Semua Bab ムラサキの闇と月華迷宮: Bab 31 - Bab 40

45 Bab

三十の蝶〜記憶の深淵にふれるまで〜

 「水鏡さま、あたし迎えにきたんだよ」 「秋華、わらわの心は夕月夜さまのモノ。それは貴方も……わかっている事でしょう?」 「いいえ、こんな所にいたら闇に染まってしまうわ!」 水鏡さまはその言葉を受けると、睫毛を伏せた。そうして哀しみの色を帯びた瞳で、あたしに視線を向けたの。 「秋華、もう帰った方がいいわ」 「そんな事言わないで……! あたし、水鏡さまが人じゃなくてもいいんだよ! またあのお屋敷で、一緒にごはん食べたり、丸くなってお昼寝したり。春は縁側で桜を愛でて、秋は虫の音色をゴロゴロしながら聞いていたいの!」 「秋華……」 「迎えにきたんだ。あたしね、諦めないから……っ!」 シュン──── あたしと水鏡さまの間を、刀が割って入った。 「させないわ。水鏡さまはもう、夕月夜さまの姫君」 あたしと千年さまに刃を向けたのは、夏妃さんだった。 「覚悟」 「ちくしょう……っ、どうしてだよおおおおおおおおおおおおお!!!!」 千年さまが悲痛な咆哮をあげる。 ごめん、今は戦うしか術がないよ! 夏妃さんの大きな剣が、舞う。 冷たく潤んだ表情で、夏妃さんは確実に、あたし達がいる方向に刃をブンブン振ってくる。ヤバイ! こんな速さじゃ、全力で避けるのが精一杯だよ! もしもあの大きな刃が刺さったら、体なんて真っ二つになるかもしれない……っ! 「オンアビラウンケン!」 安倍晴明さまが、2本の指を刀のように構える。 そそうして下から斜めに、一気に斬り上げた! ザシュ────── 花蓮が同時に飛ぶ! 夏妃さんの手首をパアンと叩くと、空中に真紅の残像を描いた。 カラン……カラン…… 夏妃さんは大きな剣を床に落とし、そのまま呆然と立ち尽くしている。そのままガクンと膝から崩れおちた。あれ、なんか様子が変じゃない……?  「思いだした……」 「え……?」 夏妃さんは、紫の花を背にゆっくりと立ち上がる。 背後に揺れる藤のしだれが、紫の海のさざなみのようだわ。彼女の指は、千年さまを真っ直ぐに指し示す。大きく見開かれた瞳、その唇から言葉がほろりと零れおちた。 「千年……あなた……なのね?」 「夏妃……?」 まさか記憶が戻ったの────── 今、こんな時に? 「あたし、どうして此処にいるの? あれ、死んだんじゃ……なかったっけ?」 「嘘だろ
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-24
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三十一の蝶〜記憶のあやかしと恋の輪郭〜

 「記憶を喰って寄生し、その人になった者」と 「記憶を喰われた、元のニンゲン」 区別しろって言われたら、あたし……よく分からないかも。だって、外見に違いはないのだし。 記憶を喰った方の十色は、果たしてどんな想いでいるんだろう。 どこまでが夏妃さんで どこまでが十色なんだろうか?   木に寄生して生きているキノコが、どんな想いでいるのか理解できないように。あたしには、今の夏妃さんの心の状態が、どうにも想像つかなかったの。だって今、夏妃さんの記憶が甦ってきたのだとしたら。それはもう、ほぼ夏妃さんじゃないの? 体が夏妃さんで、心も夏妃さんなら それはもう「本人」と何が違うの? 悶々と、そんな事が脳裏をよぎる。ずっと思案していると、目の前の夕月夜が、夏妃さんの顎をクイッと持ちあげた。 「不安かい? じきに十色だった頃の記憶も、戻るであろう」 「え、そうなのですか!」 「そうさ。ただし、夏妃の記憶とも混ざっていくだろうから、完全に記憶が整理されるまでは、しばらく混濁するだろうけど」 「混濁。あたしは今、夏妃だった頃の記憶しかありません」 「夏妃……!」 隣で、千年さまの心が揺れているのが分かる。 彼がちいさく手を伸ばす、届かないかもしれないのに……! 今、あの人は夏妃なんだろう。誰の記憶とも混ざらぬ、今ならば。あたしは自分の心が揺れているのも構わずに、千年さまの着物の裾を、そっと掴んだ。 あたし、好きだ きっと、この人の事が────── 「ね、今は帰ろう。こんな状態じゃ戦うことも出来ないよ」 思い切って、そう呟いてみる。 実際、こんなにグチャグチャの感情のままじゃ、戦うこともままならない。夏妃さんと戦ったり、水鏡さまを取り戻したりって、冷静にできる気がしなかった。 その言葉に反応したのは、まさかの晴明さまだった。 「そうじゃな……オンアビラウンケン!」 ─────ガシャン 素早く印を切ると、目の前に蒼く透明な、氷の板みたいなモノが地面からせり上がったのだ。夕月夜が咄嗟になにか波動のようなモノを放ったのだけど、その蒼い板に阻まれて、ここまで届かなかった。 「晴明さま、結界を張ったのですか!?」 「ああ、花蓮。長くは持つまい。さ! 皆いくぞ!」 あ、そうか。急がなきゃ! 夏妃さんが記憶が戻って、呆然としている今しか、
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-25
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三十二の蝶〜永遠の夕景色〜

