「彼女は俺の妻だ」遥真は淡々と言ったが、柚香を見る目はどこかやわらいでいた。「俺たちは夫婦だ」陽菜「!!!」陽菜は興奮した様子で柚香を見る。「えっ、社長夫人だったのか!?」遥真はそれ以上何も言わず、柚香のスーツケースを手に取り、もう片方の手で彼女の手を引いて外へ向かった。そのお似合いすぎる後ろ姿を見て、陽菜は興奮を抑えきれない様子だった。「まさか柚香が久瀬グループの奥さんだったなんて!やっぱり原栄ゲームに来たのも『体験』だったんだ……」ドアのところで、柚香の足がふと止まる。その目の奥に、わずかな自嘲がよぎった。――やっぱり、思った通りだ。この肩書きが出た瞬間、自分は「体験しに来た人」になる。「『体験』であんなに必死に頑張る?」彩乃は柚香がそれを気にしているのを知っていて、陽菜の言葉に反論した。「努力と身分を結びつけるのは違うでしょ」「じゃあ体験じゃなかったら、なんで原栄ゲームに来たの。久瀬グループってあんなに大きいのに……」その先の言葉は、もう柚香の耳には入ってこなかった。この一ヶ月の頑張りが、全部無駄になった気がした。あの苦しい日々も、必死に耐えてきたことも。すべてが、遥真のたった一言で、なかったことにされた。「お腹すいてない?」遥真はまるで何事もなかったかのように言った。「夜食、用意させる?」「ほんとに心あるの?」部屋に戻るなり柚香は彼の手を振り払った。全身から棘のような拒絶と嫌悪があふれている。「陽翔がやっと危険を抜けたばっかりなのに、そんなこと考えてるの?今回のアレルギーだって後遺症が残らないか、まだちゃんと調べてもいないのに……」柚香は次々と彼を責め立てた。胸の奥に溜まっていた不満を、全部ぶつけるように。遥真は遮らなかったし、言い返しもしなかった。この出来事を経て、柚香の中に溜まったものを吐き出す必要があると分かっていたからだ。それに、原因を作ったのは自分なのだから、受け止めるべきだと思っていた。二分ほどして、柚香は言い終えた。それでも心の奥では、陽翔のことが怖くてたまらない。「休みを取って京原市に帰る」どんな大事な仕事よりも、陽翔の無事のほうが大事だった。彼女が働く理由は、もともとこの先の家族のためなのだから。「陽翔は元気だよ。医者も調べて、後遺症はないって」遥真
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