All Chapters of 「おはよう」って云いたい: Chapter 51 - Chapter 60

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第四十四話——幸せな放課後

 私は教室の席で大きく背伸びをした。「やっと冬休みだー!」「テストも無事終わって良かったね」 志織がニコッと微笑む。その笑顔に、張り詰めていた心がふっと柔らかくなった。「ほんと。蓮のおかげかなぁ」「だろ?もっと褒めてくれてもいいぜ」「その言葉で褒める気なくなった」 誇らしげにする蓮に対して私はふいっと顔を背ける。そんな様子を志織と直宏が笑って見ていた。「そうだ! この後空いてる?」 志織が目を輝かせて尋ねる。「うん。空いてるけど、どうしたの?」「四人でカフェ行かない?」 志織が楽しそうに微笑んだ。「いいな、行こうぜ」 前のめりに直宏が賛成する。私たちも顔を見合わせてから頷いた。 放課後私たちは学校の近くにあるカフェに来ていた。「このカフェ綺麗だね」「そうなの!ずっと来てみたかったんだよねー」 木目調のテーブルと白い壁が落ち着いた雰囲気を作り、大きな窓から差し込む陽光が店内を優しく照らしている。窓際には観葉植物が並び、まるで森の中にいるような心地よさだった。「陽菜」 店内をキョロキョロ見渡していると突然蓮の手が頭に伸びてきた。「な、なに?」 目をギュッと閉じる。何もなくて恐る恐る目を開けると蓮が優しく微笑んでいた。「葉っぱついてた」「え……」 蓮の手には緑色の葉が乗っかっている。触れられるのかと思い鼓動が少し速まった。「どこでそんなの付けてきたのよ」「私だって知らないよっ」 志織は呆れたようにため息をついた。私は恥ずかしさを誤魔化すようにメニューに手を伸ばす。 そして、メニューで顔を隠した。「陽菜、メニュー逆だぞ」「あれ……」 そう言って蓮がメニューを反対向きにする。「陽菜どうしたの?いつにも増してポンコツだけど」「それって普段もポンコツってこと?」「そうだけど?」 志織が揶揄うように目を細めて笑う。私は頬を膨らませて顔を背けた。「喧嘩してないで、二人とも決めたのか?」
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第四十五話——輝くプレゼント

今日はクリスマスイブで、蓮の家に泊まることになっている。蓮の家に泊まるのは幼稚園生の頃以来で、胸が高鳴った。 「お邪魔します」 「今日は誰もいないから安心しろ」 リビングに行くと、静けさの中にテレビの音だけが響いていた。 「みんな出かけてるの?」 「母さんたちは仕事。翠は買い物しに行くってよ」 「そっか」 私はコートを脱いでソファの角に引っ掛ける。荷物を端に置いてソファに腰掛けた。 「今日ご飯どうする?」 「買いに行くでいいんじゃない?」 「そうするか」 蓮は私の前にあるテーブルにお茶を置くと、立ち上がって背を向けた。 「どこ行くの?」 「ゲーム取ってくる」 そう言って扉が静かに閉まる。ソファに深く腰を預け、肘掛けに肘を乗せ頬杖をついた。テレビのリモコンを操作し、チャンネルを変える。年末だからかお笑いやニュース番組ばかりで、この部屋の静けさには似合わなかった。 適当な番組を見て待っていると蓮がゲーム機を持ってくる。一つカセットを取り出して笑顔で告げた。 「これやろうぜ」 「それホラーじゃん!」 「冗談だよ」 蓮は面白そうに肩を揺らして笑った。そして私の隣に腰をかけた。 「はい」 蓮がゲームのコントローラーを手渡してくれる。私はそれを受け取り、ソファの前方に浅く腰をかけた。 「これ昔よくやったよね」 「そうだな」 蓮が持ってきたのはカーレースのゲームだった。運要素もあるので小さい頃に翠も含めて三人でやった覚えがある。 蓮が画面を操作し、ゲームがスタートした。 その後はゲームに集中していて、鼓動の速さを気にすることもなかった。夕方のチャイムが鳴り、そこで初めて時間の経過に気づいた。 「一回しか勝てなかっ
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第四十六話——胸が高鳴るクリスマス

