塩対応の国宝級アイドルは、私の手料理がないと生きていけないらしい의 모든 챕터: 챕터 31 - 챕터 40

119 챕터

31

 私たちはそれから何をするわけでもなく、ダラダラとして過ごした。「紬は、普段何してんの?」「しがない会社員ですよ。会社じゃオカンと呼ばれています」「ふーん」 そんなどうでもいい話をしていた。 いつの間にか、時計の針が深夜0時を回った。シンデレラの魔法が解ける時間だ。彼もそろそろ帰らなければならない。「……帰るか」 彼は名残惜しそうに身を起こした。渋々といった様子で、元の不審者スタイル(黒い服)に着替え始める。 モチ犬スウェットを脱ぐ時の、あの悲しげな顔といったらなかった。 着替えを終えると、彼は脱いだスウェットを丁寧に畳み始めた。ハイブランドのシャツは床に投げ捨てていたくせに、この1980円の服は角と角を合わせて几帳面に畳んでいる。 そして。彼はスタスタと私の寝室に入り、クローゼットを開けた。「えっ、ちょっ……」 止める間もない。彼はクローゼットの一番端、空いていたスペースに畳んだスウェットを置いた。まるで、そこが最初から自分の定位置であったかのように。「ここ、俺の場所な」「えっ、持って帰らないんですか?」「持って帰ったら、次着てこれないだろ」 彼は当然のように言った。「ここに置いておくから、また着に来る」 ぱたんとクローゼットの扉を閉める。私のクローゼットの一部が、正式に彼に占領された瞬間だった。「鍵もあるし、服もある。……これでいつでも、会いに来れる」 彼はポケットから、さっき渡した合鍵を取り出した。それを握りしめて満足そうに微笑む。「じゃあな、紬。……おやすみ」「あっ、あっ、はいっ!」 甘い声。 つい先ほどまであのダサ犬スウェットを着ていたと分かっていても、あの声と顔の破壊力は抜群だった。名前を呼ばれただけで、腰から下の力が抜けそうになる。 彼はひらりと手を振り、
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32:おかえりなさい

「お疲れ様でした!」 18時のチャイムが鳴り終わるか終わらないかのタイミングで、私はパソコンをシャットダウンした。 以前の私ならまだデスクにしがみついていただろう。誰かの残業を引き受けたり、明日の準備をしたりして「便利な小日向さん」を演じていたはずだ。 でも今は違う。「えっ、小日向さん、もう帰るの?」 隣の席の同僚が目を丸くして聞いてくる。私はバッグをひっつかみ、極上の営業スマイルで答えた。「はい! 用事がありますので!」 用事。それは、私の人生における最重要ミッション。すなわち「推しの餌やり」である。 オフィスを出て、廊下を競歩のような速さで進む。バッグの中に入っているスペアキーの重みが、物理的な重さ以上にずっしりと感じられる。 合鍵を渡してから今日で3日目。まだ彼は来ていない。でも「もしかしたら」という可能性だけで、世界の色が変わって見えた。灰色のオフィスビルがバラ色に輝いて見える錯覚すら覚える。 駅前のスーパーに駆け込み、精肉コーナーへ直行した。今日の特売は合い挽き肉だ。 よし、ハンバーグにしよう。レンくんもそろそろ、最初の日より胃が回復してきたはず。ここらでお肉を食べさせて、元気になってもらおう。 玉ねぎ、パン粉、牛乳。カゴに放り込む手つきも軽やかだ。自分のためだけの食事なら、適当な野菜炒めで済ませていた。 けれど食べる人がいるかもしれないと思うだけで、献立を考えるのがこんなに楽しいなんて。(……いや、期待しすぎちゃダメだ) レジに並びながら、逸る心を戒める。彼は超売れっ子のアイドルだ。そう毎晩のように来れるわけがない。期待して、誰もいなかった時の落差で死なないように、セーフティネットを張っておく。 これは私の晩ごはんだ。一人でハンバーグを食べる夜があってもいいじゃないか。 そう言い聞かせながら、私は家路を急いだ。◇  アパートの階段を駆け上がり、息を切らして自分の部屋の前に立つ。心臓がばくばくと音を立てていた。
