Lahat ng Kabanata ng 久我探偵事務所の灯りの下で: Kabanata 11 - Kabanata 20

27 Kabanata

彼と彼女と隠し事①

 今回の依頼人は杉浦亨、結婚をひかえた二十代後半のサラリーマンだった。 「実は、婚約者が毎週土曜日にセミナーに通っているらしいんですが、くわしいことを一切教えてくれないんです。  付き合っている時は気にならなかったんですが、いざ結婚となってから、気になってしまって」  杉浦亨は中肉中背でごく一般的な紺のスーツを着ていた。  光を反射する高そうな腕時計を着けていることから、給料のいい企業に務めているのだと分かる。 「もしも怪しい宗教とかだったらどうしよう、って思ったんです。そうでなくても、やっぱり結婚するなら隠し事はない方がいいと思いますし」  不安そうにする杉浦亨へ、所長の久我健人はたずねた。 「失礼ですが、うちに依頼するのではなく、まずは相手とよく話し合ってみるべきでは?」 「それが、何度聞いても駄目なんです。なので、これが最終手段なんです」  すがるような目をして杉浦亨は言う。 「もし彼女が怪しい宗教に入っているのではなく、危険なことをしているのでもなければ、僕は黙って引きさがります。  どうかお願いします、結婚する前にどうしても知っておきたいんです」  久我は納得したように首を動かした。 「分かりました。どうやらご意思が固いようですので、調査を引き受けましょう」 「ありがとうございます!」  杉浦亨がそう言って深々と頭をさげるのを、相楽浩介はパーテーションの隙間から見ていた。 土曜日の朝、依頼人の婚約者が出かける頃を見計らって、池袋にあるマンションまでやってきた。  住宅街の一角にある白い建物から、調査対象の村上やよいが出てくる。  離れたところから確認した相楽は、さっそく尾行を開始した。  村上やよいは杉浦よりいくつか年が若く、二十代半ばといった風だ。  今朝はくもり空が広がっていて肌寒いため、彼女は薄手のカーディガンを羽織っている。  一見したところでは特に怪しいところはない。  強いて言えば、やや大きめのリュックサックを背負っていることが気になった。中身がしっかり入っているのか、重そうだ。  しかし近年、女性の間ではリュックサックが流行している。特におかしいことではないのかもしれない。  相楽は考えを巡らせつつ、後をしっかりとついていく。 村上やよいは池袋駅につくと、東
last updateHuling Na-update : 2025-12-24
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彼と彼女と隠し事②

 神崎の部屋へ入るのは三度目だった。 室内にいくつかの段ボールが積まれているのを見て、相楽は言った。「もう引っ越しの準備、始めたんですね」「うん、少しずつ進めてるんだ。いつ部屋が決まってもいいように」 答えながら神崎は髪の毛を後ろでゆるく結わえた。 相楽はローテーブルのそばに腰をおろし、かばんを床へ置く。「やっぱり広い方がいいですよね。最低でも1DKでしたっけ」 相楽のアパートでは狭いという話になり、二人は一緒に住む部屋を探しているところだった。 神崎がキッチンへ立ち、蛇口をひねって手を洗う。「うん。おれ、いっぱい服持ってるからさ」「おしゃれですよね、神崎さん」「ただ古着が好きなだけだよ。でも、コレクター気質なのは認める」 と、冷蔵庫から食材を取り出して、夕食を作り始めた。 神崎の部屋は半分近くを服が占めており、棚には可愛くて人気なキャラクターのマスコットが並んでいる。「もしかしてウカポン、増えました?」「気づいちゃった?」 と、神崎はお茶目に返した。「この前、またガチャガチャ見つけてさ、つい回しちゃったんだ」 ウカポンは老若男女に愛される、ゆるさが売りの丸っこいキャラクターだ。最近では映画が公開され、人気はますます高まっている。「コンプリートできましたか?」「いや、あとひとつがどうしても出ない。悔しいけど、もうあきらめようかなって思ってる」 どこか楽しそうに神崎が言い、相楽はローテーブルに頬杖をついた。「そうなんですね。やっぱ、趣味があるっていいなぁ」 すると神崎がすかさず返した。「相楽くん、ジム通ってるじゃん」「確かに筋トレは趣味みたいなものですけど、神崎さんみたいに何かを集めたりはしてないです。っていうか、したことがない」 一口大に切った鶏肉をフライパンへ移しながら、神崎が質問してくる。「子どもの頃、カード集めなかった?」「ないですね」「シールとか」「それもないです。友達についていくために流行りには乗
last updateHuling Na-update : 2025-12-26
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彼と彼女と隠し事③

