All Chapters of Your'e My Only Shinin' Star〜あなたに逢いたい〜: Chapter 131 - Chapter 140

140 Chapters

131

その日、准は戸部から一方的な報告を受けた。〝真田芽衣の投薬治療は終了した。残りの服薬治療に関しては、本人と家族の希望により、他所で行うことを決定した。〟というものだった。「それは、どういうことですか?」意味がわからずそう尋ねた准に、だが戸部は同じ事を繰り返し言っただけだった。准は苛立たしげに更に問うた。「では、どこで服薬治療を行うのか、教えてください」『それに関してはー』本人の希望により、あなたには教えられません。そう言われた。ショックだった。これまでただの一度も、芽衣は自分に内緒で何かをするなんてことはなかった。例えば誕生日のサプライズでさえ、彼女は我慢できずに「お誕生日、楽しみだね〜」などと匂わせていたのだ。それが…。准は初めて彼女に拒否された感覚に、胸が締めつけられるようだった。芽衣…。自分は、彼女の信頼を失ったのか…?呆然としていていつの間にか切れていた通話に、准はスマホを投げだし大きく息をついた。戸部の口調から、彼女たちが既に研究施設を出ていることが察せられた。どこだ?どこに行った?考えられるのは怜士のところか、各地に点在する別荘のどこかにいるのでは…。そう思い、准は急いで怜士に連絡を取った。だが、彼は「来ていない」と言った。それが本当なのかどうかすら、わからない。他にも各地の別荘やホテルを捜させた。が、どこを捜しても見つけられなかった。准は気が狂いそうに焦った。十中八九そうだと思った場所にいなかったことが、彼の思考を混乱させていた。ダンッ!!苛立ちをぶつけるように拳を叩きつけて、准は更に思考を巡らせた。*「わぁ〜、綺麗だね〜」芽衣のはしゃいだ声に、尚はホッと息をついた。A国。ここは前世、尚が聖人と共に過ごし、生涯を終えた場所だ。怜士も知らない田舎町にあって、景色の良い小さな家だった。使用人もいない。完全に、家族3人だけの空間だ。「不便だと思う?」隣に立つ夫に訊くと、彼はニコッと笑って否定した。尚は元々自分だけで生活をしていた。使用人を使うような生活は、聖人と結婚してから得たものだ。だから家事などにも困らない。彼女は久しぶりの感覚に、実は少し開放感も感じていた。この家は、作家の仕事で稼ぐようになってすぐに手に入れていた。思い出の場所であり、心が安らぐ場所だったからだ。今回、准には
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数週間後。「まだ見つからないのか!?」准は、手元の書類をバサッ!と投げ捨てた。本田はそれを見て静かにため息をつくと、黙ってしゃがみ込み、それらを拾って整えたのだった。「彼らの足取りはA国で途絶えています。そこから他国へ行った可能性もありますので、今は全ての搭乗者記録を確認中です。ですが、まだA国に滞在している可能性もありますのでー」「御託はいい。世界中、ひっくり返してでも捜せ!っ…」「社長ー!」顔を青ざめさせ、ふらついて机に手をついた准に駆け寄り、本田は言った。「あまり眠っていらっしゃらないのでは?根を詰めすぎるのはよくありません。少しでも横になってください」「うるさいっ…」准はこめかみを指で揉み、はぁ…と息を吐き出した。本田はそんな彼にお茶を淹れ、そっと目の前に差し出した。「ご両親も一緒にいらっしゃるんです。危険なことはないはずです。焦らず、じっくり捜しましょう」「……」そんな励ましは、准にとってなんの意味もないものだった。その頃ー。「メイ!」バタンッと勢いよく玄関ドアを開けて入って来たのは、近所に住む小さな女の子だった。「Hannah(ハナ)、どうしたの?」キッチンで尚と一緒にクッキーを作っていた芽衣は、目をパチクリさせて飛び込んで来た彼女を見た。ハナは今の家に来て初めてできた友達で、尚が言うには、普段この家の管理を任せている家族だということだった。