All Chapters of 生神様になったらめっちゃ思い通りになるんですけど: Chapter 171 - Chapter 180

201 Chapters

第172話・香茶

 しばらく、【再生】したパンと干し肉と燻製魚しか食べてない気がする。これって健康的にどうなのか。野菜を取らなきゃダメなんじゃないかと主夫歴イコール親が死んでからの俺なんか考えてしまうんだが。 そこに。「せっかくまともな水があるんだ、たまには贅沢も悪くない」 サーラはアウルムの水球からミルクパン一杯の水を受け取ると、ミルクパンを自分の膝の上に置いた。「?」 アウルムがきょとんとしてるが、実はそれ俺たちも同じ。何してるんだこの人……じゃなかったっけ、この守護獣。 と、思っていたら、ぽこ、ぽこと泡が出てきた。火の守護獣が温度をあげているんだ。「ねー。それ、膝の上に置く必要あんの?」 ミクンが思わず呆れ顔。「せめて手とかさー」「手はこれから使うのだ」 サーラが取り出したのは握り拳大位の何かが入った麻袋。 ふつふつと湧いてきたお湯の中に、麻袋を突っ込む。 ふわん、と甘い香りが漂ってきた。「何だこの香り……いい香りではあるんだが……」 ヤガリが鼻を鳴らす。コトラやブランやグライフもその香りに誘われてうっとりと目を細めている。地球のどこででも嗅いだことのない、甘いだけでなくちょっと刺激を与える香り……。「もしかして、香茶か?」 レーヴェが目を見開いた。「ああ」「大樹海が腐る前からビガスの香茶は高級だったという。何故そんな貴重品を……」「シンゴがビガスで田畑を【再生】した時に」 サーラは膝の上で鍋を回すように揺らしながら答える。「香茶畑も【再生】したんだが、今は穀物が絶対必要。香茶は根から掘り出されて残った葉も捨てられるところだったのを、私が少々頂いた。昔から、ビガスの香茶は素晴らしいものだったからな」「火事場泥棒?」「それだけの報酬は置いてきた」 ミクンの言葉にすらっと返すサーラ。サーラの報酬って何だろう……。「……捨てられるものを拾ってきたのであれば、まあ、火事場泥棒とは言わないのではないか、ミクン」「レーヴェは香茶を飲みたいだけでしょ」「う」 絶句したってことは図星だったらしい。 確かにいい香りだよな。何て言うか、ブドウとバナナにバニラビーンズをさりげなく加えたような……口の中が勝手に甘くなる香りだけど、それを強調せずにさりげなく香るのはいいね。「ビガスの香茶か。ドワーフには縁のないものだ」「縁があるだろう、守
last updateLast Updated : 2026-02-20
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第173話・高級品

 恐らくモーメントが元に戻るまではのんびり香茶を飲む余裕なんてないだろう。甘い香りと爽やかな風味。「あ~こんな美味しいの初めて飲んだ!」「なんだシンゴの世界には茶葉はなかったのか? 確かにおれも初めて飲んだけど」「あることはあるんだけど俺には超高級品。……いや中学……じゃなくて十五歳の頃まではおじさんと一緒に飲んでたんだけど、十六の時おじさん死んじゃったから。それからお金を無駄遣いできないから水しか飲んでないね」「……すまん」 ヤガリが心底申し訳なさそうに頭を下げた。「いやいいよ。俺は苦労はしたけど不幸だったとは思ってないから。それにこんな美味しいのをここでみんなで飲めたのが嬉しいし」「そ、そうか……そう言ってもらえると救われる」「うん、この香茶をもう一度飲むために頑張って世界【再生】しようと思うよ」「そう思ってもらえると、私もこの茶葉をもらってきた甲斐があったということだ」 サーラは満足そうに言うと、香茶を口の中に入れてゆっくりとテイスティングしていた。 なるほど、口の中全体で味わうんだな……。 ヤガリもアウルムも真似をして飲んでいる。 コトラは夢中で皿に頭を突っ込んでぴちゃぴちゃやってるし、ブランはぶふんぶふんと鼻で息吸ったり吐いたりしながら味わっているらしい。グライフは嘴の中に香茶を入れて、上を向いて飲み込む。それぞれ味を楽しんでいるようで何よりです。 一瞬【再生】したらいつでも香茶を飲めるんじゃないかと思ったけど、その考えを首を振って向こうに追いやった。神威はできるだけ使わないと決めたはずなのに、香茶に負けそうになった。香茶を育てられるまでに世界を【再生】して、その新茶を頂くんだ。 うん、そうしよう。 全員美味しく香茶を飲んで、全員笑顔だ。「また飲みたいね」 アウルムが笑顔で言った。「世界の再生が成ったら、だ」 最後の一口を飲み干して、サーラは釘を刺した。「せかいのさいせーって、シンゴにしかできないことなんでしょ?」「そうだ。だが、それには我々神子の助力も必要だ。分かっているな。お前も神子だと言うことを」「う~ん……」 どうやら修行の旅に出るには契約しなきゃいけない、と言われて契約したので、神子そのものを理解しているわけではなさそうだ。「シンゴは生神で、生神は世界を再生させる存在であることは分かっているか?
last updateLast Updated : 2026-02-21
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第174話・一喝

