Your'e My Only Shinin' Star〜あなたに逢いたい〜 のすべてのチャプター: チャプター 101 - チャプター 110

140 チャプター

101

その後。准は、芽衣の転院準備に全力を注いだ。S国にあるその病院は医療資源においても世界のトップレベルに属しており、特に准が考えている所は同国出身の医師が何人かいることから芽衣たちも意思の疎通がしやすく、細かい心情にも配慮をしてもらえるだろうと思った。しかもそこは療養型と一体となった入院施設で、終末を家族と過ごせるようにもなっている為、部屋自体が広々としていて、一つの家のような様相を呈していた。当然ながら費用も一般には手が届かないほど高く、何もかもが特別な場所だった。にも関わらず、そこへの入院を希望するVIPが多く、その質を証明していた。今も部屋の空きがなく、順番待ちの状態で芽衣の治療は遅々として進まず、入院が決まればその時点で投薬を中止して服薬のみで状態を維持する計画も頓挫していた。「准ちゃ」その日、准が芽衣のお見舞いに行くと、久しぶりに起きている彼女を目にした。相変わらず顔は青白く、身体は今にも折れてしまいそうなほど痩せ細っていたが、その笑顔はやはり花のように柔らかかった。「芽衣、起きて大丈夫なのか?」身体を起こして枕をクッションに、起こしたベッドに凭れていた芽衣が微笑うと、准の胸に温かい気持ちが湧き上がるのを感じた。「平気」ニコニコと笑って頷く芽衣は、ベッドの側の椅子に腰かけた准の両手をぎゅっと握った。芽衣は感情を隠すことも、嘘をつくこともない。彼女からは准に対する「好き」という気持ちが溢れ出ており、それを感じた准の表情も柔らかく、その瞳は愛情に満ちていた。そんな2人を見た尚はそっと部屋を出て行き、限られた時間を存分に過ごせるようにした。今朝、彼女は主治医に告げられていた。薬の投与は今、最低限に抑えられている。副作用がひどく、衰弱の程度が高い為、もうあまり長くは持たないだろう。転院をするなら急いだ方がいい…と。当然、骨髄移植なんて、考えられない。医師からは、転院の可能性を尋ねられ、しないのならばこの先の治療をどうしたいのかを決めてほしいと言われた。このまま最期まで治療に望みを託すのか、それとも、退院して余生を楽しむのか…。前者なら余命は少しは延びる。が、ずっと入院をして副作用に苦しめられる日々になる可能性が高い。後者なら、余命は短いが残された人生を少しでも自由に生きることができる。尚は聖人に連絡を入れた。これらを准に教え
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彼の意志を曲げることのできるたった一人の人物。それが、芽衣だった。「じゃあ…話した方が…いえ、話さないといけないわね…」『ああ…包み隠さず、主治医の言葉をそのまま伝えればいい。きっと准なら、芽衣にとって一番の方法を考えてくれる』尚は涙で頬を濡らしながら、夫の言葉に頷いた。「わかった…話してくるわ」そう言って、彼女は通話を終えたのだった。*准は、S国にある芽衣の転院先と考えている病院の医院長との話し合いを終えて、深いため息をついた。直接現地へ行って話し合いを詰めたかったのだが、今はできるだけ芽衣の側にいたかった為、ビデオ通話での会合となった。結果。芽衣の転院は1週間後以降なら、いつでもいいということになった。話し合いでわかったのだが、本当はいつでも一室は空いていたのだ。満室にしてしまうと、断ることが難しい患者が来た時に対応ができないので、敢えて残していたということだった。この度准はその〝断ることが難しい〟相手になった。これから先十年間、毎年莫大な寄付をすることを条件に出したのだ。医院長は渋々ながらという顔をしながらも、その口元は隠せない喜びに僅かに緩んでいた。准はこの拝金主義の医院長に嫌悪を覚えたが、仕方ない。それはそれ。これはこれ、だ。腕のある医師が揃っていて、芽衣の生きる可能性が少しでも高まるのなら、それでいい。彼女の入院には、尚と聖人が仕事をセーブして付き添う。