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美しき仮面の下で ―― 完璧な男が堕ちた夜、義弟の腕の中で知った本当の自分――
美しき仮面の下で ―― 完璧な男が堕ちた夜、義弟の腕の中で知った本当の自分――
Auteur: 佐薙真琴

第一章:崩壊の予兆

Auteur: 佐薙真琴
last update Date de publication: 2025-12-08 07:31:44

 パリの夜は、いつも眩しすぎた。

 ランウェイに降り注ぐスポットライト。何千というフラッシュの奔流。熱狂する観客たちの視線が、まるで無数の針のようにレオン・ヴァルガスの肌を刺す。

 足を踏み出すたび、シルクのシャツが身体に纏わりつく。計算され尽くした歩幅。完璧な角度で顎を引き、遠くを見つめる眼差し。すべてが、何年もかけて磨き上げた技術の結晶だ。

 ランウェイの最前列には、ヴォーグやエルの編集長たちが座っている。彼女たちの満足げな表情が、レオンの市場価値を物語っていた。二十八歳。モデルとしては決して若くないが、レオンには「完璧」という付加価値があった。

 百八十八センチの長身。彫刻のように整った顔立ち。琥珀色がかった瞳。アルゼンチン人の父とフランス人の母から受け継いだエキゾチックな美貌は、どんなブランドの服をも引き立てる。

 ショーが終わり、バックステージに戻ると、スタイリストやメイクアップアーティストたちが祝福の言葉を投げかけてきた。

「レオン、完璧だったわ!」

「さすがね。あなたがいるとショー全体が引き締まる」

 レオンは完璧な営業スマイルで応じた。笑顔を作ることは、呼吸をするのと同じくらい自然になっていた。

 控室のドアをノックする音。

「入って」

 扉が開き、深紅のドレスに身を包んだ女性が姿を現した。マリアンヌ・デュボワ。フランスを代表する女優で、今夜のアフターパーティーの主役の一人だ。

「レオン、素晴らしかったわ。今夜のパーティー、私の隣に座って?」

 彼女の微笑みには明確な誘いが含まれていた。豊満な胸元を強調したドレス、艶やかな唇、挑発的な視線。どんな男でも心を奪われるであろう完璧な美女。

「ああ、もちろん。光栄だよ」

 レオンは紳士的に応じ、彼女の手の甲に軽くキスをした。マリアンヌは満足げに微笑み、香水の残り香を残して去っていった。

 ドアが閉まった瞬間、レオンの表情から笑顔が消え失せた。

 鏡の前に座り、自分の顔を見つめる。完璧なメイク。完璧な髪型。完璧な……嘘。

 また、だ。

 またこの茶番が始まる。

 レオンは誰にも言えない秘密を抱えていた。どれほど美しい女性と二人きりになろうとも、どれほど親密な雰囲気を作ろうとも、彼の身体は決して反応しないのだ。

 最初は単なる疲労だと思った。ファッションウィークの過密スケジュールが原因だと。次にストレスを疑った。トップモデルとしてのプレッシャーが、一時的に身体の機能を狂わせているのだと。

 だが、どれだけ休養を取っても、どれだけリラックスしようとしても、結果は同じだった。

 美しい女性。魅力的な女性。世界中の男たちが憧れるような女性たち。

 それなのに、レオンの身体は何も感じなかった。

「俺は……欠陥品なのか」

 鏡の中の自分に向かって、自嘲気味に呟く。完璧な顔が、ひどく醜く見えた。

 テーブルの上のシャンパングラスを手に取り、一気に煽る。冷たい液体が喉を焼いた。

 過去に何人かの女性と関係を持とうとした。いや、正確には持とうとして、失敗した。相手の期待に満ちた瞳が、次第に困惑と失望に変わっていく様を、レオンは何度も目撃した。

