「えっと、あの……?聞こえてる、かな?」 目は離せない、だが口は開けない。クレジェンテも多くの生徒と同様に、密かにアイ憧れていたからだ。いつもアイたちがきゃいきゃいと話す言葉を、教室の隅で盗み聞きしていたし、机に突っ伏して頭を乗せた腕から微かに頭をもたげ、いつもちらちらとその表情を盗み見ていた。それだけで幸せだった。 つらいことが待っている学園に向かう朝、寮からでる重い足取りをいつも軽くしてくれるのは、天使に会えるからだった。まだ寝ぼけ眼で暗い寮の部屋の玄関から、眩い太陽の光の下に一歩踏み出させるのは、いつも思い返した斜め40度から見たお姫様の横顔だった。 その学園の天使お姫様が、その憧れの人が、今クレジェンテの眼の前にたち、|真《・》|正《・》|面《・》|か《・》|ら《・》こちらを見ている。あまつさえ言葉をかけてくれている。 「あ、あのー、おじゃま、だった……かな?」 ――ハッ、天使の顔が曇っている!まだ何も話していなかった!何か話さないと!でも何を?僕なんかが学園の天使お姫様に?何を?いい天気ですね?いや、はじめまして?自己紹介からか?やばい!とりあえず何か言わないと! 「あっ、……こん……にちわ。ゲホッ……あっ……いい……天気……ですね……ゴホッ。」 ――やばい人と話すのが久しぶりすぎて、声がうまく出せなかった。絶対に気持ち悪いと思われた。終わった……。 「はい、こんにちは!」 ――ま、まぶしいー。笑顔が眩しすぎてもはや発光してるまである。 「でも……いい……てんき?……かなぁ?」 ――はっ、今日土砂降りじゃん!終わったコミュニケーション能力の低さがバレた!一番バレたくない人に。おわった……。 「でも、こんなに雨が降ってると、逆にいい天気!みたいな!ことありますよね!」 ――てんしぃー。性格が良すぎてもはや|菩薩《ぼさつ》まである。
آخر تحديث : 2026-02-14 اقرأ المزيد