ハルは気づいているが、この場での追及はしない。 ここにはメイク係など複数の他人がいる。トップアイドルであるレンのスキャンダルが表沙汰になれば、どれだけの騒ぎになることか。 セナは何も言わずに眼鏡の位置を直しただけだったが、その沈黙こそが「後で裏を取る」という無言の宣告に見えた。 レンは小さく息を吐き、自分の手首から漂う微かな甘い香りを、誰にも気づかれないように吸い込んだ。◇【紬視点】「ぶっ!!」 楽屋でのやり取りを聞かされて、私は盛大にお茶を吹き出した。慌ててティッシュで口元とテーブルを拭く。「……汚ねぇな」 目の前で焼き魚(サバの塩焼き)をきれいに食べていたレンくんが、呆れたように私を見る。 いや、あなたのせいですから! というか、お魚きれいに食べるなあ。さすが育ちがいい。 そうじゃなくて。「だ、大丈夫だったんですか!? 遊馬くんって、あの遊馬ハルくんですよね!? バラエティ番組やクイズ番組とかで『勘が鋭すぎる』って有名な!」「ああ。あいつ鼻だけは犬並みだからな」「呑気なこと言ってる場合じゃないですよ! バレたら終わりですよ!」 私は青ざめて立ち上がった。アイドルの衣装から一般家庭の柔軟剤の匂い。匂わせどころか直撃弾ではないか。 しかも相手はあの『Noix』のメンバー。リーダーの葛城セナさんに至っては、笑顔で人を追い詰めるドS策士という噂(ファンの間での解釈)がある。殺される。物理的にも社会的にも消される。「やっぱり、私の家の柔軟剤なんて安物だし、匂いがつきやすいから……」 ドラッグストアの特売で買った、フローラルの香りの柔軟剤である。私にとっては日常の匂いでも、彼にとってはスキャンダルの火種でしかない。「変えます! 明日、高い無香料の洗剤買ってきます!それなら文句な……」「変えるな」 低い声がさえぎった。
최신 업데이트 : 2025-12-19 더 보기