パリの夜は、いつも眩しすぎた。 ランウェイに降り注ぐスポットライト。何千というフラッシュの奔流。熱狂する観客たちの視線が、まるで無数の針のようにレオン・ヴァルガスの肌を刺す。 足を踏み出すたび、シルクのシャツが身体に纏わりつく。計算され尽くした歩幅。完璧な角度で顎を引き、遠くを見つめる眼差し。すべてが、何年もかけて磨き上げた技術の結晶だ。 ランウェイの最前列には、ヴォーグやエルの編集長たちが座っている。彼女たちの満足げな表情が、レオンの市場価値を物語っていた。二十八歳。モデルとしては決して若くないが、レオンには「完璧」という付加価値があった。 百八十八センチの長身。彫刻のように整った顔立ち。琥珀色がかった瞳。アルゼンチン人の父とフランス人の母から受け継いだエキゾチックな美貌は、どんなブランドの服をも引き立てる。 ショーが終わり、バックステージに戻ると、スタイリストやメイクアップアーティストたちが祝福の言葉を投げかけてきた。「レオン、完璧だったわ!」「さすがね。あなたがいるとショー全体が引き締まる」 レオンは完璧な営業スマイルで応じた。笑顔を作ることは、呼吸をするのと同じくらい自然になっていた。 控室のドアをノックする音。「入って」 扉が開き、深紅のドレスに身を包んだ女性が姿を現した。マリアンヌ・デュボワ。フランスを代表する女優で、今夜のアフターパーティーの主役の一人だ。「レオン、素晴らしかったわ。今夜のパーティー、私の隣に座って?」 彼女の微笑みには明確な誘いが含まれていた。豊満な胸元を強調したドレス、艶やかな唇、挑発的な視線。どんな男でも心を奪われるであろう完璧な美女。「ああ、もちろん。光栄だよ」 レオンは紳士的に応じ、彼女の手の甲に軽くキスをした。マリアンヌは満足げに微笑み、香水の残り香を残して去っていった。 ドアが閉まった瞬間、レオンの表情から笑顔が消え失せた。 鏡の前に座り、自分の顔を見つめる。完璧なメイク。完璧な髪型。完璧な……嘘。 また、だ。 またこの茶番が始まる。 レオンは誰にも言えない秘密を抱えていた。どれほど美しい女性と二人きりになろうとも、どれほど親密な雰囲気を作ろうとも、彼の身体は決して反応しないのだ。 最初は単なる疲労だと思った。ファッションウィークの過密スケジュールが原因だと。次にストレスを疑っ
最終更新日 : 2025-12-08 続きを読む