All Chapters of 生神様になったらめっちゃ思い通りになるんですけど: Chapter 11 - Chapter 20

107 Chapters

第11話・食糧

 M端末を出し、目の前の腐った食糧に向ける。 【神威:再生:食糧】を選び、Yを押す。 次の瞬間。 腐ったパンやかびた燻製肉が、焼き立てふわふわパンやいつでも食べられる真新しい香ばしい燻製肉に早変わり。「すごい! 神様の御力……食べ物が……このモーメントにもたらされて……」 感激に目を潤ませるシャーナさん。 俺はパンを手に取った。 カチカチの上腐っていたパンは、焼きたての香りさえ漂わせている。 でも、元が腐ってたんだ、確認してからでないと渡せないよな。 一切れ千切って、口の中に放り込んだ。 ……うん、美味い。焼き立てパンの味だ。異臭や異常は感じられない。 これなら大丈夫かな。「ほら」 俺はシャーナさんに、ひとかけら千切ったパンを差し出した。「俺が食べて大丈夫だったから、多分大丈夫だと思う」 シャーナさんの目に、見る見る光るものが。「ちょ……なんで泣くの、俺なんかした?!」「い、いえ! そうではなく……そうではなくて……」 手の甲で涙を拭って、シャーナさんは微笑んだ。「ありがとうございます。いただきます」「ああ。……急いで食べたら駄目だよ」 俺は慌てて付け加えた。「水分と一緒に、ゆっくり、よく噛んで食べるんだ。飢えて食べると胃袋がびっくりするから」 胃袋、の意味が分からなかったのか、でもシャーナさんは頷いて、ゆっくりゆっくりパンを食べる。 空腹にワインはまずかろう、と、グラスに注いだワインを【浄化】して、綺麗な水にしてから一応毒見して大丈夫だと確認してシャーナさんに渡すと、シャーナさんは何度も何度も頭を下げて、俺が言った通りにゆっくり、ゆっくりと食事を進めた。 「ありがとう、ございました」 一時間ほどかけて、やっと満足したのか、シャーナさんは食べる手を止めた。「空腹に負けて、お見苦しい姿を見せたことをお許しください。そして、その御力で神殿を再生したにも拘らず、毒見までして頂いたこと、非常に嬉しく思います。モーメントに降臨したのがこんなに優しい神様だったなんて……」 また震え出す声を押し殺すように、シャーナさんは奇妙に低い声で言った。
last updateLast Updated : 2025-12-06
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第12話・神殿の言い伝え

「私はこの神殿の守主、リザー家最後の生き残り、シャーナ。リザー家の役割は、滅びゆく世界に降臨する神様をお助けすることです」「俺は遠矢真悟。……生神、なんだろうな。多分。なんかこの世界をやるって言われた」 シャーナさんは微笑んだ。 まずい。今まで見たどの女の人より綺麗だ。 まだ目は潤んでキラキラしてる。がりがりに痩せ細ってはいるけれど、これからちゃんと食事をできたなら、きっとすらっとした感じの美人になるだろう。 まだ立ち続けているのが辛そうなので、俺は俺も座るから君も座ってと神様の前でそんなとか何とかいうシャーナさんを何とか座らせて、話の続きを始めた。「この神殿には言い伝えがあるのです」「言い伝え」「はい。この神殿は、モーメントにあるどの神殿より古く、伝統があります。しかし仕える神はいない。今はもういない古き神の神殿だと言われていました。だから、リザー家以外でこの神殿に祈る人はいません。その血筋もわたくし一人になってしまいましたが」「でもシャーナさんは祈ってるんだろう? リザー家の人たちも」「そ、そんな畏れ多い!」 シャーナさんは座ったまま飛び上がるという器用なことをやって、それから俺に向かってひれ伏した。「ど、どうぞ、シャーナと、お呼び捨て下さい。この世界で、貴方様がさん、などと呼びつける必要はありません。そんな不敬を……」 ……う~ん。無神教徒日本人からすると、この感覚は分からない。 自分と同年代であろう彼女相手を呼び捨てるのは、俺のポリシーじゃない。だけど、このまま話が進まないのもどうもなあ……。 彼女は顔も上げない。『不敬」だからなんだろうけど、これもなあ。「……、じゃあ、シャーナ。顔を上げて、答えてほしい。リザー家の人たちが、この神殿で、祈る必要があったんだ?」「……はい」 シャーナさんはそろそろと顔を上げた。俺と目が合う。「も、申し訳ございませんっ!」「うん、視線が合ったくらいで俺は怒らないから、話を続けてくれる?」どうやら話以外の所で長くなりそうだ。
last updateLast Updated : 2025-12-06
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第13話・再生と創造の神