 カーテンの隙間から一筋の光が差した頃、私は目を覚ました。目をこすりながら体を起こす。「おはよう」「うん、おはよう……」 先に起きていた蓮はすでに着替えていて、優しい笑みで迎えてくれた。「眠そうだな」「んー……」 私はうとうとしながら、ベッドの上に座っていた。「顔洗ってきたら?」「……そうする」 私はふらふらした足取りで階段を降りる。うっすらとした視界でお風呂場の扉を開くと誰かにぶつかった。「あ、ごめん」 そこで少し意識がはっきりする。「陽菜、おはよう」「おはよう」 顔を洗い終えた翠が、タオルで拭きながら私に微笑んだ。「眠そうだね」「ん」 私は立ってるのもやっとで、翠に頭を預ける。「ひ、陽菜?」 翠は動揺したようで、声が少し震えていた。「眠い……」 そのままズルズルと床に座り込む。翠が体を支えてくれていた。「え、ちょっ……」 翠が私の体を揺らす。私はそのままゆっくりと瞼を閉じた。薄れゆく意識の中、蓮の声が聞こえる。「陽菜、大丈夫か?」 ガチャッと扉が開く音がする。「って、翠。どういう状況だ?」「なんか眠いって言って倒れて来たけど……」 少し沈黙が流れる。後ろからため息の音が聞こえた。「おーい。陽菜、起きろ」 蓮は私の肩を叩く。「仕方ないか」 そこで私の体はヒョイっと持ち上げられた。意識が徐々にはっきりしていく。「んー……わっ!蓮?」「あんま動くな」 私は驚きのあまり蓮の腕の中で体が跳ねた。私はボーッとしている頭を頑張って回転させる。「なんで……」「なんでって陽菜が床で寝るからだろ。寝るなら部屋で寝ろよ」「ご、ごめん」 蓮は少し不満そうな表情をしている。そんな表情を見て胸がざわついた。「はい」 部屋まで来るとゆっくりとベッドに降ろしてくれる。柔らかい布団が私の体を包んだ。「また後で起こしに来るからゆっくり寝てろ」「ありがとう」 蓮
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第四十七話——暖かい一年の始まり

「あけましておめでとう」 私たちはお正月、近くの神社で待ち合わせをしていた。「あけましておめでとう、陽菜」 蓮が優しく微笑む。私は手を振りながら蓮に近づいた。「お参りするか」「そうだね」 私たちは参拝客の列に並ぶ。私たちの前にはカップルらしき二人が並んでいて、腕を組んで仲睦まじそうに顔を寄せ合っていた。「屋台もいっぱい並んでるね」「結構豪華だよな」 私は周りを見渡す。参拝客だけでなく、屋台の前にも人がたくさん集まっていた。「お参りってどうやるんだっけ?」 私はふと思ったことを口にする。「どうやるも何もないだろ」「ほら、作法みたいなのあるじゃん」「あー……」 蓮は顎に手を当てて考えた。「確か、二礼二拍手一礼だったな」「あーそれそれ!」 私は手を叩き、頷く。「蓮は何お願いするの?」「内緒」 蓮は自分の口に人差し指を当てる。私は唇を尖らせた。「えー……」「言ったら叶わなくなるだろ」「それもそっか」 私たちはクスッと笑い、見つめ合う。隣で子どもたちが追いかけ合っていて、砂埃が舞った。「お金用意したか」「うん!」「じゃあ行くぞ」 蓮は私の手を引いて賽銭箱の前に行く。賽銭箱の前で二回お辞儀をし、お金を投げ入れた。太い縄を揺らして鈴を鳴らす。手を二回叩き、願い事を頭に浮かべた。そして再度一礼をする。すばやく賽銭箱の前を離れた。「陽菜は何お願いしたの?」「あれ? 叶わないんじゃなかったっけ?」 私は揶揄うように目を細めて、クスッと笑う。「まぁでも蓮と同じようなことだよ」「そうか」 私は空を見上げて目を閉じた。  ――蓮と翠といつまでも仲良くいられますように。 蓮が私の手を掴む。私は目を開き、蓮に視線を向けた。「おみくじ引くか」 蓮は楽しげな表情で私を見つめる。蓮の声が弾んでいるように聞こえた。「蓮には負けないもんね」「勝ち負けじゃないだろ」
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第四十八話——寂しさを埋める一日