 月曜日の午後六時、依頼人の杉浦亨がやってきた。 仕事帰りに寄ってもらうのは気が引けたが、電話では彼の方も調査結果を早く聞きたい様子だった。「はじめまして。杉浦様の依頼を担当しております、調査員の相楽浩介と申します」 応接スペースで向かい合って座り、相楽はまずにこやかに名乗った。「はあ。それで、何か分かったんですか?」 杉浦亨はどこか不安そうにたずね、相楽は言う。「ええ、もちろんです。ですが、その前にひとつ確認したいことがあるんです」「確認って、何をですか?」「婚約者の隠し事を、受け入れる覚悟があるかどうかです」 杉浦亨が緊張した顔をし、相楽は続ける。「彼女はあなたに知られたくない活動をしています。 きっとそれを知られることで幻滅され、あなたが離れてしまうのではないかと、考えているはずです」 その気持ちは相楽にも十分、想像できた。好きな相手だからこそ、嫌われたくなくて隠してしまうのだ。「それでも杉浦様は知りたいですか? どんな事実でも受け入れて、彼女と結婚することができますか?」 杉浦亨はうつむき加減になり、唇を震わせる。「そ、それでも……それでも、知りたいです。どんな彼女でも、受け入れます」 やや頼りない返答ではあったが、まなざしは真剣だ。相楽は彼を信じることにした。「ありがとうございます。それでは、調査結果をお知らせします」 と、脇に置いた茶封筒から写真を取り出して、ローテーブルへ並べる。「彼女が毎週土曜日に通っていたのは、埼玉県朝霞市にあるアパートの一室です。 そこで彼女は、友人らとコスプレの衣装を制作していました」「コスプレ……?」 拍子抜けした様子で杉浦亨はまばたきを繰り返す。「ええ、そうです。この写真を見てください。彼女、とても楽しそうに笑っているでしょう?」 窓越しに撮った写真の中で、村上やよいは笑っていた。「これが彼女の趣味だったんです。おそらく制作した衣装を、自分たちで着ることも想定していると
last updateHuling Na-update : 2025-12-28
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帯裏ミステリー①

 小春日和の日曜日。 久我健人が馴染みの古書店へ行くと、店の前に店主が立っていた。「こんにちは」 声をかけると、初老の店主が振り返る。「ああ、久我さん。こんにちは」「どうされたんですか? 外にいるなんてめずらしいじゃないですか」 久我は店主の隣へ並び、そこにワゴンが置かれていることに気づいた。百円の均一ワゴンだ。「それがね、また盗まれちゃって」「万引きですか?」「いいや、本は残ってるんだ。盗まれたのは帯だけで、店の中から見た感じだと、若い子がやってるっぽいんだよね」 妙な話だ。久我の探偵としての好奇心が刺激された。「その話、くわしく聞かせてもらえませんか?」 翌日、久我はまず事務員の神崎寿直へたずねた。「神崎、今日やる仕事はどれだけある?」「相楽くんと間遠さんの交通費計算からの、給料明細作成ですね」「他には?」「特にありません。新しく依頼が入らなければ、ですけど」 神崎が皮肉っぽく言い、久我はうなずいた。「ああ、今は依頼がない。ネット相談はいくつか来ているが、それも数時間で終わるだろう」「久我さん、何か企んでます?」 と、間遠桜が口を出し、久我はにやりと笑った。「興味深いミステリーを仕入れてきた」「それ、仕事になるんですか?」 最年少の相楽浩介が素朴な疑問といった様子で聞き、久我は彼らを見た。「仕事にはならない。だが、古書店を救える」 三人が無言で久我を見つめた。神崎は冷めた目をしており、間遠は呆れた顔で、相楽だけが目を輝かせていた。「地域の安全を守る的なやつですか?」「そうとも言えるな。概要はこうだ」 今月に入ってから桧川何某という作家の本から、帯だけが盗まれている。 他の古書店でも同じことが起きているらしいが、被害が小さいため、警察に相談しても動いてもらえず困っているという。「そこで調べてみたと
last updateHuling Na-update : 2025-12-30
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帯裏ミステリー②

