All Chapters of 「おはよう」って云いたい: Chapter 41 - Chapter 50

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第三十四話——幸せの定義

 今日から文化祭に向けて劇の準備が始まった。まだ全体で合わせた練習はせず、各々台本に向き合っていた。部活がある人以外はみんな残っていて、それだけ大事な行事なのだと実感した。 「難しい……」 「どこが?」 私がポツリと言葉をこぼすと、隣にいた蓮がすぐに反応して、私の台本を覗き込む。私は指でとあるセリフの部分を指さした。 「あー……そこか」 「蓮はどんな感じで言う?」 蓮は実際にセリフを読んでくれた。自然と蓮の手が動いていたため、演技が得意なのだろう。あまり見たことのない姿に新鮮さを感じた。読み終わって蓮がこちらを窺うように見る。私は感謝を伝えて台本に向き直った。 「なるほど」 そんなこんなで蓮は何回も練習に付き合ってくれる。私は数回頷き、台本にメモをした。 「陽菜ー」 「ん?」 すると、衣装係である志織に声をかけられる。 「衣装のサイズ測るから来てー」 「はーい」 私は台本を置いて立ち、蓮の方に視線を向ける。 「ちょっと行ってくるね」 「おう、いってらっしゃい」 蓮は手を振って送り出してくれる。優しい笑顔に心の奥が温かくなった。 サイズを測り終わり、蓮の元へと駆け足で戻る。 「ただいま」 「おかえり」 私は蓮の隣に腰を下ろした。私が一人で台本を読んでいると蓮が言葉をこぼす。 「ちょっと合わせてみるか?」 「いいけど、まだ覚えてないよ」 「見ながらでいいから」
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第三十五話——頼もしい二人

今日は文化祭の前日。一日準備の日だった。私たちは朝から集まって練習をしている。 動作も合わせて確認していると、誰かの足に引っかかってしまった。 「いっ……」 「陽菜!? 大丈夫か?」 「そんな心配しなくても平気。ちょっと捻っただけ」 少ししゃがんだだけで、蓮が駆け寄ってきてくれる。心配そうに私の顔を覗き込んでいた。 「ダメだ。少し休むぞ」 「でも練習しないと……」 「いいから」 そう言って私の体を支えて、椅子まで連れて行ってくれる。私が椅子に座ったのを確認すると、セリフを練習しているクラスメイトのところまで走って行った。おそらく、私のことを伝えてくれているのだろう。 蓮と入れ違いでクラスメイトの絵里香がやってきた。 「陽菜ちゃん大丈夫?」 「え、まぁ……」 あまり話したことがないのでぎこちない返事になってしまった。だが絵里香は気にせず、私の足を触る。 「足腫れてない?」 「ちょっとだけ……」 「えー!」 わざとらしく大きな声を出す。私は驚いて体が跳ねた。絵里香は心配しているというより嬉しそうな表情を浮かべていた。その表情を見て心がざわつく。 「これじゃあ、本番できないんじゃない!?」 「いや、これくらいなら……」 「絶対そうだよ! どうしよう……」 私の言葉を遮るようにどんどん言葉を発する。 それに気づいた蓮がこちらを振り返り、近づいてきた。 「なんの騒ぎだ?」 蓮は怪訝そうに眉を顰めて絵里香のことを見た。私はすかさず首を振る。 「いや、なんでも……」 「蓮くん!」 「あ?」 蓮の声がいつもよりも低く聞こえる。それがさらに不安を煽った。クラスメイトのざわめきが先ほどよりも大きく聞
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第三十六話——幕上がる前に