 短かった冬休みが明け、新学期になった。「陽菜ー」 教室に入って椅子に座ると、志織が駆け寄ってくる。「あけましておめでとう」「あけましておめでとう、志織」 ニコッとした笑顔でお互い挨拶を交わす。すると志織は私の前に座り、ぐでっと机にうなだれた。「もう後ちょっとで三年生じゃんー……」「一年、あっという間だったね」 志織は眉を寄せて唇を尖らせる。私はそんな志織を見て微笑みを浮かべた。「ほんとに。昨日まで一年生だった気分」「それは遅すぎかも」 私は志織の言葉にクスッと笑う。それに釣られてか、志織の表情も柔らかくなった。「陽菜、もうちょっとで誕生日じゃん」「うん」 志織はガバッと顔を上げて私に近づく。私は少し驚いて目を見開いた。「蓮と出かけるの?」「まだ決めてないなぁ」「そっかー」 私が首を横に振ると、志織は少し残念そうな表情を浮かべて私から離れた。「二人ともおは」「おはよー」 直宏が志織の顔を覗き込むようにして挨拶をした。志織は頬杖をついて直宏に挨拶を返す。「一週間しか経ってないのに長く感じるな」「否定できない……」「否定しようとすんな」 志織は悔しそうな表情をして、机に拳を落とす。直宏は志織の肩を優しくつついた。「みんな、お餅食べた?」「食べた!」 私は食い気味に答える。志織はクスッと笑った。「喉に詰まらなかったか?」「もう! そんな大事件起こさないよ!」 蓮は本当に心配そうな表情で私を見ている。私は唇を尖らせて顔を背けた。「ねぇテスト前に四人で出かけない?」 そんな志織の提案に私の耳はピクッと動く。私はゆっくりと視線をそちらに向けた。「テスト前って、お前勉強しなくて大丈夫なのかよ」 蓮はため息をついた。しかし、その表情からはどこか優しさが滲んでいる。「いいじゃん。すぐテストきちゃうんだもん」「俺はいいけどよ……」 直宏は心配そうに私たちのことを見る。私と蓮は一度視線を合わせて頷いた。
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第四十九話——フラッシュバック

 ある休みの日、眠っているとスマホの着信音が鳴った。私はスマホを手に取り、寝ぼけた頭で通話ボタンを押す。『陽菜、おはよう。今大丈夫か?』「おはよう。大丈夫だけど、どうしたの?」 声で蓮だと気づいた。電話越しだと蓮の声が低く聞こえて、不意にドキッとする。『今から家、来れないか?』「いいけど……」『じゃあ待ってるな』 それだけ告げると通話は切れてしまった。「あっ……」 私は暗くなった画面を見つめる。ゆっくりと体を起こし、あくびをした。「顔洗お……」 私は洗面所に行って顔を洗う。ひんやりとした水で目が覚めて、頭がすっきりとした。 そして、着替えて私は蓮の家に行った。インターホンを押すとすぐに蓮が出て来てくれる。「急に悪いな」「ううん、平気だよ」 私は玄関に入り靴を脱ぐ。蓮は部屋に入る前に足を止めて振り返った。「ちょっと目、瞑ってて」「ん、こう?」 私は目を瞑る。すると、蓮が私の腕を掴み優しく引く。そして、少し歩いてから足が止まった。沈黙が心配になり声をこぼす。「……蓮?」「目、開けて」 そっと目を開けると、壁に華やかな飾り付けがされてあり、「Happy Birthday」と書かれているケーキが机に置いてある。「わぁ!すごい!」「誕生日おめでとう、陽菜」 するとどこから出したのか、蓮がクラッカーを鳴らす。火薬の匂いが鼻先をくすぐった。「ありがとう!」 蓮が床に散らかったリボンをかき集めて、端に寄せる。立ち上がってケーキを手に持った。「ケーキ切ってくるから座って待ってて」「分かった」 そう言って台所にケーキを持っていく。私は荷物を置いて椅子に腰掛けた。ケーキの匂いに心が躍る。飾り付けられた壁を見ていると、蓮がケーキをお皿に乗せて戻ってきた。「はい、どうぞ」「いただきます!」 私は手を合わせてからフォークを握る。「ん〜!美味しい!」「良かった」 蓮は安心したような表情を浮かべて、ホッと息をついた。 
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第五十話——目の前に君が現れることを願って。