お爺さんとお婆さん、お母さんとハナ。あとは、街の学校に行く為に家を出ているハナのお兄さん。お兄さんには会ったことがないからわからないが、皆優しい人たちだった。「あ!クッキーだ!」駆け寄って来たハナが嬉しそうにテーブルにしがみつくのに、尚は笑って「後で持って行くね」と言い、芽衣に手伝いはもういいから…と頷いた。芽衣はエプロンを外して汚れた手を洗い、ハナの前にしゃがんだ。「何か用事?」小首を傾げてそう問うと、彼女は「あ!」と思い出したように芽衣の手を取った。「お兄ちゃんが帰って来たの!メイ来て!」「え?でも…」「いいから!」小さな女の子にぐいぐいと手を引かれ、芽衣は困ったように母親を見た。尚はその様子に楽しそうに微笑い、「行っておいで」と彼女を促した。ハナと芽衣が揃って出て行く姿を見送りながら、尚は思い出していた。前世、彼女は親友の美月の遺骨を持って
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学校には行きたい。でも……。明らかに落ち込んでいる芽衣に、リオンは不安そうに尋ねた。「どうしたの?僕…何か悪いこと言ったかな…?」 「ううん…」芽衣は緩く首を振ると、淡く微笑んだ。「もうずっと、学校に行ってないから…」「あ……」そうだった。彼女はずっと病気の治療で学校には行けてないって、母さんが言ってたのに…。リオンは自分の迂闊さに、思わず頬を叩いた。ペチッ!「きゃっ…!何してるの!?」慌てた芽衣が、リオンの頬を叩いた手を握りしめた。「なんで、叩いたの?」心配そうにそう尋ねる芽衣の瞳には、じわりと涙が滲んでいた。「ごめん…。僕が、無神経なこと言ったから…」「無神経…?」首を傾げる芽衣に、リオンは説明した。「学校のこと。病院にいたから、行けてないって聞いてたのに…」「……」芽衣はパチパチと瞬きして、そしてふわりと笑った。「気にしてないよ。大丈夫、もう退院したから」その笑顔に、リオンの胸がドキンと鳴った。意識をすると、それはドキドキと早鐘のように胸を打ち鳴らし、今頃になって握られた手をどうしようかと焦りだした。その時、「お兄ちゃん、なんで顔赤いの?」ハナが不思議そうに訊いてきた。「あ、ほんとだ。お熱があるのかな?」「え!?大変だっ」それを聞いたハナと、芽衣が慌てて「どうしよう?お母さん呼んでくる?」なんて言い出すものだから、リオンまで慌てて両手をぶんぶんと振って否定したのだった。「だ、大丈夫!熱じゃない!あ…暑いだけ!」そう言って、彼はバタバタと家の中へと入って行ってしまった。残された芽衣とハナはポカーンとその場に立ち尽くし、2人で顔を見合わせて首を捻っていた。「暑い…?」「そうだって…」彼女たちは、どちらかといえば肌寒い今日の天気を不思議そうに見上げて、どちらからともなくリオンに続いて家の中へと歩き出したのだった。ハナの家のリビンクには、落ち着きを取り戻したリオンと祖父母が座っていて、芽衣が現れると笑顔で歓迎してくれた。「メイ、こっちにおいで。お婆ちゃんの隣に座って」彼女は芽衣の手を取り、優しく自分の隣へと導いた。「ありがとう。お婆ちゃん」芽衣はニコッと笑うとそこへ座り、自然と家族団らんに加わった。その様子は、彼女がもうずっとこうしてこの家に馴染んでいるのだと教えてくれた。リオンはそんな
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「准さんっ」前をスタスタと歩く男に、紗英は必死でついて行った。今夜は、真田エンターテインメントに所属する俳優が主演した映画が海外で賞を獲ったということで、華々しい祝賀会が開かれていた。その俳優はこれを機に海外進出も視野に活動範囲を広げることになり、今日は顔繋ぎの目的もあって、各分野の大物や実力者も大勢招かれていた。関係事務所のスタッフやタレントなども招いて場を華やかに盛り上げていたおかげで、この祝賀会はきらびやかなものとなっていた。そんな中、紗英は事務所を代表するモデルの一人として、社長やマネージャーと共に参加をしていた。