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三十一の蝶〜記憶のあやかしと恋の輪郭〜

last update Last Updated: 2025-12-25 18:26:03

 「記憶を喰って寄生し、その人になった者」と

 「記憶を喰われた、元のニンゲン」

 区別しろって言われたら、あたし……よく分からないかも。だって、外見に違いはないのだし。

 記憶を喰った方の十色は、果たしてどんな想いでいるんだろう。

 どこまでが夏妃さんで

 どこまでが十色なんだろうか?

 木に寄生して生きているキノコが、どんな想いでいるのか理解できないように。あたしには、今の夏妃さんの心の状態が、どうにも想像つかなかったの。だって今、夏妃さんの記憶が甦ってきたのだとしたら。それはもう、ほぼ夏妃さんじゃないの?

 体が夏妃さんで、心も夏妃さんなら

 それはもう「本人」と何が違うの?

 悶々と、そんな事が脳裏をよぎる。ずっと思案していると、目の前の夕月夜が、夏妃さんの顎をクイッと持ちあげた。

 「不安かい? じきに十色だった頃の記憶も、戻るであろう」

 「え、そうなのですか!」

 「そうさ。ただし、夏妃の記憶とも混ざっていくだろうから、完全に記憶が整理されるまでは、しばらく混濁するだろうけど」

 「混濁。あたしは今、夏妃だった頃の記憶しかありません」

 「夏妃……!」

 隣で、千年さまの心が揺れているのが分かる。

 彼がちいさく手を伸ばす、届かないかもしれないのに……! 今、あの人は夏妃なんだろう。誰の記憶とも混ざらぬ、今ならば。あたしは自分の心が揺れているのも構わずに、千年さまの着物の裾を、そっと掴んだ。

 あたし、好きだ

 きっと、この人の事が──────

 「ね、今は帰ろう。こんな状態じゃ戦うことも出来ないよ」

 思い切って、そう呟いてみる。

 実際、こんなにグチャグチャの感情のままじゃ、戦うこともままならない。夏妃さんと戦ったり、水鏡さまを取り戻したりって、冷静にできる気がしなかった。

 その言葉に反応したのは、まさかの晴明さまだった。

 「そうじゃな……オンアビラウンケン!」

 ─────ガシャン

 素早く印を切ると、目の前に蒼く透明な、氷の板みたいなモノが地面からせり上がったのだ。夕月夜が咄嗟になにか波動のようなモノを放ったのだけど、その蒼い板に阻まれて、ここまで届かなかった。

 「晴明さま、結界を張ったのですか!?」

 「ああ、花蓮。長くは持つまい。さ! 皆いくぞ!」

 あ、そうか。急がなきゃ!

 夏妃さんが記憶が戻って、呆然としている今しか、
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百鬼じゅん
切ない(´;ω;`)
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