All Chapters of Your'e My Only Shinin' Star〜あなたに逢いたい〜: Chapter 41 - Chapter 50

70 Chapters

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「なるほど。つまり、あの女は芽衣が倒れたことをお前にすら報せなかった…ということか?」中原の報告に、怜士の眉がひそめられた。運転手の話では、彼女は病院に行くことすらしなかった。そのまま連絡もなく帰宅して、使用人に部屋まで運ばせ、寝かせておいた。それだけだ。その対応に不満を抱いた使用人が執事に報告し、家庭医を呼んで診察をさせたというわけだった。そして友梨は、怜士にもこの事を報告しなかった。それを聞いて彼の執務机の前に立つ中原は、神妙に頷いた。「おそらく、このまま黙ってやり過ごすつもりだったのではないかと…」彼は友梨が、この件を隠蔽しようとしたのではないかと疑った。なぜなら、バレれば彼女の失態となる。だから中原にも言わず、執事にも見られないよう連絡もなく帰宅し、尚且つ、怜士への報告義務すら無視したのではないだろうか…?中原の考えを聞いて、怜士は意味が分からないというように眉をひそめた。「なんだそれは?うちは空き家じゃないぞ?本気で隠し通せると思ってるのか?」「たぶん…?」言った中原自身もバカバカしいとは思うが、あの時の、自分に見つかった時に浮かべた彼女の表情を見た限り、そうとしか思えなかった。怜士は久しぶりに呆気に取られた。こんなバカを見たのが久々すぎて、怒りよりも呆れが先にきてしまったのだ。そもそも今日、クラブへの送迎に自分の運転手を行かせたのは、芽衣と友梨の様子を彼に見させる為だった。怜士は、最近なぜか芽衣の様子がおかしいように思った。一見いつもと同じようにも見えるのだが、ふとした瞬間に翳りのようなものが表情に表れる。友梨と一緒にいる時、特に仲が悪そうには見えないのだが、どこかよそよそしさが感じられる。芽衣に…というより、友梨の方に。彼女の瞳の中に、芽衣に対する真摯な想いが見当たらないのだ。ただ淡々とした、温度の感じられない視線が向けられているように感じた。彼女は芽衣が直接選んだボディーガードだ。〝選んだ〟ということは、それなりに〝合う〟と思ったからだろうし、それならその時は、彼女もそんな感じではなかったのではないだろうか?じゃあ、なぜ今はそうなった?芽衣と一緒に行動をするうちに、思っていたよりも面倒だと感じた?いや、でもそれならそう言えばいいだけの話だ。彼女には、最初に言い含めてあったはずだ。「もしやっていくうちに
last updateLast Updated : 2026-02-20
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「名前からして浮気相手の子なんだろうが…。よく隠し通せたな…」そう言うと、手塚は薄っすらと嗤った。「まぁ、年齢も年齢でしたし。油断してたんでしょうね。それに、相手の女も賢くて、井岡に対して身分も何も求めなかったらしいですから」そうなると井岡も彼女たちを不憫に思ったのか、十分に生活費を渡して、娘も可愛がっていたらしい。そんな風に聞いても、怜士の心には何も響かなかった。純愛ぶってる時点で、その浮気相手の女も単なる腹黒だろ。胸の内ではそう呟いていた。面倒な旦那の世話は妻に任せて、自分たち母娘は美味しいとこ取りってやつだな。怜士はふんっと鼻を鳴らした。井岡の恋愛事情になど、彼は全く興味がない。訊きたいのは、准を狙ってるのだとして、なぜわざわざ友梨を芽衣のボディーガードなんかにしたのか…だ。2人のことを知ってるのか…?准が、芽衣との婚約を望んでいることを?…なぜだ?怜士は、この准の考えを外に漏らしたことなどない。准が自分の婚約話を勝手に自分で噂にした時も、相手に関しては秘密にしていた。その頃は芽衣もまだまだ幼い子供だったし、そんな噂があっても誰もその相手が彼女だなんて考えもしなかったはずだ。「ふむ…。どうやら、いつの間にか鼠が潜り込んでいるらしいな…」「既に調査をさせています」手塚のその言葉に頷いた。