 初日の収穫は三冊だった。「まずはこの『雪葬』の帯裏っすね」 と、間遠が本から帯を外して裏側を見せた。 久我は目つきを鋭くし、書かれた文章を読みあげた。「『雄一は部屋に戻った後、翌朝まで目を覚ますことはなかったと言う』か」「次に見つけたのが『凍える遺書』」 二冊目の帯裏には『執事の藤原が言うには、午前一時頃に妙な物音を聞いたらしい』と、あった。 今度は相楽が報告する。「自分が見つけたのはこれ、『茶色の墓標』です」 帯を外して裏返し、久我はそれも読みあげた。「『後妻の絢子は夫に多額の保険金をかけていた』か。 どれもバラバラの文章だが、ミステリー小説の一節であるのは確からしいな」「しかもありがちな設定っていうか」 と、間遠が言い、久我はにこりと微笑んだ。「僕もそう言おうと思っていた。よく分かったな」「べ、別にこんなの、誰だって分かるでしょ! っつーか、これからどうするんすか!?」 照れ隠しに間遠が声を荒らげ、神崎が冷静に口を開く。「掲示板の入手報告と照らし合わせると、これは密室殺人ですね。被害者は当主の光富明弘、雄一というのは長男、他に長女の瑠美がいます。 容疑者は長男、長女、後妻、執事の四人というわけです」「だが、まだまだ情報が足りていない。もっと探す必要があるな」「ってことは、明日も調査継続っすね」「そうだな。間遠は多摩地域の残りを頼む」「言われなくてもそのつもりっす」 間遠が頼もしく返し、久我は相楽へ顔を向けた。「相楽は僕と一緒に古本まつりへ行かないか?」「古本まつり?」「ちょうど今、神田神保町で開催されているんだ。 全国から人が集まる大きな古本まつりでな、靖国通り沿いにずらりと並んだワゴンが壮観で……」「所長、行きたいだけでは?」 神崎のツッコミに、久我はあわてて咳払いをする。「とにかく、そこにある可能性は高い」「分かりました、お供します」「ありがとう
last updateHuling Na-update : 2025-12-31
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帯裏ミステリー③

 調査三日目。朝から新たな依頼人が来たが、料金が高いということでキャンセルされてしまった。 もやもやする久我だが、こればかりはどうしようもない。 事務所の入口まで見送ってから中へ戻ると、間遠と相楽が神崎の左右に立っていた。どうやらパソコンの画面を見ているらしい。「何をしているんだ?」 と、久我が声をかけると神崎が顔をあげた。「AIに小説を書いてもらいました」「は?」「現時点で集まっている文章がすべてつながるよう、ミステリー小説にしてもらったんです」 久我は驚くとともに、何だか情けない気分になった。AIがそこまで進化していることを知らなかったのだ。「そんなことまでできるのか」「今のAIはすごいですよ。これから解決編を書かせようとしていたところです」「おい待て、解決編を書かせるのか?」「はい。ただし、無料版だと整合性がつかないし、論理的に破綻しがちなので、あくまでも参考程度にしかなりませんが」「そ、そうか」 ほっとした久我だが、すぐに間遠が察してにやにやと笑う。「久我さん、自分で解きたいんすね」「なっ……けして、そういうわけじゃ」「らしくないですよ、所長」 と、神崎にも言われてしまい、久我は言葉につまる。「神崎さんから聞きましたけど、久我さん、掲示板に入手報告してないじゃないですか。他にも参加者がいるのに、フェアじゃないです」 相楽に文句を言われたら、もう言い訳はできない。 久我は息をついてから白状した。「ああ、わざと入手報告をしなかった。どこの掲示板かも教えなかったが、神崎は見つけたんだな」「簡単でしたよ。久我さんの話に、いくつもヒントがありましたし」「……たまには空気を読んでくれ」「そうしたいところですが、とりあえずAIの書いた小説をどうぞ」 神崎が言った直後、プリンターが動き出した。すぐに二枚の紙が吐き出され、久我はそれを手に取った。「ふむ」 確かに小説っぽくで
last updateHuling Na-update : 2026-01-01
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猫と桜①

