Tous les chapitres de : Chapitre 41 - Chapitre 50

132

39

あの夜のことを陽菜がどう処理したのか分からない。陽菜につけた護衛からは、いつもと変わらない陽菜の様子の報告を受け続けた。別れの予感は杞憂だったのかと肩の力を抜きかけたとき、油断大敵と言わんばかりに突然その日はきた。 陽菜につけていた者から、李凱が青山のマンションにきたと連絡がきた。すでに李凱が部屋に入ったと聞けば、何のために李凱がマンションの来たかなど考える余裕などなくなった。とりあえず部屋にいき、陽菜を呼び出すという指示しかできなかった。しかし、何かができるわけない。拐そうとするなら護衛たちは力づくで止めただろうが、陽菜本人の意思だと言われれば護衛たちは引くしかない。陽菜はスーツケースを持って李凱とタクシーに乗ったと聞き、俺は黒崎に羽田空港に向かうように頼んだ。本来なら俺が行って引き留めるべきだったが、このときもタイミングが悪かった。煌が高熱を出したと、煌につけた使用人からの連絡をもらった直後で、俺は白川茉莉たちのいるお台場のマンションに行こうとしていたタイミングだった。白川茉莉は煌を人質にとるような真似を一切恥じていなかった。躊躇なく煌を利用した。このときも俺がマンションに来なければ煌を医者に診せないなどと言っていて、子どもの命がかかっているから仕方がないと思っていた。黒崎を空港に向かわせ、俺はお台場に向かった。このときも、俺は心のどこかで陽菜なら許してくれると思っていた。 「俺は、いつもそうだな」煙草を揉み消し、最後の紫煙を吐き出してベランダから部屋の中に戻る。この青山のマンションにはまだ陽菜のものが残っている。陽菜が持っていかなかったものたち。マンションの部屋は、俺が生活する中で徐々に変化してしまい、陽菜の痕跡はどんどん消えていっている。陽菜の匂いはすっかり消えてた。陽菜が好きな香りの洗剤を使い続けているけれど、陽菜がいないから同じ匂いにはならない。 陽菜の匂いのない寝室のサイドチェストを開ける。取り出したのは、あの日に陽菜が俺に残した離婚届。これを黒崎から渡されたとき、俺は衝動的に破ろうとしてしまった。だから、端が数センチ切れている。でも、端を数センチで止まったから、真っ二つにもなっていないし、これはまだ役所に受理される。陽菜の記入欄は、何度も粗探しをしたけれど、誤記が一つもなかった。少し震え
last updateDernière mise à jour : 2025-12-16
Read More

40

最後に話をした日、俺が見た陽菜は久し振りに楽しそうな顔していた。「蒼、あのね」って、時間が巻き戻ったみたいだった。これまでみたいに、いままでの諍いなんて何もなかったかのように、俺に笑って、軽やかな声で、楽しそうに話しかけてた。俺はあのとき、「あのね」を聞くべきだったのだろう。いまなら、そう分かる。陽菜が楽しそうに俺に報告するんだ。李凱と浮気したわけがない。浮気のことを話して夫を嫉妬させる、なんて駆け引きもあるが、そんな雰囲気ではなかった。探していた宝物を発見したような、その喜びを共有したいって感じだった。冷静になったいまだから、分かる。でもあのときは、俺の頭は嫉妬一色だった。陽菜が、李凱と二人きりで、レストランだけどホテルにいたこと。深夜を越えて帰ってきたこと。陽菜から男物の香水の匂いが漂ってきたこと。粗探しみたいなことをして、何の得があったのか。結局俺は頭に血が上って、陽菜の「あのね」を聞かなかった。「あのね」の続きは何だったのだろうか。 陽菜が目の前で突然倒れ、嫉妬で燃え上がった頭は冷水を浴びたように冷めた。反射的に抱き留めてられて良かった。陽菜の顔色は真っ青で、脈拍が異常に遅い気がして、俺がコンシェルジュに連絡しようとしたとき、陽菜が薄っすらと目を開けた。またすぐに目を閉じてしまったが、心配なのでコンシェルジュに連絡して医師を呼んでもらうことにした。 往診にきた医者は陽菜の失神を「バソバガール失神」だと診断した。聞きなれない病名。ストレス・痛み・恐怖・長時間の起立などが引き金となって、一時的に意識を失うこと。強い感情やストレスを与えてはいけないと言われた。また意識が戻ったときは倒れたことに恥ずかしさを感じることもあるため、感情が高まりやすいとも説明を受けた。とにかく刺激しないように。医師にそう何度も念を押され、陽菜にストレスを与えている自覚があったので、俺はマンションが契約している家政婦派遣サービスに連絡し、急ぎで手配して青山のマンションを出た。あの日が、俺たちの最後になった。 「キャメロット日本支社の、副支社長……か」二ヶ月後、キャメロット日本支社がレセプションを開く。そこで陽菜は正式に紹介される。陽菜が優秀なことは知っているけれど、あのキャメロットの副支社長を務められるほどかと
last updateDernière mise à jour : 2026-01-15
Read More