*望月福はアルバイトが休みの日、望月家の顧問弁護士をしている永川保(えがわたもつ)の事務所を訪ねた。「お久しぶりですね」そう言いながら応接室に現れた彼は既に還暦を迎えた年齢で、その穏やかな人柄からは想像もできない頑固さも併せ持つ、信頼できる人物だった。そんな彼の後ろにいる男は30才を超えたくらいだろうか?隙なくスーツを着こなし、髪型も軽く後ろに撫でつけた、どちらかといえば冷徹な雰囲気の男だった。福がそんな男に視線を遣って不思議そうに瞬きをすると、永川が紹介を始めた。「こちらはうちのエースで、蜷川誠人(ひるかわまこと)といいます。私の後を継ぐことになると思いますので、今日はご紹介しておこうと思いまして」「はぁ、…そうですか…」そんな事を急に言われて、福は戸惑った。彼は子供の頃から時々家に来る永川を叔父のように慕っていた為、いきなり引退を匂わせるような発言をされて驚き、そして寂しさを覚えたのだった。目の前のソファに座って困ったように
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望月源は会社経営の能力は人並みだったが人を見る目は確かだったらしく、昔から気に入った人物がいると個人的に支援をしたりしていた。そういった人物たちの中には後々会社を興して、恩返しにと自社株を彼に渡してきたりしてくる者もいた。源としては見返りを期待して支援したわけではなかったので、その株はそのまましまい込まれ、配当金についてもそれほど気にしてはいなかった。ほとんど忘れていたと言ってもよかった。だが年を取り、そろそろ資産の整理をしようと思い立った時にそれらを思い出し、調べてみて驚いた。数社の株が少量ずつ…とはいえ、長年放置してきたせいでその配当金が莫大な金額になっていたのだ。どの株もかなりの価値があり、それだけを見ても源の人を見る目がやはり確かだったことが窺えた。中でも大きく成長した株で、今や知らない者などいない〝真田エンターテインメント〟があった。これはあの真田家の三男が当時当主だった父親の聖一に逆らってまで設立した芸能企画会社で、誰もが「お坊ちゃんの遊びで作られた会社で、長続きなどしないだろう」と嗤っていたものだった。確か最初の社名は〝S企画〟だった気がする。源はとある食事会でその三男と会い、彼が語る理想の芸能事務所のあり方を聞き、感心して、父親からの支援を期待できない彼を助けたのだった。彼はそれを覚えていて、後に支援金をそのまま返すのは失礼だから…と株を渡してきた。社名を今のものに変えたのは、長男の怜士が当主になった時だ。そしてその配当金は、今や当時の支援金を遥かに凌駕し、源の懐を潤していたのだった。と、そこまではいかなくとも、これまでに恩返しだと渡された数社の株はどれも皆かなりの優良株に成長していて、当然のごとくその配当金もかなりの金額になっている。普通に見ても、それまで手を付けられずに増え続けた配当金と、これからのもので一生何もせずとも生活には困らないくらいだった。それを福が成人を迎えた日、永川は源の遺言書と共に手に携え、望月家を訪ねたのだった。「あり得ない!」そして、やはり輝は激怒した。こんないいものを息子の自分ではなく、本来なら相続権などない孫にやるなんて、どういうことだと食ってかかってきた。だが遺言書がある以上、どうしようもないこともわかっていた彼は、こう言った。「福はまだ学生だ。卒業するまで自分が預かる」と。当然
last updateLast Updated : 2026-02-20
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『准ちゃ!』久しぶりに聞く芽衣の呼びかけに、准の目元は柔らかく綻んだ。今日のビデオ通話は芽衣の14才の誕生日プレゼントとして、彼女が両親にせがんだものらしい。それを聞いた時、准の胸の中は言いしれない喜びで満たされた。まだ必要とされているー。そう思うだけで、彼の口元に微笑みが浮かび上がってくる。タブレットの画面の向こうの顔は、別れた時に比べてやはり少し成長したように見える。「芽衣、元気だった?」そう尋ねると、彼女はニコッと笑って頷いた。