彼の視線が、私たちの間でスースーと眠る陽向に向けられているのがわかった。 暗闇の中でも、彼の瞳がどんな色をしているのか、私にははっきりと想像できた。 かつての「氷のCEO」の欠片など微塵もない、ただの無防備で、不器用な父親の顔。「……こんな幸せが、本当に俺のものなのか。時々、目が覚めたらすべて消えているんじゃないかと、背筋が凍ることがある」 その声の震えに、私の胸の奥が鋭く締め付けられた。 彼がどれほどの孤独を抱えて生きてきたか。誰にも愛されず、誰も愛さず、ただ復讐心だけを燃料にして生きてきた過去。 それを知っているからこそ、今の彼が感じる「喪失への恐怖」の深さが痛いほどに伝わってくる。 私は彼の胸板から顔を上げ、至近距離で彼の黒い瞳を見つめ返した。 ルームランプの光が、彼の瞳の奥で小さく揺れている。「消えないわよ」 私は彼の手を握り返し、はっきりと告げた。「陽向がこんなに蹴飛ばしてくるのも、あなたが今、私の手を握っているこの熱さも、全部本物よ。……あなたが泥だらけになって、全部捨ててでも手に入れた現実なんだから」 私の言葉に、彼は数秒間、瞬きもせずに私を見つめていた。 やがて、彼の大きな手が私の頬を包み込んだ。 少しだけざらついた親指の腹が、私の目の下を優しくなぞる。「……そうだな」 彼の顔が近づき、額と額がコツンと触れ合った。 互いの鼻息がかかるほどの距離。「お前がいなければ、俺は今でも、ただの空っぽな化け物のままだった」「化け物なんて言わないで」「事実だ。……お前が、俺を人間に戻してくれた」 ちゅっ、と軽い音がして、唇に温かいものが触れた。 何度も繰り返される、啄むようなキス。 いやらしい意味はまったくない、ただ確認するような、純粋な慈愛に満ちた接触。 その度に、彼の体温が私の中に流れ込んでくる。「莉子」 唇をわずかに離し、彼が囁いた。
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