「入社?」政夫は少し驚いたように眉を上げた。「家にいるのが退屈で仕事がしたいなら、蒼介に一言言えばいい。吉川グループ全体の中から、好きな職を選べばいいじゃないか。他の会社なんか行く必要はない」杏奈が答える前に、隣の瑞枝が鼻で笑った。「本当に。知らない人が聞いたら、吉川家が甲斐性なしだと思われるわ」瑞枝は優雅に座ったまま、冷ややかな視線を杏奈に投げかけ、声を尖らせる。「今のあなたの生活は、どれだけの人が望んでも手に入らないものよ。忠告しておくけれど、身の程を知りなさい。幸せの中にいてそれに気づかないなんて、愚かな真似はやめることね」美南がすぐに同調した。「そうよ。あんたが仕事なんかして何になるの。私には分かるわ、わざと騒ぎを起こして、兄さんの気を引こうとしてるだけでしょ」彼女は杏奈が仕事をしたいなんて全く信じていないし、仕事に行ってほしくもない。杏奈が吉川グループで働くようになったら、自分のデザインの出どころが露見するリスクが高まるだけだ。政夫の顔色が一気に曇った。「わしがまだここにいるというのに、杏奈に対してその態度は何だ!わしが死んだら、好き勝手やるつもりか?」そう言って手にした杖を床に激しく打ちつけた。瑞枝と美南は口を閉ざし、小さくなるしかなかった。杏奈に電話した後、二階の廊下に政夫が立っているのを見た時の、あの凍りつくような恐怖を、二人にとっては決して忘れていないのだ。以前なら、杏奈は必ず場を収めようととりなしただろう。けれど今は……「おじいさん、私のことはお気になさらないでください。仕事はもう決まっています。月曜日から出勤します。吉川グループではありません」この言葉に、部屋にいる全員が固まった。かつて杏奈がどれほど蒼介に執着していたか、彼らは皆、嫌というほど目の当たりにしてきたのだから。それに、当時の杏奈は実際に吉川グループで働くことを熱望していて、政夫自身が会社へ連れて行き、指紋登録までさせたのだ。杏奈の言う仕事とは、また同じ手を使って吉川グループに入り込もうとしているのだと思っていた。なのに、政夫が階段まで用意したのに、彼女は降りてこなかった。美南は白けたように視線を逸らした。「何を殊勝なフリしちゃって」結局、蒼介の許可がなければ、吉川グループの門さえくぐれないくせに。この気
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