All Chapters of Your'e My Only Shinin' Star〜あなたに逢いたい〜: Chapter 51 - Chapter 60

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芽衣が入院して数カ月。白血病の治療は、とにかく辛そうだった。初日から沢山の点滴が入って、あっという間に顔が浮腫み、ダルそうにしていた。強い薬を使う分、投与後は早く体外に排出する必要があっての点滴なのだが、薬は苦いし、沢山飲まないといけないし、身体はダルいし、頭痛もする。「ママ…」芽衣の弱々しい声に、尚は慰めの言葉しか言えない自分が情けなかった。しかも免疫がかなり落ちてきている為、病室からも出られない。誰にも会えない。好きなものも食べられない。ないないづくしで、精神的に浮上することがなかった。今の芽衣の楽しみは、准との毎日のビデオ通話だけだった。『芽衣、薬はちゃんと飲んでる?』「うん…」今日の准は少し明るめのスーツを着ていた。この通話が終わったら、すぐに会議に出るんだそうだ。『苦い?』「苦い…すごく」顔を顰めて呟く。准はそれを見て微笑った。『ご飯は?』「食べてる。…准ちゃ、同じこと言う」唇を尖らせて拗ねたようにそう言うと、彼は「ごめんごめん」と苦笑した。『芽衣が心配なんだよ』「うん」優しい声と眼差しに、心が温かくなるのがわかった。だが…「准ちゃ…ごめんね。また明日ね」『え?芽衣?ー』プツ…ッ突然のサヨナラに准は慌てているようだったが、芽衣は構わずに通話を切った。その瞬間ーオエェ…ッ…グッ…ゥ゙ゥ゙…ッ「芽衣!」突然吐き出した芽衣を見て、通話の邪魔をしないようにと少し離れた所にいた尚が駆け寄ってきた。洗面所に行くのは間に合わなかったようだったが、芽衣は自分のベッドに常に置いているタオルで口を塞いでいた。尚はナースコールを押し、吐いた旨を伝えた。そして「大丈夫よ。我慢しないで。吐いてもいいよ」我慢する娘の背中を擦りながらそう言った。最初の、点滴のせいで浮腫んでいた顔の面影は今は全く無くなって、彼女の頬はこけ、青白くなっていた。身体は常に吐き気を伴って力も入らず、このところはビデオ通話を終えるとぐったりとしていることが多かった。それでも芽衣は精一杯元気に見えるように笑って、日課のようになっている通話を続けていた。やめたらきっと心配するから…。いつだったか、彼女はそう言っていた。尚は涙を滲ませて赤くなった目で、芽衣に微笑みかけた。「少し横になってなさい」「うん。ママ…ごめんね」小さな声でそう
last updateLast Updated : 2026-03-05
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それならー「そちらに戻って検査をした後、期間を終えたら会える…ということですよね?」『そうだ…。だが会社はどうする?…放り出してくるのか?』「それは……」口を噤んで視線をさまよわせる准に、怜士は意図的にか、冷えた声音で問いかけた。『今の立場を捨てて戻って来るつもりか?…それならそれで構わない。その後お前らがどうなろうと、知ったことじゃない。それとも…一人息子だからと高を括っているのか?』「いえ…」確かにそんな風に考えたことはない。だけど事が事だけに、今回ばかりは少しは慮ってくれるのではないだろうか…と淡い期待は持っていた。だが、怜士はどこまでいっても怜士だった。『お前が今の立場を失えば、当然、うちにとって有益な家の令嬢との政略結婚を決められる。それでもよければ帰って来ればいい』「……」つまり、芽衣のことは諦めろと言っているのだ。怜士は、父親の聖一が未だに准の結婚相手を見繕っていることを知っていた。意見を聞かれる度に撥ねつけてはいるが、実際けっこう面倒くさい。准が自分で始末をつけられるのなら、それに越したことはないのだ。まったく…。いつまでも欲の深い爺さんだな…。最近では事あるごとに煩いのが、例の井岡康三だった。売り込んでいるのは、やはり関根友梨だ。まさか芽衣のボディーガードをクビになった後、わざわざA国まで行って彼女を准に接近させているとは思わなかった。