 何度も俺に謝りながらのシャーナの言葉をまとめると、つまり、この神殿は、表向きは原初の神と呼ばれる創生神のために作られた神殿なのだという。しかし創生神は世界創造を終えると同時にこのモーメントを去ったため、訪れる者もなく、リザー家が神殿の守人として守り続けてきた。世界の滅亡が決定的になった時、創生神に再臨を求める人間が何人か訪れて神殿で祈り、リザー家と食料や水を分け合っていたが、神の訪れもなく、ある者は飢えや渇きで倒れ、ある者は諦めて世界のどこかに安心して暮らせる場所があるのではと一縷の望みを抱いて出て行ったのだという。「滅びゆく世界、か」 確かに空から見下ろしたモーメントは、最早末期とも言える状態だった。緑が何処にもなく海も完全に汚れ切っていた。 両親を埋葬したシャーナは、餓死寸前になりながら、神の伝説を信じ、今日という日を待っていたという。  何故か。 それは、この神殿が、滅びゆくモーメントの最後の希望だからだ。 この神殿は創生神の為でもあるが、創生神が去った後は、再生と創造の神に捧げられたのだという。 世界が滅びゆく時、世界を一から創り直す神がこの神殿に降臨する。しかし、神は生きる者の篤い信仰心がなければその力を発揮できない。この神殿から、再生の神を信じる者が失われたら、再生の神も力を揮えない。だから、一人でも、この神殿に一族を遺さなければならないと……シャーナの御両親は食事や水を譲ったんだろう。 この人もまた、目の前で両親を亡くしたのか。 人間を生き返らせることは出来ないという決まりがなければ、真っ先に生き返らせてあげるのに。「ごめん……俺は、あなたの両親を生き返らせられない」「分かっています……神であっても、人の再生は成らないともまた、伝えられていました。でも、両親の苦労は報われました。私は神様の降臨に立ち会い、第一の神子と成りました。それで……満足です」「神子……」 神子ってなんだ、と聞こうとして思い直し、M端末をタップし、言語ヘルプを押す。 五十音に並んでいるから、迷わなくて済んだけど、語句多すぎるだろ。【神子:生神と契約し、属性と信仰心を与える生物のことを指す。生神と意思疎通が可能であり、不老不死で、信仰心と属性の力を生神に与える。生神が神子の期待に背くなどして信仰心がゼロになった場合、契約は解かれ神子は生物へと戻り、普通
last updateLast Updated : 2025-12-07
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第14話・信仰心

