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All Chapters of BL小説短編集: Chapter 41 - Chapter 50

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両片思い13

「坊ちゃんの誤解を解きたい」「何だよ、いきなり」 不機嫌な感情を表す声を聞きながら、自分の手首を掴んでいる壮馬の手の甲を、反対の手ですりりと撫でてやった。「確かに隣の課の女性には、よく話しかけられていた。その理由は新入社員のお前に、一番深くかかわっている上司だからだ」「イケメンで仕事のできる、白鷺課長を狙ったんじゃなく?」「ああ。会社の次期社長候補であるお前の情報を仕入れるために、俺に接触してるってところさ」「ケッ! くだらない。そんなもん、さっさとあしらえばいいだろ」 掴んでいる俺の手首を放そうと力が緩んだのが分かったので、甲を撫でていた手で壮馬の手をぎゅっと握りしめた。「可愛い部下に変な虫がつかないようにするのも、上司の役目だろ」 俺に手を捕まれて自由を奪われても、抗うことなくそのままでいてくれる。こういう素直なところも、大好きだった。「その言い方、色気がねぇな。そこは上司じゃなく、恋人にしてほしかった」 顔を俯かせて見えないようにしているのは、頬の赤みを見せないようにしているためだろうか? そんなことをしても、見下ろす形で目の前に立ってる俺からは、壮馬の顔は見放題だというのに。「とりあえず、適当な嘘ばかり教えておいた。彼女に激辛ラーメンを食べに行こうと誘われたら、思いっきり不機嫌丸出しの顔で断ってくれると、俺の苦労が報われるんだが」「課長がそんな意地悪なことをしてるなんて、全然思わなかった。俺ってば実は、ものすごく愛されちゃってる感じ?」 首をもたげたまま、視線だけ上げて俺を見つめる。窺うように投げかけてくるそれに『そうだ』と答えたいけれど、コイツのために俺は自分の気持ちを伝えられない。「さあな……」 言いながら壮馬の手を解放してやる。そのタイミングで掴んでいた俺の手首を放し、テーブルに置かれたグラスを持つ。「答えが分かってるのに、どうして同じことを聞いちゃうんだろ……。バカみたいだ」 どこか泣きだしそうな壮馬の微笑を前にして、秘めた想いが喉元まで出かかる。 それを止めるために、口元を引き締めながら壮馬の手からグラスを奪い、中身を半分だけ口に含んで、グラスをテーブルに置いた。「課長、自分のワインがなくなったからって、俺のをとることないだろ。空いたグラスに注いで、好きなだけ飲めばいいのに」 顔を上げて、射るようなまなざ
last updateLast Updated : 2025-11-24
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両片思い14

☆∮。・。・★。・。☆・∮。・★・。「あ……っは…ぁ、ん…っ」 したたかに酔った勢いをそのままに、ベッドに全裸で横たわって、熱く火照った躰を慰めていた。「ぁあ…ふ…ぁも…いれてっ…壮馬、んっ…は…ぁっ……!」 自分の指じゃ物足りない。もっと太くて固いのが欲しい。しかも奥深くに――。「あっ…ぅんっ、もっとっぉ」 室内に響くローションの卑猥な水音が大きくなっても、中途半端な快感ではなかなか満たされなかった。「おいおい、ワインのボトルを全部飲み干して…ってちょっ! いきなり何やらかしてるんだよ!?」 ベッドルームに入るなり、変な声をあげた壮馬の顔は、一瞬で真っ赤に変わった。「お前っ、俺のおっ、オナニー……、見たがっていただ、ろ。わざわざ見せつけてやってる、んだ」 煌々と照明が照らし出す下で、繋がるところが見えるようにわざと見せつけつつ、舌なめずりをした。 早く来いと言わんばかりの態度で煽る俺を見た壮馬は、小さなため息をついてから、大事な部分に挿れっぱなしになってる指を引き抜く。「課長の指3本じゃ、馴らしたことに全然ならないだろ。これじゃあ俺のが挿いらない」「馴らしてる最中だったんだ」「その割に感じて、変な声を出してなかったっけ?」 言うなり、ごつい指を何本も一気に挿れる。「ふ、くぅっ!」「ただでさえ課長の中はキツいのにちゃんと馴らさないと、お互い痛いだけだろ」 中で蠢く指を感じながら、荒い呼吸をやっと繰り返した。「指じゃなく、壮馬のが欲しぃっ…あっん…」「分かってるって。ああ、もう。酔っぱらった課長なんて、抱きたくないのに。俺の身が持たねぇよ」「酔っ払いでっ…悪かった、な」 気持ちのいいところが分かっているんだろう。壮馬の指がそこを執拗に突くせいで、感じるたびに腰を仰け反らしながら、両足でシーツを蹴りまくった。「あっ、もぉいいだろ、早くお前のを挿れて」「ワインを空っぽにしたり、こんなふうに淫らになるなんて変だ。なんでこんなにヤケになってんだよ、らしくねぇな」 俺の心情を言い当てた壮馬の言葉に、顔を横に向けて視線を逸らした。それを合図にしたのか指を抜いて、隣に横たわりながら躰をぎゅっと抱きしめる。「壮馬、せっかくいいところなのに、水を差すようなことを言うな。ヤル気が失せるだろ」「……親父が課長に見合いの話をしたこと、も
last updateLast Updated : 2025-11-25
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両片思い15