さすがに元政治家だっただけあって、幅広い人脈を持っている。A国で会社を興している人物まで知っているとは…。怜士は不快げに鼻を鳴らした。准自身の心配はおそらくいらないだろうから放置しているが、成果がないからか、最近井岡は標的を変えて、祖父である聖一に友梨を「孫嫁としてどうか?」と勧めているのだった。昔怜士に正妻の子を勧めたように、孫の准には愛人の子を勧めてきているというわけだ。『チッ……』「?」怜士の明らかに苛立った態度に、准は眉をひそめた。「何かありましたか?」『いや。ただお前絡みの面倒事があるだけだ』「それは……すみません…」そうとしか言えなかった。すると何が可笑しかったのか、怜士がフッ…と微笑った。『気にするな。お前に渡す前のメンテナンスだと思えばいいだけだ』「……」それは…。どういう意味だ?まさかー。准が何かに気づいたように目を見開くと、怜士が決
last updateLast Updated : 2026-03-05
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『こうして話すのは何年ぶりかな?』「さぁな。お互い忙しいんだ。時々メッセージを送るだけでも十分だろう?」准の声は冷たい。今回頼み事をしたいのは彼の方だというのにこんな態度を取ることができるのは、理那人が彼を慕っているからだ。そうでなければ、とっくの昔に痛めつけられて彼に従うよう強制されていたか、もしくは消されていたか…だ。准の言い草に、理那人はフンッと鼻を鳴らした。『なんだよ。相変わらず冷たいな』「嫌なら付き合いをやめればいい」『……』電話の向こうから『ちぇ…っ』と拗ねたような舌打ちが聞こえた。「有紗は元気なのか?」話題を変えると、途端に『元気よ!』ともう一つの声が割り込んできた。どうやらスピーカーにして2人で聞いていたらしい。『准!あなたまだA国にいるの?』「ああ。年末には戻る」『本当!?』その期待に満ちた声に、准は苦笑した。『なによ?』敏感にそれを聞き分けて、有紗が不審げに問いかけた。『まさかと思うけど…恋人ができたんじゃ、ないでしょうね?』その疑わしげな、探るような口調に准は笑った。「いや。それはない」そう言うと、向こうから『あ〜よかった』と嬉しそうな呟きが聞こえてきた。そこへ、痺れを切らしたように理那人が割り込んできた。『ところで、今日はどうしたんだ?』「ああ…」准は本来の目的をやっと話せると息をつき、口を開いた。*関根友梨は不満だった。なんでこんな仕事しかもらえないの!?彼女は芽衣のボディーガードをクビになって実家に戻ると、父親の井岡康三が待っていた。実は真田家のボディーガードを育成するセンターへ友梨を送り込んだのは、この井岡だった。彼は密かにこのセンターのセンター長に接触し、少しずつ甘い汁を吸わせ続け、手駒へと育てていた。そしてまんまと友梨をここに入れさせ、適当に訓練をさせて真田家に入り込むチャンスを窺っていた。井岡は前に、自身の娘を怜士に嫁がせるのに失敗して悔しい思いをしていた分、彼に息子が生まれたと知るや孫娘に期待することにした。「年上になってしまうが、それほど違うわけでもないから大丈夫だ」ある日家族でやって来た娘夫婦にそう言うと、あろうことか婿に激怒されたのだった。「この子はあなたの駒にはしない!どうしても利用するというのなら、この子を連れて離婚します!」まだ幼児の子供をぎゅっ
last updateLast Updated : 2026-03-05
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『その関根友梨?という女を、僕が誑し込んだらいいんですね?』その表現に、准は思わず笑ってしまった。「そうだ。あの女は母親と同じで地位と金のある男が好きだからな」『へへ…楽勝ですね』楽しそうに理那人が言った。『こういうの、なんていうんでしたっけ?美人局?』「男にもそういうのかは知らないな」『ふぅん…ま、いいや。じゃあ、写真とか経歴とか送っといて』「わかった」准はすぐさま、目の前のパソコンに実家から送られてきていた友梨に関するデータを理那人に送った。そして理那人もすぐにそれに目を通し始めた。やがて『うゎ…』とか『ふ〜ん』などと彼の独り言が聞こえてきた。