41

「ヒナ・アサギリ、彼女は俺の“妹”だ」キャメロットの日本支社に入った瞬間から、私は向けられる厳しい目に気づいていた。凱の紹介で周りの視線はさらに鋭さを増した。昨夜のパーティーのことは報道や一部のSNSでそれなりに騒がれているが、それに対するコメントのほとんどは『誰?』というもの。それは、この場にいる人たちも同じ。むしろ自分たちの関係者だからその思いは強いだろう。それにしても、この紹介の直後の視線が鋭利な刃物のように突き刺さって痛い。凱の縁故採用だから……いや、アーサーは「縁故採用は問題なし」って言っていた。「実力が示せなければ潰されるだけだから」って笑っていたけれどね。あのとき条件のいい仕事だからと思ってここに就職したけれど、早まったかな。いままさに、問答無用で潰して伸してきそうな圧を受けている。 「しばらくは俺と一緒に行動しながらうちでの仕事を覚えていくことになる。みんな、よろしく頼む」歓迎の『か』の字もないこの状況でこんなことを言える凱ってメンタルが鋼すぎない?特に、この目の前にいる女性の圧がすごいんだけど。 キャメロットの日本支社はまだ立ち上げ段階。現地採用はこれからだから日本人は少なく、その日本人も本社であるイギリスからの出向者。ここにいる社員のうち、凱がこれまで支社長をしていた台湾支社からの出向者が最も多いからか、聞こえてくるヒソヒソ声は中国語だ。英語は分かるけれど、中国語は分からない。AIの通訳サービスと契約しているからコミュニケーションに問題はないとのことだけど……。うん、言葉が分からなくても敵意が籠った表情を見ればあの集団がどんなことを言っているのか想像はつく。私が気に入らないのだろう。理由は分かる。私だって藤嶋にいたとき『縁故採用』に対していろいろ思うところはあった。しかも一足飛びで副支社長。いくら支社長である凱の縁故で、日本の現地採用一番手だとしても、すごく横暴な人事だと思う。凱が暴君過ぎてクッション的存在が必要なのだが、モテ過ぎるから下手な女性を傍につけるわけにはいかない理由は理由になっていない。 「凱、私の体に穴が開きそうなのだけれど?」スケルトンな支社長室で凱との打ち合わせ中。私を射殺したくて堪らないという彼女の視線はどんどん強くなる。私がいなくなれば、スケルトンなここに一人で
last updateDernière mise à jour : 2025-12-16
Read More

