「万来堂・総料理長が持参した料理だ。出来立てでは無いのが生憎ではあるが、とくとご賞味あれ――『アグニード・ステークトゥーナ』」 そう言って封が開けられたのは、『万来堂』と書かれたお洒落な箱。 きっとテイクアウト用のものなんだと思うけど、中に入っていたのはストゥーナの花が添えられた大きな塊だった。 ただ、塊の見た目は真っ黒で、一目見ただけでは料理が失敗してしまったようにしか見えない。 でも、箱を開けた瞬間から香りが爆発したように香ばしく、そしてストゥーナの甘い香りも一緒に鼻に抜けて、口の中は一瞬にして涎で溢れた。「ルシー、座りましょう?料理長のショーが始まるわよ」「あ、はい……!」 エリザさんに言われて席に座る。 すると小さく口角を上げたイードさんは箱が入っていた包みの中から銀色のナイフを取り出し、塊に当てた。 ――ぽろ。 それは鱗が剥がれたように、黒い塊の一部が剥げていく。 それを皮切りにイードさんがナイフで塊を削ぐ度、ぽろぽろと何かが外れてその姿が見えた。 お肉だ。 中から茶色のよく焼けたお肉が見えてきた。 全貌が見えてくると、イードさんは塊を薄くスライスしていく。 端の1枚を落とすと外は焦げ茶色なのに中は血の色に近い赤を見せている。 それは一瞬生であるのを疑いたくなるほど。 でも、すごく綺麗で芸術品みたい。 思わずごくりと喉が鳴った。 「今回の料理はエクレテス地方、ストゥーナ畑で育ったエクレテス牛のヒレ肉を使用しています。 エクレテス牛はストゥーナから出た茎や草の部分を食事に多く使用し、肉自体にもストゥーナ独特の花の香りがあります。 が、今回は更に実の殻を肉にまとわせることで更なる風味をつけ、そして最初は高温で焼き付け、あとは余熱で中を熟成させることによって神秘的とも言える赤を作り出します」 それは本当にショーみたい。 1枚1枚スライスしながら、私とお母さんのお皿にお肉を乗せていく。 実際
Last Updated : 2026-02-03 Read more