 あたしは、夏妃さんの恋を孕んだ表情を、胸に刻んだ。 「でも、急がなきゃ」 結界は恐らく、そんなに長くは持たないもの。 あたしは生きる 水鏡さまを取りもどす為にも! でも今はとにかく、永遠の鳥居を抜けて晴明神社まで、駆け抜ける。それしか考えない! 生きて帰るにはそれしか無いもの! でも、ずーーーと全速力で緋色の鳥居の横を疾走してたら、さ、さすがに……息が切れてきちゃった。 「大丈夫か?」 「うん、ちょっとだけ。ゆっくり歩いてもいい?」 晴明さまと花蓮も、急ぐ足を止めて心配げな表情でこちらを振り向いた。この世とあの世のあわいのような鳥居の世界にも、夕暮れは訪れる。空は黄昏の色に満ちて、この世を黄金に染めていた。 あたしは、金色にたなびく雲を仰ぐ。 冬の透明な冷気が胸にスッと入ってきた。ふと隣に目をやると、夕暮れの色に染まる千年さまが佇んでいたの。 「秋華、疲れたのか?」 「あーうん、ほんの少しね。ゆっくりめに歩いたら、すぐに復活すると思うよ」 実は緊張と全速疾走で、けっこう足はガクガクなんだよね。夕月夜に捕まらないように──って、めっちゃ頑張って駆け抜けてきたもの。でもまあ、少し休めば復活すると思うし……。 そんなことを思案していたら、千年さまが目を細めて言葉を紡いだ。 「そっか〜、じゃあ背中に乗っていいぞ!」 「は?」 「俺がおぶってやるよ」 千年さま、私に背を向けてしゃがんでるんだけど。 「え、これ私、背中に乗るってこと?」 「そうだってば」 えええええええええ──────!  あ、そういう感じ!? ちょっと流石に大人の男性に、おぶってもらった事は……ないぞ。ヤバイヤバイヤバイヤバイ。心臓がきゅっと脈打つ。頬がジリジリと焼けるようだわ。一部始終を見ていた花蓮が、大きなため息をついた。 右に高く束ねた紅い髪が、風を受けてサラリと揺れている。 桜色の着物は、この緋色の鳥居に合っている気がした。彼女は困ったように眉を下げると、あたしに向かい口を開いたの。 「あのさ、時間ないから。ごめん、千年おぶってあげて」 「あ、ですよね! おっしゃ、背中に乗っていいぞ〜秋華」 「え、え、本当に!?」 うう、なんか全員の体から『時間がない』っていう無言の圧を感じるよ。確かにこんな事してる余裕はないんだよね。あたしのせいで、夕月夜に
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-26
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三十三の蝶〜夏妃と夕月夜の章一〜