「ミクンやレーヴェやヤガリから、色々なことを聞いて学び、力の使い方を学び、ワガママを言わずに、自分にできることを考えて、行動しろ。それが、お前に課せられた仕事だ」「う、ん、頑張る」 アウルムは深刻な顔で頷いた。 どうもサーラに恐怖心を抱いているような……サーラの当たり厳しいのもあるけど、やっぱりかつて翼を焼いた相手ってのが巻き戻した脳みその一部に引っかかってるんだろうか。怒らせたくない相手がいるってことは悪いことだとは思わないけど……。 おじさんは物静かな人だったけど、淡々と怒って淡々と叱って淡々と反省させた人だった。怒らせたくなかったのは、おじさんが本当に怒った場面を見ていたからだ。一度声を荒げたのが、両親の葬式、親戚一同が俺を引き取るのに難色を示していた時だった。(子供一人助けないで大人とは言えないだろう!) あの一喝は、今も俺の心に残っている。そしてその一喝通り、おじさんは俺を引き取ってきちんと育ててくれた。俺に保険金などがあると知った親戚が後から駆け付けたけど、おじさんはしっかり養子縁組まで結んで両親の遺産や保険金や養育費などをきっちり俺の養育や学費以外には使わなかった。 多分、俺はおじさんの後を追い続けるんだろうな。モーメントで生神となった今でも。「さて、休憩も説教も終わった」 サーラは口元を布で拭いて立ち上がった。「行くぞ」「ぶふん」 ブランがよっこいしょ、と膝を伸ばす。ヤガリがテキパキと荷物をブランとグライフに振り分ける。グライフはん~と翼を伸ばして、二・三度バサバサ振ってから大人しく荷物を背負い、アウルムを乗せた。「ケンタウロス族に、会いに行くんだね」「そうだよ。ケンタウロスの足ってあたしらハーフリングより早いって本当かなあ」「純粋に考えれば二本足と四本足では四本の方が早そうに思える」 呟いた俺に、ヤガリが続けた。「それだけ地面を蹴る回数が増えるからな」 レーヴェが、そうだぞと頷く。「ハーフリングは素早いと言うより小回りが利くな。戦場で騎乗騎士が一番会いたくないのが、戦場を駆ける馬の腹の下に入り込んで、繊細な足を斬りつける小柄な……そうだな、ハーフリングのような人間だ」「へえ、そうなんだ。何か意外」「ミクンも言っていたじゃないか、ケンタウロスとハーフリングが力を合わせれば無敵だと」「とうさんとかあさんとば
last updateLast Updated : 2026-02-21
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第175話・成人の旅