「酔っ払いのオナニー見ても、俺は興奮しねぇよ」 「お前の手で散々弄って、俺の感じてるところだって見てるはずなのに」 壮馬は、俺の乱れたところを見るのが好きだった。それなのにどうして――。 「何度も肌を重ねてるから分かってるのに。鉄平が思うほど、俺はもう子どもじゃない。下手な芝居して騙すのは、いい加減に勘弁してくれよ」 「騙してなんていない……」 頬が痙攣するように引きつり、微笑みが崩れていくのが分かった。一生懸命に笑おうとしてるのに、目の前にいる壮馬の顔が、水の中に入ったみたい歪んでいく。 「俺に嫌われようと、必死こいてるみたいだけどさ。こんなにも鉄平が好きなのに、今さら嫌いになんてなれるわけがない」 あたたかい手が、流れる涙を拭っていく。それなのにとめどなく溢れるせいで、拭ったそばから頬を濡らした。 「これって、俺が泣かしたことになるんだろうな。喘がせながら啼かせたかったのに」 「よく、言うよ……。バカ!」 自分の腕を使ってゴシゴシ涙を拭った。こんなふうに泣いたのは、何年ぶりだろうか。 そんなことを考えていたら、壮馬の唇が目尻に当てられた。 「やっぱり涙はしょっぱい。だけど鉄平の涙はその中に、別な何かを感じる」 「壮馬?」 湿った頬に、優しいキスがたくさん落とされる。まるで涙のあとを辿るように。 「ンっ、くすぐったい」 肩を竦めると、耳元に顔を寄せてきた。 「どうしたら別の何かを、鉄平の口から聞き出すことができるんだろう?」 言うなり首筋に舌が這わされる感触を、肌で感じた。 時おりちゅっと吸われる甘い衝撃に、吐息を吐きながら躰をビクつかせた。 「何を考えているんだよ。躰はこんなにも俺を欲しがって正直なのに、鉄平が何を考えているのか、さっぱり分からない。なぁ教えて」 まるで俺の心に訊ねるように、壮馬の手のひらが胸の真ん中を撫で擦る。 「…………」 「俺はどんなことがあっても、鉄平と別れない。将来何かがあって、両親と鉄平のどちらかを選ぶ運命になったら、親を捨てることになるけど、迷わずに鉄平を選ぶ」 断言する言葉を吐いた壮馬をじっと見つめながら、考えを払いのけるように首を横に振った。 「そんなの駄目に決まってる。お前は知らないんだ。捨てられた家族の気持ちを。見捨てられた相手の気持ちを知らないから、無責
last updateLast Updated : 2025-11-26
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両片思い16