准は当主を引き継いだばかりで、今また家を離れることはできなかった。転院の日、准は聖人と尚、そして芽衣を見送りに空港に来ていた。プライベートジェットには彼らの他に、彼らの世話をする使用人なども同行させた。他にも、以前入院していた時と同様に、支援学校からも特別に教師を派遣してもらった。もちろん、費用は真田家で持つことを条件にして。これで芽衣は高校を辞める必要もなく、卒業できるはずだ。「芽衣、ゆっくりでいい。辛い時は辛いって言って。時々会いに行くから」搭乗前、名残惜しげに准がそう言うと、芽衣はぎゅうっと抱きついてきた。「准ちゃ、芽衣、頑張るよ。退院の時は、迎えに来てね?」「わかってる。約束するよ。絶対に、迎えに行く」そんな2人の様子を複雑な表情で見ている聖人は、既に〝花嫁の父〟の気分を味わっていた。「芽衣、そろそろ行くわよ」尚の呼びかけに、芽衣はゆっくりと
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「緊張しているか?」自国の言葉で話しかけてくるノアに、陸も同じように「少し」と答えた。やがて、高齢の大司教が朗々と婚約の儀の言葉を語り始めると、今ではかなりL国の言葉を習得している陸の眉間にシワが寄った。そしてとうとう我慢できずに、口を開いた。「ちょ、ちょっと待ってくださいっ」「……」その無礼な振る舞いに、王を始め、王妃や大司教も一様に顔を顰めた。「なんだ?」ノアが問うと、陸は躊躇いつつも口を開いた。「あの…僕の聞き間違えでなければ…今、〝王子〟と言われませんでした…?」「言った」不安げな顔つきだった陸の眉がピクリと動いた。「は…?」「何が問題だ?」平然とそう言うノアを、陸は驚愕に目を見開いて見つめた。「何がって……」彼はゴクリと唾を飲み込み、唇を震わせて続けた。「問題でしょう…?大問題ですよ!あなたは!王女でしょう!?それが、なぜ王子だと!?」今や公然と震える指を突きつけて問い詰める陸に、周りの人々がざわついた。ノアはそんな中でも顔色一つ変えず、ふんっと鼻を鳴らした。「いつ、我が王女だと言った?」「……は?」「いつだ?」堂々と言い切られて、思わず陸は一歩後退りした。「い…言われなくても……そう思うでしょう?普通……」「そうか?」「そうですよ!」みっともなく喚き散らす彼に、ノアの美しい瞳も剣呑に眇められた。「勝手に誤解をしておいて、なんて言い草だ?我は言ったろう。契約書にきちんと目を通せ、と」「……」「あれにはしっかりと書いてあったぞ?我が王子であることも。お前が、我の側妃となることも」「側妃…?」妃…?男の俺が……?「妃だって!?」ダンッ!と足を踏み鳴らした。陸の顔は今や怒りで真っ赤に染まり、額には青筋が立っていた。「ふざけるな!!誰が、男と結婚なんかするってんだ!」「……」いつの間にか、広間はシーンと静まり返っていた。彼らの正面に座る王は不快げに顔を歪め、王妃はやりきれない…というようにため息をついていた。「詐欺だ!!これは、れっきとした詐欺だ!」「なんだと…?」「なんだよ!?詐欺じゃなかったら、なんだって言うんだ!?男のくせに!そんなドレスなんか着て!」陸の言葉に、ノアは視線を自らの身体に落とした。そして再び顔を上げると、胸の前で腕を組みニヤリと笑った。「これは、趣味だ
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ギリギリと睨みつけると、海はフッ…と嗤った。「知ってた」「なに!?」「ていうか、気がついた?推測した?…て感じかな」「っ…!」海の悪びれたところのない答えに陸は咄嗟に言葉が出ず、ドンッ!と彼を強く押した。「痛いな。八つ当たりはよせよ」「うるさい!!」冷静すぎる弟に、陸は鬼のような形相で掴みかかった。「お前は!知ってたなら、どうして俺に言わなかった!?」「なんで俺が?」海は押された肩を手で払いながら言った。「お前はいつも人の意見なんか聞かないじゃないか?それで?言わなかったからって、こんな風に怒るのか?」