All Chapters of 名家の恥と捨てられた娘は、契約結婚先で花開く: Chapter 191 - Chapter 200

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「そ、そんな……」 緑の顔から血の気が引いた。 この男は法的な手続きと圧倒的な財力で、文字通りこの家を「物理的に」乗っ取ったのだ。 隼人はそれ以上、彼女たちを見なかった。  彼はまっすぐに小夜子へと歩み寄った。 小夜子は部屋の隅でほこりまみれになっている。  さすがの彼女も重機の登場は予想外だったようで、呆然と立ち尽くしていた。 頬には煤がついて、手はあかぎれだらけになっている。「……旦那様」 小夜子の瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちた。「どうして来たのですか。……私は貴方の聖域を汚してしまう。貴方にふさわしくない汚れた血の……」「黙れ」 隼人は小夜子を強く抱きしめた。  高価なスーツが汚れるのも構わず、彼女の全てを包み込むように。力強く、けれど壊れ物を扱うように優しく。「血筋など関係ない。お前がどこの誰から生まれようと、そんなことはどうでもいい」 隼人は小夜子の耳元で、噛み締めるようにささやいた。「お前は、俺が選んだ唯一無二の妻だ。……俺の聖域(サンクチュアリ)には、お前が必要なんだ。お前がいない世界など、俺には耐えられない」「で、でも、私は旦那様の聖域を守りたくて……!」 小夜子は涙をこらえようとするけれど、どうしても止まらない。「くどいぞ。俺にはお前が必要だと言っているんだ」「うっ……うあぁ……! 隼人さんっ……!」 小夜子は隼人の胸に顔を埋めて、子供のように泣きじゃくった。  ずっと張り詰めていた糸が切れて、抑え込んでいた感情が決壊したのだ。(別れたくなかった。一緒にいたかった。もう諦めていたのに、こうして迎えに来てくれた……!) 小夜子は隼人の背中にしがみつき、その温もりが本物であることを確かめる。  心に温かな灯火が灯ったようだった。 その美しい光景を汚すように、緑が半狂乱で叫んだ。「ふざけないでよ!」 緑は髪を振り乱し、地団駄
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 破壊された壁の向こうから、数人の制服警官とスーツ姿の国税局査察官たちが一斉に踏み込んできた。「そこまでだ!」 警官たちが取り囲んだのは、隼人ではない。緑と清次郎だった。「白河緑、清次郎。脱税および横領、労働基準法違反、ならびに恐喝未遂の容疑で逮捕状が出ている」「……は?」 緑の思考が停止する。査察官の一人が隼人に一礼し、小夜子の方を見た。「奥様。そちらが証拠データですね」 彼は小夜子が差し出したメモリーカードを見た。「概要は黒崎社長から聞いています。詳細の確認はこれからきちんと行います。どうぞご安心を」「旦那様、どうして……?」 小夜子が戸惑うと、隼人はニヤリと笑ってみせた。「白河家の不正は俺も調べていた。外から調べただけでも怪しい点が多すぎる上に、小夜子への虐待は事実だからな。ましてや内部にいたお前なら、不正を見過ごすはずはないと思った」 隼人は、小夜子が命がけで守り抜いたメモリーカードを掲げて見せた。「妻が10年かけて集めた記録だ。お前たちが私腹を肥やすために隠した裏帳簿、未成年の娘に対する違法な労働実態……すべての悪事がここに詰まっている」「そ、そんな……まさか、あの泥棒猫が……!」 緑が小夜子を血走った目で睨みつける。掴みかかろうとするが、すぐに警官に取り押さえられた。 ガチャリ。手錠の冷たい音が響く。「嘘よ! 離して! 私は白河家の女将よ! 誰か、誰か助けてぇぇ!」「わ、わしは知らん! 妻が、緑が勝手にやったんだ! わしは関係ない!」 清次郎が見苦しく言い訳を叫ぶが、彼の手にも手錠がかけられた。 麗華も「お母様、どうしよう!」と泣き叫びながら連行されていく。 かつて栄華を誇った伝統ある白河家は、物理的にも、社会的にも、完膚なきまでに崩壊した。二度と再起する日は来ないだろう。
