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第四十八話——寂しさを埋める一日

Penulis: 桜庭結愛
last update Tanggal publikasi: 2026-06-18 14:00:00

 短かった冬休みが明け、新学期になった。

「陽菜ー」

 教室に入って椅子に座ると、志織が駆け寄ってくる。

「あけましておめでとう」

「あけましておめでとう、志織」

 ニコッとした笑顔でお互い挨拶を交わす。すると志織は私の前に座り、ぐでっと机にうなだれた。

「もう後ちょっとで三年生じゃんー……」

「一年、あっという間だったね」

 志織は眉を寄せて唇を尖らせる。私はそんな志織を見て微笑みを浮かべた。

「ほんとに。昨日まで一年生だった気分」

「それは遅すぎかも」

 私は志織の言葉にクスッと笑う。それに釣られてか、志織の表情も柔らかくなった。

「陽菜、もうちょっとで誕生日じゃん」

「うん」

 志織はガバッと顔を上げて私に近づく。私は少し驚いて目を見開いた。

「蓮と出かけるの?」

「まだ決めてないなぁ」

「そっかー」

 私が首を横に振ると、志織は少し残念そうな表情を浮かべて私から離れた。

「二人ともおは」

「おはよー」

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  • 「おはよう」って云いたい   第四十八話——寂しさを埋める一日

     短かった冬休みが明け、新学期になった。「陽菜ー」 教室に入って椅子に座ると、志織が駆け寄ってくる。「あけましておめでとう」「あけましておめでとう、志織」 ニコッとした笑顔でお互い挨拶を交わす。すると志織は私の前に座り、ぐでっと机にうなだれた。「もう後ちょっとで三年生じゃんー……」「一年、あっという間だったね」 志織は眉を寄せて唇を尖らせる。私はそんな志織を見て微笑みを浮かべた。「ほんとに。昨日まで一年生だった気分」「それは遅すぎかも」 私は志織の言葉にクスッと笑う。それに釣られてか、志織の表情も柔らかくなった。「陽菜、もうちょっとで誕生日じゃん」「うん」 志織はガバッと顔を上げて私に近づく。私は少し驚いて目を見開いた。「蓮と出かけるの?」「まだ決めてないなぁ」「そっかー」 私が首を横に振ると、志織は少し残念そうな表情を浮かべて私から離れた。「二人ともおは」「おはよー」 直宏が志織の顔を覗き込むようにして挨拶をした。志織は頬杖をついて直宏に挨拶を返す。「一週間しか経ってないのに長く感じるな」「否定できない……」「否定しようとすんな」 志織は悔しそうな表情をして、机に拳を落とす。直宏は志織の肩を優しくつついた。「みんな、お餅食べた?」「食べた!」 私は食い気味に答える。志織はクスッと笑った。「喉に詰まらなかったか?」「もう! そんな大事件起こさないよ!」 蓮は本当に心配そうな表情で私を見ている。私は唇を尖らせて顔を背けた。「ねぇテスト前に四人で出かけない?」 そんな志織の提案に私の耳はピクッと動く。私はゆっくりと視線をそちらに向けた。「テスト前って、お前勉強しなくて大丈夫なのかよ」 蓮はため息をついた。しかし、その表情からはどこか優しさが滲んでいる。「いいじゃん。すぐテストきちゃうんだもん」「俺はいいけどよ……」 直宏は心配そうに私たちのことを見る。私と蓮は一度視線を合わせて頷いた。