彼女は身体のラインを強調したドレスを身に着け、髪の毛を結い上げてその細いうなじを晒していた。首元にはキラキラと輝く宝石が散りばめられたネックレスが飾られ、彼女の魅力を更に引き立てているようだった。紗英はモデルらしく細身でありながら出るところは出て、引っ込むべきところは引っ込んだ、完璧ともいえるスタイルをしている。そんな彼女は会場に入った時から注目の的で、いろんな男たちから声をかけられていたが、誰一人として彼女の手を取ることに成功していなかった。それもそのはず、「あら、紗英じゃない?どうしたの、こんなところで。あなたの未来の旦那さま、あっちにいたわよ?」「……」彼女は今や、この界隈で〝あの真田准をおとした女〟として有名だったからだ。でも誰もが知っていた。それが単なる彼女の独りよがりで、実際はまったく相手にされていない…という事実を。わざとらしく〝未来の旦那さま〟と言ったモデル仲間は、自分の言葉に黙って睨みつけてくるだけの紗英をふふんっ…と嘲笑った。「私を睨みつけてる暇があったら、彼に弁解しに行ったら?」そう言って、周りにいた取り巻きの女たちと〝ごめんなさ〜い〟〝どうしてもあなたの妻になりたいの〜〟などとふざけた口調で腰をくねらせ、彼女をからかってきた。紗英は悔しさに歯噛みして、ダンッと足を踏み鳴らすとぷいっとその場を後にした。そして偶然見つけた准を追って来たところ、彼に氷のような視線を浴びせられ、その場に足を縫い付けられたのだった。「准さー」「桐谷家の躾はいったいどうなってるんだ?」呼びかけようとした言葉を遮られ、彼女は口を閉ざすも准は容赦なかった。「口を開けばデタラメばかり、仕事はいい加減、責任も取ら
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「ひどいわっ…」眉をきゅっと寄せて泣きそうな声で訴えるも、准は首を傾げるだけだった。「ひどい?私のことか?」「そうよ!」「紗英、やめろっ」そのとぼけた声に腹が立って、紗英は兄の匠が止めるのも聞かずに言い放った。「ちょっと映像をイジっただけじゃないっ。大したことじゃないでしょ!?」「ちょっとイジっただけ…?」彼女の言葉が放たれた瞬間、准の雰囲気が変わった。「お前のその行動が、俺の婚約者の命を奪う結果になるかもしれなくても…そう言えるのか…?」「え……」命を奪う?なにそれ。まさか…あんなことくらいで、自殺でもしたっていうの?紗英が戸惑いに眉を顰めると、准がジリ…と一歩踏み出した。「答えろ。言えるのか?」「っ…」紗英は咄嗟に恐怖を感じて一歩下がる。とー。「キャッ!」「紗英!」下がったところがちょうど階段の縁で、彼女の身体がグラリと傾いた。匠が飛び出して彼女に駆け寄って来たが、紗英は慌てて自力で手摺を掴み、事なきを得た。その間、准はといえば、慌てるでもなく、ただ冷たく彼女の様を見ているだけだった。助けるつもりもない。いっそ、このまま落ちてしまえ…とでもいうように、手摺に掴まってホッと胸を撫で下ろしている彼女に向かって、ふん…と鼻を鳴らすことさえした。「あなた……」青ざめた顔で紗英が呟くと、准はつまらなそうに息をついた。「惜しかったな…」「!!」小さな声で残念そうに吐き捨てる彼に、紗英はゾッと血の気が引くのを感じた。正気なの…?彼女の唇が微かに震えるのに、准は僅かに口の端を上げて嗤った。「お願い……」許して…。懇願するように呟くと、彼は明らかにバカにした視線を向けてきた。「今更か?」「……」恐ろしかった。そしてー。紗英が恐怖に思考を手放したその頃になって、この祝賀会の主催者で真田エンターテインメント社長、そして准の叔父でもある真田英明がやって来た。「何事だ?」「あの…っ」「なんでもないよ」紗英の言葉に被せるようにして平然とそう言った准に、英明はチラリと階段に蹲る彼女を見て、そして言った。「ここではやめといてもらえるかな?」「!?」紗英はその言葉に愕然とした。助かったと思った瞬間に、そのまま地獄へ落とされた気分だった。だが准は、気に入らない…とでもいうような顔で口を開いた。「場所は選ばな
