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第三章:残酷な真実

作者: 佐薙真琴
last update 最終更新日: 2025-12-08 07:33:07


 目を覚ましたレオンを襲ったのは、激しい頭痛と吐き気だった。

 頭が割れるように痛い。口の中は乾ききっていて、全身が重い。どれだけ飲んだのか。

 ゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が視界に入った。白いシーツ、高級そうなカーテン、広々とした部屋。

 ここは……ホテル?

 記憶を手繰り寄せる。パーティー。テラス。カード。地下のラウンジ。そして――。

 黒髪の人物。

 レオンの心臓が跳ねた。

 隣を見る。そこには、誰かが眠っていた。

 黒い髪が枕に広がり、白いシーツに包まれた華奢な身体。整った横顔が、朝日に照らされている。

 昨夜の記憶が、断片的に蘇ってくる。

 熱いキス。絡み合う肌。初めて感じた昂揚。声を上げた自分。相手の温もり。

 そして――。

 レオンの顔が蒼白になった。

 シーツがはだけた相手の身体を見て、確信した。

 胸元のライン。肩の形。首筋から鎖骨にかけての骨格。

 どれも、女性のものではない。

「……嘘だろ」

 震える手で、相手の肩に触れた。

 その瞬間、黒髪の人物がゆっくりと目を開けた。

 琥珀色の――いや、金色に近い瞳。

 どこかで見たことがある。この瞳を、確かに知っている。

 相手は微笑んだ。どこか悪戯っぽく、それでいて妖艶な笑み。

「おはようございます、···

 時が止まった。

 兄さん、という言葉が、レオンの頭の中で何度も反響する。

「……アレクシス?」

「そうです。まさか、気づいてなかったんですか?」

 アレクシス・ノワール。

 レオンの母が三年前に再婚した相手の連れ子。義理の弟。

 再婚式の時、一度だけ会った。その時も、アレクシスは女装していた。長い黒髪、中性的な顔立ち、どこか掴みどころのない雰囲気。挨拶を交わしただけで、それ以来ほとんど接触はなかった。

 アレクシスはモデルとして活動していると聞いていた。だが、まさか――。

「お前……なぜ、こんなことを」

 レオンの声は震えていた。

「なぜって?」

 アレクシスは身を起こし、レオンの頬に指先を這わせた。

「昨夜、兄さん、すごく感じてましたよね。声も出してたし、ちゃんと勃ってましたよ?」

「っ!」

 レオンは彼を突き飛ばし、シーツで自分の身体を隠した。顔が熱い。羞恥と怒りと混乱が渦巻いている。

「これは……事故だ。俺は、お前が男だと知らなかった」

「でも、事実は変わりません」

 アレクシスは悪戯っぽく笑った。黒髪が肩から流れ、朝の光を受けて艶めいている。シーツを纏っただけの姿は、どこまでも妖艶だった。

「完璧なトップモデル、レオン・ヴァルガス。女は抱けないのに、男になら反応する――面白い秘密ですね」

「黙れ!」

 レオンの怒鳴り声が、部屋に響いた。

 アレクシスは一瞬だけ驚いた表情を見せたが、すぐに元の余裕ある態度に戻った。

「怒らないでください。俺は、兄さんを責めてるわけじゃありません」

「じゃあ、何だ」

「むしろ、助けたいんです」

「……何?」

 アレクシスはベッドから降り、レオンに近づいた。シーツを纏っただけの姿が、危険なほど魅惑的だ。

「兄さんの悩み、知っています。女性と関係が持てないこと。業界では有名な話ですよ」

「……」

「でも、昨夜証明されたじゃないですか」

 アレクシスはレオンの耳元で、甘く囁いた。

「兄さんの身体は、壊れてなんかいない。ただ、·······················

「俺は……········

 レオンは否定したが、声に力がなかった。

 昨夜のことを思い出す。あの熱さ。あの昂揚。初めて感じた、生きているという実感。

 すべて、男に抱かれたことで得たものだった。

「否定するのは自由です。でも」

 アレクシスの指が、レオンの唇をなぞった。

「また、俺に抱かれたくなったら、いつでも言ってください。兄さんの秘密、守ってあげますから」

「……二度と、こんなことはない」

「ふふ、そうですか」

 アレクシスは満足げに笑い、床に散らばった服を拾い始めた。

 黒いドレスを身に纏う姿を、レオンは呆然と見つめていた。

 昨夜は酔っていたから、よく見えなかった。だが今、改めて見ると――アレクシスは本当に美しかった。

 男なのに。義弟なのに。

 なぜ、こんなにも心が乱されるのか。

「じゃあ、またいつか」

 アレクシスは部屋を出て行く前に、もう一度だけ振り返った。

「あ、そうだ。一つ忘れてました」

「……何だ」

「次に会う時は、もっと楽しませてくださいね、兄さん」

 ウインクとともに、アレクシスは去っていった。

 残されたレオンは、ベッドに倒れ込んだ。

 何が起こったのか。

 何をしてしまったのか。

 義弟と。男と。

 最悪だ。

 だが――レオンは自分の身体が、まだ熱を持っていることに気づいていた。

 アレクシスを思い出すだけで、身体が疼く。

「くそ……」

 枕に顔を埋め、レオンは叫びたい衝動を抑えた。

 自分が何者なのか。

 何を求めているのか。

 もう、分からなかった。

 ただ一つ確かなのは――昨夜、確かに気持ちよかったということ。

 そして、その相手が義理の弟だったという、残酷な真実だけだった。

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