「宥めるよりも、キスがしたい」「なっ!?」「俺を好きって言ったその唇を塞いで、愛を確かめたい」 壮馬の手によって思いっきり潰された顔の状態で、噛みつくようなキスをされた。「っぐ、う……」 荒っぽい行為自体は嫌いじゃない。抑えきれない情熱をそのままぶつけられているのを感じて、同じように興奮することができる。 だが壮馬の場合は熱が入りすぎると、力も同時に入るせいで、ただ痛いだけの行為に成り下がるという、悲しい流れになってしまうことがしばしばあった。 以前の俺なら興醒め覚悟で目をつぶって続行させていたが、胸の内を晒してしまった今なら、教育的な指導も可能だ。(まずは手始めに、痛いくらいに顔を潰している手を外すところから――) がしっと壮馬の両手首を掴んで、ギリギリと握りしめながら横に引っ張った。「いてぇよ!」「それはこっちのセリフだ。よくも俺の顔を潰してくれたな!」 唇の横から漏れ出た、どちらのものとも分からないヨダレを拭ってから、痛む頬を撫で擦る。あと1分同じことをされたら、顔が変形していたかもしれない。「そんなに痛かったのかよ?」「何なら実体験させてやろうか」 素早く起き上がり、壮馬の頬を両手で包み込んでやった。「ごめんって。悪気はなかったんだ」「悪気がなければ、何をしてもいいのか? キスされる快感よりも、潰されてる顔の痛みのほうが強かったぞ」 額をぐりぐり当てて、ちゃっかりお仕置きしてやった。それでも痛みをちょっとだけ感じる程度のお仕置きになってしまうのは、惚れてしまった弱みだろうな。「悪かった、そこまで痛いとは思わなかった。鉄平の愛の告白が嬉しくて、つい力が入っちゃった」「ふっ。部下の失態は、上司の指導が悪いせいだからな。許してやるよ」 当てていた額を外して壮馬の顔を見つめながら、耳の上の髪の毛を左手で梳いてやる。自分とはまったく違う髪質を指先に感じつつ、気持ち良さそうに瞳を細める様子に、思わず笑みが零れた。「しょうがない。上司兼先生として、壮馬にキスをレクチャーしてやるか」「嫌だ」 教えようとした矢先に告げられた拒否するセリフに、テンションが一気に急降下する。「……せっかく教えてやろうと思ったのに」 壮馬に触れている両手を外そうとしたら、逃がさない勢いで握りしめられた。寄せられた顔から距離をとるべく、顎をくっと
last updateLast Updated : 2025-11-27
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両片思い18

 俺の微笑みを見た壮馬は、必死に真面目な顔を作り込んだ後に、大きく息を吸い込んだ。目の前でおこなわれる仰々しい様子に、嫌な予感が俺の背筋を沿うように冷たく流れる。「白鷺課長のことを愛してますっ! この気持ちは一生涯変わりません、誓います!!」 冒頭で名前呼びを否定した、俺の気持ちを考慮したんだろう。仕事で使う名字を使ってくれたのはいいが、予想以上にでかい壮馬の声を間近で聞いて、耳の中がキーンとした。 あまりに突飛なことをされたせいか、目を瞬かせるのがやっとで、すぐには二の句が継げられない。「白鷺鉄平が好きすぎて、夢の中にも出てくるくらい大好きなんだよ。堪らないほど好きな想いをいつも伝えているのに、そうやってだんまりを決めこまれる俺の気持ちを、少しは理解してくれてもいいだろ?」「……だからお前はあえて、自分の気持ちを告げずにいたのか」 言いながら壮馬の首に両腕をかける。俺の腕の重みで顔が近づくはずなのに、躰を強張らせてそれをしないようにされた。「鉄平は、どんな気持ちになった?」「言葉で表現するのなら、寂しいとか物足りないって感じかな」「俺も毎回同じ気持ちになった。だから何度もこの想いを告げたんだ。ひとえに、鉄平の気持ちが知りたくて。だけど……」「ぅん?」 こんなに傍にいるのに、俺の力を簡単になきものにする壮馬の力が憎らしい。微妙すぎるこの距離感が、俺たちの今の関係みたいだ。「俺はやっぱり、いつまで経ってもガキだなって。鉄平は鉄平の立場で考えることがあるから、自分の気持ちを隠していたのを、なんとなくだけど分かった気がした。それなのに俺は――」「お前はガキじゃない。俺の気持ちをきちんと考えた上で、理解しているだろ。それだけ大人になったんだな」 首に絡ませている片手で、後頭部を撫でてやった。「壮馬、もう少しだけ顔を近づけてくれ。唇が触れる手前まで」「これくらい?」「恋人として、キスの仕方を教えてやるよ」 指示したところにいる壮馬の顔は近すぎて、ぼやけてしまう。それでも目を開けたまま、柔らかい下唇をちゅっと食んでやった。「ぁあっ!」 食みながらちゅくちゅく音を立てて吸い上げると、甘い吐息が漏れる。「もっと感じて壮馬。愛してるんだ」 自分から告げることをあれだけ躊躇っていたのに、一度でも晒してしまったら、止めることができない。高まる
last updateLast Updated : 2025-11-28
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両片思い19

