周囲が熱狂の渦に包まれる中、対決を控えた当の二人だけが、至って無表情だった。杏奈は蒼介が唐突に中立を宣言した理由など、もう気にも留めていなかった。自分はただ、目の前のデザイン対決に集中し、勝つだけでいいのだから。一方、紗里は煮えくり返るような内心を、必死に顔に出すまいと耐えていた。もし少しでも気を抜いてそれを表に出してしまえば、嫉妬に狂う醜悪な本性が露呈してしまうからだ。……なぜ?本当に、彼の襟元を掴んで問い詰めたかった。負けることを恐れているのではない。ただ、彼がほんの僅かでも杏奈に「肩入れ」するという事実そのものが、紗里にとってはどうしても受け入れられなかった。これだけ長い時間を費やして、これだけの労力を注ぎ込んで、吉川夫人の座がもう手が届くところまで来ているというのに。今さら、どんな些細な邪魔が入ることも絶対に許さない。そう思った瞬間、紗里の瞳に暗い殺意が宿った。それでも彼女は笑みを口元に貼りつけながら、杏奈に向かって言い放った。「……これから先、せいぜい『気をつけて』ね」杏奈はそれをただの試合前の安っぽい挑発だと思い、大して気にも留めていなかった。「ええ。あなたもね」紗里は冷ややかに笑い、蒼介とその場を立ち去っていった。誰も気づかなかった。蒼介が「中立」と口にしたあの瞬間、紗里が礼服の裏地に隠し持っていたスマホから、こっそりといくつかのメッセージを送り出していたことに。「さあ、俺たちも行こう」裕司も立ち上がり、杏奈と一緒にバックステージへと歩き出した。関係者たちが順次引き上げた後、展示会の巨大なメインスクリーンには、特別告知が流れ始めた。【ルミエールvs吉川グループ!頂上対決、最後の勝者はいったいどちらに!】これで、二人の因縁の対決は誰もが知る公式のものとなった。スクリーンで対決の時間とルールを確認した人々は、口には出さないものの、心の中ではすでに紗里に最高得点を入れようと固く決めていた。吉川グループの覚えを良くして、おこぼれに預かれるかもしれないという卑しい打算があったからだ。だが、ちょうどそんなことを考えていた矢先、会場のアナウンスを通じて、蒼介が正式に流した「吉川グループは完全なる中立を保つ」という一報が、全員の浅ましい目論見を打ち砕いた。「中立だって……!?さすがは吉川社
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