どうやら資料に集中しているのがわかったので、准は「また連絡する」と言ってとりあえず通話を切った。次の日から准は本田に言って、友梨の仕事を今のお茶汲みや資料のコピーなどの誰にでもできる〝雑用〟から、徐々に秘書の仕事を覚えさせるような仕事を与えていった。友梨は喜んだ。やっと自分の能力を認めてくれたのだと思った。センターにいた時、父親の指示でボディーガードとしての訓練に手心を加えていたセンター長に、秘書としての仕事を学べるようにしてもらった。いずれ准の秘書として、常に隣にいるようにする為だった。だがその前に、驚いたことに准が婚約者として従妹の子を考えているようだとこの男から教えられ、しかもその子にと、女性のボディーガードを求めていることも教えられた。お父さんはそれを知ってたの?だから私をここに入れたのかな?それを聞いた途端、一も二もなく飛びついた。どんな娘なのか見てやりたかったからだ。なかなか決まらないと聞いていたが、どんなわがまま娘なのか見てやろうと思った。そして真田邸に他の候補と共に連れて行かれ、その大きな佇まいや、当然のように邸周りに配置されているボディーガードたち、そして洗練された多数の使用人たちを目にして、これが欲しくて堪らなくなった。邸の中も素晴らしく、どこを見ても高級品に溢れ、さり気なく使われているペン1本ですら、その辺のお店で買ったものではないとわかるものだった。絶対に手に入れてみせるわっ。そう決意して、まるで敵に対峙するかのような心持ちで対面した従妹の子。正直に言って、拍子抜け。がっかりした。こんなぽや〜とした子供が婚約者候補ですって!?友梨は信じられない思い
last updateLast Updated : 2026-03-05
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「関根さん、聞いていますか?」「っ…」直属の上司である本田に声をかけられ、友梨はハッとした。今彼女は、一週間後にあるとある慈善パーティーへの参加を申し渡されていた。もちろん准と一緒に、だ。それがほんの数日前の彼の態度とは真逆な気がして、信じられずに呆けていたのだった。やっぱり私のこと、気にしてくれていたのね…。そんな風に思って頬を染めていると、本田が訝しげに質問を繰り返してきた。「ドレス、用意できますか?」「ドレス?あ…、はいっ。大丈夫です!」「……」本田はこの短い期間でドレスの用意ができるのか問うただけなのに、なぜ彼女はこんなにも張り切っているのか…それがわからなくて眉を顰めた。まぁ…できるなら別にいいけど…。そう思いつつ、釘を差すのも忘れなかった。「あくまでも仕事で行くんですからね。華美にならないよう、シンプルにまとめてくださいね」そう言うと、彼女は「え…?」と驚いたように目を瞬いた。「あの…パートナーの方と合わせたりは…」「パートナー?」??何を言ってるんだ、この娘は?本田が首を捻っていると、友梨はおずおずと尋ねた。「せめてお色だけでも教えていただかないと。社長なら、やっぱり黒系ですか?」「……」この言葉に、本田の思考がピシリと固まった。マジか…。コイツ、社長のパートナーとしてパーティーに出席すると思ってんのか…。そして頭を抱えた。「本田さん?」キョトンとした顔で首を傾げる友梨に、今までのやらかしと准からの叱責を覚えているような感じはなかった。本田は、はぁぁぁ…と腹の底からため息を吐き出した。「あのですね…」「はいっ」彼の言葉を、友梨がキラキラとした目で待っていた。「……」もうこのまま勘違い女に仕立て上げて当日送り込んでやろうか…。そんな不穏なことまで思い浮かんでしまう。だが…。いや、それはダメだっ。そんな事をしたら、俺の首が危ない…っ。そう思い直し、改めて深いため息を一つつくと、彼はゆっくり、丁寧に、そして噛みしめるように言い聞かせてやった。「パーティーには、あくまでも仕・事・で、行きます。なので、あなたは社長のパートナーではなく、秘・書・と・し・て、参加するのです。わかりましたか?」「え、でも…2人で行くのならー」「当・然、私も行きますっ」「……」ここまで聞いてさすがに理解を