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194:真実の誓い

 白河邸の文字通りの崩壊から、数日が過ぎた。 アーク・リゾーツの社長室では、壁掛けのモニターが朝のニュースを映し出していた。『――白河グループ前代表・白河清次郎容疑者らの逮捕を受け、世間からは被害者である黒崎小夜子氏への同情と称賛の声が高まっています。過酷な環境に屈せず、献身的に夫を支え続けた現代のシンデレラとして……』 画面には、隼人に抱きかかえられて屋敷を出る小夜子の写真が映っている。 緑たちが目論んだ「不義の子」というネガティブ・キャンペーンは、完全に裏目に出た。 世論は、理不尽な差別と虐待に耐えて、自らの才覚と誠実さで幸せを掴み取った小夜子を熱狂的に支持したのだ。 さらに、妻を救うために重機で乗り込んだ隼人の行動も、「究極の愛」「男気がある」と好意的に受け止められた。 法律上は自分の所有建物を壊しただけで、けが人も出ていない。何ら問題ないとされた。 アーク・リゾーツの株価は連日のストップ高を記録している。「くだらん騒ぎだ」 隼人はリモコンでモニターを消した。 だが、その口元は微かに緩んでいる。 世間の評判などどうでもいいが、小夜子を傷つける雑音が消えて、彼女が英雄として祝福されている状況は悪くない。「さて……仕上げといこうか」 隼人は席を立ち、帰宅の準備を始めた。 今日こそ、最後の壁を取り払わなければならない。◇ その夜。タワーマンションのリビングでは、静かな中にパチパチという暖炉の音と、タッ、タッ、という電卓を叩く音が響いていた。 小夜子はダイニングテーブルで、真剣な顔をして家計簿と向き合っていた。「……白河家の負債総額が50億円。旦那様が債権を買い取られたので、私の借金は当初の3億円に加えて、合計53億円に増額されたと解釈すべきですね」 ため息をついて、メモ用紙に数字を書き込んだ。「これを私の現在の時給で返済すると仮定した場合&he
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 隼人は部屋の隅にある金庫を開けて、2つの書類を取り出した。 1つは、『3億円の金銭消費貸借契約書』。もう1つは、『秘密保持および婚姻に関する契約書』。 2人の関係の始まりであり、全てだった紙切れだ。「こっちに来い」 隼人は小夜子を手招きし、暖炉の前へと連れて行った。揺らめく炎が2人の顔を赤く照らす。「旦那様? それは……」「よく見ろ」 隼人は、ためらいなく2つの書類を炎の中に放り込んだ。「あっ!?」 小夜子が悲鳴を上げる。 紙は瞬く間に火に包まれて、黒く縮れていく。3億円という数字が、分厚い契約条項が、灰となって崩れ落ちていく。「だ、旦那様! 何をなさるんですか! それは大切な……!」 慌てて拾おうとする小夜子の腕を、隼人が掴んで止めた。「これで終わりだ」 隼人は燃え尽きていく灰を見つめながら言った。「借金はチャラだ。契約も消滅した。……お前は自由だ、小夜子」「自由……?」「ああ。もう、金や義務で俺の隣にいる必要はない。出て行きたければ、いつでも出て行ける。誰もお前を止めない」 小夜子は呆然と隼人を見上げた。 自由。 かつて彼女が何より欲していたものだったはずだ。 けれど今、彼女の心を満たしたのは喜びではなく、足元が崩れるような不安だった。「そんな……。では、私はもう用済みということですか? 家政婦としても、契約妻としても……」「違う」 隼人はその場に片膝をついた。視線の高さを小夜子に合わせる。 彼の手には、以前のような形式的なプラチナリングではなく、小夜子の瞳の色によく似た、温みのある宝石がついた指輪が握られていた。「俺は家政婦が欲しいんじゃない。契約で縛った妻もいらない」 