 文化祭当日、私たちは完成した舞台の道具を見ていた。「わぁ、いい感じだね」 体育館に準備された背景や小道具を見て、心が引き締まる思いだった。「ちゃんと準備してただけあるな」「本番頑張らないと」 私の体は無意識に強張っていたみたいだ。蓮が私の肩にそっと手を置く。「そんな緊張すんなって」「でも……」「練習通りやれば大丈夫だから」 蓮が優しく微笑んでくれて、心の奥から温もりが広がり、ふっと体の力が抜けた。「うん、頑張る」 私も笑顔で見つめ返す。蓮の目を見ると、安心感で心が満たされた。  教室に戻ると、衣装を持って志織が待っていた。「陽菜!衣装着てみて」「はーい」 別の教室に行き、着替えを手伝ってもらいながら、衣装を着る。水色のドレス生地にキラキラした宝石のシールが付いた衣装だった。鏡に映った自分を見て思わず笑みがこぼれる。「うん、陽菜可愛いよ」「すごい! この衣装可愛いね」「でしょー! 自信作!」 そう言って志織は胸を張る。私は「おー」と言いながら拍手をしていた。「サイズもぴったり」「ほんとだ。ありがとう」 笑顔でお礼を言って軽く頭を下げる。志織は私の肩を二回叩いて、ニコッと微笑んだ。そんな笑顔に背中を押される。心臓の高鳴りを抑えきれず、走って蓮の前に向かった。「見て、蓮」 私は「じゃーん」と言うように両手を広げた。嬉しさが溢れて、思わずその場でくるりと回る。蓮は少し目を見開いたが、すぐに笑顔を浮かべた。私は首を傾げる。「どう?」「可愛いな」 ふわりとした笑みを向けられて思わず胸が跳ねる。恥ずかしくて視線を逸らした。「あ、ありがとう」 少しの沈黙を誤魔化すように言葉をこぼす。「蓮も着てきたら?」「おう、そうだな」「いってらっしゃい」 私は手を振って蓮を送り出した。 クラスメイトと雑談をしていたらあっという間に蓮が戻ってきた。「どうだ?」「か、かっこいいよ」 私の方が照れてしまい、すぐに視線を逸
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第三十七話——ドキドキのアドリブ

「ありがとうございました〜!」 料理を食べ終えて、私たちは教室を後にする。「次どこ行く?」「あのさ」「ん?」 私が尋ねると、蓮が口を開く。少し申し訳なさそうにしていて、なんとなく予想がついてしまった。私は身震いをする。「お化け屋敷行きたい」  私たちはお化け屋敷の列に並んで待っている。「蓮……」「どした?」 私は瞳に涙を浮かべたまま言った。「武器って持っていっていいのかな?」「いや、何する気だよ」 蓮にツッコミを入れられるが、今は相手にする余裕もない。一人肩に力を入れていると、蓮の反対側からトントン、と肩を叩かれた。「陽菜、怖いなら辞めとく?」「んーん、大丈夫。行こ」 そう言って教室の中に足を踏み入れた。一歩進んだところで蓮がついて来ていないことに気づく。「蓮?」「……怖いくせに」 私が首を傾げると、蓮は首を横に振った。そして、私の頭に手を置く。「ほら行くぞ」「う、うん」 私は蓮の後ろをついていった。「きゃっ!」 BGMが怖くて、一歩踏み出すたびに震えていると、隣からクスッと笑う声が聞こえた。「ふふっ、やっぱ怖いの苦手なんだね」「覚えてたの?」「うん。ずっと気になってたから」「何が?」 私が首を傾げると、翠は首を横に振る。「なんでもないよ」「そう?」 いくら学校の出し物だとはいえ、怖いものが大の苦手な私を驚かせるには十分だった。「うわぁ!」 仕掛けが発動するたびに大きな声を上げる。「陽菜、可愛い」「えっ」 急に翠から放たれた言葉に、さっきとは別の意味で驚いてしまった。胸を押さえていると後ろから腕を引っ張られる。「わっ、びっくりしたぁ。急に引っ張らないでよ」「悪い。怖いかと思って」「まぁそれはそうだけど……」 腕を引っ張ったのは蓮だった。抱き締められたまま、視線を蓮に向ける。蓮の視線は、獲物を守るような鋭い目をしていた。「蓮?」
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第三十八話——私とスポットライト