「っ……」よく似た顔の、だがその雰囲気はまったく違う兄弟の言い争いを、ノアは面白そうに眺めていた。やがて、彼はパンパンと手を叩き、そこにいる全ての人の注目を集めた。「これ以上は、後にしろ。陸、まだ式は終わってないぞ」「ふざけるな!誰が続けるか!」フーフーと息を荒く吐き出す陸に、ノアは一度ゆっくりと瞬くと、低く抑えた声音で告げた。「つまり…契約を破棄する…ということだな?」「そ、そうだっ…」さすがと言おうか、ノアの威圧的な視線と雰囲気に、陸だけでなく、その場にいた人々全てがヒヤリとした。「だ、だいたいっ…俺は、ど、同性愛者じゃないっ。無理に決まってる!」「我も、そうだが?」「え……」意味がわからず戸惑っていると、ノアが大きく息をついた。「我も、別に男が好きな訳ではない。だから契約書をよく読めと言ったのだ」「……どういう……?」だがノアはその問いにはもう取り合わず、手を振って「連れて行け」と指示をした。「え、ちょ、ちょっと…!」突然どこからか現れた男たちに腕を取られて、陸は慌てた。「ちょっと!どういうことですか!?俺を、どうするつもりですか!?ノア!殿下!話をー!」無理やり連れて行かれる陸を見て、宗方家の両親祖父母は顔を青ざめさせた。海は、連れ出される陸を冷めた目で見送るノアを見て、ふと思った。これは…つまり…「契約婚…?」そう呟いた瞬間、振り向いたノアと目が合い、気まずげに口を閉ざした。チラリと視線を戻すとまだ彼は自分を見ていたようで、ニヤリと嗤われた。だが海が何かを言う前に彼はその視線を外し、広間全体に聞こえるように告げたのだった。「この婚約は破棄された。今日の式は取り止めだ」ノアの言葉
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ノアはメイドにお茶を持ってくるように指示をして、そして全員を下がらせた。彼は部屋の様子をぐるりと一度見回して、それから改めてソファに座ると言った。「いつ、気がついた?我が男だと…」その質問に、海は持ち上げたティーカップを置き、改めて姿勢を正すと答えた。「始めは気づきませんでした。でも…殿下が兄と出かけられた日に偶然街中で見かけて…。それでー」「それだけで、気づいたと?」驚いたような顔で問いかけるのに、海は頷いた。「あの日、殿下は今のように男性の格好をしていらっしゃいました。それがしっくりきて…。それに、身体つきも女性ではないな…と。でも、確信はありませんでした」そう言うと、彼は「驚いたな…」と呟いた。あの日、自分が男の格好で現れると、陸は最後までそれを男装だと思い込んでいた。確かに外に出ることで身元がバレないように、ある意味〝男装〟をしていた。ここにいるのは誰もが王女の〝ノア〟であって、王子の〝Sacha〟(サシャ)だとは思わなかっただろう。そこで彼は一つ咳払いをすると、淡く微笑んで名乗った。「改めて…。サシャだ。慧眼に感服する」そう言って、握手の為の手を差し出してきた。「とんでもないです」海はそう応え、その手を軽く握り返した。彼の手は、王子というからには柔らかく、滑らかなのかと思っていたがそうではなく、明らかに日常何かで鍛えたように硬く、爪もさっきと違って短かった。女装をする時はどうやらつけ爪をするらしかった。海は、その手をじっと見ていた。そして口中で「やっぱり…」と呟いていた。それに気がついたサシャは首を傾げたが、特に詮索することもなかった。「あの…っ」だが海には、どうしても確認したいことがあった。彼は、サシャの許可を得て一旦寝室に行くと、スマホを手に戻って来た。「これを見てほしいんです」そう言うと、彼はアルバムの中から一枚の写真を選び、サシャに見せた。「これはー!」海はずっとこの時を待っていた。陸が王女と婚約するかも…などと言われてもなんの興味もなかったが、あの日、男の格好ではあったがサシャを見て、そして今日、彼の女装した姿を見て、彼は逸る気持ちを抑えることができなかった。サシャは、差し出された写真に写る一人の女性を見て、ブルブルと手を震わせた。「これは…これは、どこで写した!?なぜ、お前がこの写真を
