Tous les chapitres de : Chapitre 221 - Chapitre 230

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第221話

玲奈はぎゅっと拳を握りしめた。――真帆、あまりにずるい!「その顔、嫌ってわけ?」真帆は彼女の顔色がどんどん悪くなっていくのを見て、何気なく聞いた。「嫌じゃない」玲奈は、この話をあちこちに言いふらされたくなくて、しぶしぶうなずく。「どう書けばいいか考えてただけ」「貸して。私が送ってあげる」真帆は片手を差し出した。玲奈は一瞬、柚香のほうを見てから、スマホのロックを解除して真帆に渡した。どうしてこのタイミングで柚香を見るのか、二人とも不思議に思ったが、真帆が遥真の連絡先の表示が「旦那」になっているのを見た瞬間、口元に薄い嘲りが浮かんだ。「ここまで図太いと逆にすごいね」柚香「?」真帆はスマホを少し傾けて見せた。柚香にも見えた。――うん、いかにも玲奈らしいやり方だ。「はい、送っといたから」真帆は編集して送信すると、スマホを彼女に放り返した。「これからはお互い干渉なし。そっちがこっちの領域に踏み込むなら、こっちも遠慮しないから」「その言葉、そのまま返すわ」玲奈は彼女をまっすぐ見返す。「余計なこと、軽々しく言わないで」真帆は返事もせず、そのまま柚香を連れて出ていった。二人の背中が病室のドアの向こうに消えたのを見届けると、玲奈はぎゅっと拳を握りしめた。そしてついにこみ上げる怒りを抑えきれず、スマホを壁に思いきり叩きつけた。バン!大きな音が響き、画面は粉々に割れた。それでも玲奈の怒りは少しも収まらない。さっきの一連の出来事を思い出すたび、屈辱で胸がいっぱいになる。「玲奈さん、何かありましたか?」ボディーガードたちが一斉に駆け込んできて、床に落ちたスマホを拾い上げ、彼女の前に置いた。ひび割れた画面を見て、余計に苛立ちが募る。「出てって!」ボディーガードたちは何も言わず、そのまま出ていこうとした。「待って!」玲奈が呼び止める。ボディーガードたち「?」「社長に連絡して。今すぐ話したいことがあるって伝えて」玲奈は、遥真が柚香に自分以上に優しくしているのがどうしても許せなかった。もう離婚するはずなのに、しかも彼自身、彼女を困らせるって言っていたのに。そのうちの一人が答える。「申し訳ありません、私たちは社長の連絡先を持っていません」「じゃあ、連絡取れる人を探して」玲奈の怒りは少しも収まらない。「二
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第222話

それを言い終えると、遥真はすぐに電話を切った。玲奈に口を挟む余地は一切与えなかった。ドン!もともとひび割れていたスマホが、もう一度床に叩きつけられる。今度は画面が本体から外れて、完全に分離してしまった。ドアの外にいたボディーガードは、横目で中の様子をちらりと見たが、空気を読んで拾いに入ろうとはしなかった。それに比べて、柚香と真帆のほうはずっと気楽な雰囲気だった。「ただ病院で診てもらうだけでしょ?」柚香は不思議そうに言った。「玲奈、なんであんなに怖がってるの? たとえ妊娠して中絶したことがあったとしても、遥真の性格なら気にしないと思うけど」「そこはまだはっきりしてないの」真帆が答える。「じゃあ、なんであんな約束したの?」「私は『言わない』って約束しただけ。あんたも言わない。でも、他の人まで黙るとは限らないでしょ」真帆は車のドアを開けて乗り込み、エンジンをかけると柚香を会社まで送るために車を出した。「来る前に、もう怜人に調べさせてる」柚香は親指を立てた。やっぱり頼れるのは親友だ。「それにね……」真帆はわざと語尾を伸ばし、意味ありげに続ける。「ビジネスの世界じゃ、書面に残ってない約束なんて、口だけの話は全部あてにならないの。玲奈って、いかにも世間の厳しさを知らないって感じよね」柚香はうなずいた。確かにそうだ。どれだけ大きな話を持ちかけられても、どれだけ魅力的な条件や約束を提示されても。実際に形になっていなければ、それはただの空約束にすぎない。「大学のとき、玲奈と同じ部屋だったんでしょ? 病院に行ってたこと、知ってる?」真帆が聞いた。柚香は少し思い出してから首を振る。「知らない。聞いたこともない」「じゃあ今は考えすぎないでいいわ。玲奈がこのことを遥真に知られたくない、それが分かれば十分」真帆はハンドルを回しながら、さっきまでの焦りがすっかり消えていた。「あとは怜人の調査を待てばいい」柚香は「うん」と答えた。会社に着くと、真帆はそのまま去っていった。デスクに座った柚香は、病院での出来事を少し振り返ってみたが、特に気になる点も思い当たらず、そのまま仕事に集中した。気づけばあっという間に土曜日。柚香はいつも通り奈々の授業に向かった。追加の授業は断り、昼のレッスンを終えると榊原家を出て、そのまま病院へ向
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第223話