42

「ふざけているの?」私はB5サイズのコピー用紙を真っ二つに破いた。ビリっという音は気持ちいいが、気分は晴れない。 今日も李凱と一緒にお得意様に挨拶してまわっていた。そして、取引先の相手(女性)からも敵意を向けられた。どこにいってもこれ。どこでも漏れなく睨まれる。正直、疲れる。凱は「妹」と紹介しているのに、なぜかそう紹介すると一層彼女たちの表情がきついものになる。嫉妬かなと思うのだけど、嫉妬したって血のつながりはどうにもできない。理不尽だと思いでイライラしているところに――これ。 「離婚届のコピーを、提出できないようにわざわざ縮小して送ってくるとは、日本人はマメだな」蒼から送られてきた離婚届のコピーを見て凱は呆れていた。「馬鹿にされているのかしら」「いや、ただの悪足掻きだろ」凱は離婚届のコピーに同封されていた書類を見て笑う。「オリジナルとの交換条件は、藤嶋との共同プロジェクト」「なに、交換条件って」「まあ、そんなカッカするな。これ、悪い条件どころか、ヒナにとって願ってもない話じゃないか。就任祝いの花輪よりもよほど気が利いている」「……分かってる」蒼が交換条件として出した藤嶋との共同プロジェクトは、私を凱のパートナーではなく、私をキャメロットの代表として指名している。 私もいつまでも凱の“妹”としてここにいるわけにはいかない。キャメロット日本支社の副支社長に相応しいと思われる実績が必要となるのだが、これが容易ではない。凱の庇護下であることは私にとって諸刃の剣。凱の大き過ぎる翼の下から飛び出て独り立ちするにはかなりの実績が必要だと、凱と仕事をしながら痛感していた。だから、今回の藤嶋からの話は渡りに船。蒼も、それが分かっていてこれを交換条件として、私が断りにくい形で出したのだと思う。 「そんなに離縁に拘る必要はないんじゃないか?」「凱?」「あの男はヒナとの離縁を嫌がっている。それはヒナも分かっているだろう」それは……。「こう言うのもあれだが、あの男はいつでもヒナと離縁できた、あの母子のことを思えば離縁するべき理由もあった。でもあの男はこんな悪足掻きをしてまで、お前とのやり直しにかけている。それなら……海のこともあるのだし……」「だから離婚するの」凱の言葉を最後まで聞かずに言葉を被せた。強い語調が功を
last updateDernière mise à jour : 2025-12-17
Read More

43

共同プロジェクトの話は受けることにした。「私のキャリアにかなりプラスになるわ。藤嶋のネームバリューは日本国内では決して無視できない。キャメロット日本支社にとってもいい話のはずよ」もうほとんど決めているじゃないかと、ぼやくように凱が溜め息を吐く。「何か問題が?」「プロジェクトのほうは問題ない。ヒナの言う通り誰にとってもいい話だ。問題はあの女、シラカワ・マリだ」「彼女なら、以前みたいに会社に来てはいないけれど」お台場でのセレブライフにお忙しそうだ。 「俺はそれが不気味だ……なぜ、来ていない?」「なぜって……」確かに、不自然といえば不自然ではある。普通に考えれば、子育てで忙しくて会社を練り歩いている暇はないなる。でもこれは普通の人の話。白川茉莉の場合、SNSの内容が真実ならば、白川茉莉の子どもに蒼は三人もナニーをつけていて、彼女の子どもは二十四時間体制で彼女たちに世話をされている。ナニーが二十四時間体制でいるということは、彼女は外出できるということ。私だって海を生んだあと、お祖母様にみてもらって出かけたことは何度もある。 「俺の知る限り、ああいう女の主食は他人からの賛美だ」「そうね、それは間違いない」「藤嶋直系の子どもがいて、婚約を囁かれた以前よりも遥かに『妻』に近い立場なのに、それを見せつける格好の場所である会社に行かず、家にいる。確かにSNS上では幸せな女だとチヤホヤされてはいるが……それで満足できる女か?」「……確かに」パーティー会場で私に向けた表情。あれは明らかに憎悪だった。 「あのパーティーで、俺たちが登場する前まで最も注目を浴びていた女はマツリ・シラカワだ」「主役である藤嶋司のパートナーである白川百合江ではなくて? 白川家の当主は彼女の夫だけれど、白川家の実権は彼女が握っているのよ」「藤嶋建設を実質的に動かしているのはソウ・フジシマだ。現社長の父親は、俺が見た限りだが、会社に興味はない。ただ義務的に継ぎ、無難に運営してマイナスもないがプラスもない状態で息子に継がせればいいと思っているようだ」それは、私も感じたことがあった。「俺ですらそれを感じたんだ。あの場にいた大勢が感じていたことだろう。マツリ・シラカワもそれを分かっていた。だから、ソウ・フジシマのパートナーだって態度であの会場にいたのだろうよ」「……
last updateDernière mise à jour : 2026-01-15
Read More