 私、夏妃!  人は私のことを「天才、死化粧師」と呼ぶのさ 死化粧師とは「人の一生が終わる間際、最期の声を聞く者」のこと。私は、幼い頃から、その才能に長けてい た。どんな微かな魂の響きだって、聞き逃さない。聞き逃したことは、ないのさ。 どんな魂も、救えるし  どんな聲も、私の耳には届く だって私は、たくさんの魂の声を聞き、届けてきたから 私はいつだって特別で  私はいつだって器用なはず  そんな、自信にあふれていたのさ そう、あの人に会うまでは──── 「いっしょに死化粧師にならない? きっと奇跡を起こしてみせるから」 そう告げたのは、私だった。 初めて千年に出逢った時、なんて美しい男の人だろう……って感じたのさ。 狼を思わせる金色の髪。襟足だけが長くて。澄んだ空色の瞳にスッと通った鼻梁、スラリと長い足。さながら異国の人みたいだったから。 そんなこと、本人には一生言ってあげないけど。 「俺、死化粧師の一族に生まれたのに。まだ一度も死にゆく者の声、聞いた事ないんだよなー。もうこのまま一生……聞こえなかったりしてなー」 冗談めいた、でも哀しい告白。 千年の唇からこぼれたその言の葉は、ある日、依頼を終えた帰り道で紡がれたのさ。風に揺れる緑の稲、いちめんの翡翠色の大地。一本道の脇に流れる小川が、涼やかな音色を奏でていた。初夏の優しい午後を、二人だけで歩いたっけ。 「笑えるよなー相棒になったってのに。暴れる死者を押さえたりってことはできても。肝心の最期の声が聞こえないんだから……ははっ」 「無理して笑わなくて、いーってばさ」 そう、本音でそう思う。  千年は有能なのだから、全てにおいてさ。「死化粧師の才能」以外は。 喧嘩は強いし、頭もいい。どんな武器も使ってるうちに、みるみる上達していくんだ。その道の匠みたいにさ。料理だって上手にできる。魚だってサクサクさばいていたし、ちょっと凝った料理も晴明さまに振舞っていたもの。 なのに、どうして? 死化粧師の才能だけ、開花しないんだろう──── 「ごめんな、夏妃の足を……俺、引っ張ってねーかな」?」 緑の稲の中に、まっすぐな一本道。 彼はふと立ち止まったの。 私は大剣を担ぎながら、歩く足を止めて、うつむく彼を振りかえった。 すこし泣きそうな、心配そうな……いろんな想いを含んだ表情
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-28
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三十四の蝶〜夏妃と夕月夜の章2〜

 それは神に魅入られし、美少年の姿。 こんな綺麗な子が、どうして晴明神社の前にいるんだろう。 いかに華やかな京の都とはいえ、誰もが振りかえるほどの美丈夫である。しかも、晴明さまを探してるとか……私はかすかな違和感を感じたんだ。 「あんた、晴明さまに会いたいのかい?」 「ああ、会いたい。通してくれないかな」 「そうさねえ、名はなんと言うの?」 「夕月夜と申します」 威風堂々とした受け答えだわ。 一見、十二歳くらいに見えるのにさ。 風格があるっていうか。どこかの貴族めいた、高貴な雰囲気を纏っていたのさ。それは私だけじゃなく、鬼童丸も何かを感じ取ったらしい。夕月夜って子の前に歩みよると、優しくなだめるような口調で話しはじめた。 「悪いな、ここは通せないんだ」 「どうしてでしょうか」 「晴明さまに会うには、書状が必要なんだ。許可がいる」 「許可?」 「ああ、あの方は都一の陰陽師だからな。そんなに簡単には会えないんだ」 あたしは補足の意味も含めて、その話に割って入った。 「夕月夜って言ったっけ、君は何か会うことのできる書状を持ってるの?」 「いいえ、持っていません」 「そっか、じゃあ仕方ないね。帰ってもらっていいかな」 「そうですか……」 にっこりと雅な笑みを浮かべる。 笑うと艶やかな花のようだ。愛らしい、美少女のような桜色の頬。風にそよぐ銀の髪に一瞬触れると、そのまま腰の刀に手をかけた。 「では、力づくで参りますね」 抜刀──── 夕月夜は持っていた剣を抜くと、そのままクルッと回転させる。弾みをつけて跳躍すると、体をタテに回転しながら向かってきた! 「ここを、通りましょう」 ヒュン! 私と鬼童丸の間を、刀も体もタテにヒュンヒュン回転しながら斬りかかる。あっぶな!!   「気をつけろ、夏妃! この夕月夜という少年、只者ではない!」 「ああ、わかってる!」 夕月夜の足斬り! 鬼童丸と一緒に飛んでかわす! 「夕月夜、あんた何でこんな事するのさ!」 私は、サッと後ろに飛び去ると、大きな剣を構え直しながら叫んだ。すると軽やかに体制を整えた夕月夜が、冷たい月のような表情で、髪をかきあげたのさ。 「安倍晴明、彼はいつか私を殺める為に現れる。その前に、殺めておこうと思ってね」 「どういう意味さ!? あなたのような少年を殺
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-29
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三十五の蝶〜夏妃と夕月夜の章3〜