「成人の旅?」 聞き返した俺に、今度は逆にレーヴェが聞き返す。「何だ、知らんのか、成人の旅を」 昔、テレビで観た成人儀礼のようなものかなあ。耳に穴をあけるとか、高い所からロープ一本でバンジーするとか。「ばんじいとはどんなものかは知らんが大体その認識であっていると思う。人間の、どの種族にも、あるんだ。成人になったら大人として何か与えられるとか、あるいは成人になるためにクリアしなければならないミッションがあるとか。フェザーマンのグリフォンを与えられるのなんて正にそのものだ、一人前になったのだからフェザーマンの一人として仲間と共に働けと言うことだ」「アウルムも大きくなったらグリフォンもらうんだー。フェザーマンよりも早くずーっと空を飛ぶんだよー」 グライフの鷲の頭が、一瞬ビクンッと震えた。……そうだな、お前は嘴を剥いたほど大人のアイルムを嫌ってたからなー……。「お前がグリフォンに認められるのはまだまだ先だ、グライフに乗せてもらえるだけでもありがたいのだとちゃんとグライフを労わるんだぞ」「……はあい」 現アウルムの認識では、グライフは俺がフェザーマンから引き取ったグリフォンで、足の弱いアウルムに特別に貸してやっている、と言うことになっている。アウルムは大人の仲間入りをしたようで喜んでいたけど、グライフは露骨に嫌そうな顔してたもんなあ……。いや、鷲の顔色なんてわからないけど、アウルムへの態度とか、行動とか、そう言うのがいやいややってるって俺にも分かるほどなんだもんな。 それでもブランにしなかったのは、ブランが神驢《アシヌス》だったからだ。ドワーフの神獣で、ロバと比べてもかなり小柄だけど、重い荷物を平然と運ぶ炭坑用に生み出した神獣は、ヤガリの所有獣だったからだ。 アウルムが勘違いして、この神獣が自分のものと思った時、どうなるか想像したくないとサーラが呟いたのに大人全員サーラの顔、見たからな。 グライフ……フェザーマンの成人に与えられるグリフォンなら余計勘違いするんじゃないだろかと俺は思ったけど、グライフは神の権限によって俺のものになったのだとアウルムが認識していて、自分に与えられるのは大人になった時だけで、それまで「特別に下賜されている」とミクンとサーラが二人がかりで教え込んだ。大人の証は欲しいけどまだ早いとアウルムも思ったようで、神妙に頷いていた。まあ
last updateLast Updated : 2026-02-22
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第176話・本能

「出発するぞー」「はーい」 まだ歩けないアウルムが一番元気よく返事して、旅は再開された。 だけど……またすぐにストップするんだろうなあ……。 俺の固有スキル【索敵】に引っかかるものがあったからだ。 一番後ろを歩くサーラとヤガリを振り向く。 流石は守護獣にドワーフの戦士、俺の視線の意味をすぐに悟って、索敵モードに入った。 レーヴェもそれを察してさりげなく腰に手をやる。 そしてそれらに気付かないミクンじゃない。グライフにかけていた手綱を手に取り、俺の方を向いた。「上に行く?」「いや」 俺は小声で答える。「戦闘ってのがどんなものかを見せておきたい」「それには同意するけどね。まだ安全第一でしょ?」「ミクンがいれば安全だろ」「え?」 きょとんとした声。「自信ないのか?」「そっか……安全ね。あたしがいれば安全」 安全、安全と口の中で香茶を楽しむように言葉を繰り返し、そしてミクンはニッと笑った。「大丈夫! あたしがいるから!」「おう、任せた」 ブランとグライフが足を止める。 微かな害意に気付いたのだ。それで足を止めたのは臆病だからじゃない、立ち向かうためだ。アシヌスもグリフォンも戦闘となれば頼もしい味方になる。もちろん荷物を背負っていてもらっているので正面切って戦われても困るけど、独自の判断で敵に荷物を奪われないよう動いている。グライフはきっちりミクンとアウルムを守ってくれるだろう。……嫌でも、な。そうするヤツだと俺は思っている、いや、信じている……いいや、確信してる。 俺は剣を抜いて、それの方向を見た。  南西から……一直線に向かってくる気配。三・四体。魔獣か魔物かは……判別できない。今まで感じてきた気配とは全く違うんだ。【索敵】の気配だけで相手の正体が読めないなんてこと、今までなかったのに。 ただ、本能的に……ひどく、嫌悪感を、感じた。 そして、俺が何とかしなきゃいけないと言う、使命感。 モーメントに降り立った生神に与えられた本能とでもいうべき部分が、俺に訴えている。 俺が何とかしなきゃいけないのだと。「どうした、シンゴ」「サーラは感じないのか?」 サーラが不思議そうに問いかけて来たので逆に返すと、サーラは俺の頭の中をのぞいて、首を振った。「すまん、お前の本能を、守護獣は理解できん。ただ、これだけは言え
last updateLast Updated : 2026-02-22
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第177話・魔獣化