 インターネットを通してやってきた依頼を見て、久我健人は眉をひそめた。「猫……?」 自分の席でコーヒーを飲んでいた間遠桜はそちらを見る。「猫探しの依頼っすか?」「ああ、いや、そうじゃないんだ。遺言状に愛猫の名前だけが書かれていて、その暗号を解いてもらいたいという内容でな」 久我はそう答えたが、気乗りしない顔で息をつく。「何だか妙な話だ。注意した方がいいかもしれない」 間遠は首をかしげ、隣の席の神崎寿直と顔を見合わせる。「最近の久我さん、ちょっと神経質じゃね?」「ええ、おかしいですね。疲れてるのかもしれません」「そっか。じゃあ、オレが行きます」 と、間遠はコーヒーを飲み干して立ちあがった。「場所、どこですか?」「待て、まだ引き受けると決めたわけじゃない」「受けないんですか? 暇なのに」 間遠が返すと、久我はため息をついた。「分かった。今から連絡をするから、待っていろ」「はーい」 久我がすぐに依頼人へ電話をかけ始め、間遠は空になったカップを持って給湯室へ向かった。 一時間後、間遠は田園調布にいた。その日のうちに来てほしいと頼まれ、バイクで飛ばしてきたのだ。 伝統的な日本家屋を前に、間遠は思わず感嘆してしまった。「でかい……」 都内にこれほど大きな屋敷があるとは知らなかった。 間遠がインターホンを押すと、すぐに応答があり、しっかりと名乗った。「久我探偵事務所から参りました、調査員の間遠です」 相手はすぐに家から出てきて、門を開けてくれた。「お待ちしておりました。僕が依頼人の古川大貴です」 大学生風の若い男性だった。背は間遠とあまり変わらず、着ているものもごく普通のTシャツにジーパンだ。「間遠です。さっそく、猫ちゃんに会わせていただいてもよろしいですか?」「ええ、もちろんです。あがってください」 古川大
last updateHuling Na-update : 2026-01-02
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猫と桜②

「お庭、広いですよね。しかもいろんな植物が植えられています」 ふと感想をもらした間遠へ、古川大貴は言った。「亡くなった祖母が、ガーデニングを趣味にしていたんです。その後は祖父が世話をしていました」「お一人で、ですか?」「さすがにそれは無理なので、孫の僕たちが手伝ってましたよ。ただ、この家もどうなってしまうか……」 古川大貴が沈んだ表情をし、間遠は静かに問いかける。「この家、取り壊してしまうんですか?」「親戚たちの間では、そういう話になっています。もう誰も住む人はいないので、土地ごと手放そうって」 寂しい話だ。これだけ立派な日本家屋が、じきに取り壊されて更地になってしまうなんて。「それじゃあ、ソラちゃんは?」「僕が引き取るつもりです。祖父の次に懐いていたのが僕なので」「そうですか」 猫に居場所があるだけマシだと思った間遠だが、あらためて窓の外を見てひらめいた。「Sって、桜じゃないですか?」 間遠は出窓へ寄り、庭にある植物を見つめた。「頭文字です。Oはあそこにあるオリーブ、Rはローズマリー、Aは西洋ツツジと言われるアザレアです」「間遠さん、やっぱり植物にくわしいんじゃないですか」 そう言いながら古川大貴が隣へ来る。 間遠はかまうことなく推理を続けた。「数字はおそらく、メートルです。 桜の木から5メートル、オリーブから2メートル、ローズマリーから3メートル、アザレアから7メートルのところに、きっと何かあるはずです」「測れるもの、探してきます」「お願いします。オレは庭に出て待っていますので」「分かりました」 古川大貴がばたばたと部屋を出ていき、間遠は庭へ出た。 まずは桜の木の下に立ってみる。この位置から見ると、オリーブの鉢は家屋の方向にあった。「ローズマリーがちょうど対角線上って感じだな。で、アザレアは塀の方にある」 頭の中で俯瞰図を作り、線でつないでみる。いびつだが四角形になった。「ということは、おそらく
last updateHuling Na-update : 2026-01-03
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猫と桜③

