今回の依頼人は杉浦亨、結婚をひかえた二十代後半のサラリーマンだった。 「実は、婚約者が毎週土曜日にセミナーに通っているらしいんですが、くわしいことを一切教えてくれないんです。 付き合っている時は気にならなかったんですが、いざ結婚となってから、気になってしまって」 杉浦亨は中肉中背でごく一般的な紺のスーツを着ていた。 光を反射する高そうな腕時計を着けていることから、給料のいい企業に務めているのだと分かる。 「もしも怪しい宗教とかだったらどうしよう、って思ったんです。そうでなくても、やっぱり結婚するなら隠し事はない方がいいと思いますし」 不安そうにする杉浦亨へ、所長の久我健人はたずねた。 「失礼ですが、うちに依頼するのではなく、まずは相手とよく話し合ってみるべきでは?」 「それが、何度聞いても駄目なんです。なので、これが最終手段なんです」 すがるような目をして杉浦亨は言う。 「もし彼女が怪しい宗教に入っているのではなく、危険なことをしているのでもなければ、僕は黙って引きさがります。 どうかお願いします、結婚する前にどうしても知っておきたいんです」 久我は納得したように首を動かした。 「分かりました。どうやらご意思が固いようですので、調査を引き受けましょう」 「ありがとうございます!」 杉浦亨がそう言って深々と頭をさげるのを、相楽浩介はパーテーションの隙間から見ていた。 土曜日の朝、依頼人の婚約者が出かける頃を見計らって、池袋にあるマンションまでやってきた。 住宅街の一角にある白い建物から、調査対象の村上やよいが出てくる。 離れたところから確認した相楽は、さっそく尾行を開始した。 村上やよいは杉浦よりいくつか年が若く、二十代半ばといった風だ。 今朝はくもり空が広がっていて肌寒いため、彼女は薄手のカーディガンを羽織っている。 一見したところでは特に怪しいところはない。 強いて言えば、やや大きめのリュックサックを背負っていることが気になった。中身がしっかり入っているのか、重そうだ。 しかし近年、女性の間ではリュックサックが流行している。特におかしいことではないのかもしれない。 相楽は考えを巡らせつつ、後をしっかりとついていく。 村上やよいは池袋駅につくと、東
Huling Na-update : 2025-12-24 Magbasa pa