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「わ、私…」何か言わなければ…。そう思って紗英が口を開きかけると、ふ…とそれまであった准の凍るような、威圧的な雰囲気が嘘のように霧散した。「…?」見上げると、彼は身体を起こし、空になったグラスを手摺の上にトン…と置いて、ワインで濡れた指をハンカチで拭っていた。彼の側にはいつの間にかあの、本田とかいうか秘書が立っていた。准は汚れたハンカチを彼に渡し、サッサッ…と服の埃を払う仕草をした。「まぁ、いいさ。今日の主役は、君たちじゃないからね」「……」紗英の髪の毛から、ぽたり…とワインの雫が落ちた。ここまでやっといて…まぁ、いい…って…?呆然とする彼女の唇は薄っすらと開き、はく…と何かを言いかけるように動いた。だが准はそれらを全て無視して会場を見渡すと、〝今日の主役〟の俳優に目を留めた。「悪かったね」そう言って微笑むと、彼は本田を連れて去って行ったのだった。「……」残された桐谷兄妹は、英明に指示された使用人たちによって会場から控室の方に移動させられ、そこで身支度を整えた。そして英明からの伝言だと伝えられた言葉は、「車の手配をしたから、帰りなさい」という丁寧な拒絶だった。匠はこの事で英明へと繋がる糸を断ち切られ、おそらく今後、この業界で大成することは難しいだろう…と思った。紗英の我儘に頷いてさえいなければ…。今更ながら後悔しても、何の役にも立たなかった。匠は、濡れた髪を使用人によって乾かしてもらいながらも呆然と座る妹をチラリと見遣って、深くため息をついたのだった。*その頃准はー。本邸に戻る車の中、逸る気持ちを宥めるようにシートを指で叩いていたところ、本田から待ちに待った報告を受けた。「芽衣さんたちを見つけました」その言葉を聞いた時、彼はハッと顔を上げ、本田に向き直った。「本当か!?どこにいた!?無事なのか!?」矢継ぎ早に問いかけると、本田は苦笑して頷いた。先ほど会場で、彼から「急ぎの報告がある」と聞かされた時、准の中に予感がしたのだ。芽衣のことに違いない…と。だからあの兄妹を放って会場を後にした。だが不思議と顔色のあまり良くない本田に、准は眉を寄せたのだった。「何かあったのか?」まさか、外に出たことでまた何かに感染したのか…?彼の不安を察したのか、本田は一つため息をつくと言いにくそうに口を開いた。「詳しくは戻
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リオンには一つ年上の彼女がいる。その彼女Mia(ミア)に自分も紹介してほしいと言われ、後で来る予定なのだと教えられた。「あ〜…もしかして、誤解されてる?」尚にそう訊かれ、リオンはハハ…と気まずげに笑った。確かに。今までは長い休みの時にしか帰省しなかったらしいのに、ここのところ彼は毎週末帰って来ていたのだ。何かある。そう思われても、仕方なかった。「私から説明しようか?」「あ、いえ…会えばたぶん、理解してもらえると思います」「?」リオンの言葉に尚は首を傾げたが、まぁ、本人がいいと言うならいいんだろう…と納得することにした。芽衣たちは今、リオンが学校に申請して発行してもらった〝面会カード〟を首からぶら下げている為、比較的自由に校内を見て回ることができた。彼女はハナを連れて早速あちこち見て回り、裏庭にあたる場所で「わ〜っ」と歓声をあげていた。そこには大きな花壇がいくつもあって、色とりどりの花々が咲いていたのだ。所々には小さなテーブルや椅子が置かれていて、ここに座って日向ぼっことか気持ちよさそうだなぁ…などと想像させた。ハナはここに来た途端に走り出し、あっという間に奥の方まで行ってしまった。「ハナ〜っ」呼びかけると、「いるよ〜っ」と返事が返ってきて、芽衣も安心して周りの景色を楽しむことにした。「いっぱい咲いてる」芽衣は嬉しくなってふふっと笑った。尚からの言いつけで触ったりはできないけれど、見ているだけで楽しかった。その時ー。