「この度は久我探偵事務所にご依頼いただき、ありがとうございました」 玄関先で間遠が頭をさげると、古川大貴も深々と礼をした。「こちらこそ、ありがとうございました」「それでは、失礼します」 と、間遠は玄関の戸を開いた直後、ふと立ち止まった。――広大な庭、目を楽しませてくれるさまざまな緑。「どうかしましたか?」 後ろから古川大貴が怪訝そうに声をかけてきて、間遠は振り返る。「箱の中に入っていた写真の意味、分かったかもしれません」「え?」 間遠は一歩外に出て、桜の木を見つめた。「写真の多くがこの家で撮られたものでした。特に印象的なのは、あの桜の下で撮られた写真です」 古川大貴が横へ並ぶ。「それで?」「もしかしたらお祖父様は、この家を無くさないでほしいのではないでしょうか?」 古川大貴は戸惑った。「ですが……」「ええ、古川さんにも事情があるのは分かります。でも、あの桜を始めとしたこの家は、お祖父様の生きてきた人生そのものです」 色のすっかり変わったモノクロ写真の中で、少年は笑っていた。 徐々に成長して大人になった彼の隣に奥さんが立ち、間に子どもができて、その子どももまた、桜の木の下で何枚もの写真を撮った。「自分がいなくなったら誰も住む人がいなくなって、家が取り壊されてしまうことを分かっていたんです。 だからこそ、考え直してもらうために家族写真をつめて、わざわざ見つけてもらおうとしたんですよ」 間遠の想像に、古川大貴は息をつく。「言われてみれば、確かにおじいちゃんは、この家を大切にしていました。 庭も綺麗なままにしたいからって、休みの日に僕たちを呼びつけて庭仕事をさせるんです。 代わりにお寿司の出前を取ってくれたので、まあいいかと思ってましたが……」 古川大貴は桜の木へゆっくりと歩み寄る。「この桜は、おじいちゃんの母親、つまり僕のひいおばあちゃんが植えたものだそうです。 庭に桜を植えるのは縁起が悪いと
last updateHuling Na-update : 2026-01-05
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夜遊びと居場所①

 定時まで残り十分もない頃、突然、所長の久我健人に声をかけられた。「神崎、すまないが残業してくれないか?」 キーボードに置いた手を止めて、事務員の神崎寿直は返す。「別にかまいませんけど、何かあったんですか?」「相楽から連絡があったんだが、電車が人身事故で止まったらしくてな。今日は彼にもう一件、頼もうと思っていたんだが……」「そのもう一件を、まさかおれに?」 神崎が怪訝な顔を向けると、久我は苦笑した。「そのまさかだ」「所長が行けばいいじゃないですか」「すまない、今夜は間遠と食事をする予定なんだ。レストランも予約済みで動かせない」 壁にかけられたホワイトボードに目をやり、神崎は言う。「間遠さんが直帰なのって、その都合だったんですね」「すまない。なんなら、相楽に合流させてもいい」 神崎はため息をついてみせた。「内容によります」「子どもの素行調査だ。夜に出歩くのをやめさせたいという話で、そのためなら手段は問わないそうだ」「非行少年ってことですか? それじゃあ念のため、相楽くんにも来てもらいましょう」「分かった。今詳細を送ったから、確認してくれ」 そう言って久我はいそいそと席を立ち、帰り支度を始めた。「鍵はいつものところに。何かあれば、連絡してくれていいからな」「分かりました。どうぞ、楽しんできてください」 皮肉をこめてにこりと笑った神崎だが、久我はそれどころではない様子で、足早に事務所から出ていった。「あとはよろしく」 明らかに浮き足立っている。やはり間遠と過ごす時間は久我にとって特別らしい。 何だか胸がもやもやしたが、神崎はすぐにスマートフォンを取り出して、依頼内容の詳細へ目を走らせた。 調査対象は都内の公立校に通う高校二年生の川森翔真。 数ヶ月前から夜遅くまで出歩くようになり、時には怪我をして帰宅したこともあるという。 両親はよからぬことをしているのではないかと危惧して
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