44

「今回の仕事、受けるのは構わない。ヒナの言う通り、いい仕事だと思う。但し、フジシマにいくときはボディーガードを増やす」すでに一名ついているのに?「シラカワの二人にも監視をつけた。マツリ・シラカワがきたら、すぐに会社を出ろ。絶対に一人では行動するな。それが俺からの条件だ」「そんなに警戒する必要がある? 藤嶋建設にはビジネスパートナー、いわゆる賓客としていくのよ?」「必要だ」「周囲の目だって、言いたくないけれど蒼の元カノとして注目度満点よ、私。白川茉莉が嫌がらせできるとは思えない」「悪いことは言わない、過剰なくらい警戒しろ」凱が私をジッと見た。「ああいう目をした奴を俺はスラムで腐るほど見てきた。あれは倫理観がいかれてる奴の目だ。ああいう目をした奴は、自分の欲のためなら例え人を殺すことだって躊躇しない」殺すなんてなにを言っているのか。大袈裟だと凱を笑おうとしたけれど、凱のその目は真剣で、何も言うことはできなかった。怖い。反射的に感じたことを、凱も気づいたのだろう。怖がらせたことを反省するように、目を緩めた。ホッと息を吐く。「何もなければ大袈裟だったって笑えばいいだけの話だ」「……うん、分かった」私が頷くと、凱は何とも言えないこの場の空気を祓うかのようにニッと笑った。 「よし、それなら服を買いにいくぞ」「え、なんで?」 突然の話題の変わりっぷりに、わけが分からず首を傾げた。凱がため息を吐く。「逆に聞きたい。なんであんな服でいいと思っているんだ?」呆れたように凱がハンガーにかかった私のジャケットを指さす。「何か問題が?」「地味過ぎる」「普通のビジネススーツじゃない」何年か前に買ったものだけど。産後ケアをちゃんとやったから、まだまだ着られる。「キャメロットの顔となる者があんなダサいスーツなんて、涙が出てくる」「……そこまで言わなくても」「だったら言わなくてもいい格好をしろ!」ビシッと凱が指さす。 「いい尻の形をしてるんだからテーラードジャケットにしてテーパードパンツを合わせろ」「どこ見てるの?」「いや、ワイドパンツにしてあえて儚げな華奢さをアピールするのもいいな」「あのさ……」「シンプルなシャツを合わせて、パツパツの胸元でそのスタイルを有効活用しろ!」わあ……女性経験の高さが垣間見えるクズ発言だわ。
last updateDernière mise à jour : 2025-12-17
Read More

45

「久しぶり」「……ああ、久しぶり」入口で挨拶を交わす私たちから黒崎さんが離れようとしたから、私はここに残ってもらうことにした。「よからぬ噂をたてられても困りますし、すぐにお暇する予定になっているので」よからぬ噂が立たぬようにあれほど用心していたではないかと嫌味を込めた目を二人に向けると、二人は怯んで受け入れた。やっぱり黒崎さんには損な役回りを与えててしまっているな。 「このたびは魅力的なプロジェクトの提案をありがとう。社長の李からも謝意を伝えてほしいと言われているわ」「こちらこそ、いい仕事ができると期待している……陽菜、俺は……」「ストップ、もう止めましょう」」話し合いは大事だけれど、傷の舐めあうしかできない話し合いは、いまこのタイミングでするものではない。 「私がここに来たのは、離婚届を一ヶ月、遅くても四十日以内に区役所に提出してほしいからなの。忙しくて無理だというなら私に渡して。私が区役所に提出するわ」「……そんなに急ぐ理由は?」「いまは言えないわ」蒼の常套句となっていた「いまは言えない」という言葉を返す。蒼が怯んだ。気分はいい気もするけれど、虚しさのほうが遥かに大きい。……何をしているんだろう、私。 「失礼いたします」違う秘書から戸口で受け取った飲み物を黒崎さんが私の目の前に置いた。ありがたいけれど、コーヒーの匂いに気分が悪くなった。私はコーヒーが好きで、黒崎さんもそれを知っていてコーヒーを用意してくれたのだと思う。でも、出掛けに聞いてしまったことが頭をよぎる。蘇橙瑤による、気に入らないあの女(つまり私)に変なコーヒーを飲ませよう作戦。どれも例えばの話なのだけど、聞いていると気分が悪くなるもので、このコーヒーがそうではないと分かっていても連想してしまうというか……。 「陽菜、顔色が……」「ごめんなさい、気分が悪くて……黒崎さん、お手数かけますが水か白湯をいただけますか?」「え、あ……はい……」……ああ、もう、最悪。  * 時間になったので、私と蒼は揃って会議室に入った。窓側に座るのはキャメロットの社員。今回のプロジェクトのテーマに合わせて、本人の希望を聞きながら私が選んだ人材。扉側に座る藤嶋の社員は、覚えのある人が多い。蒼は私が働きやすいように馴染みのあるメンバーを用意してくれたのだ
last updateDernière mise à jour : 2026-01-15
Read More

