「……おい、紬」「はい」「これ、ゼロが二つ足りないぞ。ミスプリントか?」「合ってます。上下セットで1,980円(税抜)です」「嘘だろ……? 俺の靴下の片方より安い」 彼は戦慄していた。安すぎる服の価格に、価値観がゲシュタルト崩壊を起こしているらしい。 いやでもシマムレだし。庶民の味方のファッションセンターよ?「この布、何でできてるんだ? 紙か? 洗ったら溶けるのか?」「溶けません。綿とポリエステルです。吸汗速乾で丈夫ですよ」「ポリエステル……未知の素材だ」 彼は恐る恐る生地に触れた。その手つきは、爆発物の処理班のように慎重だ。 ポリエステルを知らないとかマジだろうか。この人は絹でできたお城に住んでいるお姫様なのだろうか。そんなどうでもいい考えが浮かんだ。「……悪くない」 意外にも、彼は感心したように頷いた。 けれど私が勧めた無難なグレーやネイビーは、「地味だ」「つまらない」「衣装さんの予備服みたいだ」と却下されてしまった。 それから、ふらふらと吸い寄せられるように、通路の中央にあるワゴンセールへと向かっていく。 ◇ 「……いた」 ワゴンの前で、彼は足を止めた。サングラスの向こうの瞳が輝いている。まるで運命の相手を見つけたかのような、熱っぽい視線だった。「これにする」 彼が恭しく持ち上げたのは、パステルイエローのファンシーなスウェットだった。 その胸元には、虚無の目をした「モチモチした犬(?)」のような謎のゆるキャラが、デカデカとプリントされている。 商品名:『モチ犬の休日(LLサイズ)』。「えっ」 私は絶句した。「そ、それにするんですか? 本気で?」「ああ。こいつ、気に入った」「どこがですか……?」「この顔」 彼は真顔で、その間の抜けた犬の顔を指差した。「飯食ってる時の紬に似てる」「はぁ!?」 似てません! 私はこんな、すべての感情を失ったような虚無の顔でご飯を食べていないはずだ。「似てませんよ!」 全力で否定する。 似てないよね……!? いかん、ちょっと不安になってきた。「いや、似てる。おにぎり食ってた時」 彼は愛おしそうに、プリントされたモチ犬の頭を撫でた。「ほっぺた膨らませて、無心でモグモグしてただろ。……あの時の顔、そっくりだ」「っ……!」 それは反論できない。先ほど
최신 업데이트 : 2025-12-09 더 보기