「陽菜ちゃんちょっといい?」 志織と二人で片付けをしていたら、絵里香に呼び止められた。「……何?」 志織は低い声で尋ねる。絵里香はビクッとしたが、すぐに口を開いた。「陽菜ちゃんに用事があるの。少しだけ二人にさせてくれない?」「陽菜に何かしたら許さないから」 志織は絵里香を見て目を細める。私は志織の前に立ち、絵里香との間に入った。「大丈夫だよ、志織。ちょっと片付け任せてもいい?」「それは全然いいけど……」 志織はまだ不安そうに私を見ていたが、私は安心させるように微笑みを向ける。絵里香の視線からはあまり感情が読み取れなかった。 私は静かに絵里香の後ろをついていった。やがてあまり使われていない空き教室に辿り着いた。「絵里香ちゃん、どうしたの?」「……はぁ」 そこで絵里香は大きくため息をつく。「絵里香ちゃん?」「ほんと、うざいよね」「え?」 私は目を大きく見開く。すると絵里香は私の肩を強めに押した。その拍子に机に腰をぶつけてしまう。「痛っ」「蓮くんたちと仲良くして! 私たちに見せびらかして!」「なっ……」「ほんとにうざい! 私だって蓮くんと仲良くしたいのに!」「そんなの……」「うるさい!」 私が喋る隙間もなく絵里香は大きな声で話し続ける。ぶつけた腰が今更になって痛くなった。そして、もう一度私の肩を押す。先ほどよりも強い力で、床に転んでしまった。「っ……」 絵里香は声のトーンを落として言葉を続ける。「どんだけ嫌がらせしても、蓮くんから離れないし」「え?」「気づかなかった?ロッカーとか教科書とか」「もしかして……」「そう。嫌がらせの犯人は全部私。あんなことすれば蓮くんから離れると思ったのに」 絵里香の視線からは色んな感情が読み取れた。寂しさ、羨ましさ、怒り――そんな感情が混ざり合って、聞いていて複雑な気持ちになった。「だったら、もう率直に言うわ」「……なに?」「蓮くんに近づかないで」 そこで沈黙が流れる。絵里
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第三十九話——寂しさを埋める旅

 今日は待ちに待った修学旅行の日だ。待ち合わせ場所の駅まで蓮と別々で来ていた。なんと、私はこんな大事な日に寝坊してしまったからだ。「おはよー!」「おはよう陽菜」 蓮を見つけて駆け寄る。肩で呼吸をしながら挨拶をした。そんな私の肩に蓮が優しく手を置く。「そんな走らなくてもまだ大丈夫だ」「う、うん」 蓮の優しい笑顔に心が温かくなった。呼吸を整えて私も笑顔を浮かべる。「陽菜、おっはよー!」 すると後ろから勢いよく抱きつかれた。「志織、おはよう!」 私は少し後ろを向いてニコッと微笑む。「早く着きすぎちゃったね」「そうだね」 志織は私から離れて、私の隣に来た。「そういえば蓮、翠は?」「あー……」 なぜか不機嫌そうな表情になる。唇を尖らせてプイッと顔を逸らした。唇を尖らせる蓮を見て、少しだけ子どもみたいだと思った。「美咲と来るって言ってたから置いてきた」「なるほどね」 もしかしたら翠と一緒に来れなかったことが少し寂しいのかもしれない。私も約束していた当日に、他の人と行くと言われたら嫌な気持ちになる。そういうことだろう。 その後、クラスメイト全員が集まり、集合時間を過ぎてから新幹線に乗った。「ワクワクするー!」「ふふっ、そうだね」 私は志織と隣同士で座っていた。通路を挟んで隣に蓮が座っている。「そうだ!お菓子持ってきたよ」「私も!」 そう言って私たちはお菓子をカバンから取り出した。「おい、あんまり食べ過ぎんなよ」 はしゃいでいると、隣で蓮が言葉をこぼす。お母さんみたいなことを言うので特に反応もしなかった。「て、聞いてないし」「聞いてる聞いてる」「雑な返事だな」 蓮は私のお菓子を取ると、パクッと口に入れる。「翠も同じクラスだったら良かったなー……」 思わず本音がこぼれてしまい、アッと口を押さえる。隣で志織が目を丸くした。「ごめん、忘れて」「う、うん」 少し気まずい沈黙が流れた。私はそれを誤魔化すように元気
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第四十話——同じ気持ち