 木々を薙ぎ倒して現れた巨大な生き物。 ……魔物と言わなかったのは、俺が信じたくなかったからだ。 筋骨隆々とした人の上半身。 均整美さえ感じさせる馬の下半身。 見上げるほどの巨体に殺意を漲らせ。 噂に聞いた……いや、地球にいた頃からも神話として語られていた、肌も、神も、尾の一筋までもが漆黒に染まった巨大なケンタウロスが三人、襲い掛かって来たのだ。「ケンタウロス?!」 レーヴェが言ったきり言葉を発しない。「落ち着け! 草原の民、おれたちは……」「ヤガリ、離れろ!」 俺は叫んで、何とかコミュニケーションを取ろうとしたヤガリを後ろに追いやった。「ケンタウロスだぞ!」「やられてる!」「何……?」「やられてる、敵対勢力にだ! 分かるんだ……何かがあって、敵対勢力の魔獣の魂を埋め込まれて、望んでもいない暴走をしている!」 ヤガリも言葉を失った。 くそ……あの嫌悪感に満ちた、何とかしなければならないっていう本能はこれだったんだ!「うぉるるる……」 口から遠吠えに近い息を吐きだした魔獣ケンタウロスが前脚で地面を掻く。「どうする」 サーラが珍しく憂鬱そうな顔で言った。「敵対勢力は試している。魔獣化した人間がシンゴを殺せるのか。生神が魔獣化したケンタウロスを殺せるかどうか」「分かってるよ。敵対勢力にとって損は小銭程度の負けでしかないし、勝てば世界そのまま滅亡に持って行ける、分のいいギャンブルだ」「ぎゃんぶる?」 アウルムが首を傾げた。目の前に魔獣ケンタウロスがいるのに動じていないのは、恐怖を感じないほど幼いのか俺たちに絶対の信頼を寄せてくれているからか。「あいつら、何考えてこんなひどいこと……」 ミクンの言葉にサーラはひどく憂いだ声で説明した。「魔獣化したケンタウロスがシンゴを殺せれば、あちらは大喜びで世界滅亡へとまっしぐらに駆けだすだろう。魔獣化されたくなかったら……これは立派に脅しになる。そして、何も出来ず、シンゴがケンタウロスを殺せば、生神が人間を殺したという事実が野火のようにモーメント中を駆け巡るだろう。生神を信じる人間はいなくなる。そして、シンゴが力を失って死ねば、モーメントは滅亡へとまっしぐら」「そして俺たちにとっては最良の結果が出たとしても、実験の一つが失敗しただけで、敵対勢力は次の手を打ってくる。もっ
last updateLast Updated : 2026-02-23
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第178話・大嫌いだ

 俺より頭五つほど高い位置にあるケンタウロスの人間の顔が、不気味に歪んで笑ってた。 殺す気だ。殺したいんだろう。魔獣の戦闘本能を植え付けられている。 だけど。 ……なら、何で、泣くんだ? 見上げれば、笑いながら涙を流す魔獣ケンタウロス。「まだ人間の心が残っている」 サーラが呟いた。「魔獣の魂を受け入れられるよう魔獣化された肉体と精神で、それでも抗っているんだ。魔獣の本能と……」「なんとかできないの、シンゴおにーちゃん」「何とか……出来れ、ば」 ふと、グライフの上のアウルムに目が留まる。 少し考えて、サーラを呼んだ。「サーラ、サーラの炎は魔獣の魂を焼き尽くすことができるか?」「できるが、魂だけを焼き尽くすのは無理だ。肉体は魂の座と化している。あの肉体が崩れたりしない限り、中の魂は焼けない。今の彼らは肉体改造で魂を無理やり同化されているから……」「肉体が戻れば、いいんだろ」 俺はM端末を構えた。「神威」 前脚で踏みつぶそうと後脚で立ち上がるケンタウロスの一体に、端末を向けて。「【巻き戻し】」 神威の光が漆黒のケンタウロスを包み込む。 光の中、しゅるるるる、とケンタウロスが縮んでいく。はちきれんばかりの筋肉が解かれていくように小さくなり、大木並みに膨れ上がっていた四つ足もしっかりバランスの整った馬のものとなり、漆黒がすぅぅ、と口から吐き出されていく。「サーラ!」 名を呼ばなくても、炎の守護獣は自分の役割を分かっていた。サーラが翻した手から炎が溢れ、小さくなったケンタウロスの頭上に漂う漆黒の靄を焼き尽くした。 おっと、気をつけないと子供にしてしまう。 肉体が通常サイズ(それでもヒューマンの二倍くらいはあるんだが)に戻ったところで【巻き戻し】を止めた。 かくんっとケンタウロスの膝が折れ、その場に座り込む。「ぶしゅう!」「はいはい! 今度はそっちかブラン!」 四つ足で狙われて、小柄なブランが逃げ回っているが、なんせ荷物を積んでいるから身軽とはいかない。時々ミクンの操るグライフが上空からケンタウロスの気を引くけど、アウルムを積んでいるので思い切った動きができない。 俺はブランを襲っている魔獣ケンタウロスに【巻き戻し】をぶっ放す。しゅるるる……とケンタウロスは縮み、漆黒の靄が出てきたところで停止。即座にサーラがケンタウロス
last updateLast Updated : 2026-02-23
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第179話・ケンタウロス狩り

