*** 平日の夜遅くに現れた宮本の姿に、橋本は心の中で歓喜した。きっと、一緒に住めるマンションを見つけたに違いない。 そう思ったゆえに、弾んだ声で話しかける。「雅輝、よく来たな。泊まってくのか?」「あ、泊まらないです、けど……。むぅ」 どこか歯切れの悪さを感じさせる返事に、首をかしげてしまった。「だったら、何しに来たんだ?」 変な質問をした自分にハッとしつつも、困り顔を決め込む恋人から目が離せない。「あのですね、陽さんのご実家に、挨拶に伺ったほうがいいんじゃないかと思って。そのまま一緒に住むのに、どうにも抵抗が……」「お前がわざわざ、挨拶するまでもない。家には、友達とルームシェアすると言ってあるし」「ルームシェア……」「しょうがないだろ。それ以外の言葉が見つからなかった」 いつかは、結婚するための同棲――実家に事実を突きつけることを躊躇った橋本を見て、宮本はさらに渋い表情になった。「俺みたいのが相手じゃ、堂々とご実家に連れて行くのには、戸惑いがありますよね」「違うって、そんなことあるわけないだろ」「じゃあどうして陽さんのご実家に、俺が挨拶しに行ったら駄目なんですか?」 悲壮感漂う宮本の声が、玄関の中に響いた。多分、外にも漏れていると思える、とても大きな声だった。「それはだな、お前がどうこういう話じゃなくて、俺自身の問題があるんだ」 宮本が漂わせる雰囲気に飲まれて、今度は橋本の返事がえらく歯切れの悪いものになった。「陽さんの問題?」「親に会わせる、俺の決心が足りない……」 定まらない視線をそのままに、震える声で橋本が告げると、宮本はがっくりと項垂れるように首をもたげた。「……それはいつになったら、決心がつくんですか?」 しばしの間ののちに告げられた問いかけに、彷徨わせていた視線を宮本に合した。橋本に目を合わせないようにするためなのか、俯いた状態で、玄関にある靴を意味なく眺める。
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