午前十時。俺は、チャイムの音で目を覚ました。 俺の名前は相沢 湊《みなと》。 三十五歳。職業、小説家。 ごく普通に原稿を落とし、ごく普通に編集に怒られ、ごく普通に恋に失敗する。 最初に男を好きになったのは高校生のとき。 告白はできなかった。触れることすら怖かった。 俺の恋愛は壊れてる。 支配されて幻滅し、優しくされて逃げ出して。 昨日の夜、というか明け方四時。死んだ魚の目でPCに向かい、地獄のような企画書をようやく提出した記憶だけが微かに残っている。意識はもうろう、疲労とストレスで泥のように眠っていたはずだった。「……だる……誰だよ」 フラフラと玄関へ。パジャマのままドアを開けると、白いスーツに身を包んだ配達員が無表情で立っていた。「ご注文のお品、LEPS-09-A型ユニットをお届けにあがりました」「……は?」 でかい。人間が入れそうなサイズの箱が玄関前に鎮座している。 差出人欄には、「Lust Emulation Pleasure System──LEPS公式配送センター」の文字。「いやいやいや、頼んでない、こんなん頼んでねえ!!」 咄嗟に叫んだが、配達員は微動だにしない。「昨夜、3時47分。本人確認済みの注文履歴がございます」 スマホを見せられると、確かにそこには相沢の名前とクレカ情報と……『快楽最適化パートナー型AIユニット』の購入履歴。「うそ……俺、ポチったの……?」 恐る恐る配送箱の横を見ると、そこにはでかでかとこう書いてある。 『\感度保証!/あなた専用・快感最適化ユニット LEPS-09-A型』 しかも小さく、「返品不可」の文字。「し、知らねえ……覚えてねえ……ッ!!」 配達員は変わらぬ無表情でペンを差し出す。「受け取りサインをお願いします」「う、うう……」 サインをしながら、俺は思った。 これ、完全に自業自得だけど、でも……「す、すみません、朝からすみませんでした……」 思わず深々と頭を下げた。配送員さんは、かすかに瞬きだけして去っていった。 玄関先に残されたのは、巨大な箱と、俺の性癖を見透かしてるかのような商品名だけだった。 その瞬間だった。『初期起動を開始します』 電子音のような、でもどこか柔らかい声が響いた。「……え?」 箱の天面がカチリと音を立てて、ゆっ
Last Updated : 2025-10-26 Read more