46

「白川様」車を降りていつも通りに蒼さんのところに行こうとしたら受付で止められた。そんなこと初めてのこと。とても不快。「なにかしら? 蒼さんはいるのよね?」「あの……お約束は?」「約束? そんなものしていないわ」いつもそうじゃない。今さら何を言っているの? 「蒼さんはどこ?」「副社長は副社長室にいらっしゃいますが、これから……」「それならいいわ、いまから行くと秘書に伝えておいて」受付の女に背を向けると、「白川様!」と呼ばれたけれど無視する。なにを騒いでいるのかしら。煩いわね。 『これはこれは、ミズ・シラカワ』……李凱。艶やかなテノールボイスは心地いいけれど、私に向ける目には嘲笑が混じっている。これだから下賤の輩は嫌なのよ。 『今日は何のご用事でここに?』『あなたには関係ありません』『ミスター・フジシマに会いにきたのでしょう? 父親のほう? それとも息子のほう?』『蒼さんに決まっているでしょう!』李凱はふっと笑うと、後ろにいる秘書らしき女を見た。『ソウ・フジシマとこれから会うのは俺だったはずだが……蘇女士、俺は帰るべきかな?』『御冗談を、アポを取らず押しかけて来た迷惑女に李社長が遠慮などする必要はありません』……迷惑女?『それは、私のことを言っているの?』『あなた以外の誰がいるとでも? ここにいる者はあなた以外、誰かに会うなら事前にアポを取る必要があるという常識を持ち合わせていますわ』『私が、非常識だとでも?』蘇とかいう女が鼻で私を笑った。『相手の都合も考えずに訪ねてくるなんて、非常識以外のなんだというのですか? 彼氏の家に突撃訪問は聞きますが、仕事場でそれをやられたら例え身内であってもかなりの迷惑行為ですわよ、ミズ・シラカワ』わざわざ藤嶋姓でないことを強調してきたこの女。しかも、周りにいる者たちは笑っているだけ。誰も私を助けに来ない、受付の女ですら。ムカつく!『蘇女士、そのくらいにしておけ』蘇とかいうこの生意気な女は、李凱の言葉に素直に『はい』と従った。まるで雌犬。朝霧陽菜と一緒。この女も李凱とそういう関係に違いない。 『李社長、お待たせいたしました』役員専用エレベータで降りてきた黒崎は、李凱に歓迎するような笑みを向けたが、その表情が私に気づいた途端に無表情になった。この男は
last updateDernière mise à jour : 2025-12-18
Read More

