「やっぱり病院へ行かないと」「医者がお前より上手く処置できるとは限らない」洵は淡々とそう言った。「そんなわけないじゃない……」澪はどのような表情を出すべきなのかはわからなかった。傷口の手当てを終えて彼女が立ち上がっても、洵はソファに座ったままだった。二人の間には、言葉で言い表せない気まずい空気が流れていた。澪は無意識のうちに、洵のプレジデンシャルスイートを観察していた。こんなに広い部屋なのに荷物が少なく、しかも洵一人分の荷物しかないことに気づいた。「千雪は俺と同室ではない」洵の言葉に、澪はハッとした。そんなに顔に出ていただろうか?澪の目が泳ぐのを見て、洵は微笑み、何気ない風を装って尋ねた。「澪、離婚したら……俺と別れるのが名残惜しいか?」澪は、心臓を軽くつねられたような感覚を覚えた。「……全然」「今、迷ったな」洵のその一言が、澪の怒りに火をつけた。彼女は憤然と振り返り、洵を直視してきっぱりと言い放った。「洵、千雪さんを愛しているなら、彼女だけをしっかり愛しなさいよ。私に中途半端に絡まないで。もし私があなたに未練があるなら、こんなに急いで離婚しようとするわけないじゃない。離婚すれば私は完全に自由になれるの。一刻も早くあなたから離れたいわ!」澪が怒り出すとは予想外だったのか、洵は淡々と一言だけ返した。「そうか」プレジデンシャルスイートは静まり返った。澪は深呼吸をした。自分が何に腹を立てているのか、自分でもよく分からなかった。ただ、洵がいつも自分の前で余裕に満ちていて、自分ばかりが惨めな思いをしていることにイライラするのだ。洵は自分の初恋の人で、深く愛した人なのに、彼は自分のことなど覚えておらず、愛してすらいない。だから、自分はこの恋と言うゲームにおいて、永遠に敗者なのだ。「早く病院に行って。私、帰るから」澪はわざと冷たく言い放ち、歩き出した。「待て」洵は立ち上がり、静かに言った。「もう暗い。送って行こう」澪は振り返り、包帯でぐるぐる巻きにされた洵の腕を見た。この怪我は、自分の身代わりになって負ったものだ。嵐が人々の面前で自分に腐食性の液体を浴びせようとしたこと自体が理解できなかった。そして何より、洵がなぜ自分を庇ったのかが理解できな
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