 いや、好きにしろって言われてもねえ……。 シャーナは信仰心が高い分、俺に意見を申し述べたりする性格ではなさそうだ。 しかしこちらもレベル1で降臨した生神。 言い方を変えてみるか。「まず、世界がどうなったら、シャーナは嬉しい?」 それと、と付け加えた。「俺のこと神様って言うのはやめてくれ。俺にも真悟って名前があるんだから」「そんな! 神様の真名を呼ぶなんてそんな畏れ多い……!」 こういう時シャーナは結構頑固なのだということは、本当にほんの僅かの付き合いしかないが分かっている。 ん~……。「神の命。名前呼んで」「ご、御神命とあらば……」「で、世界がまずどうなったら、シャーナは嬉しく思う?」「そ、そうですね、えと……」 それまで地下食糧庫で話していたけど、シャーナは振り向いて階段を登り、神殿を出た。「うわ……」 こりゃひどいや、滅亡寸前なだけある。 木が立ち枯れて腐り、近くを流れる川もまるで粘液のよう。「私は世界が滅びの道を辿る最初の頃に生まれたので、この大地の姿しか知りません。両親の話では、ここには木々というものがあり、川は透き通り、魚というものが泳いでいたと言います。私はそれが見たくて、今まで頑張ってきました。それを……」「なるほど」 俺は端末を取り出し、神威をタップした。 【再生:大地】となっている。「できそうだな……」 俺は端末をタップする。【現在の生神レベルと信仰心レベルでは、神殿周囲10キロまでが限界ですが、よろしいでしょうか?】 よろしいに決まってんだろうが、10キロでも大地が戻ればマシな方だ。 Yをタップ。 途端、俺の身体から光る何かが飛び出し、端末に移動、そして周囲に広がった。「おおおお」 腐った大地が突然豊かな黒土へと変わる。生命の臭いが微かに感じられる。 でも、木は再生しないな。あ、属性にないからか? 何か木の属性を持つ神子がいないとダメな訳ね。 だったら今度は【再生・川】だ。 タップすると、今度は川に光が吸い込まれ、川の水が一気に透き通った。 そして【生神レベル/信仰心レベルがアップしました】の表記が出て。【遠矢真悟:生神レベル12/信仰心レベル6500  神威:再生5/神子認定1/観察1/浄化2  属性:水3/大地2/聖4  固有スキル:家事全般/忍耐】「お」
last updateLast Updated : 2025-12-07
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第15話・マップ

「大地や川はこのようなものだったのですね……初めて知りました……生きていてよかった……」 涙ぐんで口を押えるシャーナに、やってよかったと思う。 でも、やっぱり緑がないと。大地だけ豊かでも、そこから育つ緑がなければ蘇ったとは言えない。とりあえず「水」「大地」「聖」に関わるものを再生したりできるんだろう。川とか大地とか、あと神殿とかが再生できるわけか……。 となると、神子を探さなければならないわけだけど、この世界の何処に生きている神子候補がいるんだろうか……。 神子候補を探す方法はないかなあ。 端末をタップして、ステータスを見直してみる。【遠矢真悟:生神レベル12/信仰心レベル6500  神威:再生5/神子認定1/観察1/浄化2  属性:水3/大地2/聖4  固有スキル:家事全般/忍耐】 それ以外にもまだまだ確認しきれてないものがあるので、どうとも言えない。 と、「ワールド・モーメント・マップ」なるものがあった。 早速タップする。 マップはほぼ全面が黒い。これマップって言わないだろう。いや待て。 よくよく見ると、マップの中央部分が明るい。 確かスワイプってったっけ、それすると縮小拡大できるかな。 す、と二本の指を使って広げてみると、そこが拡大された。 白い神殿と土色と川が、ほぼ四角形状に配置されている。 神殿のすぐ外に赤いマークがある。 もしかして、これ、俺たちの現在地? とりあえず神殿の絵を触ってみる。 【原初の神殿:聖:生神が最初に降臨する神殿で、生神の本拠地】と説明があった。 てことは、つまり、だ。 俺はこのマップを全面映るようにしないとならないのか? つまり、再生して再生して再生して……。 面倒だなあ……。 でも、この神殿でもそうだったように、もう食べ物や水ですら尽きてきたこの世界に絶対必要なのは再生の力。世界の何処でギリギリの状態で生き延びている人がいるのかは分からないけど、何とかして助けなきゃ。俺が再生することで助けられるって言うんであれば、そりゃやるしかないでしょ。 で、水は【再生】や【浄化】でいくらでも増やせるけど、動物を増やすにはまず植物が必要で、それを探すためには【属性:植物】を持った神子が必要であって。 その神子が何処にいるか分からないからなあ……。 魚を神子にしてもいいけど、とりあえず今絶
last updateLast Updated : 2025-12-08
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第16話・森エルフの泉へ