「こんなに料理あるのに、まだ口ふさがらないのか?」時也は隣の空気がどんどん重くなっているのに気づいて、慌てて声を潜めた。「よくそんなこと言って、全然怖くないのか」「彼、私に頼みごとがあるから、どうこうできないでしょ」凛音はのんびりした口調で言う。時也「……」遥真は彼女をちらりと見た。胸の奥の感情を、結局は押し込める。「ねえ、なんで彼と柚香、離婚したの?」凛音は食べ終わって暇を持て余し、ついゴシップに走る。「あんなに好きだったんでしょ?死ぬほど愛してるとか、忘れられないとか、一生一緒とか……なのに気変わりして冷めて、乗り換えたってこと?」「慣用句ムリに使うなよ」時也は口元を引きつらせた。「そこはどうでもいいの」凛音はだらっと椅子にもたれ、顎で遥真を指した。「問題は、その二人の話、結局どうなってんのってこと」「自分でネットで調べればいいだろ」時也は、ここに来た自分をすでに後悔していた。何年経ってもこいつの口の悪さは変わらない。「わざわざ地雷踏みにいくなよ」「調べられないの」凛音は真顔で言う。時也「???」時也は思わず遥真を見た。まさか遥真が何か厳命でも出してるのか?「うちのパソコン、彼のこと嫌いなの」凛音はバッグからノートPCを取り出し、細くて白い指で軽くなぞる。「検索したらウイルス入って、フリーズするから」「そういえば家に用事あったわ」時也はさっさと退散することにした。これ以上ここにいたら、この重苦しい空気で死にそうだ。「二人でゆっくり話してろよ」そう言って立ち上がり、外へ出ようとした。しかし……ん?動けない。服、どこかに引っかかった?振り返ると、いつの間にか遥真の手が自分の服を押さえていた。その手から上へ視線をたどると、怒りのない落ち着いた顔が目に入った。「やっぱやめた。凛音もせっかく帰ってきたし、もう少し付き合うわ」凛音は二人をちらっと見て、これでもかというほど嫌そうな顔をした。時間は少しずつ過ぎていく。柚香はまだ安江の病室にいて、やることのない凛音はそのままソファに倒れ込み、だらしない格好で眠ってしまった。「こいつ、本当に女か?」時也はその寝相に視線を落とす。「さすがに無防備すぎないか?」遥真は横目で彼を見た。時也「なんだよ?」遥真は淡々と言う。「女は
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第224話