♢♢♢ 俺は今どこにいるのだろう。俺の意識は暗い世界の中に閉じ込められてしまっていた。薄っすらと大切な人の声が聞こえてくる。でも、頭が痛くて目を開けることが出来ない。まるで、頭の中を直接鈍器で殴られているようだ。頭の痛みに耐えていると目の前に光が見えた。それに向かって歩く。光に触れたところで視界が暗転した。次の瞬間、ざわざわとした音が聞こえてくる。 ――なんだ? 「翠!早く行こ!」 ――これは、プール?「翠って案外ビビりだよな」 ――これは、三人でホラーを見てるのかな。「翠!これ食べてみて」 ――あ、陽菜があーんしてくれてる。「翠!ゲームしよ!」 ――これは、夢?「翠!大好き!」 ――っ。違う。これは…… 「翠!」「翠」 ――これは、俺の記憶だ。 事実に気づき、次から次へと映像が流れ込んできた。閉じた瞼の奥に涙が溜まる。温もりが頬を伝った感覚があったが、もう少し思い出に浸っていたかった。そこで、とある思い出が頭の中を流れて、思わず息を飲み込む。心が温かくなり、頬の筋肉が緩んだ。そして、小さい声が頭の中に響く。「私ね、おはようって言葉が一番大切なんだ」「そうなの?」 夜空を見上げた陽菜の横顔をじっと見つめる。どこか憂んだ表情の陽菜から目が離せなくなった。「どんなに憂鬱な朝でも、おはようって聞くだけで、やる気が出てくる気がするの」 少し微笑んだ陽菜の口元からは優しさが滲み出ていた。宝物を触るように大切に言葉を紡ぐ。「おはようって言われるだけで気持ちが晴れる気がするんだ。だからさ――」 そして、陽菜は大きく深呼吸をしてからゆっくりと俺の方を向いた。「これからも一番におはようって言ってくれる?」 そうだ。あの時俺は、これからも一番におはようを伝える存在になるって誓ったんだ。それなのに。それなのに……。  大きく息を吸えば、今度は川辺に腰掛けている陽菜の横顔が頭の中に流れてくる。「いつもありがとう。翠がおはようって言ってくれる
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第五十一話——最初で最後の告白

♢♢♢ 私たちは病室の扉の前で二人の会話を聞いていた。 ――陽菜に勝ちたかっただけなのに! 大きく音を立てて扉が開く。それと同時に美咲が出てきてぶつかりそうになった。「あ……」 美咲は私に鋭い視線を向ける。私はかける言葉が見つからず、下唇を噛んだ。震える手で拳を握る。美咲は私の肩にわざとぶつかって走り去っていった。「大丈夫か?」 よろめいた体を蓮が支えてくれる。私の体の力は完全に抜けていて、立っているのがやっとだった。蓮は走り去っていった美咲の後ろ姿を目で追っていた。「まぁそうなるよな」「うん……」 私たちの間に沈黙が流れる。私は蓮と視線を合わせずに言葉を探していた。静寂の中に足音が響いて、翠の病室の中に消えて行く。少しして、隣から大きく息を吸う音が聞こえた。視線をそちらに向けると、蓮が目を瞑って胸の辺りに手を当てている。私の心がざわざわする。すると蓮の目がゆっくりと開いて、瞳に私の心配そうな表情が映った。「なぁ陽菜。少し二人で話さねーか?」 その言葉に頷いて私たちは病院の中庭に来た。 「ここ初めてきたかも」「そうだな」 ベンチに囲まれた花壇には、赤と黄の花が咲いている。小さいけど確かな存在感に目を奪われた。花に背を向けてベンチに並んで座る。沈黙に心のざわめきが大きくなるが、爽やかな外の風がそれを和らげた。「病院来るの懐かしいな」 そうだ。今来ている病院は、翠が事故にあった時、長い間お世話になった病院だった。「覚えてるか?翠が目覚めたときのこと」「うん。覚えてる」 あの時の世界が真っ黒になった感覚は今でも忘れられない。思い出すだけで指先が震えて、息が詰まる。そっと触れられた蓮の手からも震えが伝わった。「あの時俺、絶対陽菜のそばから離れないって誓ったんだ」「……うん」 蓮の声がいつもよりも低くて、真剣な話だと察する。「出来ることなら俺が一番近くで陽菜を支えていたいって思った」 蓮に視線を向けると、どこか遠くを見つめているようだった。私は足元に視線を落とす。「陽菜、別れよう」「え」
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第五十二話——結末