 シャーナは裸足のまま神殿に駆け込んで、少ししてボロボロの、独特の手触りを持った紙を巻いたのを持ってきた。「この近辺の地図です……が、今と昔では……」「ああそれは大丈夫だから」 シャーナのマップにも、中央に神殿があった。 東には「大樹海」と呼ばれる森林地帯がって、そこを越えると海に出る。ここからでも大樹海は見えるような距離なんだが、見えないってことは枯れ葉てたんだろう。 で、大樹海の中ほどに、【聖域】と書かれた場所があった。 森エルフの泉、と。「えるふ?」 某トラックしか思い浮かばないんだが。 ヘルプ機能を使う。【エルフ:この世界の人間の一種。長い耳と優れた魔力、長寿を持つ一族で、男女関わらず美しいことで知られている。森エルフ、川エルフ、海エルフなどがいて、使える魔法が違う】 森エルフか……。 森、と冠につくくらいだから、【属性:植物】を持っている人がいるかも知れない。いなかったとしても、森エルフの泉を再生すれば、新たな拠点ができる。「よし」 俺は一人で頷いた。「明日は大樹海跡地に向かおう」「シンゴ様?」「植物を増やさなきゃ大地は完全には蘇らない。大樹海の中にある森エルフが【属性:植物】を持っている可能性が大だし、そうじゃなくても泉を再生できればそこからまた移動が可能になる。より広い範囲を【再生】できる」「世界を……蘇らせようと仰いますのね……」「しゃーないだろ。困ってる人がいるんだ、助けないと」「分かりました。私も同道いたします」「シャーナ?」 シャーナさんはがりがりの顔で微笑んだ。「寝殿から、まだ食物が多いと思われる森エルフの里を目指して旅立った方が何人もいらっしゃいました。その方たちから森エルフのことはよく聞きました」「その身体じゃあ歩けないだろ」 どう見てもまだガリガリで、まともに歩けそうにないシャーナを連れて行くわけには……。「世界に降臨する神……シンゴ様は神子を通じて力を揮うと伝えられております。私がいなければ力を揮えないのでしょう? なら、何処へでも、何処までもついて行きます」「いや、無理だろどう見ても。もうちょっと体力つけなきゃ旅できないだろ」「大丈夫です。この神殿にはいくつかの神具が残されています。それを使えば」「神具?」「はい。この世界には、神と神の僕しか使えない神具なる物が伝えられてお
last updateLast Updated : 2025-12-08
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第17話・神具

 神殿の宝物庫の中に唯一残されていた宝箱に収められていたのは、一つの水晶球と古びた巨大綿埃だった。「これが神具?」「は、はい、この神殿に納め、真悟様が降臨させるその時まで、大事に守り通せと」 守り通すのはいいけれど、掃除しておけよ……埃かぶってるよ。 丸めてあった綿埃にしか見えないそれを持ち上げる。大きさにしてはめっちゃ軽い。 その時、片手に抱えていたM端末がブブブ、と震えた。「ん?」【神具入手を確認しました】 この綿埃と、やっぱり埃をかぶっている俺の頭ほどもある水晶球。 どう使えばいいのかなあ。 画面をなぞると、文章の続きがあった。【神具は生神の力を吹き込むこと、つまり【浄化】を使うことで、生神の力を増やすアイテムです。まずは【浄化】を使ってみましょう】「浄化ね、浄化……」 埃被って色褪せている塊に端末を向け、【浄化】を使う。 途端、綿埃は白……正確には金色を帯びた白に変わった。「え」 慌ててM端末を見る。【神具:雲を観察しますか?】 YだY。てかこれ雲? 出来損ないの綿菓子にしか見えないんだが。【観察結果:神具「自在雲」レア度S】 自在雲? なんだそりゃ。 説明の場所をタップする。【生神とその神子を乗せて空を行く雲。生神レベルが高ければ高い程高空を長期間飛べる。具体的には一度の飛行で、高度10mを、時速50kmで生神レベル×10kmを飛べる。高度を低くしたり速度を落としたりすると、持久時間が反比例して長くなる。また、自在雲の周りには結界が張られているので、例え飛んでいなくても乗ったまま安全に休息できる】 おお。これから世界中駆けずり回らなきゃいけない俺には一番のアイテムだ。しかもこう触ってみるとふか、じゃない。もふっとしてる。座り心地良さそう。休憩もできるって言うし。 もう一つ、水晶球もやってみるか。 ええと、【浄化】【観察】と。 水晶球は途端に水より透き通った球形になった。【観察結果:神具「導きの球」レア度B】 こっちの方がレア度低い?【苦しんでいる存在がいる場所を指し示す水晶球。基本的に一番近い場所を示すが、具体的に苦しんでいる内容などを設定した場合は離れた場所からでも位置を把握できる】 こりゃありがたい。森エルフを指定すれば、森エルフのいる場所まで案内してくれるってことか? そこで【生神レベル
last updateLast Updated : 2025-12-09
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第18話・旅の始まり