「修司お兄ちゃん!」陽菜が不満げに声を上げた。柚香のどこがいいのか、どうしても分からなかった。ただの落ちぶれたお嬢様にすぎないのに、どうして遥真にあんなに大事にされて、修司にまでかばわれるのか。遥真はもともと人とあまり関わるのを好まないし、家族に対してさえどこか冷たい人なのに。「彼女を連れ出せ」修司はそのままボディーガードに命じた。口調には一切の迷いがない。「今後は私の許可なしでここに来させるな」「承知しました」ボディーガードたちは命令を受け、陽菜を連れて、その場を後にする。陽菜は必死に抵抗しようとしたが、まったく通じず、結局その苛立ちを全部柚香にぶつけるしかなかった。やがて、病室からは彼女の姿も声も消えた。「小さい頃から甘やかされて育ってな。あとでちゃんと叱っておく」修司はベッドにもたれたまま、申し訳なさそうに眉を寄せる。「今日は本当にすまなかった」「気にしてないですよ」柚香はあっさりと言った。遥真と結婚したばかりの年に、年越しの食事で一度顔を合わせたことがある。あのときは遥真が本気で怒って、それ以来、陽菜は彼女を見るたびに鼻で軽くあしらう程度で、それ以上は何も言わなくなった。この五年で顔を合わせたのも、せいぜい四、五回ほどだ。「今日はただの見舞い?それとも、頼んでいた件について何か考えが変わったのか?」修司はいつもの穏やかな表情に戻り、ゆっくりと問いかける。柚香は視線を彼に向けた。「お見舞いもあるんですけど、ついでにちゃんと話をしておこうと思って」「話?」修司の目にわずかな疑問がよぎる。「私はあなたや遥真とは違います。あなたたちみたいな人間じゃないんです」柚香は一度だけ、はっきりと言い切った。「遠回しな駆け引きとか、そういうのは分からないですし、好きでもありません」修司はわずかに唇を開く。だが彼が口を開くより先に、柚香が続けた。「あなたに目的があるのは分かっています。その目的は、遥真のためじゃありません。それだけは断言できます」「そんなに私は信用できないか?義兄として」修司は落ち着いた声で言う。柚香は迷いなく答えた。「そうです」その瞬間、修司は言葉を失った。商談の場での駆け引きや策略ならいくらでも対応できる。だが、ここまでまっすぐで、何も隠さない心を前にすると、逆に自分のほうが丸
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第225話

そう思うと同時に、修司は実際にそうした。視線をまっすぐ柚香に向け、そのまま目を合わせながら、落ち着いた口調で言う。「私に目的があると分かっていながら、あえて腹を割って話そうとした。それってつまり、君もこの件を利用して、遥真に対抗しようとしてるって理解していいのかな?」柚香「そうですよ」修司は少し意外そうな顔をした。ここまでストレートに認めるとは思っていなかった。この世界では、いろんな人間を見てきた。中には柚香以上に素直で単純な人もいる。けれど、遥真のそばに丸五年もいて、なおそのままの心を保っているとなると……彼女自身が相当強いか、あるいは遥真が徹底的に守ってきたか。どちらにしても、一目置かずにはいられない。「君を助けたのは、確かに目的があってのことだ」修司はあっさり認めた。「君を使って、遥真の心を乱したかった。それで自分の狙いを達成するつもりだった」柚香「?」柚香はわずかに眉をひそめる。修司は、掛け布団の上で両手を組みながら言った。「信じてない?」「あなたはビジネスマンでしょう」柚香はまったく信じていなかったし、その理由もはっきり口にした。「損得で動くのが一番得意な人が、命の危険を冒してまで、ただ遥真の気持ちをかき乱すためだけに動くんですか?」――そんなこと、自分だってしない。まして遥真のライバルである修司がやるなんて。どれだけ非効率な話なのか。「シャンデリアには、あらかじめ細工をしておいた」修司はゆっくりと説明する。「自分が軽いケガで済むって分かってた」「でも、あんなに血が出てましたよ?」柚香は実際に見ている。あれは血のりじゃない、本物の血だった。「血があれだけ出なければ、本気で君を助けたって信じてもらえないだろ」修司は少し計算するように間を置き、すべてを明かした。「信じてもらえなければ、君と遥真の間に溝を作れないからね」柚香は聞けば聞くほど混乱していく。修司の策が高度すぎて理解できないのか、それとも単純な話をわざとややこしくしているのか。「まだ分からない?」修司は彼女の表情に気づいた。柚香は首を振る。――正直、さっぱり分からない。「たとえ君が心のどこかで私に疑いを持っていたとしても、証拠がなければ結局は命の恩人として見るしかない」修司は続けた。「時間が経てば、そのわずかな疑い
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第226話