  • 「おはよう」って云いたい   第四十七話——暖かい一年の始まり

    「あけましておめでとう」 私たちはお正月、近くの神社で待ち合わせをしていた。「あけましておめでとう、陽菜」 蓮が優しく微笑む。私は手を振りながら蓮に近づいた。「お参りするか」「そうだね」 私たちは参拝客の列に並ぶ。私たちの前にはカップルらしき二人が並んでいて、腕を組んで仲睦まじそうに顔を寄せ合っていた。「屋台もいっぱい並んでるね」「結構豪華だよな」 私は周りを見渡す。参拝客だけでなく、屋台の前にも人がたくさん集まっていた。「お参りってどうやるんだっけ?」 私はふと思ったことを口にする。「どうやるも何もないだろ」「ほら、作法みたいなのあるじゃん」「あー……」 蓮は顎に手を当てて考えた。「確か、二礼二拍手一礼だったな」「あーそれそれ!」 私は手を叩き、頷く。「蓮は何お願いするの?」「内緒」 蓮は自分の口に人差し指を当てる。私は唇を尖らせた。「えー……」「言ったら叶わなくなるだろ」「それもそっか」 私たちはクスッと笑い、見つめ合う。隣で子どもたちが追いかけ合っていて、砂埃が舞った。「お金用意したか」「うん!」「じゃあ行くぞ」 蓮は私の手を引いて賽銭箱の前に行く。賽銭箱の前で二回お辞儀をし、お金を投げ入れた。太い縄を揺らして鈴を鳴らす。手を二回叩き、願い事を頭に浮かべた。そして再度一礼をする。すばやく賽銭箱の前を離れた。「陽菜は何お願いしたの?」「あれ? 叶わないんじゃなかったっけ?」 私は揶揄うように目を細めて、クスッと笑う。「まぁでも蓮と同じようなことだよ」「そうか」 私は空を見上げて目を閉じた。  ――蓮と翠といつまでも仲良くいられますように。 蓮が私の手を掴む。私は目を開き、蓮に視線を向けた。「おみくじ引くか」 蓮は楽しげな表情で私を見つめる。蓮の声が弾んでいるように聞こえた。「蓮には負けないもんね」「勝ち負けじゃないだろ」

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     カーテンの隙間から一筋の光が差した頃、私は目を覚ました。目をこすりながら体を起こす。「おはよう」「うん、おはよう……」 先に起きていた蓮はすでに着替えていて、優しい笑みで迎えてくれた。「眠そうだな」「んー……」 私はうとうとしながら、ベッドの上に座っていた。「顔洗ってきたら?」「……そうする」 私はふらふらした足取りで階段を降りる。うっすらとした視界でお風呂場の扉を開くと誰かにぶつかった。「あ、ごめん」 そこで少し意識がはっきりする。「陽菜、おはよう」「おはよう」 顔を洗い終えた翠が、タオルで拭きながら私に微笑んだ。「眠そうだね」「ん」 私は立ってるのもやっとで、翠に頭を預ける。「ひ、陽菜?」 翠は動揺したようで、声が少し震えていた。「眠い……」 そのままズルズルと床に座り込む。翠が体を支えてくれていた。「え、ちょっ……」 翠が私の体を揺らす。私はそのままゆっくりと瞼を閉じた。薄れゆく意識の中、蓮の声が聞こえる。「陽菜、大丈夫か?」 ガチャッと扉が開く音がする。「って、翠。どういう状況だ?」「なんか眠いって言って倒れて来たけど……」 少し沈黙が流れる。後ろからため息の音が聞こえた。「おーい。陽菜、起きろ」 蓮は私の肩を叩く。「仕方ないか」 そこで私の体はヒョイっと持ち上げられた。意識が徐々にはっきりしていく。「んー……わっ!蓮?」「あんま動くな」 私は驚きのあまり蓮の腕の中で体が跳ねた。私はボーッとしている頭を頑張って回転させる。「なんで……」「なんでって陽菜が床で寝るからだろ。寝るなら部屋で寝ろよ」「ご、ごめん」 蓮は少し不満そうな表情をしている。そんな表情を見て胸がざわついた。「はい」 部屋まで来るとゆっくりとベッドに降ろしてくれる。柔らかい布団が私の体を包んだ。「また後で起こしに来るからゆっくり寝てろ」「ありがとう」 蓮