「こんにちは」カサ…という足音の後、優しく声をかけられて芽衣は視線を上げた。「こんにちはっ」ニコッと笑って応える彼女に、その女性は曖昧な微笑みを浮かべた。「一人?」「ううん。お友達、と一緒…だよ」庭の奥を指差してそう言う芽衣に、女性もそちらの方に目を向けて「そう…」と答えた。「?」芽衣は、自分に声をかけてきたこの見知らぬ女性が自分に用があるとは思わず、そのまま目の前で風に揺れる花に目を戻した。「綺麗ね〜」花壇の前にしゃがんで花を見つめる少女は、とても可愛らしかった。肩にかかるくらいの髪の毛はサラサラのツヤツヤで、風が吹く度に優雅に揺れていた。彼女は花々を嬉しそうに見て、時々声をかけていた。日差しが彼女の頭頂部に綺麗な輪っかを作り、その姿はさながら天使のようだった。「花、好きなの?」尋ねる
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「尚…?」不意に呼ばれて、振り向いてしまった。「美月!?」そこにいたのは長年の親友で、今となっては義理の姉となった美月だった。「どうしてここに?」尋ねると、彼女は遠くに見える建物を指さした。「あそこの楽器店に用があったの。……で?あなたは?なんでここにいるの?」彼女は優しく微笑みを浮かべていたが、その目はまったく微笑っていなかった。「ずっと、A国にいたの?」「…えっと……」尚がモジモジと指を弄っていると、美月は深いため息をついた。「分かってると思うけど。すっごく心配したのよ?」「……」眉を顰めて諭されると、尚は何も答えられなかった。ただ…「ごめんなさい…」小さな声でそう呟くと、彼女はもう一度ため息をついた。「いいわ。じゃあ…こうしましょ。今日はうちに来て。怜士に事情を話して」「それは……」上目遣いで断ろうとすると、美月はわざとらしく睨みつけてきた。「ダメよ。もう決めたの。怜士にも言っておくから、絶対に来なさい。来なかったらー」「行く!行きます!」尚は美月の怖さを知っていた。だから、反射的にそう答えていた。学生時代もこれまでも、彼女は的確に尚の弱点を突いてくる。普段は無害な女なのに、一旦やり込めると決めたら本当に容赦ないのだ。尚は渋々と了承し、はぁ…とため息をついた。「美月…准くんには言わないで…?」「それは、あなた達次第よ」呆れたように告げる彼女に、尚は眉を寄せた。「困ってるの?」「困ってる」「そう。自業自得ね」「……」美月〜と縋りついても、彼女はふんっとそっぽを向いた。どうやら、今回は本気で彼女を心配させてしまったらしい…。尚はこれ以上の抵抗をやめた。諦めた。どうせ美月には敵わないのだ。学生時代から、彼女に助けられてから、尚は美月にだけ弱かった。といっても、美月が尚を頼ってくることもある。つまり、自分たちはWin-Winの関係なのだ。そう納得して、尚は「ま、いいか」と一人呟いたのだった。*「美月ちゃ?」尚と話していると、芽衣が戻って来た。彼女の側には小さな女の子と、少し年上なのか?大人っぽい女の子がいた。「芽衣ちゃん、久しぶりね。後でおばさんのお家に皆でおいでね?」美月は優しく微笑んで、芽衣の髪の毛をそっと撫でた。その言葉に芽衣は「うんっ」と瞳を輝かせ、美月の手を両手でぎゅっ
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「ちょっと待ってよっ」その時、それまで黙って事の成り行きを見ていたミアが割り込んできた。「ミア!?」「みぁちゃ…?」リオンと芽衣が同時に口を開いたが、彼女はそれを無視して美月に突っかかった。「あなた、何なの!?いきなり来てっ。私たちはずっと前から約束してたのよ?それをー。失礼だわっ」ずいっと顔を近づけてそう文句を言う彼女にリオンは慌てたが、言われた美月は恐れるでもなく、淡々と言い返した。「それについては謝るわ。でも…こちらも呑気にしてられないの。なんせ彼女たち、家族で行方をくらませてたんだかー」「はぁ!?」「……」目の前で叫ばれて、美月は眉を顰めた。言葉を遮られたことに不快感を覚えたらしい…。尚は思った。なんか…怜士さんに影響されてない?