「それだけですよ」柚香は答えた。修司は彼女の顔から嘘の気配を探ろうとしたが、どこを見てもあまりに自然で、かえって疑いが深まった。「あいつ、堂々と他の女と一緒にいるのに、それでも信じるのか?」「信じることと、彼が他の人と一緒にいるかどうかは、別の話でしょう」柚香はあっさりと言った。「じゃあ、離婚したのはただの気まぐれか?」修司が聞く。柚香「違いますよ」修司「?」修司は、ここまで理解できないことは初めてだった。自分は恋愛にはそれなりに分かっているつもりだったのに、今日柚香が口にしたことは、その認識を根底から覆していた。「あなたの計画には協力します。ちゃんと演じますよ」柚香は彼がまだ考え込んでいるうちに続けた。「でも、あなたの思い通りになるかは保証できません。遥真が、私たちが組んでいるって見抜くかどうかは分かりませんから」二人の関係は、お互いの目的のため。修司は一瞬言葉に詰まり、彼女の話をつなぎ合わせてようやく理解した。「どうしてだ?」「離婚したいですから」柚香は隠すつもりもなかった。「彼を信じてないって思わせれば、がっかりさせて、そのまま離婚しやすくなるでしょう」その言葉は、向こう側にいた三人の耳にもはっきり届いていた。時也は何度目か分からないくらい「ここから逃げたい」と思った。この話、刺激が強すぎて胃が痛くなりそうだ……!「へえ」凛音は頬杖をついてため息まじりに言う。「わざわざ悪役に加担してまで一緒にいたくないなんて、あなた相当ダメな夫だね」時也は彼女に目で合図を送った。――ちょっとは空気読んでくれ!こっちはもう居たたまれないんだぞ!遥真は唇を引き結んだまま何も言わず、黒い瞳で画面を見つめていた。その奥には、行き過ぎた静けさの中に押し込められた感情がある。ちょうどその時、パソコンの向こうから再び修司の声が響く。彼は柚香を見つめ、新たな手を示した。「本気であいつを失望させたいなら、子どもの頃のことを突けばいい。このやり方よりずっと簡単だ」「そこまでするつもりはありません。人としてね」柚香はそう言い残し、立ち去ろうとした。どんな方法でも遥真に対抗することはできる。でも、過去の傷をえぐるやり方だけは、絶対に選ばない。「待て」修司が呼び止める。柚香は足を止め、横目で彼を見た。修司は、こ
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第227話

時也は、向こうがしばらく無言なのを聞いて口を開いた。「話、終わったのか?」凛音はキーボードを数回叩いて別の画面を呼び出し、表示された青い点が動いているのを確認してから答えた。「終わったよ。柚香、今ちょうど病院の外に出るところ」時也は思わず隣の人をちらりと見る。さっきまでの重たい空気が消えている。あの圧迫感もない。顔色も、少し柔らいでいる気がする。「ほんと理解できないんだけど。あんなにいい子なのに離婚するとかさ、もしかして男が好きだったりする?」凛音はノートパソコンを閉じながら、完全に野次馬モード。遥真が顔を上げる。「誰が離婚するって言った?」時也「は?」凛音「え?」「離婚を言い出したのはあいつだ。俺はただ、あいつのわがままに付き合ってやってるだけ」柚香のあの言葉を思い出して、遥真の胸はじんわりと温かくなる。「柚香さんはわがままで言ってるわけじゃないぞ」時也が親切心で釘を刺す。「今日はもう8日だ。12日で手続きが完了。つまり13日には離婚届受理証明書もらえる」遥真は一瞬言葉を失った。こんなに時間が経っていたなんて、思ってもいなかった。「柚香さんの性格、君が一番わかってるだろ」時也は少し勇気を出して続ける。「そのときになって君がやっぱりやめるとか言い出したら、あいつ、何するかわからないぞ。無理やりでも離婚に持ち込むかもしれない」遥真はソファから立ち上がり、表情にこれまでよりもわずかながら重みが増した。そろそろ、片づけるべきことを片づける時だ。「どこ行くんだよ?」時也が、何も言わずに出ていこうとする彼を呼び止める。「あいつを戻させたし、あとはこの数日で全部はっきりさせる」遥真は歩きながら、淡々とした声で言った。「遅くとも来週の水曜までに結果を出せ」凛音は好奇心を抑えきれずに聞く。「何のこと?」時也「柚香の母親のこと」凛音「は?」何を調べる必要があるのか。「ちょうどいい、君も戻ってきたし手伝え」時也はこんな厄介な案件に出会ったことがない。「もう一ヶ月くらい調べてるのに、手がかりが一つも出てこない。まるで誰かに完全に消されたみたいなんだ」「そんなことある?」凛音は少し意外そうに眉を上げた。彼女の記憶では、柚香の母親はただの美人で、穏やかで、きちんとした普通の人だったはずだ。
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第228話

