颯がそれ以上考えを巡らせる暇もなく、杏奈が立ち上がった。「せっかく来てくれたんだもの、行きましょう。安置室は、ここからかなり離れているから」「はい」颯は神妙な面持ちで頷いた。全員が連れ立って病室の扉へ向かおうとしたその時、大地がふと重大な懸念を思い出したかのように、鋭い声を上げた。「待ってください」「どうしたんですか?」「我々が全員揃ってここを離れたら、この部屋には誰が残るんですか。意識不明の怪我人の安全を確保する人間が、少なくとも一人は必要でしょう」「病院内ですし……まさかこんな場所で、誰かが危害を加えに来るなんてことは……」だが、長年数々の修羅場を潜り抜けてきた大地の職業的直感が、警鐘を鳴らしていた。事態の全容が解明されるまでは、何があっても重要参考人の安全を確保しなければならないのだ。大地は毅然とした態度で言い放った。「安全かどうかなど、まだ誰にも断言できない。いずれにせよ、せっかく結果が出るまで待ったんですから。私の部下がこの場に戻ってきてから安置室へ向かっても、決して遅くはないはずだ」「それもそうですね。私たちは構いません」杏奈たちに異論はなかった。しかし、颯はかすかに目を細め、大地を試すような、あるいは同情を引くような口調で言った。「ええと、森口警部。その職務に対する厳格な姿勢は、素晴らしいと思います。ですが……僕も、蓮兄さんへの思いは深くて……すぐに会いに行けなかったことがずっと心に引っかかっていて、これ以上待たされるのは、正直……」言葉は最後まで続かなかった。しかし、深くうつむいたその頭と、うっすらと赤みを帯びた目が、彼のひたむきな悲しみを見事に物語っていた。「……では、皆さんは先に行かれますか?」大地が、確認するように杏奈たちに目配せをした。「……わかりました」杏奈は少し間を置いてから、ゆっくりと頷いた。「では、私たちは先に向かっています。森口警部は、部下の方が戻り次第、後から合流してください」「そうさせてもらいましょう」一行が薄暗い廊下へと出ていく中、最後尾についた颯の瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、勝ち誇ったような冷酷な光がよぎった。もちろん、颯は気づいていなかった――病室に一人残った大地の顔にも、それと全く同じ、獲物を罠にかけたような表情が浮かんでいたことな
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