 四本の足を折って座り込んでいるケンタウロス三人の様子を確認する。 呆然自失……っつーか何が起きたかもわかっていないって顔だ。仕方ない、俺の神威【巻き戻し】は記憶も過去に巻き戻す。自分が何をされてどうなっていたか、ほとんど覚えちゃいないだろう。 でも、とりあえず。「大丈夫……ですか?」 ケンタウロス……栗色一人、褐色一人、灰色一人、計三人は辺りを見回す。「オレたちは……」「確か、魔物のケンタウロス狩りに遭って……」「ケンタウロス狩り?」 俺の言葉に三人はやっと俺たちの存在に気づいたらしく、立ち上がって警戒態勢に入る。「あー、えーと」 どういえばいいかなあ。俺が生神だって名乗っちまうのが一番早いんだけど、できればそれは噂にならない方がいい。神の力に頼らないで生きて行けるように世界を【再生】するのがおれの仕事なんだから、それ以上のことをやってはいけない。「……とりあえず、ケンタウロス狩り、ではないです」 一応自己弁護。「西の方から来た人間です。皆さんを捕まえようとか、そう言う気はありません」 M端末を懐に収めるようにして収納してから、俺は両手を広げて敵意がないことをアピールした。「第一、俺たちの装備で、皆さんをどうにかできるようなものはありません」 灰色が胡散臭げに俺を見たが、俺は両手を広げたまま、三人のケンタロスに訴えた。「敵意はないと言う。ならば何をしに来た。西の草原へ、二本足の人間どもよ、貴様らは何をしに来た」 警戒バシバシモードだなあ。まあ無理もない。魔物狩りに襲われた後何処まで記憶が残ってるか分からないけど、この後人体実験に使われてむごい姿で俺たちを襲わされたんだもんなあ。「あー。あのね」 ミクンがグライフから飛び降りて、前に出た。「おお! 丘の民!」「分かる? ハーフリングだって」「分かるとも、丘の民。共に草原を駆ける小さき人間。我ら草原の民と丘の民は友だ。長い間報せがなかったので、どうなったかと心配していた」「ありがと。この人たちも心配いらない。あたしの友達で、ケンタウロスがどうなってるか心配してたあたしと一緒に来てくれたんだ。ケンタウロス狩りとやらには一切関係してない。むしろ助けてくれたんだ」「……むう」 ケンタウロスは腕組みをして俺を見下ろした。「……確かに、そのような悪事を成す顔ではない。しかも
last updateLast Updated : 2026-02-24
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第180話・魔獣と魔物