「疲れてるのね」と優しく言ってくれる女性もいた。

「次は大丈夫よ」と励ましてくれる女性もいた。

 だが、次も、その次も、結果は変わらなかった。

 やがてレオンは、女性との親密な関係を避けるようになった。表面的な付き合いはする。デートもする。キスくらいならする。しかし、それ以上は決して進まない。

 業界では「レオン・ヴァルガスは誰とも寝ない」という噂が広まった。「彼は仕事一筋のストイックな男だ」「本当の恋を探しているロマンチストなんだ」――人々は勝手に美談を作り上げた。

 レオンは、その虚像を演じ続けた。

 完璧なトップモデル。誰もが憧れる男。

 その裏で、自分の身体が機能不全を起こしていることを、誰にも打ち明けられずに。

 携帯が震えた。メッセージだ。

 マリアンヌからだった。

『パーティー、楽しみにしてるわ。今夜は特別な夜にしましょう♡』

 レオンは携帯を放り投げた。

 またか。

 また、期待を裏切らなければならない。また、完璧な男を演じ続けなければならない。

 疲れた。

 本当に、疲れた。

 自分が何者なのか。何を求めているのか。何に反応するのか。

 分からない。

 分からないまま、ただ虚像を演じ続ける日々。

 レオンは深いため息をつき、立ち上がった。パーティーの時間だ。また仮面を被らなければ。

 控室を出る直前、もう一度だけ鏡を見た。

 そこには、完璧な男が映っていた。

 美しく、冷たく、空虚な――人形のような男が。

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  • 美しき仮面の下で ―― 完璧な男が堕ちた夜、義弟の腕の中で知った本当の自分――   第二章:禁断の夜

     アフターパーティーの会場は、セーヌ川沿いの歴史的な邸宅だった。シャンデリアの煌めき、弦楽四重奏の優雅な調べ、シャンパンの泡がグラスで弾ける音。パリの社交界が集う、華やかで排他的な空間。 レオンはマリアンヌの隣に座り、完璧な笑顔で会話を続けた。彼女は楽しそうに笑い、頻繁にレオンの腕に触れてくる。「ねえレオン、今度の週末、私の別荘に来ない? プロヴァンスよ。静かで素敵なところなの」「素晴らしい提案だね。でも残念ながら、週末は東京で撮影があるんだ」「あら、残念」 マリアンヌは少し不満げだったが、すぐに笑顔を取り戻した。 時計を見る。まだ十時だ。このペースだと、パーティーは深夜まで続く

  • 美しき仮面の下で ―― 完璧な男が堕ちた夜、義弟の腕の中で知った本当の自分――   第三章:残酷な真実

     目を覚ましたレオンを襲ったのは、激しい頭痛と吐き気だった。 頭が割れるように痛い。口の中は乾ききっていて、全身が重い。どれだけ飲んだのか。 ゆっくりと目を開けると、見知らぬ天井が視界に入った。白いシーツ、高級そうなカーテン、広々とした部屋。 ここは……ホテル? 記憶を手繰り寄せる。パーティー。テラス。カード。地下のラウンジ。そして――。 黒髪の人物。 レオンの心臓が跳ねた。 隣を見る。そこには、誰かが眠っていた。 黒い髪が枕に広がり、白いシーツに包まれた華奢な身体。整った横顔が、朝日に照らされている。 昨夜の記憶が、断片的に蘇ってくる。 熱いキス。絡み合う肌。初めて感じ

  • 美しき仮面の下で ―― 完璧な男が堕ちた夜、義弟の腕の中で知った本当の自分――   第八章:危険な共演

     撮影当日。 都内の高級スタジオには、朝から緊張した空気が漂っていた。 レオンは控室で、鏡の前に座っていた。メイクアップアーティストが丁寧に化粧を施しているが、レオンの表情は硬い。「レオンさん、大丈夫ですか? 顔が強張ってますよ」「……ああ、大丈夫だ」 嘘だった。 全然、大丈夫じゃない。 もうすぐ、アレクシスが来る。 あの夜以来、連絡は取っていない。何を話せばいいのか分からない。 そして、ゴシップ記者のことも頭から離れ

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