時也は凛音のように気楽ではいられなかった。「君、本気であいつが死ぬとか思わないのか?」「あなたが死んでも、あの人は死なないよ」凛音の心は妙に落ち着いていて、まったく心配していない。「忘れたの?あの人、ダブル専攻だけじゃなくて、医学の授業にも潜り込んでたでしょ」時也は一瞬言葉に詰まる。すぐにあることに気づいた。「ってことは……あの一刺し、柚香に見せるためだったってことか?」「たぶん違う」一連の経緯を聞いた凛音は推測する。「あの人、昔からわざと自分を傷つけて同情を引くような真似はしないし。たぶん二人で何か話して、折り合いがつかなかったんでしょ。それで暴走しただけ」「じゃあなんで死なないって言い切れるんだよ」時也は心配でたまらない。「初期判断じゃ、かなり深く刺さってて命に関わるかもしれないって話だぞ」「どれだけ狂ってても、理性がゼロになるわけじゃない」凛音はあくまで客観的に見ていた。「本当に自分を殺すようなことはしないよ」「ほんとイカれてるな」時也は思わず吐き捨てた。凛音は平然としている。「的確な評価だね」「本当に来ないのか?」凛音は真剣に本を読んでいる陽翔を一目見てから答えた。「やめとく。柚香、かなり怖がってるだろうし。あとのフォローは私がしておく」さっきの柚香の様子を思い出し、時也はそれ以上何も言わなかった。普通の人間が遥真のような狂ったやつに出会ったら、確かにケアは必要だ……柚香の気持ちはひどく乱れていた。頭の中には、白いシャツに広がったあの鮮やかな赤が、何度も何度も焼き付いている。前で運転していた大輔は、バックミラー越しに彼女の様子に気づき、すぐに声をかけた。「柚香さん」柚香は動かなかった。声は聞こえているのに、体が言うことをきかない。「心配いりません、社長は絶対に無事です」大輔は真面目な口調で言って彼女を安心させようとする。「健太も言ってましたけど、社長は神みたいなもんだから、神には『加護』っていうものがあるんですよ」柚香は首を横に振った。「心配してない」やっとの思いで、もう関わらないと言い切ったばかりだ。ここで心配しているなんて認めたら、次も同じことをされない保証はない。遥真は、あまりにも極端すぎる。どう向き合えばいいのか分からないくらいに。あの脅しだって、ただ止まってほしかっ
Read more