「この陥没してる乳首、なんか鉄平の気持ちみたい」「へっ?」 小さく笑いながら、タップするように触れる。「早く感じさせたくて、あの手この手で引っ張り出そうとしても、全然出ようとしない。だけどこうやって優しく入念に触ったり、舌先でくりくりして時間をかけたら、小さな蕾が膨らんで出てくるんだ。こうやって」 大きくなったそれを口に含むなり、吸いながら軽く噛む。「いっ、……」 噛まれて痛いはずなのに、その痛みでさえも快感に塗り替えられてしまう。吸われるたびに一切触れられていない俺自身から、涙のように卑猥な汁が溢れ出た。「いつもより感度がいいのは、酔っぱらってるせい? それとも俺に気持ちを告げたせい?」「あ……はっ…ぁ、知ってるく、せに」 脇腹の肌をなぞる指を、思わず握りしめて止めてしまった。「言わないと分からない」「愛してるって言ったろ」「他にも言いたいことがあるだろ?」 三日月の形をした壮馬の瞳がぐっと近づいてきて、顔の前で止まる。俺自身と壮馬の大きくなったモノが、一瞬だけぬるっと触れた。「っあ!」「ちゃんと、おねだりしないとあげない」 滴り落ちる滴の滑りを利用して、互いのモノをゆっくりと擦り合わせる。 あからさまに煽る壮馬の行為に、そのまま乗っかるのは正直なところ嫌だったが、破裂しそうなくらいに高まっている俺自身に、そんな余裕はなかった。「やぁっあっ…そんな刺激じゃ、ぅっ、嫌だ。壮馬の大きぃのがほしい」「嫌だと言いながらも細い腰を淫らに動かして、俺のに擦りつけていたくせに?」 口ではそんなことを言いつつも、俺の言うことを聞いて後孔にあてがう。「ぁんっ、もぉ、早くいれてっ…。壮馬の愛にっ、満たされたぃ」 左右の膝裏を持ち上げながら、分け入るように挿いってくる壮馬のモノは大きいだけじゃなく、いつもより熱があるように思えた。その感覚を己の躰の中に感じるだけで、どうにかなってしまいそうだった。「あ……っは…ぁ、ん…っも…だめっ!」 たった一瞬だけだったのに感じるトコロに擦れた刹那、俺自身が爆ぜてしまった。まだ挿入途中だというのにだ。「鉄平、イクの早っ。俺まで巻き込もうとしてるだろ」「ちがっ……、そんなんじゃ、ない。ぅんっ!」 二度目だと思えない白濁の量に、何だか気恥ずかしくなってしまう。しかも快感が未だに躰を駆け巡っているせい
last updateLast Updated : 2025-11-29
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両片思い20

☆∮。・。・★。・。☆・∮。・★・。 俺の名前は石川琢磨。白鷺課長から、社長の息子を指導をまかされている平社員である。 朝一の会議を終わらせた白鷺課長はご自分のデスクに座るなり、気だるげな様子で腰を擦りながら、何度目かのため息をついた。 出社したときから物思いにふけるようにまぶたを伏せて、盛大な深いため息をついていた。 具合の悪そうな感じとは明らかに違う、何とも言えないその状態を、白鷺課長を狙う女子社員と、ただの部下の俺は横目で眺めつつ、いらない妄想にかられてしまった。 女子社員の多くは、朝まで彼女とイチャイチャしていたに違いないと考えたんだろう。内心嫉妬に駆られている表情を、それぞれ浮かべていた。 社内にいる独身社員の中でもひと際目立つ白鷺課長だから、それはしょうがないことだと思った。でも俺は見てしまったんだ。 客に出すお茶をなかなか持って行かない社長の息子に、そろそろカツを入れてやろうと給湯室のドアを開けかけて、手が止まってしまった。 社長の息子の肩に顎をのせた白鷺課長が、すぐ傍にあった頬にキスをしているところをドアの隙間から覗き見て、心臓が止まりそうだった。 誰にでも愛想がいい白鷺課長が、新人として入社してきた社長の息子を『坊ちゃん』呼びして冷たく扱っていることは、ものすごく違和感があった。 他の社員との違いに理由を訊ねてみたところ、社長から厳しく接するように頼まれていることと、学生時代に彼の家庭教師をして面倒を見ていた関係もあって、その延長線でビシバシしごいていると教えてくれた。『坊ちゃんは甘やかすと、調子にのってすぐにつけ上がる。石川もその心づもりで接してやってくれ』 なんてことを、言われていたのだけれど――見たことのない優しげな笑みを浮かべた白鷺課長が、社長の息子の頬にキスをした。(――これは思いっきり、甘やかしているのではないだろうか……)『課長……』 まるで恋人を見つめるまなざしで、白鷺課長に顔を寄せた社長の息子。 こっそり覗いている目の前の出来事が、ドラマか映画のワンシーンのように見えてしまったのは、ふたりそろって俳優並みの男前だからかもしれない。 場違い感を肌に感じて音を立てないように退いた刹那、白鷺課長が勢いよく給湯室から出てきた。(――あれ? いい雰囲気だったはずなのに、どうして?) 一瞬見えた横顔が、
last updateLast Updated : 2025-11-30
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両片思い21