 「それは、誠か?」 「誠さ。今日は私と鬼童丸だけじゃ、危なかった」 「そうなのか」 「そうさ! いっしょに戦ってくれて、助かったよ……!」 私の言葉を耳にした千年が、一瞬うつむいた。その肩が、わずかにカタカタと震えている。あれ、どうしたのかな。私、なんか変なこと言った……? 「千年?」 「……あ────────っっっ! めっっっっっっちゃ嬉しい────────────!!!」 大きく地面を蹴って、激しく飛んだ! え、え、何これ。 隣で鬼童丸が、はしゃぐ千年に背中をバンバン叩かれている。 「いったい! 落ち着け、千年っ」 「落ち着けるかああああああ─────い! は〜めっちゃ嬉しい! 俺今日、酒盛りするわ!」 「そんなに嬉しいんだ……」 嬉しすぎて、くるくる回転したり。鬼童丸の手をとって踊ったりしている。えっと、こんなにはしゃいで踊り散らかしてる千年を、私、初めて目にしたかもだわ。 しばらく鬼童丸とキャッキャウフフしてたけど、私と目が合うなり、意を決したようにこちらに向かって歩んでいたんだ。 「俺さ、まだここにいて……いいのか?」 「え、当たり前じゃない!」 「当たり前じゃねーじゃん。死化粧師の才能ないんだからさ、俺は」 「何いってんのさ」 そっか、言葉にしないと伝わらないんだ。 伝わってるって、勘違いしてた……。 そうだよね、毎日のように傍にいたって、想いを伝えないと分からないんだ。 私は、スウウウ〜っと大きく息を吸って肺にいっぱい空気をためた。両手でそっ……千年の頬をはさむと、まっすぐに瞳を合わせる。 「私の相棒はたった一人、千年だけだから」 「なつ……ひ……」 「だからこの命尽きるまで……私の背中、あずけるよ」 そう、もう迷わないで 私も、迷わないから。 「わかった」 千年の右頬に添えた私の手を、彼の右手があたたかく包んだ。長い睫毛が伏せられて……キレイだと思った。恥ずかしくて頬があついや。二人そっ……と手のひらを頬から離す。 いつの間にか、晴明さまや鬼童丸達いなくなっていた。 そっかもう皆、部屋に戻っていったのか。ちょっと恥ずかしかったら「今の光景を見られなくて良かった」と、心のうちに安堵する。 「夏妃、俺の命はお前のモノだ」 「千年……?」 他に誰もいない神社の境内で 彼がキッパリと言い
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-30
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三十六の蝶〜夢と桜とポンポンと〜

 千年さまに背負ってもらって、晴明神社に帰ってから こわい夢をみた──── 蒼い月の下、水鏡さまと夕月夜があたしを見下ろしていたの。  紅き単衣に銀髪の姫君と 銀の髪の美少年。 月灯りをうけて二人立ち並ぶ姿は、まるで雅な絵巻のように美しい。麗しすぎてゾっとするほどだ。 「お待ちになって夕月夜さま。わらわは秋華が好き。一緒に連れていきたいわ」 「あたしを……?」 「だって、貴方に最初に名をつけたのは、わらわよ?」 夕月夜の唇を、一本のひとさし指でふさぐ。水鏡さまは甘やかに微笑んで、あたしへと向きなおった。夢の中であたしは、彼女に手を引かれて連れ去られていく。藤の花が咲き狂う隠れ里で、ともに暮らすために。 「秋華を返せ! 彼女は俺の戦友なんだ!」 「千年さま……!」 道の真ん中に、一人の男の影があった。 鈍色の錫杖をかかげ、その唇は術を詠唱している。金色の髪が、月光をうけて眩い輝きを宿していた。緋色の狩衣に漆黒の袴。紛れもなくそれは、唐橋千年さまだったの。 ああ、千年さまだ ここは夢の中なのに、懐かしい想いがあふれる…… 会いたかった どうしても、どうしても会いたかった……! 他に何もいらないと、願ってしまったほどに……っ! 夢の中なのに、涙がはらはらと流れつづける。隣を見ると、夕月夜が術のせいなのか、頭を押さえ苦悩していた。千年さまが、前よりも陰陽師らしく成長しているように感じられたの。 千年さま……すごい! その刹那、「あはははははははは」と夕月夜が狂気じみた嗤い声をあげた。月光をうけて銀色の髪が透ける。 ユラリ……と立ち上がると、千年さまを真っ直ぐに指さした。 「これはこれは、油断したかな。君の名は、たしか唐橋千年」 「なにゆえ私の名を」 「死にゆく者の名を、私は知っているのさ。唐橋千年……次の百鬼夜行の夜、死ぬよ」 「莫迦な…!」 夕月夜は妖しく微笑する。 夜の闇に、蛍が明滅していた。 「残された彼女はどうするのかな、君のいない世で。せめて美しい夢の中で、救ってあげたいとは思わないか」 あざ嗤う夕月夜の背後で、黒い影がうごめいた。 影はスルリと立ちあがり 日本刀で斬るような仕草で、二本の指を斜めに降りおろす。 「オン アビラウンケン」 晴明さまが印を切ったのだ。その声にはじかれて、鬼
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-30
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三十七の蝶〜枯山水について書きすぎた章〜