 二日目は自分たちで作ったプランをもとに、自由に周ることになっていた。私たちの班はお寺巡りをする予定である。「陽菜ー速いよ」「だって!楽しみなんだもん!」 軽やかに歩く私の後ろで、志織は肩を上下させながら息を吸っていた。「朝から元気だな」 志織の横で眠そうにしている蓮が目を擦っている。「いっぱい寝たからね」「そりゃ良かった」 蓮はいつもよりも柔らかい笑みで私を見つめる。「ほら、早く行こ!」 私は志織の手を引いて歩き出した。「あ、陽菜待ってよー」「俺らも行くぞー」 蓮と直宏が笑いながら後ろをついてくる。 まずやってきたお寺は京都の街を一望することができるお寺だった。「わぁ!綺麗……」 思わず言葉がこぼれてしまうほど、圧巻の景色だった。「ねぇ!ここでも写真撮ろうよ!」 私は三人に声をかける。三人とも笑顔で頷いた。志織がスマホを用意して構える。「はい、チーズ」 カシャっというシャッター音と同時にピースをする。志織は写真アプリを開いて写りを確認していた。「うん、いい感じ」「見せて!」 私は左側から志織のスマホを覗き込む。京都の街を背景に笑っている四人の姿が写っていた。「ね、綺麗に撮れたでしょ?」「うん! 上手!」 私たちの笑顔は今日の天気に負けないぐらい明るかった。 二つ目のお寺で私たちは別行動をしていた。「蓮、眠い?」「ちょっとだけな」 蓮は目をこすり瞬かせている。そんな蓮が可愛くて私はクスッと笑ってしまった。「ここ、最近改修されたらしいよ」「そうなのか?」「うん、さっきガイドブックで見た」 私は柵に肘をついてお寺を眺めている。少し離れたところで志織と直宏が写真撮影をしていた。私はポツリと言葉をこぼす。「建物も当時のままじゃいられないって思うと少し寂しいね」「まぁ劣化するからな」 蓮も柵に体を預けている。風で髪が靡いて前が見えなくなった。首を振って髪をどかす。小さくため息をついて言葉
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第四十一話——手に入らない想い

 あれから私たちはホテルに戻ってきていた。部屋に入った瞬間、私は勢いよくベッドに跳び込む。志織もゆっくりとベッドに腰を掛けた。「陽菜」「ん?」 私は横になりながら枕を抱いて、顔を志織の方に向けた。「翠と何話してたの?」「んー……」 志織は小さく眉を寄せている。私は枕に顔を埋めて今日の光景を思い出した。「明日の朝、滝見に行こうって話してた」「滝?」 志織は少し目を見開いて首を傾げる。私は体を起こして志織と向かい合う。「うん。この近くにあるんだって」「へー。よく知ってるね」「翠のことだから、たくさん調べたんだろうなぁ」 私はその光景を思い浮かべて思わず笑みがこぼれる。いないはずの翠の影が浮かんだ。「陽菜ってさ……」「うん」 志織が少し言いづらそうに言葉をつぶやく。「翠のこと、まだ好きなの?」「……」 私は一瞬黙った。聞かれたくないわけではなかったが、自分の気持ちに答えを出せていない。志織は微笑んで、私の手に志織の手を重ねる。「別に無理やり聞くことはしないけどさ。陽菜の気持ちが気になる」「私は……」 志織が息を呑んだ。私は一度目を瞑って深呼吸し、ゆっくりと目を開いた。「正直、分からない。確かに最近までは翠が好きだった。でもそれ以上に蓮が大切な存在になってて……」「うん」 志織は頷いて話を促す。私は考えながら一生懸命言葉にした。「少し前までは蓮と付き合ってるのに、翠といると緊張してしまう自分が許せなかった。でも今はなんか違うんだよね。翠と話しているとなぜか翠に対して申し訳ない気持ちになる。だから、この気持ちを確かめたい」 そして真っ直ぐに志織を見つめる。志織の重なった手に力が入ったような気がした。「そんな感じかな」「……そっか」 志織は一度下を向く。そして、柔らかい笑みを浮かべて顔を上げた。「強くなったね」「そうかも」 私は小さく頷いて笑みを浮かべる。志織はパチンと手を叩いた。「よし! じゃあ、今日もいっぱい食べて最終日楽しもう!」
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第四十二話——揺れる観覧車と決意