凛音の目に、戸惑いの色が走った。「……?」時也は彼女の表情に気づいた。「どうした?」「柚香のお母さんの資料、すご腕のハッカーに隠されてるみたい」凛音は手を止め、頬杖をつきながら、画面に表示された真っ白なページをじっと見つめた。なぜか、そのページに見覚えがある気がした。しかも、このあとそこに恐ろしい画像が表示される。そんな予感までしてしまう。その考えが浮かんだ直後、真っ白だった画面に、案の定その通りのものが現れた。「うわっ!」時也はびくっとして、画面に映った血なまぐさい画像を見ながら腕をさすった。「なんでこんなの出すんだよ、びっくりするだろ」「ただの画像でしょ。そこまで怖がる?」凛音はそう言ってパソコンを閉じ、それ以上は調べなかった。「いきなり出てきたら普通怖いだろ」時也はそこまで言って、ふと口をつぐんだ。――さっき……こいつ、まったく怖がってなかった。「なんで帰るんだよ」彼は凛音を呼び止めた。「もう調べないのか?」「帰って寝る」凛音はそう言いながら外へ向かったが、頭の中ではさっきのことが引っかかっていた。――あの画面、どこで見たんだろう。知り合い?でも、あいつらが柚香の母親と関係あるとは思えない。時也は無理に引き止めることもできなかった。下手に機嫌を損ねれば殴られかねない。この女は昔から容赦がない。結局、彼は別の形で遥真に状況を伝えた。【凛音が軽く調べたけど、柚香さんのお母さんの資料はかなり腕のいいハッカーに隠されてるらしい。いったん寝てからまた調べるってさ】遥真がそのメッセージを受け取ったのは、玲奈の入院している病院へ向かう途中だった。指先で軽く操作し、短く返信する。【わかった】時也【どこ行ってる?】遥真【病院】柚香のところへ向かっているわけではないと分かり、時也はほっとした。離婚の件で二人が衝突するんじゃないかと心配していたのだ。柚香なんて名前は可愛らしいのに、この前ホテルで見た様子からすると、もし遥真が離婚しないなんて言ったら、本気で包丁でも持ち出しそうだ。……想像すると怖すぎる。もっとも、遥真はそんなことは一切考えていなかった。三十分後、車は病院に到着した。彼はそのまま玲奈の病室へ向かい、ドアの前に来たとき、中から紗優と話す声が聞こえてきた。「ここ数日
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第229話