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海は、そんなサシャに言った。「同一人物かどうかは…まだわかりませんよ?なにせ、彼女の名前は〝Anna〟(アンナ)なんですから」「アンナ……」それを聞いて、サシャはもう一度スマホの画面に見入った。間違いない。ノアだ。そう確信して、彼は顔を上げた。「ノアだ」「……」海は、その確信に満ちた声と表情に「そうですか…」と呟きながら、複雑そうに微笑んだのだった。*S国。入院病棟にある中庭の、少しひらけた場所にあるベンチに座って、芽衣は日向ぼっこをしていた。サーッと吹く風が彼女の短くした髪の毛をそよがせ、その頬をくすぐった。芽衣は子猫のように気持ち良さげに目を細め、口元は優しく微笑んでいた。そこへー。スタスタと誰かが歩いて来る音がして、彼女はその目をゆっくりと開いた。「芽衣ちゃん」最近他所の病院から転職してきたという看護士が、笑って手を振った。「お姉ちゃっ」芽衣は、この親しみやすい笑顔の看護士に懐いており、彼女を見ると嬉しそうに手を振り返した。「何してるの?」彼女に問われ、芽衣はエヘヘ…と笑いながら「日向ぼっこ」と答えた。2人は並んでベンチに座り、看護士の彼女は芽衣にそっとカーディガンをかけてやった。「暖かくても風があるわ。一枚上着を着てね」「うん。ありがとうっ」彼女は、芽衣がまだS国語に通じていないと分かってから、いつも公用語で話しかけてくれる。芽衣はその細やかな配慮と優しさに、いっぺんで彼女を好きになったのだ。芽衣の治療は、彼女の薬に対する体質をみながら通常よりもゆっくりと、期間を設けて行われていた。その為芽衣は体調を崩して寝込むことも減り、こうして時々、血液検査結果の良かった日は散歩などを楽しんでいたのだった。ここはVIP専用の病棟だったので患者も少なく、滅多に人と会うこともない。静かで、時間の流れがとても緩やかな、少し寂しい場所だった。そんな所で出会ったこの看護士は、芽衣のいい話し相手になってくれていた。芽衣は、彼女と他愛もない話をしながら陽の光を浴びていた。その時ー。「真田芽衣…?」カサッ…と音がしたと同時に探るような声がして、2人は同時に振り向いた。「……海く…?」驚いたように目をパチクリと瞬いて呟く彼女に、そこにいた海は苦笑して頷いた。「なんでいるの?」その問いには、海も胸の中で同意した。
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勤務が終わるまで待ってもらって、彼女は海と帰宅の途についた。緊張していた。海が言うには、家には既に自分の〝兄〟が来ているのだと、そして自分を迎えに来たのだと聞いたからだ。真相はどうあれ、一度は会わなければならない相手だった。「え……」自宅まで帰り着いて、アンナは思わず立ち止まった。玄関前にドーンと並ぶ高級車、その周りを囲むようにして立つ黒服の男たち…。なんなの…?彼女の眉がキュッと顰められたのに海は苦笑して、その足を促した。「行こう」そうして2人は小さな家には似つかわしくない面々を通り過ぎ、中へと入って行ったのだった。「ただいま…」恐る恐るそう声をかけると、すぐそばの一応リビングになっている部屋からタタタッと足音がして、一人の身なりの良い男が飛び出してきた。「ノア!!」その男は近づいて来た途端にアンナを強く抱きしめ、「やっと会えた…っ」と言った。言うまでもなく、それはサシャだった。だが…。彼らの予想に反して、アンナの反応はよそよそしかった。「ちょっとっ…離してくださいっ。誰ですか、ノアって?」「……」その言葉にサシャは目を見開き、抱きしめていた妹を離してその顔をまじまじと見つめた。「わからないのか…?」「……はい」彼の瞳には傷ついたような色が浮かび、だが次の瞬間には納得したかのように頷いた。「なるほど…。やはり、記憶を失っているのだな…」「……」アンナはそれを聞いてそっと目を逸らした。自分が悪いのではない。それは分かっている。でもー。この目の前で平気そうなふりをしながらとても傷ついている彼を見て、アンナの胸の奥が痛んだ。