 恥ずかしさのあまりに、恋人を平手打ちするくらいの悪趣味な格好――しかも繋がったままできるものとなると、かなり限られそうだけど。 頭の中に、自分が知ってるアクロバティックな48手を思い描いていると、ものすごく小さな呟きが聞こえてきた。「……済まなかった」(――今の声は、さっきまで怒り狂っていた白鷺課長か?)「なんで謝るんだよ。課長の嫌がることを、俺が無理やりしたのに」「やめろって言う前に、先に手が出てしまった。しかも思ってた以上にクリーンヒットしたせいで、坊ちゃんの頬をそんなに腫らしてしまったのは、やっぱり俺が悪いからさ」「キスひとつで、腫れがひくとしたら?」「そんなこと、あるわけない…だろ」 ところどころ掠れた白鷺課長の声色は、何とも言えない感情の揺らぎを感じさせるようなものだった。艶めいたそれを聞いただけで、なぜだか胸がドキドキする。「課長がキスしてくれたら、痛みが飛ぶって。ねぇしてよ」「……分かった」(キスしてる間はふたりとも目を閉じるはず。ちょっとくらいここから覗き見ても、バレやしないか……) 音を立てないように、そろりそろりと腰を上げて、長机からちょっとだけ頭を出し、声が聞こえている方向に視線を飛ばした。 俺の目に映ったものは、座ったままでいる社長の息子の肩に手をのせた白鷺課長が屈みこみ、顔を近づけるところだった。 目を開けたままでいる社長の息子は、唇が触れた瞬間を狙いすましたかのように、頬に当てていたハンカチらしきものを落として、白鷺課長の首に両腕をかける。「ぅうっ!」 鼻にかかった呻き声と同時に、くちゅっという淫らな音がした。重ねられた唇は相手の呼吸を奪うようにぴったりと貼りつき、口内で互いの舌を絡ませているのが、見ているだけで分かった。 給湯室で覗き見てしまった白鷺課長のキスは、映画のワンシーンのように美しいものだったのに、目の前でおこなわれる互いを貪り合うキスは、アダルトビデオを見せられているような気分に陥った。「あっ…ンン、は、ぁんっ」 聞いたことのない白鷺課長の甘い声に、思わず下半身が反応してしまう。それくらい、エロさを醸し出していた。 社長の息子はキスをしながら大きな片手で、白鷺課長の躰をまさぐった。ジャケットの下に器用に潜り込んだ手は、確実に敏感な部分に触れているんだろう。 感じるたびに吐息を漏ら
last updateLast Updated : 2025-12-01
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両片思い22