 とりあえず、乗ってみる。 もっふもふ。 うわあこの上でごろんごろんしたい~。移動専用道具って嘘だよ~。この場で眠れるよ~。仕様説明にも安全に休憩できるってあったし~! いやさすがに女性の前でそんなことはできませんけど!「神様のお乗り物、でしょうか」「うん。シャーナも乗れるよ」「そんな、私ごときが真悟様と同じ物に乗るなんて……」「それなしって言ったね。とりあえず道を知らない俺とそこまで痩せたシャーナで、歩いて行けそうにないんだから」「そ、うです、ね」 シャーナ、しばらく悩んだが頷いた。「私は神と共にあるのが役割ですから、真悟様の御望みのように……」「よし。じゃあ、とりあえず食糧と水を持って行こう」 再生したパンや干し肉を持って、袋の中に詰める。川の水も水袋に入れる。「どれくらいかかるでしょうか」「分からない。大樹海跡がどれくらいか分からないし……」 地図は結構広い範囲を示していた。その真ん中あたりに目指す神殿がある。「自在雲があるから、そんな厳しい旅にはならないと思うけど……」 と言いかけて思い出す。「神殿、空けといて大丈夫かな」「ああ、それは大丈夫です。いるべきシンゴ様がご降臨くださったのですから、神を信じる者には入り、地下の食料が与えられますが、信じていない者には姿すら見えません」「へえ」 だったら俺、日本の寺社のほとんどは見えないなあ。神様信じてる暇あったら家事してたもんなあ。「よし」 自在雲の先頭に導きの球を固定して、座ってみる。 完璧。「シャーナ、乗って」「は、はい」 シャーナは頷いて、恐る恐る座り、もふっときて。「うわあ……」「な? な? 最高だろ」「ああ……神具がこんなに素晴らしいものだなんて……!」 導きの球に手を当てて、『森エルフ』と念じる。 球から、東の方向に真っ直ぐ光が伸びた。「よし、じゃあ、早速行こう!」「はい!」 こうして、俺は、シャーナと一緒に初めてのモーメント探索に出かけるのであった。
last updateLast Updated : 2025-12-09
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第19話・泉