遥真は何事もなかったかのように、さりげなく身をかわした。玲奈の手は空を切る。胸の中の不安が一気に膨れ上がり、重苦しい空気に押し潰されそうになりながら、玲奈は唇を噛んで口を開いた。「ねえ、何か言ってよ。そんなふうにされると……怖い」「怖いのか?」遥真の表情からは、何も読み取れない。玲奈はうなずいた。「うん……」次の瞬間、遥真は何の前触れもなく核心を突いた。「怖いくせに、修司と組んだのか?」玲奈の胸がドクンと跳ねる。遥真と修司の不仲を思い出し、とっさに否定した。「違う、組んでなんかない。ただ偶然会って、少し話しただけ」「じゃあ、水曜の夜のことはどう説明する?」遥真は淡々と問い詰める。「それは……」こんなふうに真正面から聞かれるとは思っていなかった玲奈は言葉に詰まる。「ただ……一緒にいてほしかっただけ。口では大事だって言うのに、実際は全然構ってくれないから」「チャンスはやったはずだ」遥真の目は低く沈んでいる。「自分で捨てたんだろ」玲奈の瞳に戸惑いが浮かぶ。言葉の意味はよくわからない。それでも、彼があの件を気にしていることははっきりしていた。ここ数日見舞いにも来ず、電話にも出なかったのは、あの時のことで自分に思い知らせようとしているからだと。「これから何かあれば、恭介に伝えろ」遥真の声は静かで、感情の揺れが一切ない。「俺に連絡する必要はない」「どうして?」玲奈は完全に怯えきっていた。なぜこんな仕打ちを受けなければならないのか、理解できない。ただ彼を呼びたかっただけ。柚香と一緒にいてほしくなかった、それだけなのに。「柚香を、君の計画に巻き込むべきじゃなかった」遥真はすべて見抜いている。許せることと、越えてはいけない線がある。「一線を越えたんだ」「何のことか分からない」玲奈は、認めさえしなければ責められないと思った。遥真の視線が彼女に落ちる。何も言っていない。目もいつもと同じく静かなのに、息が詰まるような圧があった。その視線にさらされ、玲奈は全身の血が凍りつくような感覚に襲われる。「確かに修司と計画は立てた。でも、それを許したのはあなただよね?」この空気に耐えきれず、玲奈は言い返した。「あなたがやっていいって言った。彼女を狙っていいって」「前提は何だった?」遥真の声は異様なほど落ち着いている。「
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第230話

玲奈は、急に怖くなった。「君はどうなんだ」遥真は、何度も限界を探られるのが嫌いだった。「最初に決めた約束、覚えてるよな」玲奈は黙り込んだ。どう答えればいいのか、分からない。しばらくして、何を言っても無駄だと分かると、彼女は言い方を変えた。「ごめんね……私の配慮が足りなかった。もう二度と同じことはしないって約束する」「特別扱いは、ここで終わりだ」遥真がふいに口を開いた。「これから先、俺たちは恩人と、その恩を返す相手。ただそれだけの関係だ」玲奈の瞳が大きく揺れる。全身に衝撃が走った。「……今、なんて……」「俺はただの遥真だ。君の彼氏でもなければ、夫でもない」彼はある程度のことは分かっていたが、以前の約束もあって口出しはしてこなかった。「これからは距離を保ってくれ」「どうして!」玲奈は受け入れられなかった。「あの日の夜、私があなたを呼び戻したから?」「そうだ」玲奈は感情を抑えきれずに言った。「でもあなた、約束したじゃない!私の体が完全に回復するまでは、嫌なことは言わないって、ずっと私を特別扱いするって。あなたって約束を何より大事にする人でしょ?なのに今さら……」彼女は一気にまくし立てた。胸の奥に溜め込んでいたこと、ずっと言いたかったことが、この瞬間すべて溢れ出る。それを言えば遥真がどう思うか、機嫌を損ねるかなんて考えなかった。ただ、言わなければ、引き止めなければ、本当に彼を失ってしまう。それだけが怖かった。恩人とその恩返しをする人 、ただそれだけの関係で何ができる?大金をもらう?何不自由ない暮らし?でも彼が、最初に自分を救ったのが本当は自分じゃないと気づいたら、それらは全部、泡のように消えてしまう。何も得られないどころか、果てしない報復を受けるかもしれない。「俺、自分からした約束は、君の面倒を見ることだけだ」遥真ははっきりと言った。「特別扱いは、君の条件を受け入れただけで、約束じゃない」自分からした約束と、相手の条件や願いに応じること。その二つは、同じじゃない。「でも、応じたことだって守るべきでしょ?私の体はまだ完全には回復してないのに……」玲奈の心は、少しずつ冷えていった。「君があんなことをしなければ、ちゃんと守っていた」遥真はきちんと説明する。それも「面倒を見る」うちの一つだった。
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