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 喉が張り付くような緊張感がせり上がってくる。私は唾を飲み込み、そっとドアノブを回した。「……ただいま、戻りました」 小さな声で言いながら、ドアを開けた。玄関には見覚えのあるハイブランドのスニーカーが、無造作に脱ぎ捨てられていた。 それを見た瞬間、全身の血液が沸騰するような感覚に襲われる。 いる。本当に、いる。 靴を揃えるのも忘れ、私はリビングへのドアを開けた。「遅い」 第一声は、不満げな低音だった。 部屋の明かりがついている。 リビングの中央、私のビーズクッションに埋もれるようにして、巨大な黄色い塊が鎮座していた。 パステルイエローのモチ犬スウェット。その上に美青年が乗っかっている。 顔面国宝と、虚無顔のゆるキャラ。シュールすぎる。でも生活感あふれるこの部屋に、妙に馴染んでしまっているのが恐ろしい。 彼はスマホのゲーム画面から顔を上げ、じろりと私を睨んだ。「腹減った。……餓死するかと思った」 開口一番がそれか。人の部屋に上がり込んでおいて、「おかえり」という甘い言葉はない。 けれどそのふてぶてしい態度は、明らかに「待っていた」人間のそれだった。(推しが! 家で! 私の帰りを待っていた! しかもモチ犬で!) モブとしての自意識が、音を立てて爆散する。尊さと面白さが同時に押し寄せて、足の力が抜けそうになるのをドア枠を掴んで必死に堪えた。「す、すみません! すぐ作ります!」「ん。……なる早で」 彼は再びスマホに視線を落とす。その横顔が、少しだけ緩んでいるように見えたのは、私の願望だろうか。◇ 私は会社用のスーツから部屋着(さすがにジャージではなく、無難なロングスカートとTシャツ)に着替え、キッチンに立った。戦場の最前線に立つ兵士のような気分だ。いや、給食のおばちゃんか。 手を洗い、買ってきた合い挽き肉をボウルに開
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 ふと視線を感じて振り返ると、彼が移動していた。いつの間にかビーズクッションから這い出し、キッチンが見える位置に体育座りをしている。膝を抱えてモチ犬の顔を膝頭に乗せた状態で、じっと私の背中を見ていた。「……その音、いいな」 ボソッと彼が言った。「トントンって音聞いてると、眠くなる」「うるさくないですか?」「ううん。……なんか、落ち着く」 彼は目を細め、心地よさそうに瞼を下ろした。私が奏でる生活音をBGMとして楽しんでいるらしい。ただ野菜を切るだけの音が、彼にとっては「平和」の象徴なのだろうか。 そう思うと、包丁を握る手に自然と力がこもる。 成形したタネをフライパンに並べた。 ジュウウゥゥ……! 肉の焼ける音がクライマックスを告げる。両面をこんがり焼いて、弱火にして蓋をして蒸し焼きに。 その間に、肉汁の残ったフライパンにケチャップとウスターソース、少しの赤ワインを加えてソースを作る。 おしゃれなバルサミコソースなんて作れない。実家の定食屋仕込みの、茶色くて甘酸っぱいソースだ。「できましたよ」 お皿に盛り付け、ローテーブルに運ぶ。彼は、待てをされた犬のように、スプーンとお箸を握りしめて待機していた。◇ 目の前には、湯気を立てるハンバーグ。付け合わせは千切りキャベツとプチトマトにした。彩りは最低限だが、ボリュームと栄養は満点だ。「……いただきます」 彼はナイフを使わなかった。箸でハンバーグの真ん中を割る。ふわりと湯気が上がり、切断面から透明な肉汁がジュワッと溢れ出した。「すげぇ」 彼は目を見開き、その肉汁の洪水に見惚れている。そして大きな一口を口に運んだ。 ハフッ。 熱々の塊を頬張る。ハンバーグを噛んだした瞬間、彼の眉が大きく跳ね上がった。「ん~ッ!」 言葉にならない声が漏れる。彼は口元