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186:聖域の日常

 白河家が消滅し、小夜子と隼人が本当の夫婦になってから1年の月日が流れた。 ホテル『サンクチュアリ』は、世界的な格付け機関で最高評価の五ツ星を獲得している。今や世界中のVIPが予約待ちをする伝説のホテルとなっていた。 その最上階、ロイヤルスイートでは、緊迫した空気が流れていた。 中東の某王族が、誤って年代物の赤ワインを最高級ペルシャじゅうたんにこぼしてしまったのだ。「おお、なんてことだ……! この絨毯は一点物だろう? 弁償するにしても代わりがないぞ」 VIP客が青ざめる。スタッフたちが焦りで立ち尽くす中、凛とした声が響いた。「失礼いたします。少し道を開けていただけますか」 現れたのは、仕立ての良いクリーム色のスーツに身を包んだ小柄な女性――黒崎小夜子だった。 彼女は優雅な手つきで懐からポーチを取り出すと、そこから見慣れないボトルと白い布を取り出した。「こ、これは……?」「炭酸水と、特製の重曹スプレーです。汚れはまだ酸化しておりませんので、これなら……」 小夜子は迷いのない手つきで、トントンとリズミカルにシミを叩き出した。 決して擦らず、汚れを浮かせるようにして布に移し替えていく。魔法のような手際だった。 わずか3分後。赤黒いシミは跡形もなく消え去り、じゅうたんは元の輝きを取り戻していた。「素晴らしい!魔法のようだ!」 VIP客が感嘆の声を上げた。「君のような優秀なメイドがいるとは、このホテルは恐ろしいな。ぜひ我が国の宮殿にヘッドハンティングしたい」「お褒めにあずかり光栄です。ですが……」 横に控えていた支配人が、誇らしげに口を挟んだ。「申し訳ございません、殿下。彼女はメイドではありません。……当ホテルのオーナー夫人であり、総支配人の黒崎小夜子でございます」「なに!? オーナー夫人!?」 驚く客に、小夜子は淑や
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 アーク・リゾーツ社の社長室は、以前は冷たく無機質な場所だった。 けれども今は、季節の花が生けられて柔らかな日差しが差し込んでいる。「社長、例のリゾート開発件ですが」「ああ、現地の雇用を最優先に進めろ。利益よりも、まずは信頼関係の構築だ」 部下からの報告に、隼人は落ち着いた表情顔で指示を出した。 厳しさはあるが的確で、相手への思いやりも感じられる。 かつての氷の王と呼ばれた威圧感は消えて、今や誰もが尊敬するリーダーとしての風格が漂っている。 コンコン、とドアがノックされた。「失礼します」 小夜子が入ってきた。手には風呂敷に包まれたお弁当箱がある。「お疲れ様です、隼人さん。ランチの時間ですよ」「待っていたぞ」 隼人は仕事を切り上げて、ソファスペースへ移動した。 2人は並んで座り、弁当箱を開ける。 中身は彩り豊かな炊き込みご飯と、だし巻き卵、旬の野菜の和え物である。「本日のメニューは、昨晩の残りの筑前煮を細かく刻んでリメイクした炊き込みご飯です」 小夜子が少し得意げに解説した。 食材のリメイクは彼女の得意とするところだ。無駄を省いてしっかりと使い切ることに、喜びを感じている。「廃棄ロスをゼロにしつつ、鶏肉と根菜の旨味を凝縮させました。原価率は一杯あたり50円以下ですが、栄養価は満点です」「くくっ……。50円か」 ホテル王のランチとしては、ささやかすぎる金額だ。 隼人は箸を伸ばし、一口食べた。優しい出汁の味が口いっぱいに広がる。「……美味い。世界一のランチだ」「よかったです。あ、隼人さん。お醤油が少しシャツに飛びそうです」 小夜子がさっとハンカチを出して拭う。そんな何気ないやり取りの中に、穏やかで満ち足りた時間が流れていた。◇ その日の夜、タワーマンションの最上階。 夕食を終えて、2人はリビ