『准ちゃ、いつ帰る?』「っ……」おそらく、これを直接訊きたかったからせがんだのだろう。だが期待を込めて尋ねられても、准は咄嗟に何も言えず口を噤んでしまった。『准ちゃ?いつ?』「芽衣……」答えを急かすように尋ねる従妹に准は困ったように眉を寄せた。それを画面越しに見て何かを察したのか、芽衣が小さな声で言った。『帰らないの?』その悲しげな声と眼差しに、准の口調は知らず宥めるようなものになった。「芽衣、ごめんね。もう少し帰れないんだ…」『……』「芽衣?」『嘘つき…』「……」その言葉に、胸の奥がズキリと痛んだ。そして、『ぜんぜん少し…じゃない』そう言い終える前に、彼女の瞳から涙が零れた。「芽衣…ごめん。泣かないで…」『うぅ…ぐす…っ』困ったように慰めるけれど、彼女の涙は止まらずにとうとう声をあげて泣き出してしまった。『なんでぇ…?なんで准ちゃ、芽衣のとこ…いないの?』「……」それは本当にそうだと思う。准は、自分がここでやっていることが何なのか、よくわかっている。一つは、新たにA国での基盤を築く為、会社を興し、人脈を得ることだ。それはいずれ父親が、自身のパートナーだと公言している美月とこの国に移住する時の事前準備に過ぎないが、准の経営手腕を鍛える為でもあった。実家の威光が届かないところで、自分の才覚一つでこの国の企業人の間を渡り歩く。そこで得た自信と力は、やがて真田グループという巨大企業を引き継いだ時にきっと役に立つ。なによりも准自身がそう思ったから、ここに来たのだ。その間、芽衣と離れることになるのは本当に寂しかったが、怜士に「この先彼女をずっと守り続けたいという気持ちがあるのなら、行くべきだ」と言われた。その時はよく意味がわからなかった。決して怠けるつもりはないが、
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彼女が秘書室で〝アシスタント〟とは名ばかりの単なる〝雑用〟をし始めて、約一ヶ月。今社内では、この関根友梨が准の婚約者候補だと噂になっていた。考えるまでもない。彼女のせいだ。いきなりコネ入社してきた友梨に対していろいろな噂が流れる中の一つにそういったものが含まれていたのだが、興味本位に真相を尋ねた社員に彼女が曖昧な態度をとったことから、まるでそれが真実であるかのように広まってしまったのだった。室長でもあった本田が慌てて否定したけれど、既に広まった噂は容易には消えなかった。准に直接訊いてくれば「バカバカしい」と一蹴するのだが、そうする者は少なく、益々確信のように言われることに調子に乗った友梨は、このところかなり大胆に彼に近づいて来るようになっていた。公に否定されないことで、准にもその気がもしかしたらあるのかもしれない…と思い込んでいた。だが、彼の近くで働いている者たちは皆知っていた。関根友梨は社長の婚約者候補などではない。むしろ思い切り嫌われている。それはもう、びっくりするほど。だから彼女が堂々と准のオフィスに踏み込んで行く姿を、彼らはいつも呆れたように、感心したように眺めていた。あの鈍感力…なにかに活かせるんじゃないか…?そして今ー。准のオフィスは、凍りついたような雰囲気が支配していた。「聞こえなかったのか?」「あの…」鋭い視線を向けられて、友梨は戸惑っていた。どうしてこんな目を…?彼女は自分に向けられた嫌悪の眼差しに、眉を寄せた。准はチラリとタブレットの画面を確認した。そこには横を向いてクッキーを口に入れ、もぐもぐと口を動かしている芽衣がいた。おそらく准が他の人と話しをしていることで、ビデオ通話中だという事実が彼女の中から抜け落ちてしまっているのだろう。彼は、そのリスのように夢中になってお菓子を食べている芽衣の様子に、目元を緩めた。「どうしてですか?」その時、不意にかけられた言葉に彼はまたジロリと視線を動かした。「何だ?」その声は、つい今しがた見た優しさあふれる顔を疑うほど冷たかった。友梨は納得がいかなかった。どうしてこんなに嫌うの?私は何もしてないのに。どうしてそんな子をそこまで可愛がるの!?胸の中にはそんな言葉が渦巻いていたが、それをそのままぶつけるほど、彼女も愚かではない。だから彼女は、その瞳に涙を浮