  • 「おはよう」って云いたい   第四十五話——輝くプレゼント

    今日はクリスマスイブで、蓮の家に泊まることになっている。蓮の家に泊まるのは幼稚園生の頃以来で、胸が高鳴った。 「お邪魔します」 「今日は誰もいないから安心しろ」 リビングに行くと、静けさの中にテレビの音だけが響いていた。 「みんな出かけてるの?」 「母さんたちは仕事。翠は買い物しに行くってよ」 「そっか」 私はコートを脱いでソファの角に引っ掛ける。荷物を端に置いてソファに腰掛けた。 「今日ご飯どうする?」 「買いに行くでいいんじゃない?」 「そうするか」 蓮は私の前にあるテーブルにお茶を置くと、立ち上がって背を向けた。 「どこ行くの?」 「ゲーム取ってくる」 そう言って扉が静かに閉まる。ソファに深く腰を預け、肘掛けに肘を乗せ頬杖をついた。テレビのリモコンを操作し、チャンネルを変える。年末だからかお笑いやニュース番組ばかりで、この部屋の静けさには似合わなかった。 適当な番組を見て待っていると蓮がゲーム機を持ってくる。一つカセットを取り出して笑顔で告げた。 「これやろうぜ」 「それホラーじゃん!」 「冗談だよ」 蓮は面白そうに肩を揺らして笑った。そして私の隣に腰をかけた。 「はい」 蓮がゲームのコントローラーを手渡してくれる。私はそれを受け取り、ソファの前方に浅く腰をかけた。 「これ昔よくやったよね」 「そうだな」 蓮が持ってきたのはカーレースのゲームだった。運要素もあるので小さい頃に翠も含めて三人でやった覚えがある。 蓮が画面を操作し、ゲームがスタートした。 その後はゲームに集中していて、鼓動の速さを気にすることもなかった。夕方のチャイムが鳴り、そこで初めて時間の経過に気づいた。 「一回しか勝てなかっ

  • 「おはよう」って云いたい   第四十四話——幸せな放課後

     私は教室の席で大きく背伸びをした。「やっと冬休みだー!」「テストも無事終わって良かったね」 志織がニコッと微笑む。その笑顔に、張り詰めていた心がふっと柔らかくなった。「ほんと。蓮のおかげかなぁ」「だろ?もっと褒めてくれてもいいぜ」「その言葉で褒める気なくなった」 誇らしげにする蓮に対して私はふいっと顔を背ける。そんな様子を志織と直宏が笑って見ていた。「そうだ! この後空いてる?」 志織が目を輝かせて尋ねる。「うん。空いてるけど、どうしたの?」「四人でカフェ行かない?」 志織が楽しそうに微笑んだ。「いいな、行こうぜ」 前のめりに直宏が賛成する。私たちも顔を見合わせてから頷いた。 放課後私たちは学校の近くにあるカフェに来ていた。「このカフェ綺麗だね」「そうなの!ずっと来てみたかったんだよねー」 木目調のテーブルと白い壁が落ち着いた雰囲気を作り、大きな窓から差し込む陽光が店内を優しく照らしている。窓際には観葉植物が並び、まるで森の中にいるような心地よさだった。「陽菜」 店内をキョロキョロ見渡していると突然蓮の手が頭に伸びてきた。「な、なに?」 目をギュッと閉じる。何もなくて恐る恐る目を開けると蓮が優しく微笑んでいた。「葉っぱついてた」「え……」 蓮の手には緑色の葉が乗っかっている。触れられるのかと思い鼓動が少し速まった。「どこでそんなの付けてきたのよ」「私だって知らないよっ」 志織は呆れたようにため息をついた。私は恥ずかしさを誤魔化すようにメニューに手を伸ばす。 そして、メニューで顔を隠した。「陽菜、メニュー逆だぞ」「あれ……」 そう言って蓮がメニューを反対向きにする。「陽菜どうしたの?いつにも増してポンコツだけど」「それって普段もポンコツってこと?」「そうだけど?」 志織が揶揄うように目を細めて笑う。私は頬を膨らませて顔を背けた。「喧嘩してないで、二人とも決めたのか?」