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 隼人はきょとんとした。「なぜ急増するんだ? ……いや、待て、おむつ?」「それは……」 小夜子は封筒から、1枚の写真を取り出した。モノクロの超音波検査の写真だった。「新しい家族が、増えますので」 隼人の動きが止まった。 視線が写真に釘付けになる。そこに写っているのは、小さな豆粒のような影。「……え?」 隼人は顔を上げて、小夜子を見た。 小夜子は頬を桜色に染めて、照れくさそうに微笑んだ。「はい。3ヶ月になります。お医者様によると、貴方に似てとても元気な子だそうです」「…………」 隼人の喉が震えた。言葉が出てこない。 ただ熱いものが胸の奥から込み上げてきて、視界がにじんだ。「俺が……父親に……?」「はい。そして私が、お母さんになります」 隼人は震える手で小夜子を引き寄せ、強く、強く抱きしめた。「ありがとう……。ありがとう、小夜子」 かつて親の愛を知らず、冷たい部屋で孤独に震えていた少年と少女。 その2人が今、親になり、新しい命を愛そうとしている。 過去の悲しみも、痛みも、すべてはこの瞬間のためにあったのかもしれない。 隼人の目から、1滴の涙がこぼれ落ちた。◇ それからさらに1年後。リビングには柔らかい日差しが満ちていた。 床にはカラフルな玩具が散らばっている。 以前のモデルルームのように無味乾燥だった部屋は、今や生活感と温かみにあふれていた。 小夜子はキッチンで離乳食の準備をしながら、リビングの2人を見守っていた。 隼人がベビーベッドの中の赤ん坊を覗き込んで、まだ少しぎこちない手つきであやしている。「&h
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189:星をつかむ手

※ここから番外編です。最終回より少し前、小夜子の妊娠発覚前のお話。◇ ホテル『サンクチュアリ』のメインロビーは、今日も静かな活気に満ちていた。 高い天井から降り注ぐシャンデリアの光が、磨き上げられた大理石の床に反射しては、行き交うゲストたちの笑顔を照らしている。 開業当初の「冷たく完璧な要塞」と呼ばれた空気はもうない。 今のここには、訪れる者を包み込むような温かな品格が漂っていた。「社長。到着されました」 インカムから秘書の緊張した声が響く。 ロビーの奥、重厚な扉が開かれた。現れたのは、杖をついた初老の女性だ。 銀色の髪を高く結い上げて、仕立ての良いオートクチュールのスーツに身を包んでいる。 その瞳は鷲のように鋭く、ロビーの隅々を一瞬でスキャンしたように見えた。 ミレーヌ・ダルク。通称「M」。 世界で最も権威あるホテル格付け機関の覆面調査員であり、かつて『サンクチュアリ』に「四つ星」という非情な(しかし妥当な)評価を下した因縁の相手だ。 ロビーの空気が一瞬で張り詰める。 スタッフたちの背筋が伸びる。だが、出迎えた黒崎隼人の足取りに迷いはなかった。「ようこそ、ミレーヌ女史。再訪を歓迎します」 隼人は優雅に一礼し、手を差し出した。 ミレーヌは鼻で小さく笑い、その手を取った。「相変わらず自信に満ちた顔ね、ミスター・クロサキ。でも以前より、少し顔つきが丸くなったかしら?」「妻の料理のおかげでね。……本日は査定ですか? それともバカンスで?」 隼人の単刀直入な問いに、ミレーヌは肩をすくめた。「まさか。私の顔はもう割れているわ。覆面調査にならないでしょう? 今日はただの『休暇』よ。もっとも、職業病で目は光ってしまうかもしれないけれど」 彼女はいたずらっぽく微笑んだが、その目は笑っていない。 公然の秘密だ。 彼女が訪れるということは、格付け機関が『サンクチュアリ』を再評価し