彼ほどの傲岸不遜さはない。ないけど…なんか…。尚はチラリと親友の顔を見て、視線が合ったことにギクッとした。「なに?」問われて、咄嗟にブルブルと首を振った。怖……。一見しらっとした表情だったが、長年の付き合いで分かる。彼女は怒っている。それも、とても…。尚はこれ以上彼女の機嫌を損ねたくなくて、にっこり笑うとリオンに言った。「ごめんね。彼女さんも。また会いましょう?」「は?ちょっとー……んぐっ…」素早く纏めた尚の言葉に反論をしようと乗り出したミアに、場を読んだリオンが咄嗟に口を塞いだ。「ンー…ッンン…ンーッ」もがもがと藻掻くミアを抑えつけ、リオンが言った。「じゃあナオさん、メイちゃん、またね!」それに尚は笑って手を振り、芽衣は首を捻りながらも手を振った。ハナは最後まで意味が分からずに首を傾げていたが、リオンの彼女のように口を出してはいけないことくらいは察していたので、そのまま黙って手を振った。三人三様の別れの様相を見送って、美月はコホンと咳をした。「もう少し後からでもよかったのに。…車で来たの?」それに首を振った2人を連れて、彼女は自分の運転手を呼んだのだった。*街の中心から外れた、比較的静かな場所にその邸宅はあった。ここは、以前准がこの国にいた時に住んでいたところだ。「わ〜、お花がいっぱい咲いてるね〜」芽衣は車を降りた途端に目に入った花々に、歓声をあげた。中心部を離れたところに建てただけあって、邸宅の前には広い庭が広がっていた。准が、芽衣が遊びにでも来た時の為
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「真田准……もしそうなら、絶対に許さない…」「……」聖人は、なぜか急に怒りだした妻に、目をパチパチとさせて驚いた。え…なんで…?さっきまであんなに不安そうにしてたのに…?彼は訳がわからず首を捻り、とりあえず彼女の頭をよしよしと撫でた。「落ち着いて。きっと、准にも事情があったんだよ」「そう?でもそうだったとしても、あれはないわっ」「あ〜…」〝あれ〟ね。確かに。あれはないな。聖人もそこはうんうんと頷いた。彼女の言う〝あれ〟。それは、あの最後に見た、結婚式の映像だった。どんな意図があったにせよ、あれはない。聖人の同意に、尚も「そうでしょう!?」と勢い込んだ。その時、2階の奥にある書斎のドアが開閉する音がした。「怜士」美月が呼ぶと、彼は一つ頷き皆の顔を見回した。芽衣の顔に目を留めた彼はふ…と笑うと、「体調はいいのか?」と問うた。「だいじょぶよ」大好きな伯父の優しい表情に、芽衣はにっこりと笑った。怜士は階段を降りて近づいてくると、弟の聖人とその妻、尚に向かって言った。「お前たちがここにいることは、准に報告した」「は?」素早く反応した尚が美月を見ると、彼女も驚いたような顔をしていた。「怜士、どうしてそんなことを?」「そんなこと?」困惑気味に尋ねる美月を見て、怜士は彼にしては珍しく強い調子で告げた。「確かに当主の座は譲ったが、俺は別に死んだ訳じゃない。一族の者が行方不明だと聞いて、知らん顔ができるとでも?」「それは……」口ごもる美月に、更に言った。「お前たちは昔からあれのことを知っているからか、子供扱いしすぎだ。あれの人脈は、今となっては俺よりも多いし、思っている以上に強大だ」「つまりー」既に俺たちの居場所は知られてた…てこと?聖人が尋ねると、怜士も頷いた。だが、「嘘…」「なぜ?」尚の呟きに反応した。「だって!知ってたなら、どうして迎えに来ないの!?」その言葉に、怜士の眉が跳ね上がった。「あれは恋愛だけして生きていられるほど、暇な人間じゃない。巨大企業を抱えるグループの総裁で、一族の全責任を負う当主なんだ。お前たちは、それをわかってない」皮肉げな口調に、尚はハッとして唇を噛みしめた。確かにそうだ…。そんな尚を見ながら、怜士はふんと鼻を鳴らした。「あれは全ての業務をこなしながらお前たちを捜す手配も
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