All Chapters of お嬢様、あなたの『推し巫女(ヒーロー)』、私なんですが: Chapter 11 - Chapter 20

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3-1【世界にはいくらでも秘密がある】

「それで、あなたは一体何なの?」  少年が家族のいる場所へと駆け出していった後。  アデーレは破壊された大通りを離れ、人目を避けられる裏路地に移動していた。  この場にアデーレ以外に人の姿はなく、傍には彼女の後についてきたあの錠前が浮いていた。  緩やかに揺れる錠前からは、金属がぶつかり合うような音がかすかに聞こえる。 「ああ、自己紹介がまだだったね。僕は……えー……」 「言い淀むとか、何か言えない事情でもあるの?」  怪訝そうな表情で、アデーレが揺れる錠前を睨みつける。 「ううん、そうじゃないんだ。とりあえず驚かないで聞いてね」  警戒するアデーレを安心させるかのように、錠前が蝶のような動きで飛び回る。  そしてアデーレの手が届くくらいの場所まで移動すると、目線が合う位置で静止した。 「まず、これはあくまで依り代。僕の本体は別の場所にある」  「そして」と、言葉を続ける錠前。 「僕の名前はヴェスタ。遥か彼方に存在する神の領域から、依り代を介して君に会いに来たんだ」  再びの沈黙。  アデーレには、この錠前の言葉が上手く呑み込めなかった。  この世界において、ヴェスタといえば神の名だ。  そしてこの錠前は依り代で、つまり錠前を使って神の世界からアデーレに向けて神様が語りかけてきているらしい。
last updateLast Updated : 2025-12-14
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3-2【例え厳しい世界でも】

 アデーレがバルダート別邸に到着した時、使用人たちの間では既に怪鳥の話題で持ちきりだった。 使用人たちが集まる、屋敷一階の使用人控室。 主人らが使う部屋とは違い、シックな家具でまとめられた絢爛から程遠い部屋である。 しかしそこは名だたる名家、天下のバルダート家だ。 たとえ使用人が使う家具だろうとも、庶民が一年休まず働いても買うことのできないものばかりである。「アデーレ、本当に何ともないの?」「はい、大丈夫です」  エプロン姿にすまし顔のアデーレを前に、メリナは困惑の表情を浮かべる。  騒動を受けてもなお屋敷にやってきたアデーレには、彼女だけではなく他の使用人たちも驚いていた。 「さすがにあんなことがあったら休んでも大丈夫なのに。真面目だねぇ」  話を聞いていた先輩の使用人も、真面目なアデーレを前に苦笑を浮かべている。 「でもねアデーレ、私はあなたの身に何かあったら嫌だから。こういう時は真っ先に自分の身を守らないとダメだよ」  使用人になるのを提案したこともあってか、特にメリナはアデーレの身を案じているようだ。  こうなると、自分が騒動の渦中で、しかもそれを解決したなどとは口が裂けても言えないだろう。  少年にも秘密にするよう言った手前、このことは隠し続けなければならない。
last updateLast Updated : 2025-12-15
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3-3【再会は突然に】

 午後の仕事は、主人たちの生活スペースで行われる雑務が多い。  これは主人の目につく場所での仕事になるし、来客と対面することも頻繁にある。  そのため、午後は身だしなみも整えるため、午前の服とは別に主人が用意した制服を着用することが義務付けられている。  黒い長袖ドレスに、フリル付きの白いキャップとエプロン。  これが、バルダート家の使用人に用意された基本的な制服である。  前日は主に階下の仕事が中心だったため、アデーレはここで初めて制服に袖を通すこととなった。 「なるほど……」  いわゆるメイド服というものに初めて袖を通したアデーレ。  その完成度の高さに、思わず感嘆の声を上げた。  デザインだけ見れば、煌びやかさは微塵も存在しない地味な衣装だ。  しかし自前で用意した仕事着よりも、生地の材質や縫製の精度が優れたドレス。  ロングスカートながらも動きやすく、なおかつ形が崩れない工夫が随所に施されている。  何より、控えめだからこそ醸し出される気品を受け、アデーレの背筋は自然と伸びる。  国の執政にも関わる貴族の家ならば、使用人の制服にも相応の金と手間が掛けられているということだろう。  今さらながら、アデーレは自分が高位の家に務めているということを実感していた。 「それでは、本日はこちらで調度品の手入れをして頂きます」  先導するアメリアによって、数名のメイドと共に案内されてきたのは二階にある広い食堂だ。  中央には
last updateLast Updated : 2025-12-16
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3-4【バルダート家のお嬢様】