彼女はある日目覚めた病院で、自分が交通事故に遭ったことを知らされた。ひき逃げだった。倒れた彼女を病院に運び、警察に報せたのが、今の養父だったのだ。その時の彼女は身元を証明するものを一切持っておらず、しかも明らかに外国人で、何らかの犯罪に関与している可能性も否定できない…と警察から監視対象とされていた。だが医師から記憶を失っていることを報され、警察の方でもこれ以上のことはできないと一応解放されたのはいいが、行くところもなく、途方に暮れていたところ、事故以来何かと面倒をみてくれていた通報者の養父母が彼女の身元引受人となってくれたのだった。あなたを捜す人はきっと現れる。彼らはそう言って、自
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外の高級車やらから、どこかのお金持ちの令嬢なのだろうと思ってはいたが、まさか……王女だったとは…。一瞬呆然としたノアだったが、すぐに言い返した。「お…王女だっていうなら、余計に、なんで捜し出すのにこんなにかかるのよ!」居住まいを正して顎を上げ、ふんっと鼻を鳴らしたノアに、サシャは平然と答えた。「王女が拐かされた…なんて大っぴらにできるはずもない。そんな醜聞はあってはならないことだ。我らは密かにずっと調べていたのだ」そしてやっと、彼女を攫った奴らの組織を突き止めたが、依然としてその行方は分からないままだった。それで業を煮やしたサシャがよく似た顔を活かしてノアのふりをし、〝婚約者探し〟の体で各国を回っていたのだった。帰れないのなら、自分が行けばいい。自分に気づいて会いに来るかもしれない。その可能性を抱いてまずは親交のある国を回り、自国の諜報員たちも密かに潜らせて、その行方を追っていたのだ。だがまさか…まったく親交のないS国にいたとは…。突き止めた組織の奴らの人身売買ルートにも、このS国は入っていなかった。だから、見逃したー。「遅れたことはすまないと思う。だが、こうして見つかった以上、このままここに置くことはできぬ。…彼らと離れることが惜しいなら、彼らも受け入れよう」「……」チラリと養父母の方に視線を流してそう言うサシャに、ノアは言葉を失った。正直、彼女は戸惑っていた。この件に関して、自分は被害者だ。だから彼は、自分に平身低頭して「戻ってくれ」と懇願してくると思ったのだ。それでこの〝捨てられたのかもしれない〟と長年苦しんだ気持ちにケリをつけるつもりだった。彼に許しを与えることで、やっとこの胸の底に沈ませていた不満や恨みを解消できると思ったのだ。それなのに…なんなの!?ノアの胸に怒りが湧き上がってきた。「ふざけないで!!」突然の激昂に、周りの養父母や海が驚いた。「何がだ?」だがサシャは、平然としていた。彼の傲岸不遜とした物言いに、ノアはわなわなと震えた。「私たちは犬猫じゃないの!勝手にあっちこっち移せるとでも!?」「……」立ち上がって対峙してくる妹に、サシャはその口角をゆっくりと引き上げた。「できぬとでも?」「…っ」その自信に満ちた言葉は、それが可能だと言っていた。なにせ彼らは王族だ。他国であれ、その権力は誰にも逆
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「わかった」彼がそう言うと、ノアは一瞬笑顔になりかけた。だが、「3か月やろう。その間に、どうしたいのか決めろ。こちらとしては戻ってくれることを望むが…嫌なら仕方ない。その時は、ここに残ることを許してもらえるよう、父に進言してみよう」淡々と告げる〝兄〟の言葉に、なんとなく冷たさを感じて浮かびかけた笑顔も消えた。「本当に、いいの?」窺うように問うと、サシャはフッ…と息を吐いた。「無理やりに連れ帰ったところで、恨まれたら敵わん。…だが、言っておく。ここに残るということは、〝ノア〟として生きることを捨てるということだ」「え…?」意味がわからず、目を瞬いた。そんな彼女を見て、サシャは突き放すように言った。「王女がこのようなところで暮らすというのは、危険が伴う。