撮影角度は、実に悪意に満ちていた。写真には二人の顔にモザイクがかけられていたものの、事情を知らぬ者が見れば、親密に戯れているようにしか映らない。さらに、その写真を流したパパラッチは、これでもかと尾ひれを付けて書き立てていた。『天野成哉氏、高級車で恋人をお迎え。現場は甘いムード全開!ああ!橋本望美氏が不憫でなりません』この暴露記事の下では、望美のファンたちがコメント欄を炎上させていた。ここ半年、望美と成哉の熱愛説は幾度となく浮上し、その関係はもはや公然の秘密と化していた。望美のファンたちは、金も権力も美貌も兼ね備えたこの「新浜の王子様」を当然のように望美の伴侶と見なし、二人のカップリングを熱狂的に支持していたのだ。ネット上には「成望」というファンクラブまで存在している。【どこのどいつよ、この泥棒猫!成哉様を誘惑するなんて、消えなさい!】【これ、わざとらしいヤラセじゃない?あの女、マスコミにいくら積んだのよ。反吐が出るわ!】【お構いなく。成哉様は今、撮影現場まで望美様を迎えに行ってる最中だそうですから!】【あの女の得意げな顔、見てられない!誰かこいつのSNS垢特定してよ、ぶちのめしてやる!】紬は無表情のまま、ただ淡々とコメント欄をスクロールしていった。昔からネットにのめり込む性分じゃなくて、本当によかった。そうでなければ、正妻である自分がこれらの異常な言葉の数々を目の当たりにして、憤死していたに違いない。一通り目を通して、鼻で笑い飛ばすつもりだった。だが、望美のファンたちの狂気は、紬の想像をはるかに超えていた。その日の夜、モザイクのない写真が流出した。紬の顔は晒され、名前までもが特定される。【綾瀬紬!海原の一般人の娘で、幼い頃に両親を亡くしている!以前は天野グループ本社に六年間在籍!】【ふん、やっぱりね!玉の輿狙いのおカネちゃんじゃない。死んだご両親が知ったら、恥ずかしくて成仏できないわね!】その一文を読んだ瞬間、紬の指先は怒りに震えた。この人たちに、何がわかるというのか。なぜ、亡くなった両親まで引き合いに出されなければならないのか。だが、ネット上の火勢は収まるどころか、ますます激しさを増していった。やがて「天野本社社員」を名乗る者たちまで現れ、偽の証言を並べ立て始める。【この紬
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