 食堂の隣には、客人との談話のために用意された応接室がある。 食堂に比べると狭い部屋だが、それでも一般的な家屋の一室に比べれば広い。 内装は食堂よりも豪華で、壁には蔓を模したかのような金の模様が張り巡らされ、室内に置かれたあらゆるものが、高級品で揃えられている。(どうしてこうなった……) そんな落ち着かない部屋の端で、アデーレは口を閉ざし自問していた。 中央のテーブルにはティーセットや軽食で彩られたケーキスタンドが置かれている。 傍に設けられた豪華なソファには、綺麗な姿勢で座るエスティラの姿が。 そんな彼女の隣には、黒のモーニングコートにアスコットタイという、誰が見ても執事と分かる壮年の男性が立っていた。 白髪交じりの黒髪に、しわが深く刻まれた穏やかさを感じる顔が印象深い。 女性の下級使用人が男性執事と関わることは少なく、当然新人のアデーレは初対面だ。 故にどうすればいいのか分からない彼女は、閉めた扉の前から動けずにいた。「何突っ立ってるのよ。これ以上待たせないで」 変わらず不機嫌そうなエスティラが、鋭い横目でアデーレを見る。 そこに割って入るように、執事がそっと口を開く。「お嬢様、彼女も初対面の者ばかりの場所で緊張しているのでしょう」 年齢を重ねた男性らしい、低く重みを感じさせる落ち着いた声で語り掛ける執事。 その後彼はアデーレの方に向き直り
last updateLast Updated : 2025-12-17
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3-5【変わりゆく日々の予兆】

 夜のあぜ道を、私服姿のアデーレがとぼとぼと歩く。 空には三日月。 見慣れた故郷の夜空は、日本では見ることも難しくなった満天の星空だ。 ぼんやりと空を眺めていると、ポケットの中から何かが飛び出す。「お疲れ様だね、アデーレ」 目の前に現れたのは錠前……ヴェスタだ。 結局仕事中に喋ることはなく、アデーレも忙しさからその存在を忘れつつあった。「うん……ヴェスタ様はずっとポケットの中で窮屈じゃなかったの?」「はは。別にこれが僕の本体って訳じゃないから」 それもそうだとうなずくアデーレ。 だが、錠前越しにこちらを眺めているヴェスタの姿を思うと、のん気な神様だと呆れてしまう。「あ、今僕が神の世でのんびり観客決め込んでるって考えたね」「カンガエテマセン。ヴェスタサマ」「神に嘘吐きとは感心できないね。まぁいいけど」 人の考えることなどお見通しとは、さすが神様といったところか。 しかし、これではうかつなことは考えられない。 仕事と錠前によってプライベートが奪われていくことに、ため息を漏らす。 それもお見通しなのだろう。 錠前は笑っているかのようにカチャカチャと音を立て揺れる。「
last updateLast Updated : 2025-12-18
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3-6【お嬢様、ピンチです】

 主人の外出に際し、初めての付き添いを務めることとなったアデーレ。 エスティラの指示に従い辿り着いたのは、ロントゥーサ島にある最も大きな港の埠頭だ。  漁船以外にも客船や輸送船が停泊することを目的としたこの島唯一の港で、国外からの貨物船も寄港する貿易の中継地点として機能している。  しかし、今日はそんな港に、島民には馴染みのない大型軍艦が停泊していた。  船体は鉄製の装甲艦となっており、帆柱はなく煙突を有することから蒸気船だろう。  エスティラ曰く、島に常駐するわずかな衛兵では怪物に対する備えが不十分であることが判明した。  そのため、シシリューア島から共和国軍の一部が派兵されることとなり、この艦はその第一陣である。  そんな兵士たちを、現在島で最も位の高いエスティラが直々に出迎えることとなったのだ。  ちなみに、その提案をしたのは当のエスティラである。 『私の身の安全を任せるのだから、挨拶くらいはしておかないと』  というのが、エスティラの弁だ。  島全体の守備増強が目的だろうという疑問もあったが、アデーレはあえてそれを口にしなかった。 「これはこれは、バルダート家のご令嬢が直々に出迎えてくださるとはっ」  部下達を連れて颯爽と埠頭に降り立ったのは、三角帽がトレードマークの青い軍服姿の男。  彼は埠頭で待っていたエスティラに対し、帽子を脱いで仰々しくお辞儀をする。  その態度から、アデーレの目にも彼がこの船の艦長か、部隊の指揮官だろうと察することが出来た
last updateLast Updated : 2025-12-19
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3-7【ロントゥーサ沖の決戦】

 上空で、二匹の怪物が爆散する。 アデーレは爆炎の中から飛び出し、そのまま埠頭近くの倉庫の屋根に着地した。 埠頭の方を見ると、怪物達に囲まれた兵隊たちが苦戦を強いられているようだ。「数が、増えてる?」 最初は二十匹ほどだったはずの怪物は、四十近くまでに増加している。 一体どこから現れたのか。アデーレが港の周囲を見渡す。「アデーレ、海だ!」 アンロックンの言葉に促され、アデーレが埠頭から沖の方へと視線を向ける。 港から百メートルほど離れた位置にある深場だろうか。 青黒い海面を更に黒く染める、長く巨大な影が海中を潜行しているようだ。 茂る海藻を見間違えたかとアデーレが目を凝らすが、それは間違いなく港に向けて少しずつ移動している。「あれは……」 影の正体を見極めようとアデーレが目を細める。 その瞬間、影の上部から水柱が立ち、空中に巻貝らしきものが射出される。 数は五つ。殻は放物線を描きながら、港の方へと飛んでくる。「まずいっ」 屋根を蹴り、飛来する殻めがけて再び跳躍するアデーレ。 構えた大剣の刃が、赤く燃え盛る炎を纏う。 炎の光は軌跡となり、アデーレと貝殻の距離が一気に縮まっていく。 その瞬
last updateLast Updated : 2025-12-20
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3-8【その名は、ヴェスティリア】