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 ミシュランの星付きレストランのシェフが見たら卒倒するかもしれないが、今の私には、彼が世界一の美食家に見えた。 私の作った、ちょっと歪な形のハンバーグ。それがこんなにも彼を幸せな顔にさせている。 その事実が私の干からびた自己肯定感を、じんわりと満たしていく。私がここにいる意味が、確かにあるような気がした。◇「ごちそうさまでした」 ハンバーグと付け合せは、綺麗に完食された。 口の端についたソースは指で拭き取って、ぺろりと舐める。「……!!」 お行儀の悪い仕草なのに、彼がやると色気にあふれていた。破壊力に思わず胸を押さえる。 固まった私を彼は不審な目で見るが、それ以上は何も言わず、満足げに再びビーズクッションへと沈没していった。満腹になったライオンが、草原で寝そべっているみたいだ。まあ、着ているのはモチ犬だけど。 それでも王者の風格があるのだから、国宝とはすごいものだ。 私は食器を片付けて、キッチンで洗剤をスポンジにつけた。 シャアアア、という水音が響く。背後からは何の音もしない。でも確かにそこに「誰か」がいる気配がする。一人暮らしの部屋特有の、あのシーンとした冷たい静寂がない。空気が、ほんのり温かい。「……紬」 水音に混じって名前を呼ばれた気がした。私は手を止めて、水を止める。「はい?」 振り返ると、彼はクッションに顔を埋めたまま、とろんとした目でこちらを見ていた。「……ん、なんでもない」 彼はあくびを噛み殺すように言った。「いるなって、確認しただけ」「いますよ。どこにも行きません」「……ん」 彼は安心して、再び目を閉じた。長い睫毛が完璧な美貌に影を落とす。数秒もしないうちに、スースーと穏やかな寝息が聞こえ始めた。 私はしばらく、その寝顔を見つめていた。 幸せそうに緩
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36:膝枕の特権

「……なぁ」 食後のお茶を片付けていると、背後から声をかけられた。振り返ると、ビーズクッションに埋もれたままの彼が、けだるげにこちらを見上げている。「風呂、借りていい?」「ふぇっ!?」 喉の奥から間の抜けた声が出た。お風呂? ここ、メゾン・フルール(築30年)の? 私の脳裏に我が家の狭小ユニットバスが浮かぶ。トイレと洗面台と浴槽がひしめき合うあの空間に? 国宝級アイドルを入らせちゃうの?「む、無理です!」 私は全力で手を振った。「うちのお風呂、3点ユニットバスですよ!? 3点ユニットバスって知ってます? バス・トイレ・洗面台セットのちゃちなバスルームですよ! 足も伸ばせませんし、追い焚きもありませんし、シャワーの水圧だって泣けるほど弱いです!」 想像してほしい。180センチ超えの彼が、あの体育座りもままならない浴槽に押し込められる図を。 それはもはや入浴ではない。梱包だ。そんな虐待じみた真似、ファンとしてできるわけがない。「別にいい」 私の必死の静止をよそに、彼はのっそりと立ち上がった。「汗、流したいだけだから」 やる気だ。この人、本気で入る気だ。「ちょ、ちょっと待ってください! 準備が!」 私は脱衣所へダッシュした。カビ◯ラーを右手に、スポンジを左手に。目にも止まらぬ速さで水回りの生活感を抹消にかかる。使いかけの石鹸を隠し、カミソリを棚の奥へ。鏡の曇りを素手で拭い去る。「……はぁ、はぁ」 とりあえず見られて困るものは隠した。はずだ。「ど、どうぞ……! シャンプーはピンクのボトルです!」「ん。ありがと」 彼はタオルを抱えて狭い浴室のドアをくぐっていった。カチャリ、と鍵のかかる音がする。 シャワーの音が聞こえ始めた。推しが。壁一枚隔てた向こうで。裸で。(……考えちゃダメだ) 想像