 私は目をこすりながら走って蓮のところに向かっていた。蓮は先ほどと同じ花壇の前にいた。花の前に立っている蓮はいつもよりも大人びて見えた。「蓮!」「陽菜?」 私は肩を上下しながら膝に手をつく。蓮は目を見開いていた。「早くないか?」「蓮に言いたいことがあって……」 私は大きく深呼吸をして呼吸を整える。私が話そうとすると、先に蓮が口を開いた。「あ……」 蓮は頬をかきながら視線を逸らす。私は不思議に思い首を傾げた。「俺、邪魔だよな。悪い」「え?」 何に対して謝っているのか分からなくてさらに首を傾げる。蓮は下唇を噛んでいた。「帰った方がいいよな。待ってるとか言ってごめん」「……」 焦ったようにどんどん言葉にする蓮を見て、私は一つの可能性に辿り着いた。「あのさ……」「あーそうだった。俺用事があるから帰らないと」 話そうとすると私の言葉を遮って蓮がつぶやく。蓮は帰ろうと荷物を準備し始めた。 ――やっぱりそうだ。 私は確信に至ると蓮の肩を掴んで、言葉をこぼした。「蓮聞いて、あのね」「……」 蓮はついに下を向いてしまった。きっとこの先の言葉を聞きたくないのだろう。珍しく蓮が動揺している。安心させるように、優しい声音で言葉を紡いだ。「蓮……」 蓮の肩がビクッと震える。私は蓮の肩に触れている手に力を入れた。一度深呼吸をして告げる。「私、翠とは付き合わないよ」「……え?」 蓮は顔を上げる。目を丸くし、何度か瞬きを繰り返した。私は優しく微笑む。「私の話聞いてくれる?」「……分かった」 そして、私たちは花壇の近くにあるベンチに並んで座った。どうやって話を切り込もうか迷っていると、蓮が言葉をこぼす。「なんで、付き合わなかったんだ?」「まず、翠と話したこと話してもいい?」「……あぁ」♢♢♢ 私はひとしきり翠の病室で泣いた。ベッドの横でしゃがんで目を擦っていると、翠がハンカチを差し出してくれる。「ごめん、翠……」 私は涙
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エピローグ〜前編〜

「おはよう、陽菜」「おはよー」 私は、毎朝翠と登校することにした。初めは蓮も一緒に行くと言っていたのだが、いつまでも図書委員の仕事をサボるのは良くないため、頑張って説得した。「眠いね」「本当だ。目が眠そう」 目を擦っている私を見て、隣で翠がクスッと笑う。翠はというと、全然眠そうではなく、何なら元気だ。「運動部だから違うのかな……」「何が?」 ハッと翠の方を見る。全部口に出てしまっていた。「運動部だから体が丈夫なのかなって」「あぁ、そういうことね」 あはは、とさっきよりも大きな声で笑うと、翠は自分の体を見た。私は恥ずかしくて顔を逸らす。 すると、グイッと思いっきり体を引かれた。「わぁ!」 私の左横をものすごいスピードで車が通る。車の風で髪が靡いた。「危なかった……」 隣で翠が安心したように、息をつく。「ごめん。ありがとう」「いえいえ」 翠が守ってくれていなかったらと考えると身震いをしてしまう。「ほら、こっちおいで」 そう言って道路とは反対側に私を移動させる。さりげない配慮に心が温かくなった。「そうだ」 翠は思い出したように、手をパチンと鳴らす。私は首を傾げた。「駅前のカフェ行こうよ」 その言葉に私の心はざわついた。あの日、翠が事故にあった日に行こうとしてたところだからだ。考えていると、左から翠に覗き込まれる。「ダメ?」「ダメじゃない!」 翠の潤んだ瞳のせいで勢いよく答えてしまった。翠はクスッと笑って微笑む。「じゃあ放課後行こっか」 ざわついていたはずの心も翠の笑顔一つで落ち着いてしまう。私はいつまでもこの笑顔を大切にしたいと思った。
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