まれたの。少し汚染の影響が強いところで、原因不明の病に苦しんでいる人が多かったわ。十五歳だったかな、親友が『遺物』に触れて、それが爆発したの。それも、私の眼の前で……」 彼女の視線は、エレベーターの冷たい壁の、何もない一点を見つめていた。「親友はそれで亡くなって、私はしばらく塞ぎこんでいたわ。それから一ヵ月くらいして、この事故のために地球再生局の調査チームが来たの。私はできる限りその調査に協力したわ。それで、そのリーダーに言われたの。『君、このままこんな町で埋もれていていいのか? 君のその知識と覚悟があれば、もっと多くの人を救えるかもしれんぞ』って……。それで、地球再生局のエージェントになることを決意したの」「そうか……。イリスも、大切な人をなくしてたんだな&he

  • AIDA:残響のオービット   第16話 軌道エレベータの攻防

     不本意ながらプラムをチームに再び加えた俺たちは、息つく暇もなく、巨大な塔の入り口へと向かった。  内部は、空港のターミナルのように広大だった。だが、その静寂を破るように、警報と共に無数の戦闘ドローンが姿を現した! 犬型や、電磁リフトファンで浮遊する球状のドローンが、通路の奥から波のように押し寄せてくる!「くそっ! やはり待ち伏せか!」ガシュレーが叫ぶ。 「隊長、ここは俺たちに任せて先に進んでください! 奴らを食い止めます!」 「そうです! 早くメンテナンス用エレベータに向かってください!」  ガシュレーの部下であるライカーとソーニャが、ドローンの群れとの間に立ちはだかった。「こっちよ、ザッキー!」プラムが叫ぶ。彼女のガイドで俺たちはドローンの攻撃を掻い潜り、メンテナンス用エレベータへと走った。  エレベータを待つ間もドローンは執拗に襲いかかってくる。だが、ジン、イリス、そしてガシュレーの三人が、的確な射撃でそれらを次々と撃ち落としていく。 「早くエレベータに入れ!」ジンは最後まで俺たちを庇うようにドローンを迎撃し、最後に自身もエレベータに飛び込んだ。 上昇を始めたエレベータの中で、ガシュレーが悔しそうに呟いた。 「やはり、待ち伏せられていたか」 「そうだな。くそっ!」俺は悪態をついた。 「ザック、焦っても今は何もできないわ」イリスが、俺の肩にそっと手を置いた。「乗り換え地点まで、まだ40分以上ある。今は体を休めましょう」  彼女はそう言うと、壁を背に座り込んだ。 「……取り乱してすまない。俺も少し休む」俺は壁を背に座り、目を閉じた。 やがてエレベータが終点に着く。俺たちは待ち伏せを警戒し、扉が開くタイミングで銃を構えていたが、そこには誰もいなかった。静かな乗り換え用のステーションだ。 「で? どっちなんだ?」俺がプラムに聞くと、 「さぁ? 最初のエレベータでローウェルの野郎が裏切って私を撃ってきたから、私が知ってるルートはもう終わりよ」  その言葉に、俺たちは呆れるしかなかった。ガシュレーが、プラムの顎に銃口を突きつける。

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