「魔物、だったんだね」「ああ、魔物だ」 ケンタウロスは頷いた。「魔獣の攻撃が剣呑になって来て、我らもできるだけ仲間とはぐれぬよう、仔馬は集団の真ん中に入れるよう、と対策をしていた。だが、唐突に十余の魔物が現れた。足が二本の魔物だ」 魔物と魔獣、手っ取り早く見分けるのは足の数だ。ワーラットやワーベアと言った変身型の魔物も、普段は二本の足で歩いている。足が四本以上あったら普通は魔獣と考えて間違いない。もちろん、人間にもケンタウロスという例外種族がいるが、もしそんな例外種だったらケンタウロスはまずそれを指摘していただろう。「彼らは魔獣を自在に操り、我らの群れを取り囲み、魔法の縄で一気に群れごと捕えて連れて行く。その縄から逃れた数少ない仲間が他の群れに警告を告げ、我らはできるだけ対処しようとしたが、我らの群れにもケンタウロス狩りの魔物が来た。我らは散ることにした。群れでいたら被害が大きくなると忠告されたからだ。俺たちの群れは俺たちが囮になることで逃げ果せた……と思う。捕らえられた直後頭に袋をかぶせられて縄で縛られ、何処に連れて行かれたのか。恐らくは洞窟を掘りぬいたような場所で、他の群れのケンタウロスたちと牢獄に入れられ、俺たち三人が連れ出され……。連れ、出され?」「そこで記憶が終わってる」 俺が口を挟むと、うむ、とケンタウロスは頷いた。「もしかして、我らは何かをされたのだろうか。失った記憶の中で、何か酷いことをしていたのだろうか。思い出せぬ……きっと貴公らに世話になったはずなのに」「あ、無理に思い出そうとしなくていいです。それするとキツイから」 俺は片手をあげて考え込むケンタウロスを止めた。「今までもらった情報で十分です。魔物がケンタウロスを捕えていること、この街道の近くにそいつらの本拠地があること。それだけ分かれば」「分かれば、どうするのだ」 狩りに行くだけだ。 人間を捕えて人体実験して魔獣化させて人を襲わせた、その落とし前をつけに行く。 そう言ったら、三人は決意を目に漲らせて言った。「吾輩たちも、共に連れて行け」 三人のケンタウロスが、そう言い張った。「意識戻ったばっかなんでしょ? 危険だよ」「危険は承知」「だが、捕らえられているのは我らの仲間の群れ。そして我らの群れも襲われた。もしかしたら我らの群れの誰か
last updateLast Updated : 2026-02-24
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第181話・地図

「でも、サーラ」 俺が力を振るうところを見られたら、ケンタウロスに俺の正体がバレてしまう。生神が来たと分かれば、ケンタウロスに何か影響は出ないだろうか。「ケンタウロスの諸君。幾つか聞きたいことがあるがよろしいだろうか」 サーラの声に、ケンタウロスたちは一斉に彼女を見た。「何だ、ヒューマンの女」「君たちはケンタウロス狩りに捕らえられた場所を正確に覚えているだろうか」「無論だ。あの場所は我々の縄張りだ。草原に戻れば簡単に案内できる」「あと、頭に袋を被せられてから、それを外されるまで、どのくらい時間がかかったか分からないだろうか」 ケンタウロスたちは考え込んで。「うーむ……。そうだな、巨犬木から奥の岩までオレの足で並足で行ったくらいか」 さっぱり分からん。ケンタウロスの人種に時間感覚ってのはないのか。「ふむ……場所は絞れるな」 サーラにはこれで分かるのか? すげえな。「シンゴ、地図を出してくれ」「え? それはミクンが」「お前の持っている地図だ」 俺の持っている地図って……。あ、端末か? マントの内側に手を突っ込んで、荷物の中から取り出したように見せかけて端末を出す。地図を開くと、やはり行っていないここから東は真っ黒のまま。 何が分かるんだ?(お前、神の力というものを深く考えていないだろう) どえっ、サーラ!(目の前にいるのにいきなり心の中に話しかけてくるのやめてくれ!)(こういう時に使わずして何の神威だ) 呆れた空気が伝わってくる。(お前が端末に頼らないと神威を発揮できないのは、お前が自身の力を把握できていないからだ。お前の力は空気のようなもの。風にも刃にも凍えにもなる。だが、空気を動かす方法が分からないからお前の世界で言うせんぷうき? や、えあこん? みたいに限られた力しか使えないのだ)(お説教はいいから。何が言いたいんだ?)(捕らえられた場所は特定できる。運ばれた……移動時間も推定できる。端末を使えば、その歩くスピードを計ることもできる。そして目的地は洞窟のような場所だったという。洞窟があるような崖や、丘、あるいは地底……草原では限られてくるだろう) 納得。 それにしても多分全世界の生神が苦労しているだろうなあ。昨日まで普通の人間、死んでいきなりあんたは神様と言われて別世界に派遣されて、分からん力を渡されて、さ
last updateLast Updated : 2026-02-25
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