 出来るだけ長距離を移動するために、地面すれすれに自在雲を走らせる。 M端末の情報では、時速50kmで140kmを走破できると言うが、そんなにスピードを出したら見逃してはいけないものまで見逃してしまうし、できるだけ等身大の世界を見たかったので低空を時速30kmほどで走らせている。 対向車ならぬ対雲者がいないから、時速30kmで走っても結構なスピードが感じられる。「すごいな、この雲」 しかも、導きの球と組み合わせ、俺が何も言わなくてもその指し示す方向に一直線に向かって行く。「その昔、馬、という、人が乗る生き物がいたと聞きますが、この神具は多分それ以上なのでしょうね……」「ああ。乗り心地も早さも便利さも段違いだ」 地図によれば、すでに大樹海と呼ばれる地域に入っている。 しかし、そこにあった木々は腐り落ち、薪にもならない状態。「ひどい、ですね」 その様子を見ながらシャーナは口を押えた。「エルフはその土地と共にあると言いますが、森エルフがこの状態で生き残っているか……」「多分、その名残はあると思う」 俺はまっすぐ前を指し示す導きの球を見ながら答えた。「森エルフで困っている人をこの球は指し示しているから、この先に森エルフがいるのは確実だ」「森エルフと会って、どうなさるのです?」「神子になってもらう」 俺は腕を組んで呟いた。「今の力じゃ大地は蘇らせても、そこから育つ緑……植物が再生できない。植物がなければ、野菜も採れないし獣が生きる方法もない。【属性:植物】を持つ神子が必要なんだ」「そう、ですわね」 ちょっと落ち込んだ声で、シャーナは返事する。「神子が多ければ多い程、信仰心が高ければ高い程、シンゴ様の御力は増すのですから」「そうすれば、シャーナに緑を見せてあげられる」 え? と後ろから声が聞こえた。「緑って色、見たことないだろ。……そうだな、腐った川が緑色に近い色をしていたけど、植物の緑はもっと違う。生き生きして、柔らかくて、そうだな……何だか心が湧きたってくる。芝って草が生えている草原は、ふかふかしてて、寝転がると気持ちいい。すっごく心が落ち着く。そんな世界を、シャーナに見せてあげたい」「私、に? 私に緑を見せるために、行くのだと?」「そうだけど?」 振り向いた俺と一瞬視線が合ったシャーナは、顔を赤くして目をそらした。何
last updateLast Updated : 2025-12-10
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第20話・森エルフ

 人はサーニャから水袋を奪い取ると、ごっごっと音を立てて飲み始めた。「あ、よかった、生きてた」「この……水は……」 その掠れた声は、奇妙に低い。「何故……こんな清浄な水が……まさか、泉……?」 その人はポコポコと泡を吹く水場を見て、がっくりと落ち込んだ。「そうだな……もう泉が蘇ることは……」「大丈夫?」 俺が声をかけると、ぎょろっとした緑色の瞳が見上げてきた。「何者だ! この森エルフの聖域に入り込むなど……!」「え? 俺は……」「無礼者!」 鋭い声が飛んだ。 シャーナだ。「ご降臨された再生と創造の神、シンゴ様に向かって何と言うことを!」「なっ」「落ち着いて、シャーナ」 俺はシャーナを片手で止めた。「確かに俺たちはここまで勝手に入り込んだんだ。聖域ってことは一番大事な場所だろ? シャーナだって神殿に勝手に入り込まれたらいい気分はしないだろ」「しかし、シンゴ様っ」「いいから」「再生と……創造の……神……?」 緑色の瞳をした人は、呆然と俺を見た。「まさか……」「そうだな、とりあえず、この辺りを何とかするか」 俺はM端末をドロドロ湧き水に向けた。「【浄化】してから【再生】かな」 神殿以外で使うのは初めてだけど、多分できるだろ。「【浄化】」 ぴ、と光が怪しい色をした水を照らした。 すぅ、と怪しい緑色をした水が透き通り、小さく音を立てながら湧き続ける水となった。「そんな……二度と戻らないとまで言われた泉が……」「続いて【再生】」 先程よりも強い光を浴び、泉を中心に白い石造りの囲が立った。 早速M端末をマップにする。 【聖域:森エルフの泉】「お、よーし聖域になった。これなら神殿に【転移】できる」「まさか……本当の……?」「如何にも」 呆然とする人相手に、シャーナは決闘でも挑むかのように宣誓した。「この御方こそ、リザー家の守る原初の神殿に臨成された、再生と創造の神、トオヤ・シンゴ様。何処の民かは知りませんが、先程の無礼を謝りなさい」「貴様、私を誰だと思ってっ」「いいって」 更にシャーナが何か言おうとするのを止めて、俺はその人を見た。「この辺りの大地を【再生】する前に、まずは君からだね」 俺はM端末を人に向けた。「な、にを」「【再生】【浄化】」 二つの神威を使って、相手をキレイな姿にする
last updateLast Updated : 2025-12-10
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