知枝はふっと笑って、「うん、そのうち会えるよ」とだけ答えた。そのあと二人で夕飯を食べ終えると、美南が「片づけは任せて」とばかりに食器を抱えてキッチンへ向かった。知枝は部屋に戻り、ベッドサイドで充電していたスマホを手に取ったところで、美南がここへ急いで向かう途中に電話をくれていたことに気づいた。それ以外に、蓮からのメッセージも入っている。【津雲健司、そっちに行った?必要なら、一緒に否定の声明を出そうか?】メッセージを読み終えた知枝は、細い眉をわずかに寄せると、代わりにSNSアプリを立ち上げた。誰かが知枝と健司が言い合っている動画をネットに上げたらしく、コメント欄はあれこれ盛り上がり、蓮まで巻き添えで炎上しかけていた。何よりも嫌なのは、自分のせいで周りの友だちまで泥をかぶることだ。少し前から早めに美南の家を出ようと決めていたのも、マンションの住人にあれこれ噂されて、美南まで巻き込まれるのが怖かったからだ。今では蓮の名前までツイッターのトレンドに上がり、「浮気相手」みたいな扱いをされていて、彼のイメージにまで傷がつきかねない。蓮はずっとスキャンダルひとつないストイックな男だというのに。悩んだ末に、知枝は引き出しから離婚届の受理証明を取り出して一枚だけ写真を撮り、「五年間の結婚生活に後ろめたさはありません。きれいに終わらせました」とコメントを添えて投稿した。フォロワー一千万人超えのアカウントだけあって、その投稿はあっという間に拡散された。知枝の率直で簡潔なコメントは、感情的になって声を荒らげていた動画の中の健司とは対照的で、落ち着いていて堂々として見えた。ネットはまた一気に騒がしくなった。【知枝を売名だのなんだの言ってた連中さ、ちゃんと目ぇ開いて見なよ。離婚届の受理証明、本物だからね?】【前に知枝が健司の浮気を暴いたときだって、証拠きっちり出してたでしょ。あんだけ揃ってたのに、今になって健司の片側の話だけ信じるわけ?頭どうした?】【健司の言い分信じてる時点でだいぶやばいよ。あんなクズの被害妄想まで真に受けるタイプって、老後ぜったい怪しいサプリ買わされるやつ】【……】同じころ、蓮は会社の秘書と電話をつないでいた。「社長、間宮さんがもう自分からコメントを出されました。こちらも一緒に声明を出して、
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