その理由は、九条家に遥を受け入れさせる自信がなかったからだ。だが結婚を考えなかったわけではない。結婚を意識するたびに、湊の胸は高鳴った。だが同時に、遥がそれを望んでくれるか不安でもあった。その時初めて、彼は彼女を好きになったと確信した。だが、それを認める勇気はなかった。昔は彼が関係公開を拒み、彼女が怒った。今も彼女が、過去の関係を隠せと求めている。まるで湊が、他人には言えない恥ずかしい過去であるかのように。遥がほっとしたのも束の間、湊が淡々と言った。「もし俺が断ったら、どうするつもりだ?転職か?」転職という言葉に、二人の脳裏に遥が他社に履歴書を送った件がよぎる。遥は居心地が悪そうに言った。「……そんなつもりはありません」「お前の自由だ。勝手にしろ。どうせお前は、黙って姿を消すのが得意なんだろうからな」遥は湊を見て、何か言おうとした。違う、昨夜も言ったじゃないか。「昨日は……」車が急加速した。そして会社近くのコンビニの前で急停車した。湊は不機嫌極まりない顔で遮った。「降りろ」会社はすぐそこの角を曲がったところだ。遥はすぐに降りた。礼を言う暇もなく、車は走り去っていった。残されたのは排気ガスだけだ。遥はその場に立ち尽くし、ため息をついた。……社長室。湊は国際電話をかけていた。相手はすぐに出た。真理が明るい声で言う。「お兄ちゃん?私に電話なんて珍しいね」「聞きたいことがある」この前に、蓮と話して気は楽になったが、昨夜遥は泣いていた。目を閉じると、涙を流して彼を見つめる彼女の姿が浮かんでくる。湊の心に、かつてない無力感と疲労、そして自責の念が湧き上がった。彼は自分が間違っていると思ったことはない。プライドの高い湊が、女に頭を下げるなどありえない。だが彼は知りたかった。もし女性の視点から見れば、自分の行動は間違っているのかどうか。話を聞き終えた真理は、驚いて笑った。「それだけ?……で、お兄ちゃんが聞きたいのは建前?それとも本音?」「本音だ」真理はニヤリとした。「もしお兄ちゃんじゃなくて彼氏がそんなことしたら、二発くらい張り倒して、二度と会わないわね。でも私の性格は知ってるでしょ?元カノさんが私と
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