「久瀬社長、恭介さんはこちらへどうぞ」ゲーム第一部の黄川マネージャーが愛想よく声をかける。直属の上司なのだから、当然といえば当然だ。遥真は軽くうなずき、柚香のほうを一度ちらりと見てから、スマホを取り出してメッセージを送った。【隣、座る?】柚香の返事はすぐだった。【いいえ、大丈夫】遥真は無理に誘うことはしなかった。彼は恭介とともに、周囲の視線に囲まれながら席に着いた。予想どおり、この食事会は終始お互いを持ち上げ合う場になった。ゲーム部門の上層部は遥真や恭介を持ち上げ、それ以外の人たちはひたすら上の人間たちを立てる。料理が出そろう前から、すでに何巡も酒が回っていた。「さあさあ、みんなで久瀬社長に一杯!」黄川マネージャーがグラスを掲げ、慣れた様子で場を仕切る。「久瀬社長の卓越したリーダーシップがあってこそ、今の久瀬グループがありますからね」柚香も仕方なくグラスを手に取る。遥真の指示なのか、それともただの流れなのかは分からないが、このテーブルにはお酒とお茶しかなく、水すら置かれていない。ごまかす余地はなかった。「あとでこっそり上のほうに流しちゃえばいいよ」彩乃が数枚のティッシュを柚香の手に押し込み、小声でささやく。「それか飲んだふりして吐き出すとか。床には絶対こぼさないでね」床はカーペットだ。こぼせばすぐに目立つ。ここにいるのは原栄ゲームのメンバーだけじゃない。久瀬グループのゲーム部門の幹部や、技術指導に来ている有名な開発者たちもいる。見つかれば面倒だ。「ありがとう」柚香も小さく礼を言った。そんなやり取りを、遥真はすべて見ていたが、何も言わなかった。そもそもこういう場では、たとえ彼自身が飲まなくても、外回りの多いゲーム部門の人間たちが進んで周囲に酒を勧めるものだ。理由は単純、社内の士気を高めるため。要するに、見栄とアピールの応酬だ。案の定、ひと通り終わると、別の幹部がすぐに口を開いた。「正直言って、この業界で一番先見の明があって実力があるのは久瀬社長ですよ。この点だけでも、もう一杯いかないと!」「久瀬社長、私は飲み干しますので、どうぞご自由に!」中堅以上のメンバーが次々と意思表示し、他の人たちも流れで飲まざるを得なくなる。何度も繰り返されるうちに、柚香もあの手この手でやり過ごそうとしたが、それで
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