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 小夜子はミレーヌへ向かって頭を下げる。「いらっしゃいませ、マダム。お会いできて光栄です」「あら、小夜子さん。貴女も、随分と『総支配人』の顔になったわね」 ミレーヌは小夜子の手を取り、笑顔を向けながらも値踏みするように見つめた。「以前、貴女のホスピタリティがこのホテルを救った。今回はどうかしら。楽しみにしておくわ」 宣戦布告とも取れる言葉を残し、ミレーヌはベルボーイに案内されて客室へと消えていった。 嵐の前の静けさが、ロビーに残された。◇ その日の夜。『サンクチュアリ』のメインダイニングは満席だった。 ミレーヌは窓際の特等席に座り、厳しい目で料理とサービスを観察している。 スタッフたちは極度の緊張感の中、ミス一つない完璧な動きでサーブを行っていた。 一方、ダイニングの片隅。 賑わう店内の中で、少し影の薄い席に1人の老紳士が座っていた。 ツイードのジャケットはやや古びており、荷物もボストンバッグ1つ。どう見ても富裕層には見えない、旅慣れない様子の老人だ。 彼はメニューを見ながら、困ったように眉を寄せていた。「……字が小さくて読めんなあ」 老人はひとりごちた。 忙しなく動くスタッフたちは、VIPであるミレーヌのテーブルに気を取られて、この老人の存在には気づいていないように見える。 老人は小さくため息をつき、水を飲もうとして――手が滑った。 ガシャン! グラスが倒れ、水がテーブルクロスに広がる。 派手な音が響き、周囲の客が眉をひそめた。老人は萎縮し、慌ててナプキンで拭こうとする。「あ、あわわ……すまん、すまん……」 その時だ。風のような速さで、音もなく1人の給仕が駆け寄ったのだ。「お客様、そのままで!」 若い男性スタッフだった。 彼は老人の手から濡れたナプキンを優しく取り上げ
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 老人の顔が明るくなった。 その光景を厨房の入り口から小夜子が見守っていた。 彼女は指示を出したわけではない。スタッフが自らの判断で動いたのだ。 小夜子は安堵の息をつき、隣にいた隼人を見上げた。「彼、新人の佐々木くんです。以前はマニュアル通りにしか動けない子でしたが」「いい動きだ。『効率』よりも『安心』を優先したな」 隼人もまた、満足げに頷いた。「昔の俺なら、グラスを割ったロスと回転率の低下を叱責していただろうな」「ふふ。今の隼人さんは、お客様の笑顔の総量を計算なさいますものね」 2人が微笑み合っていると、遠くの席からミレーヌがじっとこちらを見ているのが分かった。 彼女の表情は読めない。ただワイングラスを揺らしながら、意味ありげに視線を送ってくるだけだった。◇ 翌日、チェックアウトの時間になると、ロビーには再び緊張が走っていた。 ミレーヌ・ダルクが出発するのだ。 隼人と小夜子、そして主要なスタッフたちが並んで見送る。「お世話になりました。……快適だったわ」 ミレーヌは短く告げた。 それ以上の言葉はない。評価についての言及もなし。彼女は車に乗り込もうとして――ふと足を止めた。「そうそう。私の連れを待っていてくれるかしら?」「お連れ様、ですか?」 隼人が怪訝な顔をする。 ミレーヌは1人で宿泊していたはずだ。 するとエレベーターから1人の人物が降りてきた。あのツイードジャケットの老人だった。 だが、昨日のような頼りなげな雰囲気は消えていた。背筋はピンと伸び、その瞳には知的な光が宿っている。「やあ、ミレーヌ。待たせたね」 老人は親しげにミレーヌに声をかけた。「どういうこと……?」「あの人は?」 スタッフたちがざわめく。 ミレーヌはいたずらっぽく笑い、隼人
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