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 そこに立っていたのは、パステルイエローのモチ犬スウェットを着た綺更津レンだった。ダサい。客観的に見れば、致命的にダサい部屋着だ。胸元のモチ犬は、相変わらず虚無の瞳でこちらを見つめている。 けれど今の私には、その間の抜けたプリントなど視界の端に追いやるほどの「暴力」が襲いかかっていた。 濡れた髪。いつもは完璧にセットされている銀色がかった黒髪が、今は水分を含んでぺしゃんことなり、額や頬に張り付いている。照明を弾いて艶めくその黒は、どこか銀色の光を帯びていて、夜の湖面のように妖艶だ。 タオルで無造作に拭われた首筋を、一筋の水滴が伝い落ちる。白磁のような肌の上を滑り、鎖骨のくぼみへと吸い込まれていくその軌跡を目で追ってしまい、私は慌てて視線を逸らした。(色気の過剰供給で死ぬ) 風呂上がりの無防備な姿は、上気してほんのり桜色に染まった頬。潤んだアイスブルーの瞳。モチ犬スウェットという「安心材料」がなければ、直視した瞬間に網膜が焼き切れていたかもしれない。(ありがとう、モチ犬。君がいなければ私は死んでいた。尊死だ)「あー、さっぱりした」 彼は私の動揺など露知らず、ふらりとリビングに入ってきた。そして、定位置となったビーズクッションに腰を下ろす。 推しが私の家のお風呂に入った。私のシャンプーを使い、私のタオルで体を拭いた。 その事実の重さに目眩がする。今すぐ浴室に駆け込んで、排水溝の髪の毛一本すら聖遺物として採取すべきだろうか。いや、それはさすがに警察案件だ。理性を総動員して踏みとどまる。 彼は首にかけたタオルで、ガシガシと頭を拭き始めた。その仕草は年相応の男子っぽくて、さっきまでの色気とのギャップにまた胸が苦しくなる。「……紬」「は、はいっ!」 名前を呼ばれ、裏返った声で返事をする。彼はドライヤーを片手に持ったまま、けだるげに私を見上げた。「……乾かして」「へ?」「腕上がんない。満腹で重い」 彼はコロンとドライヤーをラグの上に転がした
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 私は観念してため息をつき、ドライヤーを拾い上げた。 コンセントを差し込んで彼の背後に膝立ちになる。「熱かったら言ってくださいね」 スイッチを入れる。ブォォォ、という低い音と共に、温風が吹き出した。 彼の髪に指を入れる。驚くほど柔らかい。見た目の艶やかさからは想像できないほど、猫っ毛で、繊細な手触りだった。指の間をさらさらと滑り落ちる銀糸のような感触に、ゾクゾクと背筋が震える。 温風に乗ってシャンプーの香りが広がる。使い慣れたはずの匂いが、彼の体温と混ざり合って、甘く深く変質している。(……心臓に悪い) 私は自分の鼓動が彼に聞こえないか心配になりながら、手ぐしで風を送った。 指の腹が頭皮に触れるたび、彼が気持ちよさそうに喉を鳴らす。 猫だ。あるいは、ブラッシングされている大型犬。そう自分に言い聞かせるが、指先に伝わる体温は、確かに「成人男性」のものだった。 数分後。髪はすっかり乾き、ふわりとしたボリュームを取り戻した。サラサラと光を反射する「天使の輪」ができている。 安物のシャンプーのはずなのに、この艶はどうだ。彼は髪の一本まで国宝なのだ。「乾きましたよ」 スイッチを切る。駆動音が止み、部屋に静けさが戻った。 返事はない。「レンくん? 終わりましたけ……」 覗き込もうとした、その時だった。 カクン。 支えを失ったように、彼の上半身が後ろへ傾いた。「えっ、ちょっ……!?」 避ける暇もなかった。ドスッ、という鈍い衝撃。私の太ももの上に、ずっしりとした重みが乗っかる。「……んー……」 膝枕である。 180センチ超えの男の全体重を、私の太ももが受け止めている。逃げようにも動けない。金縛りにあったように体が硬直する。 彼は私の腹部に顔を埋めるようにして、深く息を吸い込んだ。