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聖人は思った。本当にこれでいいんだろうか…?准がA国に行っている間、彼ら夫婦は2人をなるべく会わせないと決めた。2人には、その依存や執着がいったい何から来るものなのか、考える時間を持ってほしかったからだ。芽衣はともかく、A国に行けば准には今まで以上の出会いがあるだろう。それでも彼が芽衣を選ぶのか、それが知りたかった。彼らはただ、芽衣に幸せな人生を歩んでほしかったからそう決めたのだ。だけど…。これは、確かに自分と妻が話し合って決めたことだが、芽衣の意思は確認していない。すれば確実に「嫌だ」と言われるのが分かっていたからだ。ある日突然それを知らされた時の、あの芽衣の涙は、思い出す度に未だに胸をチクチクと刺してくる。聖人は、准の不在に慣れたように見えてやはりどこかふとした瞬間に寂しそうな顔をする娘が、久し振りに彼に会って話をしただけで花が咲くような笑顔を取り戻したことに、心を痛めていた。「芽衣…准に会いたい?」尋ねると、パッと顔を上げて嬉しそうに問い返してきた。「会えうの!?」「……」答えられずにいると、一瞬にしてその瞳の中の光が翳った。「パパ…?」その不安そうな声に、聖人はふ…と息をついた。「怜伯父さんに訊いてみなさい」「!…うん!」勢いよく頷いて、そのまま時間も気にせずバタバタと走って行ってしまった。はぁ……どうするかな…。困ったようにそう胸の内で呟いたが、聖人の顔には優しさが滲み出ていた。難題は、尚をどう説得するか…だな。*数日後。ピピッ…音が鳴り、芽衣は脇の下から体温計を取り出して母親に渡した。何故か最近ちょっとしたことで疲れを見せる娘に尚は心配げに眉を寄せ、渡されたものに目を落とした。37.2℃微熱か…。ホッとするが、芽衣には学校をお休みするように言った。「どうして?平気だよ?」不思議そうに首を傾げる芽衣に、尚はその額に手をやりながら答えた。「学校のお友達は、みんな身体があんまり強くないの。風邪とか引いちゃうと大変なことになる子もいるから、感染さないように皆で気をつけないといけないのよ?わかる?」そう言うと、芽衣は「わかった」と頷き、大人しくベッドの中に戻った。「病院、行くの?」「ううん。おうちのお薬を飲んで、少し様子をみようね」そうして優しく芽衣の頭を撫で、部屋を後にした。今日彼女は出
last updateLast Updated : 2026-02-25
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「どうして…!?」どうしてあの子が…。尚の絶望に染まった瞳から止めどなく溢れる涙に、隣に座る聖人も慰める術を持たなかった。なぜなら、彼も言いしれない不安と悲しみに晒されていたからだ。「説明を続けてもよろしいでしょうか」それなのに、医者は淡々と言葉を継いだ。わかってる。彼らはそうしなければならない。患者やその家族に感情移入することは、治療の妨げになる可能性がある。それはわかっている。だが…。こんなにも泣いている彼女を前に、その態度はないだろう!湧き上がる怒りをどう収めたらいいのかわからず歯を食いしばっていた聖人の隣で、だが意外にも、尚は冷静に頷いた。「お願いします」彼女は流れ続ける涙を時々拭いながら、それでも一言一句聞き逃さぬよう医者の言葉に耳を傾けていた。血液検査の結果、骨髄検査が必要だと言われそのまま入院した。骨髄検査ー。そう言われただけで、最悪の結果を想像した。そしてそれは、やはり的中した。芽衣は【B細胞急性リンパ性白血病】だと診断され、即日治療が始まった。この病気は寛解率が80%あると言われ、「まぁ…大丈夫だろう」と担当医にも言われたが、裏を返せば20%が死に至る…ということだ。彼らは思った。「大丈夫」てなんだろう…?この病気は男の子が発症することが多く、しかも発症年齢は割と幼い頃だったりするらしい。そういうことから、芽衣のような年齢の、しかも女の子が発症するなんて珍しい…と言われた。それなのに「大丈夫」だとー?単に寛解率を計算する時のデータに、芽衣と同じような年齢も性別も入っていないから〝珍しい〟のではないのか?