「政夫さん、そんな横柄な口を叩くなら、わしとて黙っておらんぞ」「おやおや。ここ何年も相手にしてやらなかったから、また血が騒いできたのか?」「チッ!あのとき握り飯をもう一つ食べておけば、肝心なところで力が抜けることもなかったんだ。そうなれば、政夫さんがどうなっていたか分からんぞ」「やるか?」「やってやろうじゃないか!」合わせれば二百歳にもなろうかという二人の老人が、今にも取っ組み合いを始めそうな勢いで睨み合っている。杏奈は苦笑するしかなく、万が一骨でも折れやしないかと、ただはらはらしていた。杏奈は慌てて立ち上がり、二人の間に割り込んだ。二人の腕をそっと引きながらなだめる。「まあまあ、もう争うのはやめてくださいな。私は、お二人どちらの孫娘でもあるんですから」まるで子どもをあやすようなその言葉に、二人は拍子抜けしたように顔を見合わせ、やがて噴き出した。先ほどの言い争いはどこへやら。今度は代わる代わる「かわいい孫娘よ」「うちの杏奈」と、目尻を下げてにこにこと話しかけてくる。とろけるような愛情攻勢は、杏奈にとって嬉しくもあり困りもする、まさに嬉しい悲鳴といったところだった。場がすっかり和んだ頃、執事の井上が言いにくそうな顔つきで、おずおずと近づいてきた。「旦那様」「何事だ?」「実は……」井上の視線が、ちらりと三浦家の一同へと流れた。この場で口にしてよいものか、迷っている様子だった。政夫は眉を寄せ、厳しい声で叱りつけた。「ぐずぐずするな!ここにいるのは皆、身内も同然だ。用があるならはっきり言え。ここで隠し立てする必要などない」「はい」井上は小さく頷くと、声を潜めてひと言告げた。「あの母娘が、また騒ぎに来ております」三浦家の一同は、しばらく黙り込んだ。井上の言葉は、まるで何かの謎掛けのようだ。母娘……?いったいどこの母娘だ?それに、天下の吉川家に乗り込んでくるほど肝の据わった人間がいるとは。だが、杏奈だけは違った。何か心当たりがあるように、じっと考え込んでいた。政夫の表情がたちまち険しく曇り、普段は滅多に使わない荒々しい言葉が口をついて出た。「恩を仇で返すような恥知らずどもが、よくも平然と顔を出せたものだ!たたき出せ!」「はい」そう答えた井上が踵を返し、外へ向かいかけたところを、政夫が鋭く呼び止め
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