  • 「おはよう」って云いたい   第四十三話——落ち着かないテスト勉強

    「蓮ー……」「なんだ?」 私は深刻そうな表情で蓮に抱きつく。「勉強教えてください」 放課後、私たちは図書館にやって来ていた。「人いっぱいいるね」「テスト期間だからな」 私たちは顔を近づけて小さい声で話す。「ここ空いてるぞ」 最後の一つ、席が空いていた。そこに対面で腰をかける。「図書館涼しいね」「そうだな」 蓮は優しく微笑み教科書を取り出す。すると周りがザワザワし始めた。 ――蓮先輩だ。 ――隣にいる人って噂の彼女かな。 チラチラとこちらを見てくる視線に気を取られて、教科書を出す手が止まる。聞きたくない言葉が耳に届き、私の体は強張った。蓮は私の様子を見て体を近づける。「陽菜、やっぱり家で勉強するか」「え?分かった」 私たちは立ち上がり図書館を後にする。少し後ろを振り返ると、学生二人が安心したように、私たちのいた席に座ったのが見えた。 私たちは自然と手を繋いで帰り道を歩いている。「蓮ってさ」「ん?」 蓮がこちらを見る。私は優しい表情で言葉をこぼした。「優しいよね」「急になんだよ」 きっと、蓮はあの子たちに席を譲ろうとしたのだろう。私はあの中で勉強するのは居た堪れなかったので、ちょうど良かった。「蓮の家行くの久しぶりだなぁ」「確かにな。最近忙しかったし」 私は少し緊張している。いくら幼馴染といえど、二人きりというのは珍しかった。繋がれていない左手を強く握る。そわそわしているといつの間にか家の前に着いていた。「ほら、入れよ」「お邪魔します」 私は靴を脱いで玄関に上がる。リビングに入ろうとすると、蓮が足を止める。近くにいたため、蓮の背中に鼻をぶつけてしまった。「あ、翠帰ってたのか」「うん。って陽菜?」「あ……」 鼻を押さえながら蓮の背中から顔を出す。告白以降話しておらず、気まずい空気が流れた。そんな状況を察してか、蓮が翠に背中を向ける。「じゃあ俺ら部屋で勉強してくるわ」

  • 「おはよう」って云いたい   第二十九話——視線が交わらない正午

     体育祭当日、いつもよりも早く起きて、身支度を整える。グラウンドと応援席の準備があるため、三十分登校時間が早いのだ。 カバンを手に取り、扉を開ける。「陽菜、おはよう」 階段の下から蓮の声が聞こえて、思わず体が跳ねた。「びっくりした……蓮、待ってたの?」「俺もいるよ」 蓮の後ろからヒョコッと翠が顔を出す。私は階段の途中で止まり、目を丸くした。穏やかな笑みを浮かべた翠を見て頬が緩む。階段を降り、蓮と視線を合わせる。蓮は優しく微笑んで言葉をこぼした。「一緒に行こうぜ」「うん」 私が頷くと蓮は歩き出す。その

  • 「おはよう」って云いたい   第九話——志織との夏休み

    夏休みに入って数日間、私はひたすら白い天井を眺めていた。 「暇だなー……」 誰もいない部屋に、私の声だけが響いた。立てられた予定も、全て八月に入ってからのため、七月は特になにもすることがないのだ。宿題はあるのだが、まだやる気は起きていない。きっと最後の方に慌てて終わらせるのだろう、と他人事のように考えていた。 「……暇すぎる!」 誰に聞かせるわけでもない声が部屋中に響いた。換気のため窓を開けており、部屋中に生ぬるい空気が蔓延している。暑さもやる気のなさの原因だと思い、窓を閉め、部屋の空気を冷やした。冷静になった頭で今後のことを考える。 ――あ、そうだ! 誰かを遊びに誘お

  • 「おはよう」って云いたい   第八話——戻ってきた日常

    次の日の朝、いつも通り準備を終わらせ、インターホンが鳴るのを待っていた。 ピーンポーン。 私を呼ぶ音が家中に響いた。 「はーい」 「よぉ、準備は終わってるな」 「もちろん」 靴を履いてさらに扉を開けると、蓮の後ろに翠が立っていた。 「あ!翠も来てくれたんだね!おはよう」 「うん。おはよう、陽菜」 少し変わってしまった私たちの会話に少し寂しい思いをしたが、翠と朝から話せているという事実が何よりも嬉しかった。 「三人で登校するのは久しぶりだねー」 「そうだな」 歩きながらそう話して、事故の前までは翠と二人で登校していたこと、昨日までは蓮と一緒に登校し

  • 「おはよう」って云いたい   第七話——嬉しい知らせ

    今日も蓮と二人、同じ道を歩いて学校に向かう。最近は学校に行くのが少しだけ憂鬱だった。しかし蓮に悟られないように、いつも通りを装う。 下駄箱は男女で分けられており、女子の下駄箱の裏側が男子になっている。私は自分の下駄箱を開けて思わずため息をついた。 ――まただ。 丸められたプリントの切れ端や、悪口の書かれた白い紙。ここ数日、ゴミが入れられていたり教科書が隠されたりと小さな嫌がらせが続いている。原因はきっと、蓮との距離が近くなったことだ。 元々蓮は顔も良くて勉強もできる。だから人一倍モテるけれど、彼は告白されても冷たく突き放す。そのせいで女子に恨まれることも少なくなかった。そしてそ

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