 「秋華、枯山水《かれさんすい》って知ってるか?」 「枯山水、何それおいしいの?」 「いや、食べ物じゃねーんだ。なんでも水を使わずに、石を立て、砂や砂利だけで『水を表現する庭園』なんだってさ」 「へ〜水、使えばいいんじゃない?」 「いやまあ、そうなんだけど! そこをあえて使わず表現するところに、美学があるんだろうさ」 「ふーん」 全然わっかんないわ。 まあ、直接見たら分かるかも〜と思って、本日依頼のお寺に行ってみたの。木製の重たい門をひらくと、お庭の右半分くらいに「枯山水」と呼ばれし庭園があったの。 凄い……まるで白き大河だわ。 真っ白な砂利が、水面に浮かぶ波紋みたいに描かれてあったの。 「え───なんか綺麗! 白き河の流れみたい」 「これは一服の水墨画の世界なんだ。絵画的な意味があるらしいぞ」 「え、そうなんだ! この波紋うつくしいよね」 この紋様を完成させるの、大変だったろうな〜。波紋様に見えるよう、敷き詰められた白き玉砂利。もんのすごい細やかで丁寧な作業なんだろうなって、想像ができた。あたしと千年さまは、枯山水からわずかに離れた場所、地面が土の庭園から眺めることにしたんだ。 「これは、波紋じゃなくて砂紋っていうんだってさ」 「さもん!」 「砂の紋様って意味なんだって、キレイだよな」 「へ〜」 雪の如き白い玉砂利は、水面や河のうねりのようで、実によく出来ていた。 「あのデッカイ岩は、蓬莱島に見立ててるって聞いたなー」 「蓬莱島って、あの『竹取物語』に登場する島?」 それなら聞いたことがあるわ。 かぐや姫が結婚したくなくて、貴族たちに無理難題をいって、あきらめさせたお伽話だ。たしか、その無理難題の一つが『この世にあるとも知れぬ、幻の蓬莱島に行き、玉の枝を取ってこい」っていうお話だったわ。 千年さまは庭園に詳しいのか、生き生きとした口調で語ってくれる。 「そう、それ。遙か東方の海上にあるという、幻の島だ」 「ふーん。庭の砂にも、物語があるのね」 そう言われると、ただの白い砂の河にも、壮大な物語が秘められてるような……気がした。私はかすかな感動を胸に覚えたの。 「これ、こんな雅な砂模様にするのって、時間かかるんだろうね〜」 「ああ、実は死化粧師の才能に自信がなかったからさ、近くの寺
last updateTerakhir Diperbarui : 2025-12-31
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三十八の蝶〜化猫遊女さくら乱舞〜

