そう思い至り、蓮は自分なりに精一杯の甘く優しい笑みを浮かべ、杏奈の目の前で足を止めた。きょとんとした彼女の視線を正面から受け止めながら、甘く低く心地よい声でゆっくりと口を開く。「やあ、こんばんは。よろしければ、俺と……」「今日は運がなかったと思って諦めてください」「……?」蓮は、顔に貼りつけた笑顔を保つのがやっとだった。自分の身分はともかくとして、この誰もが振り返る顔立ちで口説きに行って、最後まで言わせてもらえずに遮られるとは。杏奈の瞳には、彼の容姿に対する見とれる様子など、微塵も浮かんでいなかった。そこにあるのは、浮ついた口説き文句に対する露骨な呆れと警戒だけだ。「存じ上げませんし、お酒をご一緒するつもりもありません。ご用件がないなら、どうぞあちらへ」那月も本当に困ったものね。こんな所に連れてきておいて、自分だけさっさとどこかへ消えてしまうなんて。彼女が一体何を企んで自分をここに連れてきたのか。その魂胆を確かめたいという気持ちがなければ、杏奈はとっくに席を立って帰っていただろう。……もしかして、本気で嫌われている?蓮は端正な目元をわずかに引きつらせながらも、かろうじて紳士としての体裁を保ち、彼女の隣に腰を下ろそうとした。だがその瞬間、杏奈がさっと立ち上がった。「あなたが座るなら、私が席を立ちます」という強烈な拒絶の意思が、その全身から冷気のように滲み出ている。蓮は中腰のまま、不格好に固まってしまった。座るに座れず、かといって立つに立てず、端から見ればなんとも間の抜けた格好だ。なかなかの難敵だな。だが、だからこそかえって、彼の生来の探究心と男としての征服欲が強くかき立てられた。かつて地味な専業主婦だった女が、いくら吹っ切れて変わったからといって、ここまで堂々と冷酷に振る舞えるものだろうか。ますます彼女のことが気になってしまった。空気が凍りつき、二人は無言のまま睨み合うような膠着状態に陥った。その様子を遠くの席から窺っていた涼平は、気が気ではなかった。「まずい、まずいぞ。これが蒼介に知れたら……いや、後でバレて殺されるくらいなら、いっそ今、自分から白状した方がマシか」どうせ後でこっぴどく叱られるにしても、自分から正直に報告した方がまだ罪が軽いだろう。そう判断した涼平は、震える指で蒼介宛
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