「それで、あなたは一体何なの?」 少年が家族のいる場所へと駆け出していった後。 アデーレは破壊された大通りを離れ、人目を避けられる裏路地に移動していた。 この場にアデーレ以外に人の姿はなく、傍には彼女の後についてきたあの錠前が浮いていた。 緩やかに揺れる錠前からは、金属がぶつかり合うような音がかすかに聞こえる。 「ああ、自己紹介がまだだったね。僕は……えー……」 「言い淀むとか、何か言えない事情でもあるの?」 怪訝そうな表情で、アデーレが揺れる錠前を睨みつける。 「ううん、そうじゃないんだ。とりあえず驚かないで聞いてね」 警戒するアデーレを安心させるかのように、錠前が蝶のような動きで飛び回る。 そしてアデーレの手が届くくらいの場所まで移動すると、目線が合う位置で静止した。 「まず、これはあくまで依り代。僕の本体は別の場所にある」 「そして」と、言葉を続ける錠前。 「僕の名前はヴェスタ。遥か彼方に存在する神の領域から、依り代を介して君に会いに来たんだ」 再びの沈黙。 アデーレには、この錠前の言葉が上手く呑み込めなかった。 この世界において、ヴェスタといえば神の名だ。 そしてこの錠前は依り代で、つまり錠前を使って神の世界からアデーレに向けて神様が語りかけてきているらしい。
Last Updated : 2025-12-14 Read more