 「か、かはっ……ぐっ!」  河童が苦悶の声を上げながら、ゆるりと起き上がる。  その瞳は虚ろで、焦点があっていない。  どうしよう。爪とかは無いけれど、その体躯は大人の男性ほどだ。私よりも大きい。 全力で殴られたら、けっこうな打撃をくらうだろう。危険だわ……!  まずは、寺のお坊さんたちを逃さないと。  背後を見わたすと、部屋には住職、千年さま、河童の世話にやってきたであろう小坊主が一人。みんな、河童の動向を見守っている。 縁側でゆらゆらと、闇を孕んだ瞳でそのあやかしは立ち上がった。 その瞳は、虚空にまどい  その唇に、泡がながれ  その手は、宙を彷徨う  「ごぉぉおっ」 咆哮────  河童が床板を蹴る。弾みをつけ、こちらに向かい襲ってきた! 「危ねえ!」  「千年さま!」 あたしの肩を素早く抱くと、縁側を駆け抜け、広い中庭へサッと走り去る。部屋の中には住職と小坊主くんが残されてしまった。 「グルるるるるるる」 河童の標的が、残された二人に定まってしまった。これ、まずい!  あたしは危険だと判断して、変化する。 「転身! 化猫遊女・蒼・月・乱・舞」 爪に海の色を灯して  尻尾は二股に分かれゆく  髪は紅から瑠璃色へ  瞳も蒼へと染まりし時ぞ 今こそ変化を遂げましょう! 私は術を使い、黒猫から蒼き化け猫へと変化した。この術を会得するのに一年もかかってしまったわ。髪も瞳も蒼き姿の時は、戦闘能力がいつもより上昇する。 ただし「短時間で解ける」変化術なの。  ここぞという時しか使えないけど、今は危機的状況と判断して、使うことにしたわ! 「河童よ、お前の敵はあたしよ!」  「か、ごるるるるるるるるる」 河童は中庭の、あたしの方へと振り向いた。  正気は失ってはいるが、殺気には気付くみたいね。本能的な反射で動いてるって感じかしら。 外は、いちめんの桜  おりしも庭の桜花は、爛漫の時を迎えている。 しだれ桜が幻想的で、さながら幽玄の森のよう。さやさやと風に揺れる花びら。千年さまはあたしが心配なのか、そっと肩を抱く。顔が触れそうなほどに近い。 え、ちょっと待って。  こんな顔、近かったっけ? 息遣いも届きそうなほどの距離に、突然胸がキュッとなる。美しい横顔の輪郭。その向こうには
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-02
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三十九の蝶〜四神の結界について書きすぎた章〜

 「四神の結界って、何?」 あたしは千年さまに尋ねる。 しだれ桜の大樹の根元にちょうどいい桜の虚木の空洞があったから、二人してそこに身を潜めた。河童は樹を横切り、あたし達を探している。 その姿を横目で確認しつつ、千年さまは耳元で囁いた。 「この平安京は、四神が守護してるんだ。四方の方角に『聖獣』を置くことで、悪しき魔物から、京の都は守られてんだ」 えええええ、全然知らなかった。 確かにこの京の都は、地震や天変地異が昔から少ない土地だとは、聞いたことがあった。この平安京に、四匹の聖獣が配置されていたなんて……。 「そうなんだ。ね、四神についてもっと教えて?」 「ああ。この京の都は北に玄武、東に青龍、南に朱雀、西に白虎が守護してんだ。くわしく説明するとさ」 千年さまは足元にあった枝を拾うと、サラサラと土に絵を描きだした。 タテに真っ直ぐの線がいっぱい ヨコに真っ直ぐの線がいっぱい まるで、囲碁の盤みたいだわ。 「まず北の船岡山、ここは玄武が守護してんだって」 「へ〜こっちの南は?」 「南は巨椋池。朱雀だな」 ふーん。誠、四つの神がそれぞれの土地を守ってるんだ。河童の動きが気になるところだけど、まだみつかっていない様子だわ。あたしは気配を押し殺しつつ、千年さまの話に耳を傾けた。 「それで西の守護神は?」 「西は山陰・山陽道に白虎が配置されている」 「白虎、白い虎ってこと?」 「そうだ」 「えー、かわいいよね! 見てみたいっ」 白いモフモフの虎が、京の都を守っているなんて!  四神の聖獣、素敵すぎっ!  自分も化け猫だけど、猫の姿って神の生みたもう傑作だと思うもの。かわいさと雅さと心強さで、人の心をキュンキュンにさせるものね。えー白虎見てみたいな〜。大きいのかな、お腹の毛は柔らかいのかしら。 「白虎のお腹、ナデナデしてみたい」 「いやちょっ、それはどうだろう」 「無理かしら?」 「神様だからな、無理かもなー」 「うにゃー」 残念、撫でたかった……! 残るは東よね。ちょっと気になってる。この太い線って……川じゃないかしら? 「ねえ、東のこの線って、川?」  「そうだ、鴨川だ」 「鴨川ってこの近くを流れてるよね」 「そうだな、走っていける場所にあるな」 やっぱり、鴨川だった! 嫌
last updateTerakhir Diperbarui : 2026-01-03
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