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(ダメだ、これ以上は……!) 理性のサイレンが、今度こそけたたましく鳴り響く。 これは「ファンとしてあるまじき距離」だ。聖域を侵犯している。 推しの寝顔を至近距離で拝むどころか、枕になっているなんて。 そんなの妄想の中ですらしたことがない。 私はモブだ。 光り輝く推しを遠くから見守る、ただそれだけで満足するモブだったはずだ。 退かさなきゃ。起こさなきゃ。そう思うのに、体が動かない。 ――いや、違う。気づいてしまった。動かしたくないのだ。 彼の体温と重みを独占しているこの瞬間、世界中のどのファンよりも、マネージャーよりも、Noix(ノア)メンバーよりも。私が一番、彼の近くにいる。その事実に、背筋がぞくぞくするような優越感を覚えてしまった。「……すー……すー……」 規則正しい寝息が聞こえてくる。彼は完全に夢の世界へ落ちていた。私のお腹を枕にして。 私は小さく息を吐き、強張らせていた肩の力を抜いた。もう諦めよう。彼が起きるまで、あるいは私の足が痺れて限界に達するまで、このままでいよう。 そっと手を伸ばし、彼のおでこにかかった前髪を払う。さらりとした感触。 彼は「みんなのレンくん」だ。明日になればまた、この部屋を出て、キラキラした衣装を着て、何万人もの愛を一身に浴びる。遠い遠い世界の王様。 でも。モチ犬のスウェットを着て、口を開けて、子供みたいに眠るこの無防備な顔を知っているのは。世界中で私だけだ。「……私だけのものなら、いいのに」 ポロリと。思考のフィルターを通さずに、本音がこぼれ落ちた。 ハッとして、自分の口を押さえる。 何を言っているんだ、私は。ただのファンだ。モブだ。彼を支える、数多くの名もなき一人に過ぎないのに。 今のこの光景はただの神様の気まぐれ。 お腹を空かして弱っていた彼が、たまたま料理が得意な私の所に転がっ
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40:ファンの境界線

「……はぁ」 昼休みの会社のオフィスにて。私はデスクに突っ伏して、本日何度目かわからない深い溜息をついた。 周囲では同僚たちがちょっと不審の目を向けている気配がするが、今はそれどころではない。(やらかした……) 脳裏に蘇るのは昨夜の記憶だ。お風呂上がりの無防備な彼の姿。私の太ももに乗せられた、ずっしりとした頭の重み。そして、あろうことか朝までそのまま寝かせてしまったという失態だった。 足が痺れて死んだとか、そんなことは些事だ。 極めつけは、私の口からこぼれた不敬極まりない一言だった。『私だけのものならいいのに』。「……死のう」 ごつんと机に額を打ち付ける。 何様だ私は。彼は国民的アイドル、綺更津レンなのに。世界中の何百万、何千万人というファンが彼の笑顔ひとつに一喜一憂し、彼の幸せを願っている。それなのに独占したいだなんて。 彼を一人の男性として見始めたら、それはファンの死だ。神聖な推し活がただの欲塗れな恋愛感情に成り下がってしまう。それだけは絶対にダメだ。 私はモブとして、キラキラと輝いている推しを応援していたかった。私自身の薄汚れた心はそこにいらない。「死ぬのはさすがにあれだから。距離感を戻そう」 顔を上げ、決意を固める。 今日からは徹底的に「ファン」としての距離感を守る。家政婦としてあるいは飼育員として、彼をサポートすることだけに徹するのだ。 そして彼がすっかり心身の健康を取り戻したら、放流してあげよう。 ……違った。身を引いて引っ越しでもしよう。 それが私が彼にしてあげられる唯一の誠意なのだから。◇ 夜になると、いつものようにふらりと彼がやってきた。パステルイエローのモチ犬スウェットに着替え、当然のような顔でビーズクッションに座る。「腹減った」「はい、すぐご用意しますね」 私は極力、事務的なトーンで答え
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