じゃあ、なぜ入っていないのか?それは…残りの20%の方に入ってしまっているからじゃあないのか?そんな事をつらつらと考えてしまうのだった。担当医からの一通りの治療方針を聞き、入院期間が約1年に及ぶと分かると、尚も聖人もそれぞれの仕事の見直しをする必要があると話し合った。芽衣には、この時ばかりは家の力を使って特別個室を用意してもらい、彼女と、主に付き添いをすることになるだろう尚の精神面の安定を図るように室内を設えた。入院生活が落ち着けば尚もこの部屋で仕事ができるように、簡易のデスクも持ち込んだ。ただ病気が病気だけにお見舞いや食事など、あらゆる面で制限がかけられ、この先が不安になるのも本音だった。尚は
last updateLast Updated : 2026-02-25
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「あの女…最近見かけないわね」体育館の中で交流中の支援学校の生徒たちを眺めて、比奈がボソリと呟いた。この辺りの学区では、学期ごとに〝地域交流〟を名目に支援学校の生徒との交流が行われる。といっても、やって来た生徒たちと体育館で自己紹介やゲームをしたりするだけなのだが、比奈たちのような立場の子供たちが多く通うこの学校の生徒たちには、正直不評だった。「なにこれ?」「バカバカしい」「暇つぶしにもならない」そんな声がいつも上がるのに、学校側はこの行事をなくさない。なんでも、〝差別意識をなくす為〟だとか、〝思いやりの気持ちを育てる為〟だとか言ってるようだけど、要するに教育委員会からの要請を断れないだけだ。そして交流は同学年同士で行われることから、比奈は小学部の頃から芽衣と会っていた。だが当時は彼女が、幼い頃に揉めたあの女の子だとは知らなかったからなんとも思っていなかった。ただ可愛い子がいるな…と意識していただけだった。だがそれは男子生徒の間ではかなり噂になっていて、一部の女子たちの間では、嫉妬からかあまり良く思われていないようだった。比奈にしてみれば、同学年の男子なんか子供っぽくて相手にもならないと思っていたので、特に気にはしていなかった。中等部に上がって、あの乗馬クラブで彼女と陸が親しげに話しているのを見るまでは…。しかもあの子のせいで母親は祖父母や父親に叱られ、立場をなくされたのだと知った。そんなの、恨んでないはずがないじゃない…っ。比奈はそれ以来この交流で彼女に会った時、騒ぎにならない程度に仕返しをしてきた。自己紹介の時に「何を言ってるのか分からないので、もう一度お願いしまーす」と言ってみたり、ゲームではわざとペアを組んで足を引っ掛けて転がしたりした。そして彼女に悪感情を持っている女子たちに協力させて、わざと肩をぶつけたり、髪の毛が引っかかったふりをして引っ張ったり…といろいろやった。その度に適当に「ごめんね〜」と言えば誰も咎めない。本人ですら頷くだけだっていうんだから、ほんとチョロい。比奈は女子だけのグループに、彼女が陸を狙っているという〝情報〟を流した。陸はこの学校の女子皆の王子様なのだ。皆が彼に憧れているし、お近づきになりたいと思っている。そんな彼に幼馴染の比奈や笑ならともかく、あんな障害者が近づくなんて許せない!……そんな
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実は笑は始め、兄がつい先日家を出て行ったことを相談しようと思っていた。兄の福は、陸たちの通う乗馬クラブでアルバイトをしていたから、時々彼らに兄の様子を見てもらおうと思っていたのだ。笑にしてみれば福の〝家出〟は突然のことで、いったい何が原因なのかさっぱりわからなかったのだ。ただその時の父親との話し合いがとても不穏で、「借金」だとか「裁判」だとかとても不安になる言葉が出ていたことから、まさか兄は誰かに騙されてとんでもない借金でも背負ってしまったのだろうか…?などと考えてしまったのだった。そんな事もあって兄の様子をみてもらいたかったのだが、どうやら先ほどの比奈との話しで彼女の機嫌を損ねてしまったらしく、とてもではないが頼める雰囲気ではなくなってしまった。