練と颯斗が傍若無人に口喧嘩を繰り広げていると、傍らにいた奏が不意に口を開いた。 「でも、睦弥もそんなに長く海外に滞在するわけじゃないよ。十五日間の観光ビザだから。ね?」 睦弥は小さく頷いた。 「航空券も、片道しか買っていません」 「では、目的地は一つではないということですか?」 練が問う。 睦弥の瞳には、微かな光が宿っていた。 「体が許す限り、この世界のあらゆる隅々まで歩いてみたいんです」 その瞬間、颯斗は条件反射的にアルベインの姿を思い出した。「さらばだ友よ」と手を振り、夕陽の中へと遠ざかっていった、あの男を。 気のせいだろうか。そう語る睦弥の表情も、その眼差しも、あの時のアルベインと瓜二つだった。 保安検査口の向こうへ睦弥の背中が消えていくのを見届けた後、颯斗はふと湧き起こった野次馬根性に負け、奏にこんな質問を投げかけた。 「……ってことは、これから二人は遠距離恋愛になるの?」 ところが、奏は苦笑しながら首を横に振った。 「いいえ。俺たち、別れたよ」 「ええっ!?」 颯斗は目を見開いて練を振り返ったが、練も「初耳だ」と言いたげに肩をすくめた。 「本当に、別れたの?」 「嘘をつく必要はどこにある」 「でも、結婚したばかりじゃ……」 「ええ。本当は退院してすぐに離婚届を出すつもりだったんだけど、手続きにはわざわざオランダま
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