last updateLast Updated : 2026-03-05
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パーティー当日。トンッ…と軽く肩がぶつかり、手に持っていたシャンパンが少し零れた。「ちょっとー!」「失礼っ…」すかさず文句が口をついて出そうになった。だが相手を見た瞬間、友梨の目が僅かに見開かれた。「あの…大丈夫ですか…?」「……」ぶつかった相手の窺うような眼差しに、彼女はハッと息を呑んだ。なんて綺麗な瞳なの…。男が自分に向ける心配げな瞳は、金色がかった茶色に見えた。その鼻筋は真っ直ぐスッと伸び、薄い唇から紡ぎ出される声音は柔らかく、気遣いに満ちていた。「あの…?」「あ、は、はいっ。大丈夫…です」細身なのにしっかりとした身体つき、オーダーメイドだろう高級なスーツは色もデザインも男によく似合っていた。優しい…。こんな人にエスコートされたら…。友梨は頭の中で想像を巡らし、ほんのりと頬を染めた。彼女は今日、本田に言われた通りシンプルで華美ではない装いでここに来た。色は清楚さを出したくて、白一色。けれどホルターネックで大胆に肩を出し、首から下、膝まではタイトに。そして膝から下にかけてはふわりと裾が広がるように、柔らかく仕上げられていた。しかもそこは総レースで、彼女の形の良い脚が透けて見えていた。宝石で飾り立てなくても、着ている人を美しく魅せるドレスだった。…本田には渋い顔をされたけれど。実は彼女は、このドレスの為に身銭を切っていた。高額すぎて、半額しか経費では認めてもらえなかったのだ。けれどそれも仕方ない。だって、ドレスを選びに走ったお店…。1軒目はどれも高額すぎて選ぶ間もなくお店を出た。2軒目は、理想的な価格だったけれど気に入ったものがなかった。そして3軒目は…どれもダサかった。友梨はこれ以上探すあてもなく、仕方なく1軒目のお店へ戻ったのだった。身銭を切る覚悟で。でも…良かった。出費は痛かったけれど、このドレスは自分を美しく引き立ててくれている。今日この会場で、こんなにも美しく、洗練されたドレスを着た秘書を連れている人はいなかった。そして…素敵な人とも知り合えた。友梨は自分の幸運に浮き立っていた。手の中には、先ほどぶつかった男の名前と電話番号が記されたカードがあった。「もしドレスが染みになるようだったら、連絡をください」と渡されたのだ。理那人ー。友梨はその名を口中で呟き、新しく手にしたシャンパンをクイッと口に含んだ。
last updateLast Updated : 2026-03-12
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「あら、何か間違ったかしら?」そんな風に挑発されて、実際には何を言い返したらいいのかわからなかった友梨は、ただ目の前の女を睨みつけていた。そんな時ー「有紗、やめろよ。意地が悪いぞ」彼女を庇う言葉に振り向くと、理那人が困ったように微笑っていた。それを見て、友梨の胸の中が解けるように温かくなった。「理那人さん…」瞳を潤ませながら小さな声で呟く友梨に、彼は苦笑して頷いた。「すみません…妹はほんとに口が悪くて…」「え…」妹…?少し照れたように、気まずげにそう言った理那人に、友梨は目をパチパチと瞬かせた後、すぐに自分の勘違いに思い至って赤面した。「あ、い、いえ…っ!私こそ…すみませんでしたっ」ガバリと思い切りよく頭を下げる彼女は、たぶんそこまで悪い娘ではないのだろうな…と理那人は思った。ただ自分の欲に忠実で、それを満たそうとする手段が幼稚な自分勝手なタイプなんだろう。まぁ…だからといって、何をしても許されるという訳ではないのだけれど。友梨は、自分のちょっとした悪意が時には人を深く傷つけることもあるのだということを、理解することができないのだろう。彼女は、准の大切にしている子を気に入らず、その子を同じく嫌っている子たちに対して虐める隙を与えた。それは監視カメラのない場所でのことだったせいで発覚が遅れてしまったのだが、そもそもそれを補う為にボディーガードという名目で彼女をその子の側に付けていたのに、その役割を担っていた彼女自身によってその隙を利用されてしまったのだ。