「石川さ…冗談はやめてくださ、い。俺は鉄平以外と、へ、変なことをするつもりはな、ぃです……。だから」「変なことなんて失礼だな。君は早く部署に戻らないと、白鷺課長に叱られる。だからこそ、手早くヌいてやるって言ってるんだよ。桜井くんは目をつぶって、俺を受け挿れるだけでいい」「は? 受け挿れ――」 呟きながら顔を上げて俺を見る社長の息子の顔が、恐怖に青ざめているように見えた。「自分が白鷺課長をヤってるからって、犯されない保障はどこにもないだろ。なぁに、先輩が新人に手をかけて、丹念に可愛がるだけのことさ」 顎に手をかけて固定し、キスしようとした。その瞬間、誰かの手によって片耳を強く引っ張られながら、ずるずると後退りさせられる。「痛っつつっ!」 強引に耳を掴まれて引きずられる痛みのせいで、抵抗する力なんてものは皆無だった。自分を覆うように立ち塞がる大きな影の人物が、真上からじっと見下ろす。「俺の壮馬に勝手に触るな。潰すぞ……」 片耳を引っ張りながら後方にある壁に押しつけられた途端に、白鷺課長の空いた手が俺の下半身を鷲掴みした。「ひぃぃ! 痛い痛いっ、冗談ですって、ホントに!」 「冗談でやっていいことと駄目なことの分別くらい、石川にだってあるだろう?」 問いつめながらも白鷺課長の手は容赦なく、俺の分身を握りつぶしにかかる。怒りに血走った瞳は、絶対に職場では見られないものだった。「鉄平、それくらいにしてやったら。俺は無事だったんだし」「馬鹿野郎! 俺がここに乗り込んだとき、どんな気持ちになったか考えてみろ!! 全身の血の気が引いたんだぞ」 怒りを言葉に乗せて、それを爆発させたように叫んだ白鷺課長。この人の大事な恋人に手を出そうとしたんだから、当然のことだろう。 片耳を掴んでいた手が、上着の襟元をぎゅっと握りしめる。収まり切れない怒りが、震えになって伝わってきた。 下半身の痛みと、これからおこなわれることを予想しながら耐えていると、白鷺課長の顔が俺に近づいた。傍から見たら、キスシーンの寸前に捉えられるかもしれない。それくらい近くに、顔を寄せられた。 クォーターなのに、ハーフと見紛うような彫りの深い顔立ちをした白鷺課長は、切れ長の二重まぶたを吊り上げて俺を見据える。 社長の息子や隣の派遣社員の女がうっとりする、美麗な顔を目の当たりにしても、残念
last updateLast Updated : 2025-12-02
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両片思い23

「俺も石川さんと同じ、ヤっちゃう側の男だから分かるんだよなぁ『こんなところでシたくない』とか何とか鉄平に言われたら、余計に燃えて手を出したくなるのは必然なんだよ」「そんなことで燃えるな、馬鹿」 呆れた感じで気持ちを言葉にした白鷺課長に、社長の息子は肩を竦めながら首を横に振る。「つまりあのとき俺が抵抗していたら、もっと酷いことをされているであろう恋人の姿を、鉄平が目撃することになるんだって。無傷で済んでよかった」 柔らかく微笑んで、ねぎらうように俺の肩を叩く社長の息子に向かって、重たい口を開く。「……自首すればいいのか?」「自首も何も俺は無傷だったんだし、別に行く必要ないと思うけど」 あっけらかんとした声で答えられたせいで、二の句が継げられない。「待てよ。俺としてはこのまま、石川を見過ごすのは危険だと思う。二度としないようなペナルティを、コイツに与えたほうがいい」 白鷺課長の告げた『ペナルティ』という重い言葉が、心の中でずしんと足枷になった。「わる…悪かった。こんなことはもう二度としない。信じてくれ!!」 今更感が拭えなかったが、しっかりと頭を下げて謝罪の言葉を告げた。「石川さんのその言葉、信じられるわけがないですよ。他にも、被害者がいることが分かっているんです」(――コイツ、俺のしてきたことを知っていたから、用意周到に行動していたのか)「壮馬、それは本当なのか?」 上目遣いで様子を窺うと、白鷺課長が信じられないというまなざしで、代わるがわる俺と社長の息子を眺めながら訊ねる。「誰とは言いませんけど、相談を受けたのは事実です。石川さんとしては、それが誰なのかが分からないでしょうね。たくさんの新人に、手をかけていたのだから」「くっ……」 下げた頭を上げられないまま、下唇を噛みしめた。「男が男に襲われる。そんなことが現実で起こるはずがないというのを、やった結果がコレですよ。相手が訴えないのをいいことに、今までおいしい思いをしてきたみたいですけど、これまでです」「桜井くんに手を出した時点で、ジ・エンドだったってことか」 吐き捨てるように告げるなり勢いよく頭を上げると、忌々しそうに俺を見る白鷺課長とは対照的に、社長の息子はさっきよりも朗らかに笑っていた。 眩しすぎる微笑みを目の当たりにして、嫌な予感が頭の中をぶわっとよぎる。「安心
last updateLast Updated : 2025-12-03
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