笑は諦めのため息をつくと、ただ黙って運んで来てもらったナゲットとオレンジジュースを口にするだけにとどめていた。するとそこへ、「そういえば…」と陸が思い出したように言った。「今日って、そっちは〝交流会〟の日じゃなかった?」「…そうだけど……」比奈の気のない返事にも頓着せず、陸はまた言った。「芽衣ちゃん、いた?」「……」瞬間、笑は比奈と視線を交わした。意味はわかってる。〝余計なことは言うな〟だ。そう理解した笑はこの会話を比奈に任せることにして、自分はさっさと手に持っていたナゲットを口に入れた。比奈はそれを見て、「いなかったよ。どうして?」と無邪気に訊いたが、それに対する陸の返事はなかった。この何か月も芽衣がクラブに顔を出さない…。陸は彼女に何かあったのだろうかと思い、比奈に探りを入れようとした。だが、思いとどまった。自分が芽衣のことを訊いた時に交わした彼女たちの視線の意味が、よくわからなかったからだ。わからなかったけれど、それがよい意味で交わされたものではないのは、なんとなくわかった。なんなんだ…?彼は始め、それを比奈の芽衣に対する嫉妬だと思った。けれど、それにしては笑の態度がおかしい気がする…。そう思って、とりあえず本来なら予定にはなかった乗馬クラブへ行ってみることにして、早々にこの場をお開きにした。*帰り際、突然「クラブに行くことにした」と言った陸に、比奈が「私も行く」と言い、その後残された海と奏斗、それから笑の3人で帰宅の途につくことになった。道順で行くと宗方家がここ
last updateLast Updated : 2026-02-25
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陸は乗馬クラブに着くとすぐに、行きあったスタッフの一人に中原と芽衣の居所を尋ねた。だがそこで教えられたのは、彼らが〝最低でも1年くらいの休みを取っている〟ということと、〝もしかしたらそのまま辞めてしまうかもしれない〟ということだった。どういうことだ?あの2人に何かあったのか…?陸はその理由がわからなくて、その場で深く考え込んでしまっていた。だからそのすぐ隣で、比奈が不機嫌に唇を歪めていることになど気づくはずもなかった。また芽衣!?なんであの子ばっかり!そんなに気にして、ほんとに好きになっちゃったんじゃあないでしょうね!?比奈は拳をぎゅっと握りしめ、怒りを噛み殺していた。そしてそのまま〝用は済んだ〟とばかりにすぐに帰宅する陸に送られて家に戻って来た比奈を出迎えたのは、昔から憧れている親戚のお姉さん、橋本莉緒だった。「お帰り〜」「莉緒ちゃん!」ひらひらと手を振る彼女は相変わらず華やかで、綺麗なお姉さんだった。「どうしたの?何か用事?」尋ねると、彼女は意味深に笑って言った。「最近、未来の旦那さんが浮気してるんですって?」「え……」すごい。なんで知ってるの?驚いて目を見開くと、莉緒はふふっと微笑った。「何を驚いてるの?結構噂になってるから、訊いただけよ」「噂…?」呟くと、彼女は教えてくれた。最近どのパーティーに出ても、「宗方家の後継者は真田家の令嬢を追いかけているらしい」という話題が出るのだ…と。もちろん、陸のことだ。陸と海は双子だったけれど、書類上陸が兄ということになっており、家を継ぐのも彼ということになっている。海も「家を継ぐことに興味はない」と公言していたので、誰もが陸が後継者だと思っていた。そしてその彼が芽衣を追いかけているということは、将来宗方家は真田家と繋がるということか?…と皆が噂しているのだった。だがしかし、いくら真田家の令嬢とはいえ、芽衣は曰く付きの娘だ。そんな娘を追いかけるなんて正気とは思えない…とも言われていた。要するに、名家と繋がれるのは羨ましいが、障害者を抱えるのは嫌だ。ましてや後継者の嫁になど、とんでもない…とあれこれ勝手に噂しあっているという訳だった。それを聞いた比奈は、ぐっ…と唇を噛み締めた。勝手なことを言って!陸があんな女と結婚なんか、するわけないでしょ!!そう思いながらも、彼女は今
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