 私はホテルに戻ってからもボーッとしていた。先ほどの翠の言葉が頭から離れないのである。「陽菜」「ん?」 今日の目的地に向かって歩いていると、後ろから蓮に声をかけられた。「なにかあったのか?」「え?」 振り向くと心配そうな表情を浮かべた蓮が真剣な目で私を見ていた。少し視線をずらせば、これまた心配そうに志織が私たちの様子を窺っている。「特になにもないよ」「そうか」 蓮は少し寂しそうに笑顔を浮かべた。そんな表情に胸がチクッと痛む。「それより、早く行こ!」 私は無理やり明るい声を出して、蓮の腕を引っ張った。「……転ぶなよ」「もう! 子ども扱いしないで!」 いつもより元気のない声で蓮がつぶやく。私はぎこちない笑顔で言葉を返した。 そして、私たちはホテルから少し離れたテーマパークに来ていた。「テーマパークとか久しぶりだな」「ね! 楽しみ!」 カラフルな看板を見て心が弾む。子どもたちが走って入り口を通っていくところを眺めた。私たちもチケットを取り出し、入場する。「まずあそこ行こうよ」 志織の提案でやってきたのはグッズ販売店だった。店内は中高生で賑わっている。「カチューシャ買って四人で着けようよ」「いいね!」 志織の提案に私は強く頷いて、店内に足を踏み入れる。店内は茶色い壁紙に動物のステッカーが貼られていて、見ているだけで楽しい気持ちになれた。そして、私たちはカチューシャが陳列された棚の前に行く。「陽菜、これ着けてみて」「うん!」 そう言って蓮はカチューシャ一個を私に渡す。私は鏡の前でカチューシャを身につけて、髪を整えた。つけ終わり、蓮の方に振り返る。「可愛いな」 優しい笑みを向けられて胸が跳ねる。恥ずかしくて視線を逸らした。鏡に映った自分の頬が赤くてさらに体が熱くなる。私は誤魔化すようにカチューシャを手に取った。「れ、蓮もこれ着けてみて」 蓮は私からカチューシャを受け取り、頭に乗せた。そして私の方を向く。「どうだ?」「い、いいんじゃない?」
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第四十三話——落ち着かないテスト勉強

「蓮ー……」「なんだ?」 私は深刻そうな表情で蓮に抱きつく。「勉強教えてください」 放課後、私たちは図書館にやって来ていた。「人いっぱいいるね」「テスト期間だからな」 私たちは顔を近づけて小さい声で話す。「ここ空いてるぞ」 最後の一つ、席が空いていた。そこに対面で腰をかける。「図書館涼しいね」「そうだな」 蓮は優しく微笑み教科書を取り出す。すると周りがザワザワし始めた。 ――蓮先輩だ。 ――隣にいる人って噂の彼女かな。 チラチラとこちらを見てくる視線に気を取られて、教科書を出す手が止まる。聞きたくない言葉が耳に届き、私の体は強張った。蓮は私の様子を見て体を近づける。「陽菜、やっぱり家で勉強するか」「え?分かった」 私たちは立ち上がり図書館を後にする。少し後ろを振り返ると、学生二人が安心したように、私たちのいた席に座ったのが見えた。 私たちは自然と手を繋いで帰り道を歩いている。「蓮ってさ」「ん?」 蓮がこちらを見る。私は優しい表情で言葉をこぼした。「優しいよね」「急になんだよ」 きっと、蓮はあの子たちに席を譲ろうとしたのだろう。私はあの中で勉強するのは居た堪れなかったので、ちょうど良かった。「蓮の家行くの久しぶりだなぁ」「確かにな。最近忙しかったし」 私は少し緊張している。いくら幼馴染といえど、二人きりというのは珍しかった。繋がれていない左手を強く握る。そわそわしているといつの間にか家の前に着いていた。「ほら、入れよ」「お邪魔します」 私は靴を脱いで玄関に上がる。リビングに入ろうとすると、蓮が足を止める。近くにいたため、蓮の背中に鼻をぶつけてしまった。「あ、翠帰ってたのか」「うん。って陽菜?」「あ……」 鼻を押さえながら蓮の背中から顔を出す。告白以降話しておらず、気まずい空気が流れた。そんな状況を察してか、蓮が翠に背中を向ける。「じゃあ俺ら部屋で勉強してくるわ」
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