47

「いい加減に泣き止めよ」「朝霧さん……」「ああ、お前、マジだったのか。いや、でもさ、諦めろよ。高嶺の花ってレベルじゃないぞ。強風が吹き荒れる断崖絶壁の先端の先端で咲いているような花だぞ」「あの副社長の元カノってだけでもすごいのに、いまやあの李凱の恋人だからな」「聞いた話じゃ、社員の前で堂々と俺の妹宣言したらしいぞ。そしてベッタベタに甘やかしているらしい」「あの服も李凱が選んだというなら、本当に大切にしているんだろうな。洗練されて野暮ったい感じはないのに、下劣な男の視線を完全シャットアウト。大事にされているっていうのが一目でわかる」男の鼻をすする音。汚いわね。「あの李凱に勝てるなんて思っていない。朝霧さんには感謝している。幸せになってほしい」「うんうん、そう思えるお前はいい男だ」「副社長も見る目がないよな。朝霧さんのほうが断然いいのに、あんな女に婚約者を自称させるなんて」は?なんですって?婚約者を、自称? 「あんなの白川家のご令嬢だから無碍にできないだけだろ。そんなこと、分かっている奴はみんな分かってるじゃん」「まあ、あの女が本当にうちの社長夫人になると思っている馬鹿なんてほんの一握りだからな」「おい、聞かれたら大変だぞ」「まさか、こんなところにあのご令嬢がいるわけないだろ。来たとしても、いつも通り『遊びにきちゃった、テヘ』って感じで副社長室に突進しているって」……馬鹿にされている。この私が。こんな男たちに。 「副社長の隠し子を連れて華々しく登場したけれど、それで終わり。だってまだ白川茉莉だぞ。副社長夫人ではないってことだ」「みんなそれを分かってるってのに、あれでどうして副社長夫人ですって顔で社内を闊歩できるのか分からないぜ」「確かに、あれは見ていて痛いよな」痛い?私が?目の前が真っ赤になる。 「なんですって?」気づけば、私は声を荒げて立ち上がっていた。「ヤベッ!」「行くぞ!」見えたのは男三人が逃げる姿。追いかけてその罪を問おうとしたけれど、その場にいる人の、奇人でも見たような顔に足が止まる……なぜそんな目で私を見るの? 「すげえ奇声……」「キイイイッて……うける」「ドラマでしか見たことない……笑っちゃいそう」 ヒソヒソとした声にそっちを見ると、何人もが私を見ていて、私と目が合うとパッと
last updateDernière mise à jour : 2025-12-18
Read More

48

「待って!」買い物でもして気晴らしをしようと思っていた矢先、藤嶋建設の建物の、正面玄関から出てきた一団に気づいて私は車を停めさせた。「……朝霧陽菜」集団の中心にいたのは朝霧陽菜。蒼さんと李凱も傍にいたけれど、それよりも目立つのは朝霧陽菜だ。 朝霧陽菜という女。いま思えば最初から気に入らなかった。蒼さんのお気に入り。蒼さんの周りをウロウロする鬱陶しい虫のような女は幾人もいたけれど、蒼さんが気に入っているという女は初めてだった。気づいたのは、しばらくしてからだったけれど。最初それを聞いたときは、いつも通り派手な女を想像した。蒼さんはまだ遊び足りないのかと呆れた。他の女と遊ぶのに夢中で私をおろそかにする蒼さんにイライラしてもいた。 とっとと追い払おう。そう思って、朝霧陽菜を見にいくことにした。敵情視察という高尚なものではない。高校も大学も公立の、みんなに地味と笑われる女など私の敵ではないと思った。だって私はお爺様の孫なのよ。お爺様には総理大臣だって頭を下げるんだから。 蒼さんのことは小さな頃から知っていた。蒼さんのお嫁さんになるのよって、お母様は言った。それなのに、私はまだ蒼さんのお嫁さんではない。蒼さんのお嫁さんになることを、いろいろな人が邪魔している。みんなが私と蒼さんはお似合いって言っているのに、蒼さんと私の邪魔をするなんて、本当に馬鹿みたい。蒼さんの隣に私以外が立つなんて許せない。ああ、だから私は朝霧陽菜が赦せないのか。私が蒼さんのお嫁さんになるために努力している二年間、私がいないというだけで恋人気取りで蒼さんの隣に立っていたあの女。生意気にも、いまも蒼さんの傍に立っている。あの場所は私のもの。いまはちょっと他人に貸しているだけ。他人と言っても、朝霧陽菜ではない。名前も知らない女。まだ白川?婚約者を自称している?仕方がないじゃない、蒼さんは実は結婚している。藤嶋のお爺様に命じられて仕方がなく結婚した相手らしい。確か、藤嶋のお爺様の恩人の孫娘で、お爺様の遺産をその女に渡すだめだったかしら。全く、お金のために私の幸せの邪魔をするなんて信じられないくらい浅ましい女。その女が死ぬか、お爺様が死ぬかしないと私と蒼さんは結婚できない。殺すなら、蒼さんの法律上の妻のほうが楽だと思った。だって、
last updateDernière mise à jour : 2026-01-15
Read More
Dernier
1
...
34567
...
14
Scanner le code pour lire sur l'application
DMCA.com Protection Status