 海を飛び出したアデーレは、近くの岩礁に着地した。 巨大魔獣が爆散した海域では波がうねり、小さな渦が巻いている。「うぅ……まだしびれてる」 頭を振りつつ、岩場の上で膝をつくアデーレ。 自らの体を介した強力な電撃は、強化されていた体であっても相当な負担を受けるものだった。 こわばる体を落ち着かせるよう自身の腕をさすりながら、荒れる海を眺める。「でも何とかなったし、良かったじゃないか」「そりゃあそうだけど……はぁ」 ようやく体の感覚が戻ってきたのか、何度か手首を振るアデーレ。 何も問題はないと言わんばかりのアンロックンに対しては、わずかな苛立ちを覚えてしまう。「というか、あんな能力があるなんて聞いていないんだけど」 やや口調荒めにアデーレが問い詰める。「ごめんごめん。僕の方で頼んでみて借りれた時だけ、アデーレに渡すことができるんだよ」「ええ……そんな軽い感じなの? 神様のやり取りって」「君らが大げさに捉えすぎなんだよ。僕らの事を」 けらけら笑うアンロックンを、アデーレは呆れた表情で見つめる。 だが楽し気に笑うこの女神の口約束で、神の力の一端を利用できるというのだ。 手にしている物の強大さを思うと、改めて正しく扱わなければいけない責任を認識させられる。 アデーレの身に起きている現象は、世界に影響を及ぼすほどに重大なものなのかもしれない。「あっ、ところでアデーレ」 物思いにふけっていると、アンロックンが声をかけてくる。「そろそろ君の雇い主の様子を見に行った方がいいんじゃない
last updateLast Updated : 2025-12-21
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3-9【推しの正体、私なんですが】

 アンロックンとひとしきり言い争いをしていたアデーレは、埠頭へ続く道を急いでいた。 長い髪を振り乱し、ロングスカートをなびかせながら。 目指す先は当然、雇い主であるエスティラの元だ。(そういえば、キャップが戻ってない……) 変身解除と同時に服装が元に戻ると思っていたアデーレ。 しかし、キャップは瓦礫を避けた際に脱げてしまい、今頃は残骸の下敷きだろう。 変身を解いて戻るのはアデーレの直前の姿ということのようだ。 変身した際に被る帽子は、キャップが変化したものではなかったのか。 そんなどうでもいいことを考えながら、波音が強くなる方に向けて走る。 そして、目の前の角を右に曲がったところで、視界が一気に開ける。「おおっとっ。大丈夫かい、メイドさん?」 出会い頭に、一人の兵士とぶつかりそうになる。 これをアデーレは、体をひねって器用に回避する。 転ぶような素振りも見せず、まるで踊るようなアデーレの仕草に兵士は小さく感嘆の声を漏らす。 そんな兵士と向き合うと、アデーレは謝罪のために深々と頭を下げた。「申し訳ございません。エスティラお嬢様はどちらにいらっしゃいますか?」「いやいや、そんなかしこまらないで。お嬢様だったらほら、あそこだよ」 顔を上げるアデーレに愛想のいい笑みを見せる兵士。 兵士の示す方に目を向けると、先ほど屋根で遭遇した時と変わらぬ場所で、
last updateLast Updated : 2025-12-22
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4-1【お嬢様付きのメイドさん】

 港での騒動から二日後。 アデーレとの因縁を思い出したエスティラは、実に活き活きとしていた。「お、お嬢様。そろそろ朝食に向かわれては……」「ダメよ。そんなこと言ったって逃がさないんだから」 天蓋付きのベッドや、白を基調とした二人掛けソファ。 それに合わせたテーブルなどが置かれた、華やかな一室。 ここはバルダート家別邸の三階にある、エスティラの寝室だ。 エスティラはソファの真ん中に一人で腰かけ、掃除中のアデーレを眺めていた。 当然暇だからとか、そういう理由で観察しているのではない。 彼女はとにかく、アデーレの一挙手一投足に厳しく口を挟んでくるのだ。「ほら、アンタの仕事は山ほどあるのよ。もっと手早く行いなさい」 にやりと笑うエスティラ。 本来このような掃除は、部屋の主がいないときに行うのがセオリーだ。 なのにエスティラは頑なに部屋から出ようとせず、アデーレの監視に全力を費やしている。 徹底的に躾けるという、港での宣言。 あれは脅しなどではなく、有言実行のつもりで発言していたということだ。「お嬢様。今後のご予定に差し支えますので、お戯れはほどほどにしてくださいませ」 厳しい監視を受けるアデーレにも、助け舟は存在する。 それは全女性使用人の上司、家政婦のアメリアだ。
last updateLast Updated : 2025-12-23
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