なんとも皮肉な話だった。そしてその後、加害者となる子たちを特定しようと調査をしていたようなのだが、なんせカメラもない、直接の目撃者もない…ということで遅々として進まなかったらしい。准が大切にしているという芽衣という子もなぜが口を閉ざしていたし、その後はどんどん内向的になっていったそうなのだった。そして芽衣は、家族や使用人たちの前では笑っていたが、無理をしているのが傍で見ていて判るほど憔悴していっていたようで、だから彼女の願いをきいて准とのビデオ通話を許可した、ということだった。今現在は、彼女に何があったのかほぼほぼ分かっているようなのだが、ただ肝心の彼女を虐めた人物の全容がまだつかめないのだ…と准はため息をついた。何人かは分かっている。頑なに口を閉ざしていた彼女がようやく
last updateLast Updated : 2026-03-12
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ピロンースマホに届いたメッセージの受信音に、友梨はダダッと駆け寄った。そして誰からのものかを確認すると、はぁ…とため息をついてベッドにダイブした。違った…。彼女は理那人からの連絡をずっと待っていた。友梨はあの日、彼から食事に誘われてからというもの、自宅以外では肌身はなさずスマホを持ち歩いていた。准と本田がパーティーから帰る意図を伝えても、彼女は聞こえないフリをしてそこに残った。もしかしたら彼女の状況を察して、理那人が「送る」と言ってくれるかもしれない…と思ったからだ。でも結果は…彼女が一人でタクシーを呼んで帰る羽目になってしまった。視線だけで会場を見渡して彼を探したけれど、どこにも見当たらなかった。どこに行っちゃったの…?妹だと言っていた有紗も見当たらなかった。そのことにほんの少しだけ泣きそうになりながら会場の入り口に何台か待機していたタクシーに近づいて行ったのだが、それらは全て予約の入ったものだった。仕方なく彼女は改めて車を呼び、そして薄いドレスの為に寒さに震えながらその場に立ち尽くしていた。こんなことなら一緒に帰れば良かった…。そう後悔したけれど、誰も慰めてはくれなかった。「……」友梨は一連のことを思い出して一つ息をつくと、仕方なさそうに届いたメッセージを開いた。『いい人を見つけたって言ってたけど、誰なの?』「……」母親からだった。*友梨は母子家庭で育った。といっても別に貧しかった訳ではない。どちらかといえば、裕福な方だったと思う。大きくて立派なマンションの部屋はとても広かったし、お手伝いさんも何人かいた。食事だって、いつも食べきれないほど食卓に並んでいたし、友梨だけの部屋もあってベッドもふかふかだった。「お父さん」と呼ばれる人は時々しか来なかったけれど、来た時は甘やかしてくれて、沢山遊んでくれたりもした。年に一度は飛行機に乗って旅行にも連れて行ってくれたし、誕生日の日はレストランを貸し切ってくれて、お友達とかを招いて素敵なお誕生日会を開いてくれた。お父さんは来なかったけど。お母さんもいつも綺麗な服を着て、キラキラの宝石を身に着けていた。働きに出ることもなく、毎日お買い物とかばかりしていた。小さい頃はそういう生活は当たり前で、皆がそうなんだと思っていた。でも、そうじゃなかった。「おいっ、妾の子!」ある
last updateLast Updated : 2026-03-12
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結局その後、友梨は母親の言うことが正しかったと身に沁みてわかった。高校に上がったばかりの頃、友梨は学校でも人気のあった1年先輩の男の子に告白されて、お付き合いをしたことがあった。始めは楽しかった。でも…。だんだんと分かってきた。デートはいつもファストフードだったし、映画も前の人たちの頭が邪魔で見えにくかった。しかもプレゼントは誕生日にしか貰えなくて、それもハンカチとぬいぐるみだった。それに対して友梨は、度々彼にプレゼントを渡していた。それも腕時計やブランド物の服などで、決して安価な物ではなかった。別に無理をした訳ではない。ただ彼に贈りたいと思った物が、たまたまそういった物だったのだ。