それくらい、記憶がなくとも分かるだろう?」「……」黙り込む妹をじっと見つめ、そしてサシャは意を決したように告げた。「その時は、お前を系譜から外す」「っ…」「よく考えろ」それだけ言うと、彼は部屋の隅に立っていた護衛の男に合図をして、去って行った。養父母は彼らを見送りに出て行ったが、ノアと海はその場に残った。やがて、走り去る車の音がして、考え込んでいたノアが顔を上げて窓を見た。「兄さん……」そう呟くと、彼女はポロリと一粒の涙を零したのだった。*3ヶ月後。「おい!いい加減、ここから出せよ!」陸の婚約が正式に破棄された後、彼は城内にある、比較的罪の軽い罪人が入れられる清潔な牢に入れられていた。本来であれば、契約とはいえ婚約をしていたら、彼は王子の婚約者として寓されていたはずだった。だが彼はあの婚約式で暴言を吐き、勝手に婚約破棄を宣言した。しかも、王族に対して「詐欺師」と喚き立てた。これで彼が快く解放されるはずがなかった。直後から牢に無理やり押し込められ、陸はこれまでチヤホヤされた生活とのギャップにかなり苛つき、毎日のように撒き散らしていた。「いつまでこんなとこに入れてんだ!?おい!お前!答えろ!無視すんな!!」「こんなことして、国際問題になっても知らないからな!おい!聞いてんのか!?」等など。牢番の男はそれに対してチラリとも目を向けず、その慣れた様子が益々陸を苛つかせるのだった。彼は鉄格子をガンッと叩き、ペッと唾を吐いた。「ずいぶん荒れているな」その時、陸か
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「聞いたかよ?宗方家の長男、帰って来たってさ」「は?アイツ、王族に婿入りするとか自慢してなかったか?もう別れたのか?」「バカ言え。知らないのかよ。その婚約、とっくに破棄したんだよ。しかも、婿入りじゃなくて、男妾だったってさっ」「男妾!?ハハッ、なんだそれ?」彼らのわざとらしい嘲笑交じりの噂話に、少し離れたところで陸は拳を震わせていた。彼の顔は怒りの為か、羞恥の為か、真っ赤に染まっていた。クソッ…好きに言いやがって!陸は拳をギュッと握りしめた。帰国して早々、宗方家の事業の周年記念パーティがあり、陸も後継者として参加を余儀なくされていた。「前に譲ったけど、帰って来たんだから元に戻すのが筋だろ?」そう言うと、父親は渋い顔をしたが、当の海は気にした風もなく頷いた。「別にいいよ」そう無関心に言われ、まるで自分ばかりが欲深な感じがして苛ついたことを思い出した。そして余計に腹立たしくなった。なんだよ、アイツ!気取りやがって!ギリギリと歯を食いしばる陸の耳に、また別の声が聞こえてきた。「ねぇ…あそこにいるの、宗方陸じゃない?あんた、彼のこと追いかけてたでしょ?今ならチャンスかもよ?」「ちょっと!やめてよ。前はどうかしてたのよ。あんなに女頼りの情けない男だって知ってたら、相手になんかしなかったわよっ」「まあね〜。まさか女の地位を利用して成り上がろうとしてたなんてね〜」「ほんとそう。だから真田家の例の子にもちょっかいかけてたんでしょ、きっと」「最低〜」そんなバカにしたような、見下したようなことを言われ、思わず振り向いてしまった。視線があった瞬間、だが彼女たちは気まずげに俯くでもなく、むしろ口を歪めてふんっと鼻を鳴らした。陸は見覚えのある彼女たちの、以前とはまったく変わってしまった表情に、チッ!と舌打ちした。誰がお前らなんか相手にするかよ!胸の内でそう吐き捨てて、彼はスタスタとこの不愉快な場所を移動した。だが、どこへ行っても自分が現れると似たような噂をヒソヒソと囁かれ、我慢の限界も近かった。そこへー。「久しぶりだな!」ポンッと肩を叩かれ振り向くと、そこには奏斗が立っていた。彼の隣には気の強そうな女性がいて、彼女は一見微笑んでいるような顔をしてはいたが、その瞳には軽蔑の色がはっきりとあるのがわかった。陸は一気に不愉快になった。
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