ハンカチやぬいぐるみが嫌だった訳ではない。ただ…。適当に選んでいる感じが、嫌だったのだ。そんな感じで、彼とは価値観が違うな…という考えがたまに頭を掠めることはあった。が、友梨はそれでもいいと思っていた。彼は嬉しそうだったし、その笑顔が見られることが友梨の喜びでもあったからだ。だけど…。ある日の放課後、彼を教室まで迎えに行った時、聞いてしまった。「あれ?それ、また貰ったのか?」それは彼の友人で、友梨も紹介されていた男の子だった。彼らは楽しそうに盛り上がっていた。「いいな〜。あんな美人の貢ちゃん、俺も欲しいな〜」「ハハッ、お前も告白してみろよ。もしかしたらキープ君くらいにはしてくれるかもよ?」「キープかよ!まぁ、それでもいいから、俺にもプレゼントプリーズ!」ハハハッ…友梨の真心を、そんな風に笑い話にされていた。彼女はその場に立ち尽くし、ワナワナと震えていた。まさか彼が、自分を貢ぐだけの女だとバカにしているとは…夢にも思わなかったのだ。その日以来、友梨は変わった。今まで我慢していた言葉を、全部口に出した。デートをしていてもつまらないと感じたら「帰る」と言い、当然のようにファストフード店に入ろうとしたら、「また?」と眉を顰めた。意味のない日のプレゼントだって、もうあげなかった。唯一、バレンタインの日に安価な財布を渡しただけだ。そうしたらー「別れよう」とうとう彼はそう切り出してきた。「わかった」頷くと、彼はおそらく自分が「嫌だ」と泣き縋ってくると思っていたのだろう。驚いて目を見開いていた。「本当にいいんだな?」「うん」何度も確認してきてい
last updateLast Updated : 2026-03-12
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*この日、友梨は半休を取った。理那人とのデートの為だ。「順調そうだな」「はぁ…そうですね」手元の書類を片付けながら報告に頷くと、本田は気のない返事をした。「どうした?」視線だけ上げて問うと、彼はもう一度ため息をついた。「いえ…。もしかして、このままずっと私も監視に行かないといけないのかなぁ…なんて考えてしまいまして…」「……」珍しく嫌そうに眉を寄せて言う本田に、准は苦笑した。「そう言えばいいんじゃないのか?」その言葉が終わらない内に、彼は緩く首を振り出した。「無理ですよ。彼女ですよ?…社長なら言えますか?」「言えるが?」「……」あぁ…そうか…。この人なら、言えるよな…。そう自嘲気味に嗤い、本田はがっくりと項垂れた。その様子に、准は仕方ないな…とため息をついた。その時ートゥルルルル…トゥルルルル…本田のスマホが鳴りだした。「……」彼はそれをポケットから取り出し、画面に表示された相手の名前を見て眉を顰めた。トゥルルルル…トゥルルルル…やり過ごそうと放っておいても、一向に鳴り止まない。トゥルルルル…トゥルルルル…「出ないなら切れ」とうとう痺れを切らした准がそう言うと、やっと、不承不承、本田が応じた。「もしもー」『ちょっと!遅いわよ!?』「あ〜……すみません」相手の勢いに、つい謝ってしまった。はぁ…こっちは仕事中だってのに…。本田がそっとため息をつくと、准にスピーカーにするよう指示された。「有紗ー」『え?あ、准?』電話の相手は、理那人の妹の有紗だった。彼女には、初めて会った時からやけに視線を感じるなぁ…と思っていた。だが本田は、それを自分のガタイの大きさに驚いているだけのものだろうと思っていた。いつもそうだったから、もうそんな視線には騙されない。そんなに珍しいかな…?いかにもな体育会系の身体つきは、確かに秘書という職場にはあまり見かけないのかもしれない。いないことはないのだろうが、皆シュッとしているのだ。まぁ…本田も、今まで何度も秘書ではなくボディーガードと間違えられたりしてきたので、敢えて文句は言わないが…。内心は複雑だった。なんだよ、体育会系の頭はやっぱり筋肉でできてるとでも言いたいのか?彼は知らず唇を尖らせて、フンッと鼻を鳴らした。その微かな音を捉えたのか、有紗のからかうような
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